第134話 新たな仲間と決意、エヴィラの話す衝撃の事実
「さてと、他にも話したい人はたくさんいるが……」
レストランの中は大盛況、ここまでこのように人が集まることはそうそうない。この星の人だけでなく、異星の人間までいる状況に感嘆しつつ、自分も相当変わり者だなと思っていたハーネイトであった。けれども、いやな気分には全くならない。むしろ仲間が増えたことにうれしさを感じていた。
「それにしても、こんなに多くの人が集まりともに戦ってくれる。旅に出た時とは大違いだな。何だか、とてもうれしくなる」
自身の謎を追うために旅に出たが、最初はうまくいかないことばかりだったことを思い出すハーネイト。けれど諦めなかったから、今こうして多くの仲間といられる。それが無性にうれしくて微笑んでいた。
「なあ、リリエットよ。DGは本当に滅んだ、のか?」
「ええ、そうよ。長年の夢は叶ったのよお父様」
「だが、記憶が……まだ、おぼろげだ。うぅ、頭がまだ辛い」
そんな中、元DGで洗脳されていた能力者集団のリーダー、ゴールドマンは娘であるリリエットに話しかけ、今どういった状況なのかをまた確認していた。それを見たハーネイトはそっと近寄り話しかけた。
「どうした、リリエット。それと、ゴールドマンさんでしたっけ」
「お主がハーネイトか、娘が、迷惑をかけたそうだな。……そしてわしが不甲斐ないばかりに、あの女の口車に乗せられ、取り返しのつかないことをしてしまった」
「まあ、あの後いろいろありましたがね。……悪いのは、多くの人を操り苦しい目に合わせたあの魔女です」
2人は軽く挨拶をし、簡単に事の経緯を話した。そしてリリエットが犯した失態について彼が代わりに謝ったのであった。気にしていないといは言っても、どこかで納得できていない表情を隠しきれなかったが、ハーネイトはそれでも話をつづけた。
「一殺の愛弟子とは聞いておったが、阿奴は元気にしておるか」
「え、ええ。って、まさか知り合いとかでは……?」
「その通りだ」
その言葉を聞いたハーネイトは、今まで抱いていたいくつかの疑問が心の中から消えたのを認識した。それからゴールドマンはハーネイトの剣の師匠についての話をしたのであった。
「昔から師匠はおっかない人だったのですね、はあ。いっつも私を殺す勢いで剣の修行を付けてきたもので生きた心地がしませんでした」
「まあ、そうじゃな。だが、生きているとはな。……DGは、本当に消えたのだな?」
「はい、私だけでなく、この場にいる、いや、この星の上で生きる多くの人たちのおかげで」
「それと、あそこにいる2人組の男もだわ」
リリエットが窓際にいて食事をとっているオーダインとミザイルを少し指さす。それに気づいた2人が手に料理が乗った皿を持ちながらこちらのほうに向かってきた。
「昔ほどではないが、いいところだな。しかしまだあるべき姿からはどの街も遠いな」
「しっかしよハーネイト、敵であるDGの奴らを仲間にするとはな。本来なら討伐対象なんだぜ、そいつらは」
「しかし、真に倒すべき敵は倒れました。無駄な戦闘は控えるべきだと思います。私を認めて、ついてきてくれた。間違いに気づきこちらの軍門に下ったなら、それがいいです。戦うのだって、本当は好きではないので」
ミザイルの粗い言葉に苦笑いしながらも、自身はやるべきことをやったし、無益な戦いはしたくなかったとハーネイトは意思を示した。
「……あの女のせいとはいえ、申し訳ないことをしたな」
「それなら私たちも同じよ」
「ああ、ぼくたちは、多くの人に迷惑をかけた。DG内部の事情があるとはいえ、な。異世界に飛ばされ、放浪してこのような目に遭うとはね」
「モルジアナ、ヨハン……無事だったか」
料理を取るために席を離れていたモルジアナ、ヨハンが戻ってきた。意識を取り戻したのがつい先ほどであり、ようやくはっきりしてきたのか、ゴールドマンは彼らをじっと見ていた。
「ボスもご無事で何よりです」
「無事だったのは、これで全部か?」
「ああ、パラディウムとガミオンは……」
友人であり戦友の2人について、どうなったか尋ねるゴールドマン。その答えに対してヨハンたちは首を横に振って残念そうな表情を見せていた。
「父さん、あの2人は例のアイテムを使用しました」
「あれ、か。変身するあれだな。それで、ここにいないということは……」
ゴールドマンはすでに理解していた。この場に旧友がいないこと。それは彼らが既に天に召されたこと。それを理解していても涙を完全に防ぐことができずうっすらと涙を浮かべた。
「彼らは、戦死しました。ゴールドマン、彼らの所持していたデモライズカードは融合型で、元に戻す術がないとな」
「……そうか、シノブレード。あいつらは私の古い友人でな、こうなるとは、な」
「しかし、過ぎてしまったことは仕方がない。何せ、彼らは洗脳の汚染度がかなりひどかったと、あそこにいる女性たちから教えてもらいました」
「セファス、か。くそ、あの女さえいなければ」
「ただでさえDGの中には霊界人って奴らの派閥とそうでない奴ら、それに捕まって強制労働させられていた者たちなど一枚岩な組織ではすでになかったが、それを外部の者に利用された、形かもしれん」
シノブレードは淡々と言いながらも、悲しんでいた彼のことを内心かなり気にしていた。
「セファスは私の師匠、ジルバッドを殺し弄んだ仇でした。……このようなこと、2度とないとよいのですが」
「そうだな、ハーネイトよ。今回の事件、私がすべて責任を取る。さあ、好きにするがよい」
「何でもしていいって、言いました?フフ、一応裁判には出てもらいますが、おそらくアレクサンドレアル6世は……」
形だけ裁判を受けてもらい、その刑としてハーネイトの下につき再教育という形で引き取る予定になることをまだ説明していない人たちに教えたハーネイト。動揺が広がるも、すでに話を聞いていた人たちは納得済みであった。
「……へっ、どうせ俺たちは行く当てもない。しかしだ、また勝負してもらうぞ、ハーネイト」
「こんな形であれだが、本当に良いのか?仮にも敵同士戦ってきたのにか」
「かまわない。ただ、復興と今後のために力を貸してくれ。私の軍門に下った以上はね、覚悟してもらうから」
ブラッドバーンは椅子に全力でもたれかかりながらハーネイトに話しかけ、再戦を申し込んだ。三度の飯より戦い好きな彼はより強い敵と戦いたくて仕方なかったのであった。そして1人考え事にふけっていたヴァンも力を貸すことを約束したのであった。
「話聞いた?モルジアナ」
「ええ、アルティナは?」
「同じよ、行く当てはないのは元DG全員なんだからね」
「洗脳から助けられた身だ、何も文句は言えまい」
「そこの人たちも含め、明日さっそく事情聴取を行う。ホテルの部屋は用意しておくから、そこで待機していてくれ。しかし、リンドブルグにいつ帰れることやら」
事務所兼家のあるリンドブルグに帰れるのはもう少し先かなと少しため息をつきながら、その場を後にしてデザートを食べようとバイキングテーブルのほうに向かおうとしていた矢先、バイザーカーニアのロイ首領に話しかけられた。
「ハーネイト、ご苦労だったな」
「ロイ首領もです。何かと今回も世話になりました」
「まあそれはよい。お前もわしのために今までいろいろしてきてくれているからな。ああ、魔法協会の話は聞いたか?」
「相当手ひどくやってくれたと」
「有無、事実上協会は壊滅じゃ」
「――そうなると、私たちBKが主役として魔法界を牽引する形、ですかね。サー・ロイの望んでいた形、にはなりますが」
「そうなるしかないじゃろう。嬉しくはあるが背景がこれじゃとかなり複雑な心境じゃな。じゃが、わし等が責任を以て魔法界の発展を進めていかねばならん。魔法は誰かのためにあれ、それが一番大切じゃからな」
「はい、私もそう思って、魔法技術を多くの人を救うために研鑽して使ってきましたからね」
DGによる被害をもろに受けた魔法協会。住民や関係者は無事だが、施設が壊滅的な被害を被っていることを聞いたハーネイトは早急に対処せねばと考えていた。
今回の戦いで、実質協会の機能は停止したといっても過言ではない。それはセファスに、重要な役職についていた協会の幹部のほとんどを抹殺されたからである。
幸い6大魔道家は協会から一歩引いて離れた場所で各自暮らしていたために無事であったが、こうなっては結果的にハーネイトらが後を継ぐしかない状況であった。
「ともかくそちらのほうはこちらに任せてくれ。ハーネイトはしばらく休んでくれ。またでかい仕事があるときはお主の力が必要じゃ。もしあの紅儡を生み出す怪物が現れれば、お主等を含めわずかな人数でしか対処できんしのう」
「そうさせていただきます。ロイ首領」
「フフ、その時はな。しかし、いつしか立場が逆転したな」
「いえ、貴女の前では私は頭が上がりませんよ。BKの中では私はNO.2ですからね」
昔旅をしていた中で彼女に助けられたことがあったハーネイト。今ではその立場が逆転したものの、彼女から受けた恩は忘れてはいないといい、また会おうと約束したのであった。
「……なんだここは、ここだけ空気が異様に重い。何故だ」
そんな中、異様な空気を放っている空間を見つけたハーネイトは、何があったのかを確かめに行った。
「貴様らがもう少しきちっとしておれば、事態は悪化しなかっただろうが」
「ただ監視していたあなた方に言われる筋合いはありませんよ」
「あの、折角のパーティーなので険悪なムードは……」
「おお、ハーネイトか、よくあれを倒せたな」
「はい……久しぶりに、死の恐怖を感じましたが」
「それをも乗り越えなければ、更なる強敵は倒せん。まあ、今回はよくやったと褒めるべきだがな。希望の子にして、破滅の未来という恐ろしい予言を覆すためのカギよ」
Dカイザーとフューゲル、オーダインとミザイルが話をしていたのだが、少し険悪なムードであり自然と割り込んだハーネイトはカイザーからそういわれ、少し困惑していた。
「本当に成長したものだ。だが、強さの中に危うさもある。事情を聴いた以上どうこう言いづらいがどこかで受け入れるしかないぞ。強さとは、孤独が常に付きまとうものだ」
「分かっていても、昔のことを思い出すとですね。しかし危ない場面も多かった、はあ……まだまだ未熟ですね」
「お主はまだ若い、伸びしろなどたくさんあるじゃろう。未熟だと思い精進しつづけることが、どんな時でも色褪せない真の強さそのものになるのだからな」
伯爵から説明を受けたものの、無限炉の所持者が絶対的に強いわけではないことを知ったうえで、起きた事実を述べながら戦うのが正直怖かったと気持ちを明かしたのであった。
今まで戦いに向かうことで恐怖を覚えたことなどなかった。いや、正確には怖いのを完全に押し殺して自分にしか倒せない敵に果敢に挑み勝利を収めてきたものの改めて無敵ではないことを自覚させられた今回の戦いは、彼に新たな感情を芽生えさせる結果になった。
「ハーネイトは、究極の存在として、そして失った文明も歴史も取り戻すための鍵なのだ。しかし、剣と魔法はどこで身に着けた」
「オーダイン、それは……」
ハーネイトのどこか弱弱しい所が気になるもオーダインはハーネイトに対し前に来るように促すと、ある話をしたのであった。
ハーネイトは本来女神によりあらゆる破壊方法をインストールされ、専用の武装が与えられるはずであったとオーダインは告げた。その際に人格も女神が望んだように書き換えられる予定であったことを聞かされ、ハーネイトの顔はひどく青ざめていた。
しかし遺伝子改造と古代人の技術をもってしても、戦闘センスを身に着けるのは時間がかかるし、そこまでは人の手ではプログラムできなかったという。
何よりも一番大切なことは、内なる龍の力を制御するには多くの感情を理解しそれを適切に扱う力が求められるようであり、実はソラの方法ではどこかで大問題が発生していただろうと話しながらこの先戦うことになるある脅威は、感情を読み取る技術なしにはいくら力を埋め込まれ運用しようとしても効果が薄いというらしい。
またあの戦いぶりを見たオーダインたちは、どこで剣と魔法の力を身に着けたのかが気になっていた。
「いい、師匠に巡り合えたようだな」
「あの一撃は、確かに見事だったといっておく。だが、神造兵器だろうが、あの例の女神相手にはまだあれだな」
「2人は、そのソラという女神とあったことは?」
「ああ。あるが滅多に顔を出さない。世界の監視で忙しいのだろうがな」
「だが、あれはこの世のものとは思えない存在だ。全てはあの日、大事にしていたオベリスが砕け散ったところから変わってしまったのかもしれんがな」
師である3人の話を聞いたオーダインたちは、それで納得したのであった。そしてハーネイトは疑問に思っていたことを口に出した。それの回答はおよそ予想通りだったものの、その力については少なくとも事実だろうとは感じていた。
「ヴィダール・ティクス神話。それはこの世界において各惑星で幾つも伝承が残っているほど影響が大きいのですから」
「誰だ、貴様は」
「私はシャックスと申し上げます。ハーネイト、女神ソラ、ソラ・ヴィシャナティクスはあらゆる世界の創造者であると伝えられています。そしてその力は作った世界を意のままに消すことができるほど強大であるのです。しかしそれ以上にヴィダールという存在自体が凄いのですがね」
さらにシャックスまで割り込んで女神の話を進めていく。
この時、彼のような存在がいてくれたことにハーネイトは頼もしさを感じていた。普段は寝ぼけてつかみどころのない彼だからこそ、そのギャップが印象的であったという。
「どういう意味で凄い、ってこと?」
「私も全ては知りません。ですが龍を封印し続ける一族、それについては知っております。といってもヴィダールという存在もどこまで出自について知っているかはまちまちでしょうし、実はDGの中には他にヴィダールの神柱本人かその力を継いだ子供が割といるのですがある者の扱いについてかなり内部で意見が割れていました」
「ヴィダール、そんな存在がいただなんてDGと戦うまでほとんど分からなかった。シャックスたちのおかげだけれど、複雑だな」
「そりゃお前さん、わしらが情報統制をしておったからな。気に病むことはない」
「だったらなぜ、その事実を今まで知らせなかったのです」
「ならば、それを知ってどうするつもりだったのか?」
「それは……」
「お主は、お主の思う以上に様々な勢力に注目され狙われておる。それを防ぐために情報を出さなかったというのもある。だが、もうその必要もないかのう」
もしそれを早く知ったとして、確かにどうするつもりだったのだろうか。そう思うと彼は言葉が少し詰まった。聞いたところで答えなど固まっていなかった。
「とにかく、向こうに行けるのはしばらく先なのだから、焦るなハーネイト。歩みを止めなければ、お前の知りたいことも、我らが失った記録も取り戻せる。オベリスについても話をせねばならんが、それはソラ様から直接聞くのが良い。恐らくその件で何か指示があるはずだ」
「そうだ、マスター。休める時に、休まなければ」
「ユミロ……ああ、そうだな。それと、こうしてついてきてくれてありがとう。オベリス、それがいったい何なのか分からないけれど、砕け散ったそれが何か重要な手掛かりを秘めている?」
「構わない。それと、ありがとうハーネイト。これからも、よろしく頼む」
ユミロは、先の戦いで敵討ちという点で花を持たせてくれたことにすごく感謝をしていた。これで、今まで消えていった者たちに対し少しでも報いることができたといい、ハーネイトに対し深く一礼したのであった。
「俺らを受け入れてくれた、それだけでもいい。この戦い、決して一人では勝てなかったと思う。みんながいるから、どんな時でも立ち上がれる。今までどこかで、人が怖いって、恐ろしいって思っていたこともあった」
ユミロは率直な気持ちを伝え、それに対しハーネイトは力強く、静かに、でも熱く話をつづけた。
「だけど、そうしていつまでも目を背けていては、答えをつかめないって。それに気づけた。そして新たな力と出会い、向き合い、手にできた。今までの私とは違う」
「フッ、いい目つきじゃねえか相棒。ああ、俺たちはこれから運命に向き合わなきゃならねえ時なんだ、今がな」
「……心配していたが、頼もしくなったな」
大切なことは運命に向き合うこと、そして受け止め前に進むこと。それを改めて再確認し、一皮むけたハーネイトの表情は以前よりもたくましく、また落ち着きのあるものになっていた。
「さてと、大体食べたな。しっかしうめえな!ヴァンももっと食えよな」
「ボガーは遠慮するという単語が頭の中にないのか」
「それなら俺もないぜ」
「ブラッドバーン、お前もか」
ハーネイトがそう思っている中、ボガーノードやシャックス、ブラッドバーンは異星の料理を楽しんでいた。しかしヴァンはあくまで自身らが元敵であることから自重しろというものの、友人であったブラッドまでダメなお兄さんであるボガーと同じことを言っていたことにあきれて、どうしようもないなと思い机に置いていた水の入ったコップを手に取るとゆっくりそれを飲んでいた。
「いやぁ、城の食事よりもうまいなあ、兄貴!」
「フリージア、帰ったら料理長に言いましょうか?」
「い、いや、わ、悪かったって」
「ったく、ハーネイトの坊主は本当に曲者ばかり集めよるな。にしてもだ、なんだあの女は。俺たちの食べる分まで食べているだろ」
エレクトリールとフリージアが大食い対決をしているようである。そして兄たちにそう言い、アレハンドロスが笑顔で睨みつけて軽く脅した。
「だが、それが彼なんだろう。敵すら魅了し引きずり込むその手腕、見境なくて私は賞賛するよ」
「褒めてんのかけなしてんのか分かんねえな、兄貴」
「ハハハ、まあよいではないか。今のうちに食べまくるぞ!」
「ハーネイトたちのおかげで最悪の事態は防げた。流石、血徒再葬機関の代表なだけのことはある」
こうして、楽しい夜は過ぎていくのであった。もはや国や立場はおろか、人種、いや、種族すら異なる集団がこうして集い、一つの力となって脅威を退けた。そして未来をまた紡ぐことができたのであった。
そんな中、ハーネイトは窓際で1人、外を見ていたエヴィラに気付き近づいて声をかけた。
「ハーネイト……あの時は、助けてくれてありがとう」
彼に気付いたエヴィラは、凄く申し訳なさそうに、気弱な感じで感謝をする。
「正直今でも戸惑っている。私の恩師の命を奪い、弄んだ怪物を……お前は、何を知っている。ずっと戦ってきても、よく分からないあれは何なのだ」
ハーネイト自身も、あの場面でなぜ敵の元ボスを治療したのか分からず、ずっと戸惑っていたことを彼女に話す。
すると、エヴィラはハーネイトに対しある重要な話を切り出したのであった。
「あのね、もしかするとだけど貴方のその、恩師さんというのを殺したのは私の妹、かもしれない」
「どういうことだ、説明してくれ。紅儡を生み出す怪物、血徒……それは」
彼女のその一言でハーネイトの顔を一気に険しくなる。それと同時に周囲の空気もわずかに重くなり、それに気づいた者が彼の方に顔を向ける。
「貴方の体から、まだかすかに妹の気運を感じたのよ。その感じからして、今からかなり前に貴女は妹と遭遇している。その妹が、今の血徒の王として何者かに、いや、実体のあって無いような龍に操られているみたいなの。貴方が使うその龍の力、その源に」
エヴィラは、ハーネイトに対し見て感じた感想と、探している妹とかなり前に出あっているはずだと指摘したうえで、妹が彼の恩師を殺害した可能性が高いのではないかと考察を述べた。
「そんな……そんなことって」
「血徒は、力のある者を依代にすることが多いの。それと私も仲間だった者に襲われて、あのエンテリカ王子と同じく記憶が色々と飛んでしまっているのだけれど、1つ言えることは紅儡を生み出す怪物、それは他者に取り付いて初めて十全の力を使えるから、それでその、あなたの大切な人を妹が殺して、取り付いたんじゃないかって」
「龍に、って私の中にある龍の力、それと関係が?それと……その妹の居場所を、探しているんだよなエヴィラ」
「そうよ、それと私も、責任を取って操られている彼女を倒さないといけない。もう私は血徒ではないしハーネイトのおかげでずっと追い求めていた力を手にしてその上を行く存在になれたわ」
「もう、血の怪物でない、って一体どういうことだ。伯爵もあの時意味深な発言をしていたが、私にはまだ自分自身も知らない力があるとでもいうのか」
「U=ONE、遍く奇跡を生み出し届ける、破滅の未来を防ぐための力。ハーネイト、真に龍の力を扱えるようになるにはその力を磨き上げ、自分たちを襲い仲間を洗脳した霊龍を倒し、苦しむ存在を救済しないといけない」
エヴィラは自身の考えを述べたうえで、自身はもうハーネイトのおかげで新たな力を手にして、自身がずっと待ち焦がれていた夢である呪いからの解放とあるべき姿に戻ったこと、それを可能にする力、U=ONEの力を説明したうえでこれからはその力を持って奇跡を起こし続けることで破滅の未来という危機を防げると真剣に説明したのであった。
「何だか、実感がわかないのだけど、でも、自分にそんな力が。霊剣を使って治療したり魔法で街ごと直すとかはしてきたけど、それ以上の奇跡と希望を与えられるのか?それなら、その力を使いたい」
「貴方が、私たちの探していた存在だなんて驚きだけれどあの時の手の光、あれこそが証明よ。でも気をつけないといけないことがあるわ」
「え、それはどういうことなんだ」
「まだあなたはU=ONEの力を連発はできない。迂闊に使うと命取りになるの。あまりに凄い奇跡を起こす分、すごく体力を消耗するってのは知っているわ。だから私の指示があるまでは極力使わないこと。まずは必要なエネルギーをたくさん集めて、修行してもっと強くなって欲しい」
エヴィラはハーネイトに対し、U=ONEの力はあり得ないことを起こせる奇跡そのものだが運用が難しいこと、幾つか気を付けるべき点があることを話しながら自身の指示があるまでは力を隠すようにし、今は修行をしつつ心を強くする訓練を続けるべきだと話したうえで、彼のことを弟のように思っていることを告げこれからは全力で護って見せると強く誓うのであった。
「分かった、易々とは使えない代物か」
「ええ、だけど私の言う通りにすれば自由自在に望むように奇跡を起こせるようになるわ。焦りは禁物よ。しかし、まさかこんなところにいたなんてね。あいつの言っていた、記録に刻まれていた存在……フフフ」
「どういうことだそれは」
「ハーネイト、まず貴方は貴方の幸せを掴み取りなさい。そのために私は戦って責任を取るから。いいね?お姉さんに任せて、貴方は仲間たちとDGの連中を止めることにまずは専念し修行をしなさい。今仮にほかの呪われた存在を助けようとしても、逆にエネルギー不足で体がボロボロになるわ」
「私はもっと知りたい!なあ、紅儡って、それを生み出す存在って何なんだ。教えてくれ、エヴィラ。U=ONEの力は、お前の指示に従って鍛えるから」
「時期が来たら、その時はきちんと話すわ。でも、私の元仲間たちは龍に操られ力を増しているの。もっと力をつけて、大丈夫だと分かったなら改めて真実を話すわ。色々と納得いかないでしょうけど、あなたがもし命を落としたらみんな終わりかもしれない。それだけは理解していて欲しい。大事だから、今は力を潜めて来たるべきに備えてね弟君」
「……分かったよ、エヴィラ。だけど、約束は何時かちゃんと果たしてもらう。本当は……正直、貴女のことも切り捨てたいくらいに、血徒は憎い。だけど、何だか話を聞いているとその、どこかで遠く繋がっているんじゃないかって思う」
「そう、でしょうね。でも、貴方は何処かで更に残酷な真実を見て受け止めないといけないわ。……ハーネイト、本当にごめんなさい」
エヴィラは泣きそうになりながらハーネイトの顔を見て、ぎゅっと抱きしめると少しの間沈黙していた。いきなりのことで彼も驚くが、彼女の悲痛な面持ちを見ると言葉が出ない。
「何故、私に謝るのだエヴィラ」
「話せるときに、ちゃんと話すわ……だから、一旦この話は、ね」
「わ、分かった。だけどエヴィラ、私の恩人に手をかけた者への復讐に協力、してほしい」
「勿論よ、私がしっかりしていれば、妹が血徒の王に担ぎ出されることも、貴方や仲間たちが辛い思いをしなくて済んだはず。それともう寂しい思いはさせない、絶対に」
「エヴィラ……」
こうして、元血徒の王エヴィラはハーネイトの元に下ることになったのであった。
エヴィラは昔血徒という組織を立ち上げたある仲間の言葉を思い出しつつ、初心に帰りながらようやく探すべき存在を見つけ保護することができたこと、しかし大きく傷ついておりもっと早く見つけ出して保護すれば彼が苦しい思いをし続けてこなかっただろうと思い切なくて仕方なかったのであった。
思わぬ形で望んだ力、U=ONEの力を手に入れた彼女は、ここから長い旅が始まるのだなと予感し、何よりも強い決意を固めていたのであった。