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神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第一部EX:1 ブラッドル編
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第152話 機械魔剣のスプリィーテスと堕ちたエンぺリル



「はあ、はあ、結局逃がしてしまったか……」


「数が多すぎましたよ」


 ロボットと魔獣たちを撃退したハーネイト達は工場の外に出た。予定外の戦闘で研究者を逃したことについて焦っていたハーネイトだったが、南雲はまだ大丈夫だという。


「ですがマスター、工場は占拠できました。これであの研究者はカードを暫く作れない。街中では拙者の後輩たちが偵察しています。何かあれば連絡が来るはずです」


「流石南雲、仕事が早い」


 すでにそこまで手配していたとは、ハーネイトは南雲の迅速な対応を評価していた。あの時無理をしてまで霧の里に出向いた甲斐はあったなと思いつつ周囲を警戒していた。


「んで、この2人はどうしようか……な」


「ほほほ、無事のようじゃったな」


「あなたは……っ」


 ハーネイトはある老人の声に気づき顔を向けた。するとそこには、優しげな初老の男性とその隣で苦悶の表情を見せていたザイオがいた。


「いやいや、警戒せずとも、私は敵対するつもりはない。といっても元はDGに属していたがな」


「あなたは、まさか……」


「おや、ヴァルター君か。ハハハハ、久しぶりじゃな、それとメッサーだったか」


「なぜこのようなところに、もしかしてあれの件についてか?」


 ヴァルターは思わず素の声で老人に話しかけ、その質問の意図を理解した。


「はは、そうじゃな、そのために私は故郷に戻ってきたのだからな」


 この男こそが、ヴァルターたちがアクシミデロに行く理由を作った男であった。


「それで、誰なんだ、このミロクさんにどこか雰囲気が似ているこのおっさんは」


「ほう、ミロクのことを知っているとはな、若造」


「あなたは一体誰なのですか?そこの研究者を捕らえて何を」


「おいおい、質問は一つづつな。おほん、私はDGに属していた、いや、DGに対する密偵として個人的に活動していたスプリィーテスと申す。以後よろしく頼むぞ」


 スプリィーテスと自ら名乗った男は、軽くお辞儀をしながらニヤッとした顔でハーネイトたちを見た。


「スプリィーテスさん、貴方はミロクおじさんと何か関わりがあるのですか?」


「ははは、そうじゃな。何せ同期でライバルだったからな。3剣者としてのな」


 彼曰く、ミロク・ソウイチロウとは同い年で友人、そしてライバル関係にあったという。また、ハーネイトの剣の師匠も彼の知り合いであると明かす。


「このおっさん、強いな。優しげな表情と裏腹に、凄みを感じる」


「ミロクさんやシャムロックさんと似た感じがしますね」


「ほう、そこのお嬢さん。懐かしい名前を聞いたな。ん……なっ!」


 ハーネイトの傍で彼の腕を抱きしめる女性を見たスプリィーテスは、あることを思い出した。DGの旧派NO.2でありながら離反した恐るべき戦闘民族の若き戦士のことである。そしてすぐさま名前を思い出し、彼女の方を見ながら思わず言葉を口に出した。


「エレクトリール……!DGの中でも屈指の危険人物がなぜ」


「……私は、もう昔の私とは全く違います」


「エレクトリールも地味に知り合い多いね。でも助かるな」


「えへへ、ハーネイトさんのためなら喜んで」


 初めて出会ったのは相当前でのことであり、その時の彼女は恐ろしい気を身に纏い暗い表情をしていた。けれど今は全く違う。彼女の変貌ぶりに驚きながらも、幸せそうにしている姿を見てスプリィーテスは仕方ないといった表情でハーネイトとエレクトリールのやり取りを見ていた。


「それで、ザイオが捕まっているのだが……」


「体が、動かん……!どうなっているのだ」


 スプリィーテスはザイオの体を無数の微小機械ナノマシンで覆い動きを封じていた。それを見たハーネイトは、どうやってもあの男のことを思い出さずにはいられなかった。


「やはり、技の性質は伯爵に似ている。無数の見えないものを集め、自在に操る。恐ろしい能力だ」


「ほう、わしの力が分かるのか。……さあ、研究者とやらよ。人を怪物にして楽しいのか?」


「ふん……」


 そんなスプリィーテスの問いかけにザイオは終始無視していた。ならば強引にでも口を割らせようとしたその時、彼の背後から長身の男が襲い掛かろうとしているのをハーネイト達は見た。


「な、なんだあの男は!」


「あれは、まさか……!」


 ハーネイトたちの呼びかけに気づきとっさにかわそうとするも、強烈な鋭い蹴りがスプリィーテスの顔をかすめ体勢をよろけさせた。その隙に男はザイオをわきに抱え工場敷地の外壁まで一気に飛んでハーネイトたちをギロっとにらみつける。


「……っ!」


「おじさん!」


 ヴラディミールはよろけながらも手先からナノマシンを放出し男の動きを止めようとしたがはじかれてしまう。


 月夜が男を次第に照らしていくと、人の姿をしているが体のところどころが魔獣と化しているのが見える。男の顔を見たハーネイトは素早く刀を抜きながら、まさかという表情で睨んでいた。なぜならば、この男を彼はよく知っているからである。


「この男は回収する。……ハーネイト!これを渡しておく。もし来なければ、この街の人間を全員殺す……」


 男は何かをハーネイトに向けて投擲し、彼はそれを指で挟みキャッチする。それはある手紙であった。すかさず魔閃を数発牽制で放つが、男のスピードが魔閃の速さを上回りよけられてしまう。


 そして男はその場からザイオを抱きかかえたまま姿を消したのであった。

 

「待て、エンぺリル!っ、何という速さだ。ちっ、なぜだ、なぜなんだ。あの男がなぜ……」


 終始動揺を隠せなかったハーネイト、それはブラッドルをかつて教えた弟子たちの一人、エンぺリルが変わり果てた姿となり目の前に現れたことが理由であった。 


「大丈夫ですか?」


「ああ、どうにかな。しかし恐ろしいけりだったわ。もはやあれは魔獣の一撃に等しい」


「エンぺリル……なぜ。あの誇り高い精神はどこに行ってしまったのだ」


「今の人、知り合いだったのですかハーネイトさん?」


 スプリィーテスはあの一撃で軽傷を負ったが、すぐにナノマシンを傷口に埋め込み止血した。その一方でハーネイトは若干放心状態であった。エレクトリールたちがあの男との関係について尋ねると、ため息をつきながらハーネイトは説明した。


「ああ、彼こそブラッドラーをするために生まれてきたといってもいいような男だ。なのになぜ、どこで道を間違えたのか」


「……もしかすると、ハーネイトさんを超えようとして」


「師を乗り越えることで、さらなる境地に至るか、けれどどうやっても師匠をそのエンぺリルってい

う人は越えられなかった。だから力に溺れたのかも」


 エレクトリールとリシェルは、それぞれそう考察しながらハーネイトの傍で彼を落ち着かせようとしていた。


「難しい話じゃのう。だが、指をくわえてみているわけにはいかんだろうな」


「勿論です。この手紙の内容が気になりますが、一刻も早くザイオを捕まえ、エンぺリルを元に戻さないと」


「マスター、捜索は俺たちで当たりますので、貴方は別の対策の方をお願いします」


「そうだな。とりあえず工場の制圧はできた。これはシャムロックたちに任せて私たちは二人の行方を追うぞ」


 ハーネイトはすぐにシャムロックに連絡を取った。数分してベイリックスが工場に到着し、シャムロックとロイ首領たちが車から降りてきた。


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