第121話 明かされる魔法探偵の出生の秘密
「っ、なんて奴だ。光魔法をそう使うとは……金属印の反応から見ても、あれがジュラルミンを洗脳し、機士国、いや、全てを滅茶苦茶にしようとする魔女!」
「どうにかもどったが、くっ。私としたことが」
「あれが、魔法という奴か。けっ、姑息な奴だぜ。だが直接の戦闘能力はあまりないって見てもいいぜ」
ハーネイトたち3人は、魔法使いの攻撃を食らい一時的に盲目状態にあったがすぐに状態を回復し、何が起きたかを冷静に判断した。
それからすぐに彼は、いきなり現れた二人について聞こうと声をかけたのであった。
「…で、あなた方は一体何ですか」
「……それはあれを追いかけながら説明する」
「だが、お前の敵じゃねえ。というか、あれを止めないとえらいことになるぜ」
彼らの言葉を聞いて、それもそうだと判断したハーネイトは猛スピードで魔法使いを追いかけつつ、二人が何者なのか話を聞いたのであった。
この男たちはしきりに遺跡が危ないと言っていたが、ハーネイトはすでに手は打っているといい、二人を落ち着かせようとしていた。しかし胸騒ぎがすると、彼はどこかで今の状況を不安視していたのも事実であった。
「遺跡には各国から部隊が派遣されている。何をしでかすかわからないけれど、多少は持つはずだ」
「だといいんだがな。しかし、思っていたよりも美丈夫になったものだな。部下からの写真よりも、現物はあれだな」
「……ハーネイト。私はお前のことをよく知っている。しかし、よくぞここまで成長してくれた。自身の兄であり、お前の生みの親の1人はずっと心配していた」
先ほどから後をついてくる白い服装の男と、赤い上着を着た褐色の肌をした男がしきりにハーネイトのことを話している。それがどうしても気になっていた。
どう聞いてもその口ぶりは、昔から自身のことを見ていたかの様であり、彼はフューゲルたちと同じような立場にある存在かと思いつつ、警戒の色をその表情から消すことはなかった。
「それは、どういうことだ。まさかずっと監視していたというのか?」
「俺は、お前の正体を知る者の1人だ。お前にもし会った時に、俺の兄から伝えてほしいことがあると言われてな。改めて名を言おう。オーダイン・スキャルバドゥ・フォルカロッセ、だ」
「…俺の名前はミザイル・グリムノーツ・シュブレンガーだ。そこのオーダインとは因縁の相手だが、今はそうはいってられん。DGに入ってスパイをしていたものだが、お前さんの活躍のおかげで予定より早く抜けることができた。その点は感謝する他ない」
オーダインとミザイルはハーネイトに自身の正体をようやく明かした。
それから自身らが所属する天神界のこと、ハーネイトがそこの出身であり、実の血を分けた親がそこにいることを彼に移動しながら教えたのであった。
しかし彼は最初、二人の言う言葉を受け止められなかった。いきなり、今まで追い求めて探していた自身の出生が、突然このような形で明らかになり、全く聞いたことのない世界の話をされても実感など湧くはずもない。ウルグサスに出会っていたおかげで激しい戸惑いはなかったが、それでも自身の出生に関する話については疑問を抱かざるを得ない点がいくつもあった。
何よりも、この二人は敵なのか味方なのか、現時点でははっきりしていない。少し距離を取りつつ彼は話を静かに聞くことにした。
そういう彼を気遣うように、オーダインはなぜハーネイトが生まれたのかを説明しながら、シルクハインからの伝言を彼に伝えたのであった。
兄のシルクハインと、弟であるオーダインは元々このAM星にて生まれソラという存在に協力していた古代人こと、神造人であったという。ソラという存在は絶対であり、自分らも龍の因子を埋め込まれていると言うが、その力を最大に発揮することは殆どの古代人ができなかったと言う。
しかも中には龍になったり命を落とすものも少なくなく、今生き残っている者は運が良かっただけといえる。
その中で、もし6つの龍の因子全てを宿した存在が出てきたらどうなるかという話になり、ソラに持ち掛けた時、権能を分けてやるからそういう存在を造れという指令が出たと言う。
実は今まである計画に基づきその龍因子の力を運用するための存在を作って来たが欠陥が見つかったり制御ができなかったりと失敗続きであった。
しかし龍因子を制御するアイテムをソラが作り出した神器「無限炉」で制御し、その他に今までの古代人が生み出した研究を全て継ぎこみ、生を受けてすぐに改造され世界龍を倒せる素質を持った赤子が誕生したと言う。それがハーネイトであった。
だがしかし、ソラはその力を用いて世界龍を目覚めさせ倒し、新たな世界を生み出そうとしているのを一部の古代人が知った。その中に研究責任者であり、ハーネイトに自身の力の1部を託したシルクハインがいた。
それとほぼ同時期に、どういう方法を取ったか不明であるがここに攻め入った悪魔と人間と出会い、彼らに自分たちも元々AM星の出身であると証明したうえで、ジルバッドという魔法使いの男に生み出した生物兵器ことハーネイトを預け、彼に人としての優しさと強さを教えて育てて欲しいと土下座をして頼み込み、他の悪魔たちにもある話をして協力を持ち掛けたのであったと言う。
しかしこれも、全てはある龍人による計画の手のひらで踊らされていることに誰も気づいてはいない。
「…さぞ、違和感もあっただろう。だが、お前は一つの可能性と道を示した」
オーダインはそう伝え、魔法使いの行き先をただ見つめ、さらに飛ぶ速度を上げた。そしてミザイルはそういい、彼の可能性が自身の予想を上回ったことを告げた。
「女神の持つアイテムを体に持ち、龍の力を扱うために徹底的な調整が施されたお前にしか、女神がこれから起こそうとしている人理滅亡、世界の終焉を止めることができないんだ。決して、人間の領域ではあれには勝てないのだ。そうでなくても、彼女と同じ力を身にまとったものでないと攻撃を無力化される。霊量士というのもどういう経緯かは不明だが龍の力を得た存在のようだがソラにはまず勝てないだろう」
「悔しいが、女神の力に対抗するには、それを持つ存在じゃないと抗えないという話だ。それを超えた力を完全に扱える唯一の可能性を、お前は持っている。予言の神子として生み出された存在だからな」
女神であり、世界という概念が不安定であるときから存在するソラというヴィダールの神柱について2人の話を聞いたことで、ある程度理解できてきたハーネイトだが、彼らが言うには、自身にしかその女神を止めるすべも力もないということを聞き、複雑な心境に陥っていた。
それと、女神の持つアイテムという言葉が気になり、2人にそのアイテムを持つ人がもう1人いるということを告げたのであった。
「…それならば、伯爵も。同じアイテムを持っていると」
「どういうことだ、願望無限炉は1つだけじゃないのか」
ハーネイトは前に意識を失った際、伯爵からも同じ装置が体の中にあること教えてもらい、それを聞いた二人は、知らなかった事実に先ほどまで彼が見せていた表情を見せていた。
しかし、女神に対抗できる存在がもう1人いることを理解した2人はすぐに笑顔になった。
「これはいい話だ。女神に生み出され、彼女を止められる存在がもう1人いるとは驚いたが、これなら」
「いきなりの事実を聞いて、混乱するのはわかる。だが、薄々感じていたのではないか?」
オーダインが喜ぶ一方、ミザイルはハーネイトに昔から人と違う何かを感じていたのではないかと質問し、それに少し黙ってから彼は答えた。
「……だから、あれが存在して、しかもアルフシエラという女神が中にいるわけか。そして、女神ソラ。これで、話が繋がった」
「あ、アルフシエラ?」
「……その声が、確かに聞こえるというのか」
オーダインはシャックスと同様に神話に関する情報を手に入れていた。そしてそのソラよりも上の存在であり、親であるとアルフシエラがなぜハーネイトの中にいるのかが理解できなかった。それは、彼の中にある無限炉と関係があった。
「そう、です」
「あれから私も独自に伝承について調べてみたのだが、そのアルフシエラがソラの母であることは、およそ間違いはない。なぜそこにいるのかがわからないが」
「だがよ、それはもしかすると好機かもしれねえな」
そうして話していると、前方から何かが向かってくるのを3人は確認し、空中で一時停止した。それは伯爵であり、あまりにハーネイトが遅かったので迎えに来たという。
「あれ、どうした伯爵。先に向かえと言ったはずだけど」
「いや、遅いから気になってな。というか、そこの男たちは誰だ。まさか彼氏か?」
「違うってもう。……なあ伯爵、俺たち、本当に人じゃ、ないんだな」
伯爵はハーネイトの後ろにいる二人を見ながらやや冗談めいたことを言いつつ、彼の言葉を聞くと表情を一変させたのであった。
伯爵はすでに事実の大半を知っていた。それを後々に相棒である彼に伝えようとしていたが、先にそれを知ってしまい困惑していたハーネイトを見て、何があったのかが気になり声を荒げた。
「おい、お前ら。俺のハーネイトに何を吹き込みやがった、言ってみやがれ!」
「ただ、事実を申したまでです」
「そうだぜ、そうでないと、彼は本当の力を引き出す機会を失うのだ。まだ、彼は役目を果たすには早い」
二人の言葉に伯爵はハッとし、深くうつむいた後、ハーネイトに一礼し謝罪の言葉をかけた。
「…すまん、相棒。俺は、お前にうそをついていた」
「どういうことだ、伯爵」
「……俺は、すでにその神様について、大体のことは知っていたんだ。だけど、お前の困惑する顔を見たく、なかった。人として懸命に生きようと、苦労し続けてきたお前の努力を、壊したくなかったんや」
彼の言葉にハーネイトはただ、うなづいてから自身がどれだけ気付くのが遅れたか、そして力を認めようとしなかったためそうなったのだと改めて自覚していた。
「そう、なのか。伯爵は先に気づいていたんだね。それに反して俺は……」
「しかし今気づいただけ、まだいいじゃないか。永遠に気づかないよりはな。内なる力に戸惑い続けてきただろう、恐れを感じ目を背けてきただろう」
「確かに、オーダインの言うとおりだ。今まで思うところもたくさんあっただろう。本来ならば何不自由なく暮らせていたはずなのに」
「だが、その経験の中でハーネイトは大きなものを手に入れたのだ。それは伯爵にも通ずるところがある。人を、世界をも容易く滅ぼす兵器でありながら、人を好きになったこと。それに人の想いや感情に触れ、その全てを体で体験したことだ。これは女神も全く想定していない案件だ」
「人を、滅ぼす兵器……私のことを言うのか? 」
オーダインのその一言は、ハーネイトの動きを鈍らせた。自身がそう言う目的で、この世に生を受けたなんて思いもしなかった。それが心の中で今までにない動揺を引き起こしていた。
確かに、あの血を浴びても何もない自分は明らかに別の意味で怪物だ。ではなぜそうなのか、それを調べた答えが、それだったと言うのが彼には受け止めきれない事実であった。
その姿を見た伯爵は、彼にフォローをかけようと声をかけた。今にも張り詰めた糸が切れそうなハーネイトをどうにかして支えないといけない、彼なりの優しさが言霊として紡ぐ。
「…だけど、俺たちはその運命の呪縛に抗って来たんや。それも、何か因果があるのかもしれないな相棒」
「伯爵……。あ、ああ。そうかもしれないな。運命は、変えられる。自分たちの行動がそう示しているのは」
伯爵の言葉の意味を理解し、ハーネイトは今までのことを振り返り、どんな時でも諦めなかったから、信じたから未来を変えることができたのだと感じ、心の底から漠然としつつも、温かい勇気の奔流を感じていた。
「そしてあの魔法使いは、ある邪神に憑りつかれていることが分かったのだ」
「じゃ、邪神?」
そんな中、オーダインとミザイルは彼らに、更なる衝撃の事実をそう伝えたのであった。
それは、追いかけている魔法使いが、実は別に影響を受けているためにああ言った行動をとっていること、幾つもの事件を起こしていることを説明したのであった。
「そういう、ことか。アルフシエラ様が、あの魔法使いを見て娘が憑りついていると言っていた。そのこと……なのか?それとも……」
彼らは魔法使いを追撃しながら、彼女の目的について考察をしていた。もしそれが本当なら、さらに事態は混迷を深めるのではないか、この先にある幾何の不安が彼を縛り始めていた。