第166話 世界龍の欠片・幻霊龍との遭遇
「うう……ここは一体。これは、雲、なのか?それにしてはしっかりとしている。雲の上の世界、という感じだなこれは」
「ふう、無事に帰れた。道中で次元を超えてやってくる化け物に出くわさなくてよかったぜ」
ハーネイトはゆっくりと目を開く、すると自身の体が白い何かに包まれているのを理解した。倒れていた体を慎重に起こすと、自分の置かれている状況を一発で理解した。そう、自身は雲海の上に立っている。しかし彼はすぐに疑問を抱いた。なぜ雲の上なのにしっかりと足を地に着けていられるのだろうか。そう思うとその場から動くことをためらわずにはいられなかった。
そんな中ミザイルとオーダインも無事に到着し、周囲に何かいないかを確認していた。
「きゃああああああ!」
ハーネイトたちが到着して少ししてから伯爵が雲の大地に降り立った。すると頭上からリリーの叫び声がした。
「おいおい、大丈夫かリリーよ、ほら」
「あ、ありがと伯爵」
伯爵は落ちてきたリリーを優しくお姫様抱っこで受け止めた。リリーは少し顔を赤らめて伯爵を見つめてから、雲海の地面に足を下した。
「へっ、来てくれると信じていたぜ」
「も、もうっ」
相変わらずの仲の良さにハーネイトは笑いながら、彼らと合流した。伯爵とリリーがいるなら怖いものなしだ。そう思いながら景色を見ているとオーダインが彼に話しかけた。
「ハーネイト、無事にたどり着けたな。ここが、天神界。女神が眠りし、神聖な場所であり……元々AM星の大地の一部でもある」
「これが、か。あたり一面雲だらけだが、あれは一体」
「ああ、あそこが古代バガルタ人こと、龍の因子を埋め込まれた神造人が住む都市だ。ほぼ全員があの大消滅の影響でここに来た人たちなのだよ」
オーダインが話しながら、かなり遠くにあるとても目立つ建物の数々を指さした。それこそが大消滅により土地ごと転移した古代人の桃源郷である。かつては様々な超技術が生まれた地でもあるが、女神ソラを別の場所に隔離する派閥により一種の儀式として、この大都市は全く違う次元に飛ばされたのであった。
「思っていたのとかなり違うが、作りは古代都市みたいだ。……興味がある」
「確かにそうだな、んで、あの中に相棒の実の親がいるんだろ?どんなんだろうな」
「……その通りだ。オーダイン曰く、とても大柄な男と」
伯爵がハーネイトの傍にきて辺りを見ながら話をする。もうすぐ自分の正体がはっきりわかる、そう思うとハーネイトの足が速く進む。
「もうすぐ会えるぞ、私についてきてくれ」
「ぼさっとしていると置いていくぞ?」
そうして目的地まで進んでいる道中に事件が起きた。
「なんだあれは、いきなり現れたぞ」
「大きいな、しかし何だこれは」
「っ、こんな所にか
突然何の前触れもなく、一体の龍が現れたのであった。見た目は銀色の鱗で覆われた、所々実体の不安定な部分のある体の部分と、今にも食らいつくすぞと言わんばかりの紅く光る眼をたぎらせているのがとても印象的である。
「幻霊龍の超小型タイプか」
「幻霊、龍?」
「ああ、私らやお前らが埋め込まれている龍、その分身体の幼体だ。悪いが生半可な攻撃は全部意味をなさないぞ」
「こ、これが……龍か。ウルグサスのとはどこか違うようだ。闇に咲く 呪いの蓮花 邪気を纏いて散り行き舞う 無常なる風が行く先を示す!大魔法76号、花蓮黒嵐」
魔法でけん制しようとしたハーネイトは、大魔法の詠唱を行った。そして口先に運んだ指先を龍のほうに向けると、黒い花びらを無数に含んだ嵐を前方に発射した。それらは一直線に襲い掛かり、飲み込んでいったが風が消えた時、龍はほとんどダメージを負っていない。
「っ、効きが悪い。霊量子で構築されているからか?てことは、これか!」
「話が本当ならば、俺様ですらも醸せねえな」
「それがどういうわけかな、お前もあれを倒せるのだよ。気づいているのだろう?ハーネイトと同じく龍の因子を埋め込まれ炉心まで宿している以上、倒せない道理はない」
「私は魔法しかできないわよ、どうすればいいの」
「私の後ろに隠れていなさい、お嬢さん」
そうこうしている間に幻霊龍は口から光の奔流を放ってきた。ハーネイトはとっさに攻撃を打ち消そうと、掌をかざす。
「創金剣術・剣銃!(ブレイドバスター)」
ハーネイトは創金術で数本剣を作り、それを奔流のほうへ飛ばし切り裂いて、攻撃を完全に打ち消したのであった。龍もそれに驚き少し間合いを取る。
「賭けてみたが、うまくいったか。しかしなぜだ、創金術は……」
「確かにおかしいぜ。あれは物理系の技だろ?」
「まさか……この創金術も、ははーん、それなら道理がつく」
そういうとオーダインとミザイルは素早く前進し、戦技を繰り出す。
「行くぞ、創金剣術・槍銃!」
「グラスターインペルズ!」
オーダインは空気中から創金術で槍を数十本作り出しそれを激しく打ち出す。ミザイルは腕に装着したガントレットを突き出し、強烈な衝撃波を打ち出す。
その二つの攻撃は見事命中し、確実にダメージを与える。
「ハーネイトよ、龍の力を使いあれを倒してみるんだ」
「戦形変化?え、ええ。行くぞ!戦形変化・黒翼斬魔」
するとハーネイトは自身の足元に例の龍の魔法陣を展開し、すぐに黒翼斬魔に変身すると、早速翼で龍の頭をはたくように攻撃しよろけさせ、更に間合いを急に詰めながら龍の顎を蹴り上げる。
「確かに因子の力を開放しているが、全てではないな」
それを見ていたオーダインとミザイルは、まだ2つ以上の共鳴ができなさそうな感じだと述べながらも攻撃を見ていい一撃だとほめる。
「一気に決める、黒華龍破閃!」
それからハーネイトは右手を少し引いて構えてから、一気に突き出すと同時に漆黒の波動ビーム砲が放たれ、龍は跡形もなく消えたのであった。
「ひゅうう、すげえなこれ。俺もあれみたいになるのか?」
「修行次第だな、全く」
「オーダインさんも、創金術を使えるのですね」
「そうだよお嬢さん。少なくとも古代バガルタ人とも呼ばれる存在は、全員その素地があるのです。まあ素地だけではダメなのですが」
「どういうことですか、オーダイン」
「創金術も、霊量子運用術の一種だ。故に相手が霊体だろうが製造した物に霊量子、もとい龍素を帯びるため力が対消滅に近い形で干渉してダメージを与えられる。それも龍の因子の力である」
ここで驚愕の真実を一つ、ハーネイトは知ってしまったのであった。いや、正確に言えば霊量子の存在に気づいた時点で何か関係性があるのかと一瞬思っていたのが当たっていたためはっとした顔のまま固まっていた。
オーダインが軽く説明すると、納得したとはまだ言えないような表情のハーネイトは今まで使ってきた術が相当なものであると改めて実感していた。
元々神造人こと第三世代神造兵器と呼ばれる存在は、研究の1つの成果として龍の力を限定的に引き出し霊量子、正確には龍素ことドラグメンツと言うエネルギーを利用した転換術を確立していたと言う。それを扱えるのは、第三世代以降かつ龍の因子に適合した存在に限られると言うが、その中でも元素などの造詣に深い存在が一番力を発揮すると言う。
「なん、だと?創金術は、霊量術のさらに進んだ存在でもあり、龍の力を一部借りていたのか」
「それを知らずに、あそこまで使いこなせるハーネイトも恐ろしいのですがね。今まで無意識に剣を作っていたのでは?」
「なぜそれが……はい。作りたいものをイメージすれば、剣ぐらいならばすぐに製作できます。大きなものは設計図とか必要ですが」
「それと前に紅いマントを作っていましたが、それも無意識に龍の力を使っていますね。詳しい話は、向こうについてからにしましょう。長くなりますので」
「そこまで、今まで使ってきた能力が強力で複雑だったとは……」
「薄々気が付いていたはずでは?しかしそれから目をそらしていたのならば、まだまだですね」
「今まで、そういう定めだなんて聞かされてなかったし、一人の人間だと思って生き続けてきた。だから力が怖くて」
「全く、兄上もあれだな」
「だから言っただろう、力なんざ理解し支配し、自在に扱えるようになれば怖くねえ」
「そうはいっても、使う時のリスクと影響はいつも考えておかないと」
「へいへい。俺様だって自分が危険な奴だってのは自覚してるし」
伯爵の独自理論にリリーが戒めて、にぎやかな様子で街まで向かう。そうして一行は30分ほどかけて古代都市の入り口まで足を運んだ。その都市の光景を見たハーネイト達は息を呑んだ。
それはミスティルトやゴッテスシティよりもはるかに規模や建造物の数が多く、いつか子供の頃に読んだ絵本に出てきた未来都市さながらの光景だったからである。
巨大なゲートをくぐり、オーダインの案内のもと、巨大な建造物が立ち並ぶ中心街の中を歩いていくのであった。