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神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第1章 第2シーズン ハーネイト&DG連合VSヴィダール・ティクスの邪神
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第131話 遺跡の秘密、そして帰還へ



 遺跡といっても内部はまるでいくつも部屋がある研究室のようであり、その最も奥にある巨大な部屋。そこに彼らが捜していた装置が存在していた。部屋の中に入ると、薄暗く、部屋の奥に巨大な円型のゲートと、その台座、そして3mはあろうかという高さの電子装置が部屋の中に置かれていた。

 

 そのゲートの内側は、ハーネイトたちの持つ能力、次元の狭間の中の雰囲気と同じ紫色の空間が奥にずっと広がっていた。


「これが、次元を意図的に超える装置か」


「古代バガルタ人の一部は進化し、ハルフィ・ラフィースとなり人知を超えた実験を繰り返していた。それの集大成というか、滅びの原因」


「これを使う、のか。次元の狭間、関門と同じ感覚が奥からする」


「ああ、俺もだぜ」


 クロークスたちも同行していたため、伯爵とハーネイトのセリフを聞いて彼は自身らの種族にまつわる秘密を2人に明かした。


「そうか、そのテコリトル人が持つ固有遺伝子は、次元の狭間を感じ取り、また自分のものにできる驚異の力、ということか」


「そうして、その力で先祖たちは侵略戦争をしていた……のでしょうね。私が生まれる前から、故郷はDGと手を結んでいたのかなあ」


「そうかもしれないな、娘よ。だがもうDGは崩壊した。これ以上ほかの星が消えることはない」


 エレクトリールは、自身の過去を思い出しながらもう組織のしがらみはなく、新たな人生を送るんだと胸に秘めて決意した。新たな仲間、新しい世界。多くの出会いが彼女を大きく成長させ、トラウマを克服する力になったのであった。


「さあ、今からどこまで調整が必要か図るぜ」


「腕のなりどころですね。アーロンさん、少し手伝ってください」


「……仕方ない」


 そして古代人三人はすぐに装置の調整と確認を始めた。そして小一時間してミザイルが汗をかきながら彼らに装置のコンディションを伝えた。


「ふう、装置自体の故障はないが、座標を向こうにリンクできるタイミングに問題があるな」


「それが何か問題でも?


「大ありだよ。いくら安定化させる装置を開発し組み込んでも、この装置が別の次元を探すということは別問題でな……それと装置の設定におそらく2,3か月かかることだが……それでもいいか?」


「そんなにかかるのか。間に合うといいのだが」


 装置をまともに機能させるにはしばらく時間が必要になる。そういわれたがハーネイトたちは、女神ソラのことが気がかりで、シャックスの以前言っていた恐ろしい性格を知っていたため対策が遅れるのはどうなのだろうかと不安がっていた。


「その間に、準備を済ませたほうがいいな。案内は俺らがするぜ」


「……そうか。そうだな、戦後の処理といい、混乱の収束といい、やらなければならないことがたくさんある」


 比較的今回の戦いは多くの国に被害を与えるようなものではなかったが、それでも混乱が起きている場所がある。


 また魔法協会のある都市は甚大な被害を被っている。事後処理やトラブル解決のために駆け回らないといけない。そう彼は考えていた。


「しかしよう、相棒。それじゃお前さん、休暇取れないんじゃねえのか」


「……仕方ないだろう」


「それならば問題ない、ハーネイト」


「アレクサンドレアル王」


 はあ……と落ち込むハーネイトの肩に手を置き、大丈夫だという機士国王。そして笑顔で彼に感謝をし、今自国がどうなっているか説明した。


「今回の一件で、より民やほかの国との結束が深まった。それとそなたが先に機士国を解放してくれたおかげで、もう混乱は収まっている。毎度のこと、そなたのカリスマ力は計り知れないな」


「それと夜之一王からも伝言があります。すでにボルナレロたちと連携し、残りの施設や拠点などもすでに制圧済みで、もう敵は反撃能力を殆ど失っている状態であると」


「なんだあ、混乱なら俺たちで抑えてやるぜ。レイフォン騎士団の力を見せる時だぜ!ほんっとうに、ハーネイトはよくやるなあ」


 今回の一連の事件で起きた混乱、そしてこれから予想される出来事についてすでに、多くの人が先手を打とうと動き始めていた。これも、彼の戦いと功績をねぎらうためである。


「み、みんな……。……一つ、謝らなければならないことがある」


「何でしょうか、ハーネイトさん」


「師匠が謝ることなんて……」


 突然の謝罪に全員が驚いていた。星の危機を救い、勝利に導き味方側で一人の死者も出さなかった彼がどこを謝るのだろうかと彼らは疑問に思っていたのである。


「いや、私は本来、この事件をもっと早期に解決できていたかもしれない。しかし体調管理を怠ったがために、本来の力を出せなかった。みんなが支えてくれたから、結果は得られたが、申し訳ない……」


 目の前に迫る数々の出来事に彼は、自分の体をいたわれないほどに振り回されていた。時に昔のことがフラッシュバックしたり、内なる力こと、龍の力に体を苦しめられたりしたことが辛かったと言う。


「まあ、ハーネイトが昔から働きすぎなのはこの星の人たちならだれでも知っているわ」


「けれど、体調管理は大切だよねルシエル」


「そうよ。義兄さん、これからはもっと体をいたわって。いくらすごい力があるからって、それに胡坐をかくことはいけないと思うわ」


 日之国で倒れた件も含め、全員に心配をかけさせたことと、自身の管理が至らなかった件を彼は全員に詫びた。幸い大きな被害は結果として出なかったものの、もっと最善の手も取れていただろうと彼は考えていた。それにアンジェル、ミカエルとルシエルがそれぞれそういいながら、彼の発言に対して意見を述べた。


「ほう、いいこというじゃねえか。確かに、旅をしている間も相棒が偉業を連発していたのは聞いていたが」


「だけど、これからはもっと周りを頼ってほしいなあ。でも、こうして多くの人と出会えた。そしてみんな素敵で面白い人ばかり。あながち、今回は今回で、これでよかったじゃないの?」


 彼女らの意見に賛同し、相棒はもう少し体をいたわえと伯爵が追加で後押しをする。彼こそが最も病気を蔓延させそうで人のことを言えないのは内緒である。そしてリリーは、これはこれで、今の結果もいいものじゃないかと個人的な意見を述べた。


「師匠、俺からも……。ここにいる皆さんはそれぞれ得意なことが違いますが、誰もが秀でたものは持っています。だからこそ、うまく使ってほしいっす」


「うむ、なかなかいいことを言うではないかリシェル。マスターはマスターで、それ以外はそれ以外で、いつでも戦えるように力を温存しておけばよいのでしょう」


「あの、あの……ハーネイト様。私は、今回の一件で念願の夢がかないました」


 するとリシェルと南雲は背中合わせで座りながら、ジェスチャーを交えてこう言った。ハーネイトに出会わなければ、永遠に仲たがいをしていた二人であったが、この戦いで少しは仲良くなったのかもしれない。当の本人たちはまだそうは感じてはいないようではあったが、ともに戦場で戦う仲として、互いの実力を認め合う程度にまではなったといえよう。


「風魔は、私に追いつくために努力を常に惜しまなかったというな。……しかし、新たに雇うにしても、今の事務所では手狭だな」


「それって、もしかしてこれからも私を使って下さるということですか?」


「まあ、そうだが。約束もあるし、これからのことを考えると少しでも優秀な人材が欲しいと考えていた。私の代わりになりうる存在がいれば、私も楽だからな」


 藍之進と交わした契約のこともあるが、ハーネイトは忍たちをこれからも雇い続けることを改めて約束した。それに対し風魔は満面の笑みを浮かべ彼に抱き着いた。


「ハーネイト様、これからもお世話になります」


「でしたらマスター、優秀な人材を集めて何か会社でも興すのはいかがでしょうか。あのバイザーカーニアとは違う、より戦闘や諜報に特化した感じのです」


「それは、前からある程度は考えていたよ南雲。しかし、今回の一件ではっきりと決めたよ」

 

 彼の話を聞いた南雲はとある提案をした。それに関して同じ考えを抱いていたハーネイトは、一呼吸おいてからその場にいる人たちに聞こえるようにこう話した。


「今回こうして、ともに戦ってくれた人たちを、今後設立する会社の役員にできればしたい。立場上難しい人も多いだろうが、行く当てのない人もいる。そして私にあこがれて集まってくれた人もいる。だからこそだ」


「じゃあ、俺のことも雇ってくれますか?」


「ハーネイトさん、私はここで暮らしたいです」


「リシェルとエレクトリール……ああ、ぜひとも、来てほしい」


 ハーネイトは彼らと握手をし、二人ごと抱きしめた。しかしエレクトリールが帯電体質だということを失念していたリシェルとハーネイトは、盛大に感電してその場でフラフラしていた。


「それでハーネイト、元敵だった連中や、洗脳されていたやつらはどうするんだ?」


「ぐっ、それが悩みどころなんだよ、ルズイーク」


「あやつらから話は聞いた。ヴィダールという存在の力を宿している以上、お前がまとめ上げ共に鍛錬するほかないじゃろう」


 彼らの話を遠巻きから聞いていた、ナマステイ師匠とその弟子たちが採用試験をするのはどうかと提案しにやってきた。


「ほう、面白いことを言うのう、お主は」


「確かお主は、ナマステイと申して居ったな。お初にお目にかかる。ハーネイトの体術の師匠とは聞いている」


「そうじゃ。そしてそなたが機士国の静かなる猛将ガルバルサスか。今回の戦いでは裏で相当やっておったようじゃのう」


 そんな中その場にいたガルバルサスがナマステイに対し挨拶をした。ハーネイトの体術の師匠と聞いた彼は、しばらく話をしていたのであった。年も近いので何か思うところもあったのか、話に熱が入る。


「おじいさん同士で話し始めたな。しかし、その案はいいかもしれない。ユミロとシャックス、ボガーとリリエットは既に考えていたが、ほかの人たちはまだ素性がよくわからない」


「あら、私は免除っていうわけ?」


「約束、守ってくれる、のだな?マスター」


「確かに、私たちは故郷もない。行く当てもないですね」


「へっ、仕方ねえな。当分世話になるしかなさそうだシャックス」


「ええ、ボガー」


 DGが実質なくなり、この先どうしようかと元DG幹部たちは頭を悩ませていた。何より故郷が消滅した人たちもいるため、どう生きていこうか考えざるを得ない人が多かったのである。


 それからハーネイトの近くで話をしていた4人が割り込んできた。試験の話を聞いた彼らは興味津々で彼に詰め寄るも、その後に彼が発した言葉で一瞬フリーズした。


「あの、一応そこの4人も後日私と戦ってもらうから」


「え、嘘でしょう?」


「リリエット、昔の約束忘れたわけではないでしょう?」


「わ、わかっているわよもう」


 自分だけ免除されると思っていたリリエットの表情が硬くなる。どうやってもあの戦っている姿を見て、彼に勝負を挑むものは伯爵かエレクトリールくらいだろう。実力差の明らかな差に彼女は萎縮せざるを得なかった。


「戦うのでしたら、今度はより美しく戦技を見せ合いましょう」


「確かに、ハーネイトとは一度刃を交えてみたかった。いい機会だ」


「俺も、なのか」


「まあ、そうだね。だけど形式だけさ。そうでないと、前衛から後衛までの役割分担の評価ができないのだ。血徒がいるなら、あのミッションをどこかでしないといけない」


「う、うむ」


「それとユミロは既に実力を見せてもらっている。アタッカーとシールダー、シューターとして活躍してもらおう」


 ユミロだけ特別扱いでずるいというリリエットたち。しかしハーネイトは全員の力を見たいからとそれを否定した。


 それは、この先もしも血の怪物こと血徒が立ちはだかった場合、ある任務を発令しないといけない。それまでにクラス評価をしておきたいと言うのが彼の理由である。


 その間にもガルバルサスたちは残りの兵を集め帰国の途に就こうとしていた。


 すでに帰還した兵士たちもおり、彼らは凱旋してこれから故郷に足を踏み入れるだろう。そして伯爵が彼に話しかけた。


「しかし、あれだけの軍勢をよく集めたものだ。そしてもう帰るのか?おっさんたちよ」


「わしらもやらなければならないことがあるんでな、お若いの」


「貴様と私らの経緯は複雑だが……サルモネラとやら、ハーネイトのことを頼んだぞ」


「ん、へいへい」


 ガルバルサスの言葉に軽く返事をした伯爵。もう二度とあのような過ちは犯さない。そしてハーネイトと肩を並べみんなに認められる存在になる。彼もまた大きく成長し、王としての自覚をさらに深めた。


「帰還しよう、私たちの国に」


「あの、すみません国王さま」


「どうした?」


「まだ宮殿内の片づけがお済ではないと連絡がありました。あと2、3日は入らないほうがよろしいかと」


 機士国王たちも帰国の途に就こうと動き出した矢先、兵士たちの中から急いで彼らの下に駆け寄った人たちがいた。それはアルポカネと行動を共にしていた天月であった。彼はハーネイトが機士国を解放後真っ先に戻り、警察の長として仕事をしていたのだが、宮殿内の光景を目にし、メイドや大工たちに指示を出した後急いでここまで来たという。


「そうか、……そうだな、君たちには悪いが、ハーネイトとともに祝賀会に先に参加させてもらうとしよう」


「了解しました!至急宮殿内の掃除や修理をさせますので、しばらくお待ちになってください」


「任せたぞ、勇士たち」


「はい!それと、ハーネイト様!」


 ガルバルサスの下に集まっていた勇敢な戦士たちはある兵士の声を聞くな否や全員が彼のほうを向いて敬礼をした。


「え、あ?どうしたのか?機士国の兵士さん方」


「今回の一件、国王様を救助し、国をもとに戻してくださりましたことを全兵士、そして国民を代表してここで感謝の意を申し上げます」


「……君たちもよくぞ、こうして耐え抜いて勇敢に戦ってくれた。今度国を訪れたときは、君たちをねぎらう会を催よす予定だ」


「あ、ありがとうございます、英雄王ハーネイト様」


 今まで幾度となく、敬愛する国王を救い、そして今回も助け勝利に導いた英雄を兵士らは総動員で讃え、それにハーネイトも感謝とねぎらいの言葉を贈る。


 かつて機士国にいた際、多くの兵士たちとも交流した彼は、全員がさらに立派な戦士になったことを喜んでいた。そして少し茶目っ気を含んだ敬礼をして、兵たちを無意識に魅了したのであった。


「もう、だからそんな大層な名前はいらないって。それで一旦皆さんは帰るのですか?」


「はい。故郷に残した妻や子供たちが心配でしてね」


「近いうちに来てくださいよ、こちらも音楽隊や演劇隊の準備をしておきますから。では、これで失礼します」


「ハーネイトよ、これからも自身の体だけはいたわるのじゃぞ。それと、わが孫を救ってくれたことを大変感謝いたす。いつでも来るとよい。酒は飲めぬといったが、話をしながら何かをしたいのう。では、またな。未来の英雄王」


 そうしてガルバルサスたちは迎えのトラックや戦闘車両に乗ると遺跡を続々と後にしたのであった。戦場で勇敢に魔物たちと刃を交えていた戦士たちももういない。遺跡周辺の戦場は数時間で元の静粛な、静かに風が通り抜ける大地に戻りつつあった。


「あれだけいた軍勢が大分帰っていったわね」


「おおう、まだここにいらしていましたか」


「あ、あなたたちはハルクス龍教団の人たち」


「あの時はよくもやってくれたわね」


 ミカエルたちはハルクス龍教団と出くわし、若干怒りの表情を見せ彼らと話す。


「その節は、誠に申し訳ありませんでした」


「ああでもしなければハーネイトはここまでこれなかったでしょう。それと、貴方たちも自身に宿っている力の秘密が分かったのでは?霊量士さんたち」


「けれど、やり方がまずいのよあなたたちは」


「次は、あんなことしないでね」


「ああ、勿論だ。私たちも改めて分権を探そうではないか。また会おう」


 結局何故そうしたのかを理解しつつも、でもやり方を考えろと彼らに行った。そして彼らは先に南大陸のほうへ帰っていった。


 しかしウルグサスは人の姿になって、ハーネイトたちの中に紛れ込んでいた。どうもハーネイトたちに何かを伝えたいようであり、みんなの様子を見ながら今は勝利を収め星の危機が去ったことを祝っていた。


「よおう!無事だったかハーネイト、それと仲間たちさんよ」


 戦場からどんどん兵士たちが帰っていく中、レイフォン騎士団の人たちはハーネイトたちのいるところまで駆け寄った。


「いつも妹がご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「んだよ兄貴たち、ハーネイトも俺の突撃をほめてくれたじゃねえか。切込みは得意だぜ!」


「いつも元気だね、フリージアは」


「あたぼうよ!しっかし、あいつらのせいでまた魔獣狩りとか、アンデッド狩りがはかどっちまうな」


 フリージアが無神経に、ハーネイトが今後懸念していたことを口に出す。やはりそうだよねと思い疲れた表情を見せる彼に、彼女は屈託のない笑顔で話しかける。


「それは、そうだな」


「だからよ、今度どれだけ化け物倒せるか競争しようぜ、なあ!」


「今度ね、今度」


「では、私たちもそろそろここで。本当は腰を据えて話をしたかったのですが」


「だったら、近いうちにレイフォンにも行くからさ、その時にね」


 国王を、国を守るため結成されたレイフォンの騎士団。その長は全員国王の息子や娘、つまり王子王女たちである。こういった形態をとる国はここだけであり、初めて訪れた際はどうなのかと心配していたハーネイトだが、彼らがいるからこそできることもあると学び、そしてトラブルを経て仲良くなった彼らは、国王や国民も含め、ハーネイトのよき理解者となったのであった。


「有無、了承した。父も大いに喜ぶだろう」


「……待っているよ、ハーネイト」


「さあてさあて、報告の後はごちそうだぜ!」


「では、これで失礼します。どうか、さらなる高みを目指してください、英雄王のお二人さん。ってフリージア、お前まさか祝勝会に……?」


 早く帰国してやらなければならないことがある。そう長男のアレハンドロスがフリージアに諭すも、駄々をこねた妹に手を焼いていた。


「まあまあ、けんかはここでしないでくださいな」


「しかしなあ、フリージア、まだやるべきことがあるだろう」


「だけどよう、俺もおいしいご飯食べたい食べたいー!」


「今日はひとまずホテルウルシュトラで泊まって、明日帰国すればよろしいのでは?」


 二人のやり取りを見てハーネイトは譲歩案を出した。それにアレハンドロスは大笑いしつつ、彼のやり方をほめた。


「お主も本当に口がうまいな。まるで悪魔だ。だが、それもよい。あとで私が王に連絡をしよう」


「本当にアレハン兄は妹に甘いよな」


「いやいや、ローギウスにヘイムダルクも同じでしょう」


「へへ、そういうことで、よろしくなハーネイト」


 結局祝勝会に予定より多くの人が参加することになったため、ハーネイトは食事や飲み物の費用をさらに出さないとと計算を始めていた。


「あらあ、ハーネイトちゃん、本当に立派になってえ」


「き、キースさん。お久しぶりです」


「ハーネイト大先生、お久しぶりです」


「リヴァイルにエルジオ、皆さんも協力していただき、ありがとうございました」


「大先生の頼みならば問題ないですよ」


 そうして話をしていると、敵本拠点攻略戦で活躍したキースたちがやってきた。おねえ言葉で話すキースは彼の成長ぶりに驚いていた。実は数年ぶりに顔を合わせる二人は、かつてブラッドラーとして共に競技の普及に奔走した友人であり、悩める彼の話を聞くカウンセラーでもあった。


 それとリヴァイルとレイジオは彼に鍛えられた歴戦のブラッドラーであり、また魔法を行使できる珍しい存在でもあった。


「そういうことで、私たちも参加していいかしらん?」


「ええ、共に勝利を祝いましょう」


「今度、ブラッドルの特別試合をする予定なのですが、参加していただけますか?」


「……ふふ、スケジュールを調整しておくか」

 

 ハーネイトも、一段落したため久しぶりに伝説を見せようかと思い、彼らに特別試合の参加を告げる。彼がもし出れば、7年ぶりの選手参加であり、おそらく一番盛り上がる試合になるはずである。

 

「うーん、それにしても不思議な場所だよなリリー」


「え、ええ。まさか私たちも、こうして異世界で普段ありえないような事象を目の当たりにしたり、こうして遺跡の探検をするなんてね」


「なんか、申し訳なくなっちゃうわね。はるばるここまで来て戦乱に巻き込まれるとか……」


「何言ってんだミカエルさんよ、俺たちは別に気にしちゃいねえぜ」


「私もよ。こうして、素敵な人たちに巡り合えたのですからね」


「そう、言ってくれるとお姉さんはうれしいなあ」


「今後も、よろしく、ね。二人とも」


 本当ならば、別の世界の戦争に巻き込まれることなんて2人はなかったのに、ミカエルはそう思い、迷惑をかけたなと感じていた。しかしそうではない、むしろそれがよかったと伯爵とリリーはそう言って、握手を互いにしあった。


「……あらかた調査は終わったかな。ほかの7つの遺跡と比べて規模も巨大で、内部は堅牢なつくりをしている。こここそが古代人たちが最も重要にしていた拠点なのかもしれない」


「ああ、その通りだハーネイト。運良く、ほかの遺跡も含めあの実験に巻き込まれなかったのは幸いだ」


「そうです、ね。……しかし、私がどれだけ危ない存在か改めて思い知った戦いで、旅だった」


「まあ、自らの危険性を自覚しているうちはまだ安心だ。一番危険なのは、おのれの影響力を知らずにその力を使い、誰もを不幸にする輩だ」


「そうならないように、しないといけない」


 ハーネイトは、もし遺跡群がなければこの星の復興は大幅に遅れていただろうと考えていた。そしてその中で生まれた自分が、まだ全容を知らないとはいえ危険な存在であることを再度自覚し、力を制御するように自分を律し続ける決意を固めた。


 オーダインは、彼が立派に成長し、父が望んだ人としての心を宿した戦士となった義弟を心の中で褒めたたえていた。


「相棒、そろそろ帰ろうぜ。しばらく時間かかるんだろう?早くパーティー行こうぜ、行こうぜ!」


「もう、しかたないな。でも、そうだね。みんなすごく疲れただろうし、帰りましょうか」


 伯爵の言葉に苦笑いして返してから、ハーネイトはボルナレロたちに連絡を取り、迎えに来てもらうように要請した。


「やっと終わったか、ハーネイト。遺跡の話はあとで聞かせてもらうぞ」


「ええ、ロジャー」


「それとルテシアがすでに向かっている。乗って戻ってこい」


 そうして30分ほどしてから、一気の輸送機が遺跡付近の上空に現れ、荒れていない路面を探してからVTOLで着陸した。そしてルテシアが機体から降りてきた。


 彼女が運転するこの機体は、秘かにハーネイトとゼぺティックスが考案していた、見えないオベリスク下でも飛行できるよう設計された輸送機である。しかも魔法工学の粋を注ぎ込み、ハーネイトらが集めたオベリスクの場所や影響範囲などのデータも利用し素材も貴重な金属をふんだんに使った代物であった。


「お疲れ様です、ハーネイトさん」


「お迎えご苦労様。みんなをミスティルトまで頼んだよ。ベイリックスを載せたいから後部ハッチを開けてくれ」


 そうしてシャムロックがベイリックスに乗り込み、巨大な輸送庫に車体を乗り入れると、ハーネイトやリシェル、レイフォン騎士団と機士国王たち、そしてナマステイ師匠やキースたちブラッドラーも載せてから遺跡を後にしたのであった。

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