第127話 血徒イエロスタVSハーネイト
「ここ、は……またあの空間だ。私は、俺は一体、どうしたんだ」
「そこの貴様……更なる力が、欲しいか?」
「だ、誰だ?」
深手を負い意識を失ったハーネイトは、あの紫色の空間の中で目を覚ました。その状況で、ある男の声が部屋の中をこだました。
すると次の瞬間、苦しむ彼の目の前に、紺色の着物を身に纏う、今まで感じたこともないほど禍々しい妖気を纏った刀を腰に備えた白長髪の男がそこに立っており、険しい表情でハーネイトを見ていた。
「我が名は、藍染叢雲……。貴様の持つ刀の真の持ち主だ」
「あ、藍染、叢雲……! え、まさか、持っている妖刀が具現化したというのか」
「……違う。お主の手にした刀は本来俺のものだ。しかし長い年月の間に、使い手が変わっただけだ。今までだんまりを決めていたが宿主がここまで追い込まれている上、俺も黙っているわけにはいかない。全く、宝の持ち腐れだな」
自身の名を名乗った藍染は、彼の考察を否定しつつ今まで出てこなかった理由と今の状況が故に仕方なく現れたと説明した。
明らかにこの男はまとっている闘気、雰囲気が段違いで鋭く、肌で感じただけで身を切り裂かれそうなほどであった。どこかでフューゲルやオーダインと似ているような雰囲気を漂わせる彼にハーネイトは戸惑いながらも、自身の体の状態も鑑みて助力を申し出た。
「……それで、どうすればいいんだ。あの化け物は、私の装甲を貫いた。あれを一撃で吹き飛ばす技、それがあれば……」
「ああ、あるとも。弧月流には戦技と魔剣技の2種類がある。今まで使ってきた斬月や断月は魔剣技だ。その上の力、破月を使えば一撃で倒せよう」
「……しかし、彼女にとりついた邪神を引きはがさなければ止めることは難しいでしょう」
そこに現れたアルフシエラは、今の状態ではそれでも勝てるかどうか難しいと説明する。しかし彼女は、今ヴァルナーの力を取り込んでいるセファスがあくまで人間であるため、その邪神の力さえなくなれば大きく弱ることを説明した。
「アルフシエラ、様」
「私に右手を預けてくれますか? あの怪物の中にとらわれたヴァルナーを、私が引きはがして見せます。そうすれば彼女は弱体化し、その剣技の一撃で変化した部分の破壊が容易になります。問題は別に憑りついているあれですが……」
「……わかった、2人とも、私に力を、力を貸してほしい、頼む」
ハーネイトのその言葉に対し、藍染叢雲は快諾しつつ不気味な笑みを浮かべある質問をぶつける。
「貴様も、力に溺れるか?」
「いや、私は、その力で世界を救うんだ。溺れてたまるか! 自分は、本当は、生まれては、いてはいけない存在……ウルグサスから話を改めて聞いて、とんでもない異能の力の正体が分かった。だからこそ、自分はその力を誰かを助けるために、役に立つために使いたい。それが、あの事件の唯一の生き残りだから」
ハーネイトはそう悲しげに、目の前にいる2人に思っていたことを胸が張り裂けそうになりながら話したのであった。
その一方、伯爵やリリーたちはハーネイトに治療を施そうと急いでいた。
「ハーネイト、目を覚ましてよ! 万里癒風もあまり効いていないみたい。ど、どうすればいいのよ!」
「やはり傷が深すぎるな。このままでは……ちっ、折角見つけたのにこのまま見殺しには」
伯爵とリリーの必死の呼びかけにも答えず力なく地に伏したままのハーネイト。幸い出血はイジェネート能力の影響による銀色の血により既に凝固が完了しこれ以上血が出ることはほとんどないものの、受けた肉体のダメージは深刻であった。
伯爵もだがリリーの動揺がとても激しく、もうだめなのか、これで彼が終わりだなんて思えない。けれどどうすればよいか分からず2人は思わず涙が出た。
「貴方たち、彼は恐らくあの変身の使い過ぎで燃料切れよ」
「貴女は……?」
「エヴィラか、てめえ何が言いてえんだ? ことと場合によっては」
「フン、彼の変身、見ていたけれどあいつらの使う一部の血衣と似ているなって。そうなると今の彼では……ね。だけどエネルギーを再度確保できれば彼はまた立ち上がるわ」
「っ、しかしエネルギーが足りねえなら、どうすりゃいいんだ?」
「これを彼にあげなさい。運よく見つけたの。エレクとリールが持っているのとは違うのだけど、力はたまっているわよ」
「それは、リリエットの言っていた霊宝玉か」
「む、これほどの霊量子の力を秘めた宝石か。それならリソースには使えるが」
「ダメもとでやるしかねえ。それを渡せ、俺がどうにかする」
「そのつもりだけど、何で貴方、私の妹の匂いがかすかにするの? どこかで接触したのかしら、っ、まさか……」
伯爵はエヴィラの右手に持つ宝玉を渡せと言うが、彼女はハーネイトを見てあることに気付いた。それは、彼女が探している人物の匂いが彼についていると言う事であった。それを把握したうえで、伯爵に対しあることを話した。
「これをあげて、その代わり、彼にはいろいろ聞きたいことがあるわね。妹の行方を、知っているなら私も戦うわ」
「どの面下げて言ってるんだエヴィラ! お前はあの組織の元とは言え、第1位だっただろうが。それが理由は分からないが暴走した同胞を止められずに俺たちを苦しめて、協力してもらえると思ってんのか?」
「他の仲間に裏切られて、失墜した私はもう、違う。彼らを止めないといけないの! それともしあれを強引に開放するつもりなら、もしかすると今度はエンテリカ王子も狙われるわ」
「はあ、何や。なんでワイがあいつらに狙われなあかんのや」
「あの日、あいつらが真に探し求めていたのは禁断の存在を解放するための……」
「おい、あれがこっちに来るぞ!」
「話の邪魔をしないでよ! 血闘術・血斬風! っ、相手はよりによって、イエロスタ? 今の私ではきついかもしれないわね。とりあえずまずは彼を蘇生させないと」
「ちっ、これでどうだ。おい、起きろ相棒! お前はここで倒れちゃいけねえ、これからが大事なんや、せやから目を覚ませや!」
それから、伯爵はエヴィラから宝玉を受け取りすぐに胸の上に置く。するとそれは埋め込まれるかのようにハーネイトの体内に入っていくのであった。
そんな中ハーネイトは精神世界にて藍染とアルフシエラと対話し、エヴィラのおかげで確保できたエネルギーを確認し今ならいけると踏んで藍染はハーネイトに再び戦うよう促す。
「エネルギーが入って来たな。ハーネイト、もう一度龍の力を使え。これだけのエネルギーがあるなら、あれを倒すくらいは行けるはずだ。俺の刀も使え」
「あ、ああ。しかし今使えるのは……」
「双極共鳴ってのが使えればあれだが、やるなら赤の霊龍しかない。火力でごり押しするならな」
「そうですね、龍には色によって様々な力があり相性もあります。赤龍の力を解放し彼女たちを解放してください。貴方は旧支配者の力を仕える資格を持つ者、だから」
「分かった。皆さん、力をどうか私に!」
「……フッ、いいだろう。さあ、我が力、受け取れ!」
そうしてハーネイトは決意を固め、2人の力を借りることにした。そうして、彼は藍染から一本の刀を渡された。それは自身の持つ黒刀とは違う、白く輝く刀身の打刀であった。
「これは、もう一本の藍染叢雲……か!」
「破月を撃つには両方の刀が必要なんでな。龍の力との魂威共鳴、見せてやれ! ……もう1つの封龍の一族が持つ力、今のお前になら使いこなせるはずだ」
「これで終わりにしましょう、皆さん」
アルフシエラの呼びかけに答え、ハーネイトは目を閉じて心の中で瞑想し集中する。そして紺色の魔本を手に取り、手にかざした。
すると、ハーネイトの体が輝き始め、そのまま浮かび上がるとその場にて直立となる。すぐに目が開き、パッと刀を構える。
「なん、だと! 傷があっという間に治っていく」
「何という力だ、こちらが押しつぶされそうなほどの闘気だ」
オーダインたちはハーネイトの内なる力を感じおののいた。そして周囲を押しつぶすほどの波動を放ちながら彼は周囲の人たちに離れるように伝える。
「もう一度、使ってやるさ。あれを!」
「相棒、行けるのか?」
「行けるいけないじゃない、行くんだよ!見せてあげるよ、禁断の力を!それを使ってでも、俺は、私は、優しくて強き王になると!あの日誓った、ハーベルとの約束を!」
前よりも、彼は堂々とした様子で高らかに声を上げ静かに精神を集中させ、自身の足元にあの龍の魔法陣を形成する。
すると再び彼は紅い光の柱に飲み込まれ、それが消えると同時に再度赤の龍の力を開放した。
「戦形変化・紅焔龍皇!」
「間近で見ると、改めて世界龍の因子の力を感じるな。これが、ソラ様の言っていた計画の真の姿か。私たちですらなしえなかった、龍の力を自在に制御し見に纏う技術か」
「これは、とんでもねえなオーダイン。全てをものにすればこの若造は世界を牛耳ることなど容易いぞ。そしてあやつの企みも、崩せるだろう」
ハーネイトの変身を見たオーダインとミザイルは、改めてあの計画が成功しているのではないかと思い、驚きと胸囲、それと嬉しさが体を支配する。
そう、第2世代こと神造人と第四世代ことハーネイトのコンセプトは、龍の力を制御することにある。その研究の結果、技術の結晶にして答えを間近で見た2人は思っていた以上の力に只々驚いていた。
「ふう、常にエネルギーを消費している感じだな。行くぞ皆!」
「ああ、俺も全力出したるわ!」
「支援は任せなさい!」
「やるぞミザイル!」
「言われなくてもなオーダイン! あの血徒という存在も気になるしな。血海事件の犯人の正体に迫ってやる」
彼はその場から残像残さず姿を消し、いきなりヴァルナーセファスの頭を手にした藍染叢雲からもらった白と黒の刀でXの文字を刻むように豪快に切り裂く。
それにより痛みに悶絶し暴れるセファスの触手を連続で瞬間移動しながら回避しつつ、空間ごと引き裂く斬撃を繰り出し邪神の主腕4本を瞬時に切り落とし、追い打ちで両腕の龍の頭を模したガントレットから高温の火球を連続で放つ。
「弧月流、惨月!」
「がああああああああああああああ!!」
「っ! 負けるものか。アルフシエラ様、行きますよ」
ハーネイトはアルフシエラと意思、そして呼吸を合わせ、相手が怯んだ隙に突撃を開始する。
「さあ、ヴァルナーはどこなんだ」
「……あ、あの胸にある宝石の中に、彼女の波動を感じます」
「わかった、チャンスは一度だ。次元の彼方より現れろ、MF・イタカ!! 」
アルフシエラがヴァルナーの波動を感知し、場所を彼に告げる。しかし引きはがすのに少し時間が欲しいといわれ、幾多の触手の群れをどう突破するか計算をしていた。その上であの邪神となったセファスの行動を止めるとすれば、今はこれしか選択肢がない、そう彼は考えあの機械の巨人を召還した。
「……そうか、ほう、相棒やるじゃねえか」
「どうしたのよ伯爵」
「確かあの化け物も同族状態といったな、だが邪神が引きはがされれば……弱体はするな。血徒が問題だけどよ」
「そ、そういうことね! けれどあの触手の数、どうすれば」
伯爵は既にハーネイトの目論見を見抜いていた。いや、正確には自身の能力で彼に菌を取り付けて傍受していたのであった。それを説明しながらリリーに告げる。確かに同じものでなくなれば、彼にとっては優位になる。けれども勢いをさらに増す気色悪い触手の軍勢をどうすればよいのか悩んでいたのであった。
「話は聞いたぜリリーちゃん!」
「隙を作るくらいならできますよ。それと私も、霊量士なんですし」
「リシェル、エレクトリール!」
「今一度、わが軍の兵士たちよ。彼のために時間を稼ぐのを手伝ってくれ!」
「無論ですよ、王様」
「行くぞお前ら、わが軍の力、ここで見せずして何とする!」
エレナが身に着けていた通信端末づてに、リシェルや機士国王、レイフォン騎士団などにその情報がいきわたり、各自行動を開始する。
「いいぜ、要はあの気持ちわりい触手を斬りまくればいいんだろう?」
「そうなるが妹よ、あまり突っ走るな」
「へっ、臆病風に吹かれてな。行くぜ!」
「では私の背に乗るがよい、そこの戦士たちよ」
主戦場から少し離れた場所にいた霊量士、騎士団と龍教団、そしてブラッドラーたちは人型になったウルグサスに声をかけられ、上空からの奇襲を仕掛けることにした。
その後再度巨大な龍に変身したウルグサスに全員が飛び乗り、勢いよく上昇しセファスのいる上空に向かう。
「邪魔はさせないぜ、魔銃士の誇りにかけて、この一撃を決める!極限の魔閃」
「雷神豪臨! 最強の戦闘民族を相手にしたこと、末代から後悔してあげます。私の希望を奪うなら、覚悟してください」
「その得体のしれない触手を吹き飛ばしてやるぜえ、野郎ども、あれをぶち抜け! 」
爆走するベイリックスの車上からリシェルが全エネルギーを銃に注ぎ込み、まばゆく太陽のような閃光を銃口から解き放つ。それは瞬時にセファスの胴体を貫き大ダメージを与える。
更にエレクトリールとクロークスはそれぞれ、雷撃と宇宙戦艦の砲撃を一点集中でぶつけ触手の生える大地を後かたなく消し飛ばす。少しでもハーネイトの攻撃チャンスを作るため、誰もが意思を統一し各々ができることを的確に実行する。それでもおぞましい触手はうごめき、再生していく。
「さあ、道を作ってやるぜ、いけすかねえ英雄王さんよ!」
「我らが希望を、守るために……! レインボーミストブレス! 6龍の力宿し若きヴィダールよ、己が力を見せて見ろ! お前がソラが言った、オベリスに刻まれた未来を救う神子ならば……彼の後継者ならばっ!」
「これを食らいなさい、醜悪な怪物。ガーンデーヴァショット!」
「鬼霊たちよ、奴の動きを封じろ! どこまでやれるか分からねえが、諦めたらそこで終わりだ」
「これで終わりよ、ロザード・エスパーディア! まさかあの日、初めて道場で出会った頼りない魔法使いだった彼が、ああまで力を持っていただなんてね」
更にボガーノード、シャックスが前に立ち武器をそれぞれ構えた。彼女さえいなければ、DGも早く無力化できた。しかし彼女に操られ、多くの罪を犯してしまった彼らは、せめてもの罪滅ぼしに。そしてけじめをつけるために全力をもってセファスを倒すと決意した。
そんな中リリエットは意識を取り戻していない父ことゴールドマンが気が気でなかったが、霧の龍に仲間とともに乗り空から攻撃を仕掛ける。
更にブラッドバーンとヴァンは地上からヴァルナーティクスに肉薄し、紅蓮の鉄拳と無慈悲な雨の弾丸をぶつけまくり数本の触手を破壊しさらに猛攻を続ける。
それから霊量士だけでなくフリージアやその兄、ハルクス教団の魔剣士、そしてウルグサス本人による怒涛の攻撃が上空から降り注ぎ、触手で覆われた大地を破壊し、その勢いをそぎながらハーネイトが彼女に迫れるように再度道を作ったのであった。
「行くぞ、ブラッドラーの意地も見せてやる!」
「プロミネンスボレーシュート!」
「ここが踏ん張りどころじゃ! 壊嵐脚!」
霧の龍たちの攻撃に合わせ、セファスの背後に現れたブラッドラーたちとナマステイ師匠たちは彼女の意識を分散させるため不意打ちで襲い掛かり、彼女がハーネイトに向ける視線を逸らす。
「第2射着弾! やはり新しい消火剤は効果大の模様」
「ははは、やはり私は天才だな。さあ、ハーネイト先生、とどめを刺してくれ!」
「もう一度食らうがよい、王の意地というやつだ、行けええええええ! 英雄ハーネイト!」
「へっ、相棒、行ってこいや!! 喰らいて醸すは我が菌帝剣!合わせな、エヴィラ」
「言われなくても、朽ち果てろ我らの敵! VHFバニシングブレイザー! 血の魔人の誇りにかけて、この一撃を!」
数千、いや数万あった触手のほとんどが切り落とされ焼かれ、残りは本体とそれに付随する数百本。そこに再度グランドタイタンからの消火弾道ミサイル、機士国王の魔法剣、そして伯爵とエヴィラの合体技が同時に残りの触手すべてを破壊した。
それに合わせ、ゼぺティックスとルテシアは通信越しに応援し、伯爵と機士国王は攻撃と声援でハーネイトを支援する。
「来いニャルゴ、ユミロ! 力を貸してくれ!」
「ああ、主よ。これで蹴りをつけようぞ!強襲形態、アサルトランテパラージ!」
「俺が、皆の仇、とる! うおおおおおおおおおおっ!」
その一瞬のチャンスを見逃さず、ハーネイトはすぐさまニャルゴを空中で呼び出し飛び乗る。そして命令のままにニャルゴは変身し、全身を武装した強襲形態になって空を駆ける。それはまるで光のような速さで邪神の心臓部分に突撃を仕掛ける。それを妨害する触手たちをMFイタカの創金大剣が瞬時に切り落とす。
負けじと更なる巨大な口を開く腕がハーネイトたちに振り下ろされそうになるも、それすらもイタカは腰に携えたクォルツセイバーを引き抜き、まばゆい閃光で華麗に断ち切って見せた。
そうして怯んだ隙に、女神の加護を受けた白い護手でその赤い宝石を砕き、囚われていたヴァルナーを体に取り込んだ。更に同時に呼び出したユミロの贅力な一撃が彼女の顔面に炸裂し大きくその巨体をよろけさせた。
「っ! はぁああ!ヴァルナー、こっちへ来い!」
「は、母上! それにお前は!」
「ぐおおおおおっ、や、やめろお!」
セファスは最後の抵抗をするも、すでに力を失いつつあり、徐々に醜悪な肉体は崩壊していった。それでも邪神及び血徒融合した副作用か、体のところどころから不気味な赤色の触手が生えていた。
「はあ、はあ……どうにかヴァルナーを引きはがせた。って、なぜ人の姿に戻っていく。デモライズでもう元に戻らないと思ったのに」
「それは、わが娘ヴァルナーが彼女にとりついた力を吸収したからでしょう。ああ、ヴァルナー、私の愛しい娘。今はしばらく、寝ていなさい」
「ぐっ、よ、よくもおまえら、許さんぞ! 」
ヴァルナーが体内から抜けたことで、変貌していた肉体が消滅していき、血徒に乗っ取られたセファスは元の体に戻ったのであった。そして膝をつきながらも空にいるハーネイトと伯爵をまだにらんでいた。
「いまだ相棒、彼女にとどめを刺せ!」
「うおおおおおおおお! これで、終わりだマスター! 行くんだ! 」
「これで、終わってくれ! 影の呪い 闇の深淵。足を縛り手を蝕み心喰らう、その果てに散華し命を散らせ! 大魔法70の号、黒禍」
ハーネイトは変身したままニャルゴに乗りながら、闇の魔法、黒禍を詠唱し発動する。それは相手を暗黒空間に閉じ込め凝縮してから魔法爆発を引き起こす魔戦技。
彼女の巨体を包み込み、その暗黒結界は外界を隔てる。そして中で集まった魔粒子が連鎖反応を引き起こし、内部で強烈な爆発を生み出した。
「次だ!漆黒の決意、地獄の炎。憎悪を含みその色は濃さを増す!黒炎の波よ全てを飲み込め!大魔法39の号、黒炎葬!(こくえんそう)」
彼は刀でその場を薙ぎ払う動作をする。すると彼の体から憎しみを秘めた地獄の黒炎が地を走り、波のように彼女をとらえた結界まで突き進むと、天に上る火柱を激しく生み出した。
「これでとどめだ!邪悪なる魔導師の野望は、この魔法で討ち滅ぼす!北の七星、南の七星。互いに結び天を描く光の印。14の星をもってその命を奪いつくす!大魔法103の号、北南七星凶殺陣!(ほくなんしちせいきょうさつじん)」
魔法使いとしての意地。そして誇り。同じ魔法を極めながらも、道を踏み外した先人を倒すには、これしかない。そう彼は考え、彼女の足元に巨大な2種類の魔法陣を作り出した。そしてその陣の光が濃くなった瞬間、視力を奪うほどの閃光が空まで届き貫いて、光の濁流の中でセファスオスキュラスは力なく倒れこんだのであった。
「これで、終わった、か……っ」
「まだ、よ。よくも私たちの計画を邪魔してくれたわね!それと、お前は倒す!血龍弾!!!私たちに希望を話しだました罪は、万死に値する1」
すると、依代から引きはがされた血徒イエロスタは、伯爵とエヴィラのいる方向に対し血でできた龍を飛ばし攻撃する。
「っ、狙いはエヴィラか!」
「なっ、キャアアアアッ!」
その直撃を受けた2人は、一撃で瀕死の重傷を負いその場に倒れ込んだ。その光景にハーネイトは動揺を隠せずにいたがすぐに2人の盾になるように瞬間移動する。
「貴様あっ! 業炎魔龍波」
「ガアアアアアアッ! か、身体がっ!」
「止めを刺す! 紅劫火龍焔斬!」
ハーネイトは2人がやられたことに激昂し、変身中1回しか使えない決戦技、シュペルヴアトゥークを発動する。地面を右こぶしで殴り、無数の火柱でイエロスタを包囲した後、燃え盛る火山岩の雨を降らせ、業炎魔龍波を再度放ってから、そのまま巨大なブレードとして彼女を切り裂き焼き払う。
「私ら、血徒が、お前のような奴に、負けるわけが……っ!その力は、まさか……ルべオラ様……エヴィラ、お前らはうそをついていなかった、のか?」
もう致命傷しか受けていないほどの傷を負いながらもイエロスタは、意味深な言葉を残すとその場から姿を消したのであった。
「今治してあげるからっ!戦形変化!緑嵐竜帝」
胴体に大きな傷を負い、意識が混濁している伯爵とエヴィラに対しハーネイトは、緑の龍の力と共鳴し戦形変化する。すぐに2人の胴体に掌を重ね、一点集中で癒しの緑風を最大出力で吹かせる。その効果はてきめんで、2人はあっと言うかに完全に治ったのであった。
その際に2人の体に触れた瞬間、眩しく手が光ったのを見て意識を取り戻しつつあったエヴィラは体に起きた異変から、このハーネイトこそが自分たちが探していた希望そのものであることを確信したのであった。
「うぐ、お、俺は」
「私は……っ!」
目覚めた2人は、自分たちがやられたはずなのに傷がなく、前よりも明らかに自分たちの力が強くなっていることに気付いた。特にエヴィラは、まるで生まれ変わったかのような感じを覚え戸惑っていたが、これだけの力があるならばもう他の命を奪わずに生きていけるのではないかと確信していた。
「あ、ありがとう。ハーネイト」
「どういたしまして、リリー。この緑の龍の力、凄いね……」
「回復も攻撃も、両方って、うん」
「相棒……サンキューな。今の一撃、ヤバかったけどよ。お前の力のおかげでこの通りだ、しかも、お前のその力もしかすると、フッ、やはりなハハハハ。ああ、俺は間違っていなかった、お前と出会ったことも、今まで共に戦ってきたこともな」
「もしかして、私と伯爵は呪が解けてあのU=ONEってのになったのかしら。体が、今までと違う感じなの。そう、貴方が、貴方こそが、ね。DG内でもとんでもない存在がいることは分かっていたし、もしかしてとは思ってはいたけれど、本当に生まれていただなんて」
「うぐっ、もう限界だ! 2人して、一体何を」
「あとで教えてやるぜ相棒。お前こそ、俺たちが探し求めていた存在だってことだ。それと、こんな俺たちを全力で助けてくれてありがとよ」
「だ、だって、仲間じゃないか」
「へっ、お前のそういうところ、大好きだし愛しているぜ。いつまでも、そう言う所は変わらないで欲しいな」
ハーネイトは地面に膝をつきながら伯爵と話し、話の内容についてところどころ分からず戸惑い疑問を抱くも、彼が後で何が起きたのかをきちんと話すと言いそれを信じ、纏っていた緑の鎧を解除しへたり込む。
すると激戦に巻き込まれ荒廃した土地の上に立ち、周囲を静かに見回していた。
傷ついた兵が仲間に運ばれている光景、そして無数の魔獣の死骸が横たわり、そして死霊術に使われた死者の遺骨が所狭しと散乱していた。血の匂いが鼻孔を刺激して少し顔をしかめる。それでも紅儡を生み出す怪物、その怪物が自ら血徒と名乗る存在の脅威は過ぎ去ったことに安堵したのであった。
「これほどの戦いは、あの時以来じゃな、ハーネイトよ」
「師匠……。もう、お別れですね」
「ああ、そろそろじゃな。術者の力が失われた以上、私も還る時が来たようだのう」
それから、セファスとのリンクが切れ、肉体が消えかかっているジルバッドがハーネイトの横に来て声をかける。
「……師匠、願わくば、もう一度しっかりと話をしたかった」
「……ならば、お前の力を使い、魔本に私の魂を写せばよい」
「な、なっ! なぜ、そのことを」
「……すまんのう、ハーネイト。今まで、お前に隠していたことがあった」
ジルバッドは、申し訳ないと言いながら空を見て、弟子に隠していた事実をすべて打ち明けたのであった。
「私を、別の世界から連れてきたのが、あなたとDカイザー、そして大牙、紅月師匠だったのですね」
「そうじゃ。お主の教育係から頼まれたのだ。兵器として、何の感情も抱かずに殺戮するような存在になってほしくない、女神が寝ている間に人として育ててほしいと。その力がないと埋め込んだ力を真に制御することができないとな。あらゆる感情を理解し、体験してもらうために、そう仕組まれたのだ」
ジルバッドは時期が来たら、ハーネイトに対し真実を打ち明けようと考えていた。しかしそれは生前にかなわなかった。後悔ばかりの人生だったなと彼は改めて思いつつ、ハーネイトに深く謝罪した。
「そういう、ことがあったのですね。……ようやく、自分が何者なのかはっきり、してきたかな。血徒の血を浴びなければ、自分が真におかしいと言うか、只者でないと分からなかった。でも、その事実が何よりもつらかった。何で自分はあんな思いをしないといけないのかって」
それから、ハーネイトの元に駆け付けたエレクトリールたちやユミロ、シャックスたちも合流しつつ、彼は辛い心情を吐き出していた。
「自分だけ生き残って、何になるんだって。でも、そんな自分が前に出ないとみんな自分と同じ辛い思いをするからって、そうなって欲しくないからって、戦ってきたんだ。誰かが傷つくのを見ると、自分も心が痛くなる」
ジルバッドが実の父親でないことは薄々感じていたため驚きは少なく、至って冷静に向き合っていたハーネイトだったが、もう一度師匠と会い、そのうえで真実を聞くことができた。それでよかったと思った彼の顔はどこか晴れやかだった。
改めて自分が、とんでもない計画のために生み出された唯一にして最後の実験体であること、人としてそう育てられた経緯と理由を理解したうえで、この力を抱いて向き合っていかないといけないと、悲しい覚悟を決めたのであった。
「……私たちが説明するまでもなかったですかね」
「フッ、オーダインか。シルクハインの弟だったな」
「はい、ある伝言を伝えに来たのですよ」
ハーネイトのもとに訪れたオーダインが、彼が興味を引く一言を言った。
「あの遺跡に眠る装置、次元融合装置の力を借りれば、あのお方に会うことができる」
「会うって、誰に?」
「ハーネイト、お前を生み出す計画に参加した、親みたいな存在にな。そして俺の兄でもあるシルクハイン、それとソラ様にもだ。もっとも、もう1人カギを握る存在がいるがあのお方はどこにいるか見当がつかん」
彼の口から出た言葉は、ハーネイトの表情を大きく変えた。そして内側からあふれ出るいわれもない感情をどうしようか悩んでいた。しかしすでに、答えは胸の中で決まっていた。
「……会いたい。自分を生み出したのがどんな存在なのか、どうしてこんなことをしたのか、直接話を聞きたい。こんな体にして、生み出したのか、あんな思いをしなければいけなかったのか、全てを……。自分のことなのに、分からないことだらけ。だからいい加減、わかりたい」
「ハーネイトよ、これからも険しい道のりが続くだろう。しかしわしはお前のことを見守っているぞ。さあ、魔本の力を」
「また、会えますよね」
「ああ。しばしの別れじゃ、そんな顔をするな、わが弟子よ。この先、もっと恐ろしい敵と戦うことになるだろうが、それでも立ち向かうほかないのだ。弟子よ、あの数年間は本当に、楽しかったぞ。魔法を、誰かのために使い続けるその大切さを継いでくれたこと、俺は何よりもうれしく思う。どうか、その優しさと強さをみんなのために振るい続けてくれ。じゃあな」
師匠が消える前に、ハーネイトは願望無限炉と魔本の力を用いて、師匠を吸収し、その力を魔本に収めたのであった。そして彼は、涙を浮かべると空をしばらく見上げてみていたのであった。
「……これで、よかったのですね、師匠。再葬しなくて済んだのが、唯一の救い、なのかな」
「別れとは、つらいものやな相棒」
「伯爵……でも魔本に刻んだならどうにかなるかも、うん」
うつむいたハーネイトを見た伯爵が、そっと肩に手を置いて話しかけた。彼の見せたその表情に、過去の自分を重ねずにいられなかった伯爵は、隣に来ると静かになった戦場を見ながら話を切り出した。
「前に、話したことあったけな、俺の過去を」
「伯爵の、過去? でも、ずっと記憶喪失で昔のことは、リリーと出会う前は全部忘れたって」
「ああ。それでも少しだけ、ほんの少しだけ思い出せたかもしれねえ。俺は、国を救うために、拾って育ててくれた父と戦って、結果的に殺めてしまったんだ」
「……一体、何があったのだ」
彼はうつむきながら、記憶喪失の件について指摘されつつそ昔何があったのか、かすかに思い出したことについて静かに話し始めた。
その一部始終を聞いたハーネイトは、彼も自身とは違えど苦しい思いを抱えて生きてきたのだと理解した。
伯爵の住む世界で、突然降り注いだ血の雨。それを浴びた者は正気を失い街を破壊し始めた。それは伯爵の育ての親も浴び、世界を護るために三日三晩伯爵は親と戦い、勝ったものの自身も大切なものをすべて失い、その事件のせいでそれ以前の記憶がほとんどなく、改めてリリーと出会って以降の記憶しか持っていないと打ち明けたのであった。
「伯爵も、つらい生き方、してきたのか。全てを失った者同士、同じだな」
「それはお互い様やな。お前も俺に打ち明けてくれたあの日のこと、聞いて胸が辛くなった」
「あ、ああ。なあ伯爵、これからも力を貸してくれるか? この先も、想像を絶する存在が出てくると思うし、何よりも紅儡を生み出す怪物、その正体や霊龍という存在の真相に迫りたい。そのために君の力が必要だと思って」
「へっ、別に構わねえぜ。ようやく、ちゃんと相棒って認めてくれたってことなんだよな?俺も改めてそういうことについて知りたいしよ。失った記憶の中にきっと、大事な何かがあると思うんや。だから思い出すための旅を一緒にしたい」
サルモネラ伯爵は笑顔で確認する。それに今までのことも含めまだ複雑な心境があったハーネイトは少し言葉を詰まらせたが、自分に肩を並べる、いやそれ以上の力を持つ存在のことを心で認めていたのであった。
「それと、俺はもうある夢が叶ってしまったみたいなんや。恐らくエヴィラも、そうかもしれんが」
「貴方、本当に何者なのよ。妹の匂いがするし、その龍の力、といえばいいのかしら、その力で、私を治してしかも……U=ONEの力を。あの日見たオベリスの欠片、それに刻まれた奇跡の神子。本来なら、私たちが護るべき存在……なのに」
「妹、だと?」
「あ、まだ自己紹介が住んでいなかったわね・私はエヴィラ・ブラッドフォルナ。私は、他の同胞の行方と、連れ去られた妹の行方を追っているの。貴方、どこかで妹と接触した? 感じからして、10年前くらい?」
エヴィラはハーネイトたちに自身の名と何をしているのかを説明した。すると、ハーネイトの顔色が悪くなる。
「ま、まさか……恩師を、初恋の人の命を奪った紅儡を生み出す怪物、ってお前の」
「私の妹、かもしれないわね。ねえ、どこか私に似ていなかった? あなたの大切な人を奪った時に見ているはずよ」
「ということは……っ! ……って、遺跡のほうから誰か来る」
「お前らが、俺を目覚めさせたのか。全く、何が起きているのかと確認すれば……」
エヴィラの言葉を聞き、昔のことを思い出しながらハーネイトは、あることを思い出して顔色を変える。すると遺跡のほうから聞こえた声を聞いてハッとし、その方角に体を向けたのであった。