第165話 いざ天神界へ!
これより第二部スタートです。ハーネイトらがどのような旅路を巡り多くの戦いをどう攻略していくのか、ここからがある意味本番かもしれません。
時はDGとの戦争からおよそ3か月。激戦を繰り広げた平原の近くにある遺跡、ラー遺跡の中で数名の人間たちがある実験を行おうとしていた。ブラッドルに関する事件がようやく解決しひと段落する間もなく新たな動きがここで見られた。
「やっとか、この時を待っていた、アーロン」
「ああ、俺もだよ」
遺跡の中にある、次元と次元を繋ぐゲート。その名前は次元融合装置。それを目の前に、ハーネイトやアーロンなど10数名が集まっていた。
「これが、次元を超えて移動できる禁断の装置、ですか」
「そうだなエレクトリール。こうしてみると、圧倒的な力に気押されてしまう」
エレクトリールとハーネイトは、装置からあふれてくる次元力の強さに耐えながらも、その魅惑的な紫の光の渦をただただ見つめていた。この光が、豊かで最も発展したAM星の文明を飲み込み一気に衰退させたのである。それは蠱惑的で、恐るべき光であった。
「ミレイシア、装置のほうはどうだ?」
「次元波長率及び収束率は問題なし、あとは数分というタイミングを逃さないようにすればいいだけだわ」
「そうか、了解した。そこの男、ああ、リシェルだったな。その右側の機械に表示されている情報を読み上げてくれ」
アーロンは手際よくミレイシアやシャムロックなど古代人及びリシェルたちに命令を下し、装置の状態を安定させていく。もともと個々の管理人として長らく警備にあたっていた。そしてこまめに先人たちの残した異物を定例していたが、この装置を動かすためにはどうしても一人では足りないと思い素質のある人たちにこうして命令を下していた。
「これで問題ないはずだ。ようやく向こうに帰れるな」
「オーダイン、この先にある世界が、あの世界なんですよね?」
「そうだ、ハーネイト」
「安心したまえ、これならば一直線で行ける」
オーダインはようやく、完全に任務を達成できるとあって安堵の表情を浮かべながら、ハーネイトにそう言う。ミザイルもそれは同様であった。
「フッ、お前は全く。まあ、全てが改めてわかるといいなハーネイト。あれだけ言ってもいまいち実感してないように見えるし、実の親にしっかり話を聞くといい。なぜ、生まれながらにしてその様な力を宿す羽目になったのかをな」
それを見ていたフューゲルはやや遠巻きに見ながらそういい、彼らの元まで来ると、ハーネイトに対し自分自身の運命について向き合えるように話を聞いて来いと諭した。
「フューゲル……帰ったら侵略魔のことと、君のことについて質問攻めするから覚悟しておくように。あと、龍の話もな」
「フッ……分かった。元は俺も古代人だったんだがな、ソラにDカイザー諸共命を狙われてな。たどり着いたのが別世界だった、のさ。それも聞かせてやる」
ハーネイトの返した言葉に、フューゲルはふっと笑いながら壁に寄りかかり全員の行動を観察していた。
「そういう経緯があったのか……。ソラ、か。一体どんな存在なのだろう」
「1つ言っておくが本当に気をつけろよ未来の龍王さん」
「わ、分かったよフューゲル」
「本当に、不思議なことが起こるものだ。宇宙人に異世界人、果てに魔物まで、それらをまとめているこの若い男、ハーネイト。確かに、誰もが期待を寄せるだろう」
「アーロン、私は自分にとって為すべきことをやってきただけです。それが結果としてこうしているだけです。この力は、自分のためには使わない。誰かを助けるため、護るための力だと。そう信じてきた結果、かもしれません」
アーロンは思っていたことを口に出し、いかにこの目の前にいる幼い戦士が奇跡を紡いできたか、それについて自身も期待していることを話す。ハーネイトはそれに前とは違い誇らしげに、自身の行動の結果がこうなったと言う。多くの人の言葉が、彼の心境に影響を良い方向に与えていた。
「そうか、あの戦いの中で答えを見つけたんだな、お前は」
「ええ。でもこれからも答えを私は追い求め続けるでしょう。まだ腑に落ちない点がいくつもありますし、それもこの旅で納得できれば、受け入れられる、かもしれません」
「そうなるように、俺も祈っておくよ。でなければ先に進めないからな」
この旅で、本当の自分が何なのかわかればいいなとハーネイトは思い、アーロンもしっかりやってこいと念を押す。一方でリシェルたちは装置の調整にあたふたしていた。
「しっかし、なんで俺たちまでこんなことを」
「人手が足らない以上、私たちもできることをしないとですねリシェルさん」
「わかっているけど、こういうのは兄貴たちの仕事だっつの」
「でも、うまくできてますよ?」
すっかり仲の良いリシェルとエレクトリールは軽口を叩きながら必要なデータを入力しつつ、アーロンの指示に従う。ハーネイトのもとでこの2人はよくペアを組まされていた。互いに遠距離攻撃を得意とする関係でハーネイトの支援をしていたが、その中でこの2人はすっかり仲良くなっていた。
「リシェル、無駄口叩く暇あるなら腕動かしてくれ」
「んだと南雲!」
「お主はクールに見えてすぐ頭に血が上るでござるな」
「ぐぬぬぬぬ!」
そんなリシェルを南雲は慣れない手つきで機械を操作しながら注意する。それに少々切れ気味のリシェルだったが、南雲の挑発にまんまと乗せられていた。それを見かねたハーネイトが助け船を出す。
「リシェル、手間をかけてすまないな。南雲も彼を挑発しないでくれ」
「はい、師匠……自分のことが、これで分かるといいっすね」
「済みませぬマスター。っと、これか、向こうへつながる次元波長っ!」
「でかしたぞ忍者。さあ、時間がない。行くぞハーネイト、ミザイル!」
南雲と風魔はアーロンの言っていた次元波長をテルレリモスコープで確認し報告する。それにアーロンが反応し、早く門の前に行くように促した。
「すう……っ、はああ、では皆さん。しばらくのお別れですが、行ってまいります」
「無事に戻ってきてくださいハーネイト様」
「マスター殿、良い話が聞けるといいですな」
ハーネイトの言葉に、風魔は心配しながらも応援し、南雲もよい旅をと見送る。
「俺様もついてくぜ、リリーはどうするよ」
「わ。私は……」
「まあ無理しなくてもいいけどな。俺は相棒が心配だからついてくだけだぜ」
伯爵は最初から行く気満々でハーネイトの傍にいたが、戸惑うリリーを見て誘おうとしていた。
「事務所や仕事に関してはすべて私たちにお任せください」
「ああ、頼んだよみんな。できるだけ早く戻ってくるけどね」
「何も心配しなくてよいのですぞ?本当の親と水入らずで話をするといいでしょう。私はもうそれができませぬからな」
「恐らく、わしの息子シルクハインがいるだろう。もし次に会ったらげんこつぶちかましてくれるわ。ともかく、成長した姿を見せて来い、孫よ」
ミレイシアとシャムロックは一礼したのち、間のことはすべて任せてくれといい、主をしっかりと見送る。
「そう、だなシャムロック、ミロクじっちゃん。……行ってきます」
先にオーダインが静かに門の向こうに足を進めた。それを見てハーネイトは振り返り、皆の顔を見てから飛び込むように門の向こうへと消えていった。
「んじゃ、帰還するか。短い間だったが楽しかった。また会おう」
ミザイルは軽く礼をしてから装置の門に飛び込んだ。伯爵はそれを見届けてから、機嫌よさそうに門の前に立つと、走って飛び込んでいったのであった。
「……やはり、まっていられない。行くわ」
「お、おい。リリーちゃん!」
リシェルたちの制止を振り切り、リリーは後を追うように門の向こうへと飛び込んでいったのであった。
「ったく、大丈夫か?」
「別に問題はないはずだが、彼女は不思議だ。あの渦を恐れず突っ切れるとは、何者なのだ」
リシェルたちはハーネイトを見送った後もしばらく部屋の中で、彼らの旅の無事を祈っていたのであった。この一件が、あらゆる世界の存亡をかけた戦いの始まりであることを誰もこの時はイメージすることができなかった。