第164話 一つの終わりが次の始まり
「ヴァルハさん、そちらのほうはどうですか?」
「あれから何もないが、そちらは?」
「ザイオとその仲間たち、その背後にいる組織について少しですが情報を入手できました」
一連の流れを簡潔に説明したのち、レポートを会社まで送ると約束したハーネイトに対しヴァルハはとてもありがたいと言いながら彼らの活躍をねぎらい、今度パーティーを開かないかと申し出、ハーネイトもそれを快諾した。
「それはご苦労だったな、それとスタジアム周辺でドンパチがあったようだが、それもあれ絡みか?」
「ええ、そうです。でもこれでシティのみんなも安心して夜を歩けます」
「そうであってほしいものですな。……ハーネイト、一つ頼みがあるのだが」
ヴァルハはマーティンのことについて話をし、なぜ彼がデモライズカードを使う羽目になったのか理由を説明したうえで、余裕があればマーティンの妹の傷を治してほしいとお願いしたのであった。
「マーティンさんの妹さんが治療困難な傷を?わかりました、見てみましょう。キースさんにあのアイテムを渡してくれた礼ということで」
「噂で聞いたが、治療の名手なのだろう?だからこそその力を見込んで頼んだわけだ」
「全く、まあ私医神ですからねえ。ではその人の入院先を教えていただけますかね?」
ハーネイトはすぐにメモをして、通信を切ると全員をBKの施設まで案内し、休みを取らせた。そして朝になるとハーネイトは体をほぐしてから施設を出て、スタジアムの方に向かう。すると後ろからリシェルたちがついてきて、彼の仕事ぶりを見学しようとやってきたのであった。
「とりあえず、スタジアムが一番あれだな。……はああああ!」
「これが師匠の創金術……!」
「もはや神の領域ではないのですかねこれは、ハーネイトさん」
「見る見るうちに直っていくな。流石じゃなハーネイト。魔法と創金術、双方を極めたのはお主ぐらいだろう」
リシェルを始めとした多くの人が、ハーネイトの能力に感嘆していた。あれだけボロボロだった施設がすべて修復され再度使用可能となっていく。どれだけ便利な能力かとみていた全員はそう思いつつ、この若き戦士が戦い以外でも人知を超えた力を発揮できることに驚嘆していた。またそのうえで八紋堀は拍手しながら、力を極めた彼の力量を高く評価していた。
「ロイ首領も同様ではありませんか、さあ、素早く治しに行こう」
「そうじゃな、早く終わらせておいしいご飯を食べようではないか」
「済まないがその前に、少しだけよりたいところがある。それが終わってから出構わないか?」
「わかった、できるだけ手早くなハーネイト」
「ええ」
こうしてハーネイトたちはそれぞれ得意なことを手分けして、街の復旧に当たりなんと昼前までに一通り作業を終えることができたのであった。そのあとすぐにハーネイトは一旦その場を離れマーティンの妹がいる病院に足を運んだ。
「マーティンさん、来ましたよ」
「おお、本当に来て下さるとは」
「約束ですから」
「……これは、血徒の呪い!しかし、進行が遅いようだ。抵抗力をもってはいるみたいだ」
「血徒だと?あの、世界を血で染めた3か月のあれですか」
「ええ、そうなると、龍の力が必要だな。戦形変化・緑嵐竜帝」
マーティンの妹を完全に治すには、血徒の呪いですら吹き飛ばす癒しの風が必要だとその場で魔法陣を展開し変身し、味方に回復と厄災を祓う風を吹き起こし、彼女の治療を行った。
「やった、思ったとおりだ。これで問題ない」
「変身、できるとは驚いた。しかしこれで大丈夫ですよね?」
「ええ」
「う、う……私ッ」
「気が付いたかルミナ!」
意識不明だった彼女の目が開き、すぐに彼女は上体を起こした。それをみたマーティンはハーネイトにただただ感謝していた。
「え、ええ……あなたは?まさかハーネイト……?魔法探偵にして、伝説の交渉人っ!」
「いかにも」
「貴方が、私を治してくださったのですね」
「はい、気分の方はどうですか?」
にこやかに微笑みながら、体調の方はどうかと尋ねると、ルミナは頭を下げてから気分が良くなったことを告げる。
「頭の中にかかっていた靄が晴れた感じです。もう、大丈夫みたい」
「よかった、本当に良かった。ハーネイトさん、この御恩一生忘れません」
「いえいえ、医者として当然のことをしたまでです。しかしどこで血徒の血を……」
わかる範囲でいいので話をしてほしいとハーネイトはルミナにそういい、彼女も思い出しながら襲われた時のことをゆっくりと話していくのであった。
「あの時、私は仕事から帰る途中声をかけられました」
ルミナの証言を聞いていく中で、ハーネイトの顔がさらに真剣な面持ちになっていく。
「その答えに拒否した途端、いきなり襲われたのです。でも確かに人間のハズなのに、手はどこか獣っぽくて、でも魔女のような……」
「そうですか、それだけでも重要な情報です。こちらでも調べてみますよ。新たな被害者を出さないために」
「お願いします。私の友達も危ない目にあったそうで……」
話を一通り聞いて、ある特徴から彼女はあのセファスこと血徒イエロスタに襲われたことを確認したハーネイトは二人に魔よけの護符を渡し、挨拶をしてから部屋を出て病院を後にした。
病室の窓からマーティンとルミナが彼の方を見て手を振り、それを返してハーネイトは中央街へと足を運ぶ。今度何かあった時は全力で恩を返す、マーティンとルミナはそう言い、ハーネイトに対し連絡先を渡していた。
「血徒汚染か、もしかするとあいつらは組織的に動いている?もう一度エヴィラに聞かないといけなさそうだが」
その時ハーネイトの通信端末に着信が入る。それがミカエルであることを理解すると、ちょうどよかったと思い連絡を取る。
「って、どこかで話を聞いていたのかといわんばかりだな。それで……っ!」
「あー!ハーネイトさん、用事終わりましたか?ってどうしたんですか」
そんな中エレクトリールは街中を歩きハーネイトを探していたが、電話をしていた彼を見つけ終わるまで待ち、様子を伺いタイミングよく声をかけた。
「ああ、そうなのか。あの時は教団の仕業だったが、今回のは幽霊みたいなやつだと?こちらでも情報を集める。済まないが一旦切る」
ミカエルと連絡を取り合い、魔女の森出身者数名が行方不明になっていることを聞くと、自身らの件も伝え互いに気を付けるようにと言い連絡を終えた。
「ハーネイトさん!」
「済まないエレクトリール。魔女たちと連絡を取っていてね」
「何かあったのですか?」
ハーネイトはエレクトリールに事情を説明した。そしてその言葉の中に何かヒントを見つけたのか、知っている情報を彼女も話して共に犯人を推測しようとしていた。
「それ、リリエットさんたちが言っていた魂を食らう獣……かも」
「あれ、か。全く、色々出てくるな」
「ひとまず、この事件は幕を下ろしたが、もっと恐ろしいことが近いうちに起こる、そう思うとな。だが昔と違い頼れる仲間が、私にはいる。だから諦めない。さあ、昼食を食べに行くか」
ハーネイトは申し訳ないと声をかけながらリシェルたちと合流すると、予約していたレストランに足を運び、至福の時を味わっていたのであった。
こうしてゴッテスシティで起きた事件は解決し、市民たちに平和が再び訪れた。けれどDGの残党と武器商人、その研究の犠牲者に反体制側の戦士たち、何よりもザイオが最後に言った言葉、そのどれもが後につながり、ヴィダール神最高神・ソラの恐るべき計画がハーネイトたちの未来を奪おうとしていることに気づく者はいなかったのであった。