第120話 大魔法104の号・「月陽天体光砲」
「月は蒼く大地を照らし、陽は赤く大地を焦がす。その果てにある光の色はただ一つ!双星集いて交わり、白き光となりてすべてを飲み込め!」
ハーネイトの右手は蒼く光り、左手は赤く熱い光を帯びていた。それを目の前で重ね合わせ、無慈悲な白い光のビームが浮遊要塞ごと豪快にぶち抜いた。
これこそが、通常使用してはいけない星属性の大魔法、104番こと「月陽天体光砲」である。その強烈な一撃により、要塞を支える大地は激しく崩壊しつつあり、ハーネイト以外は慌てて逃げようとした。
「なんという破壊力じゃ、というか儂らの出番ないんじゃが! 」
「仕方ないでしょう、今の一撃でこの空中要塞は落ちますよ」
「そういうことで、みんなハーネイトのところに向かえ! 」
そうしてハーネイトは常に浮遊できる伯爵とリリーを除いて次元空間に全員を収めると、崩壊しつつあった空中要塞から勢いよく飛び降りて滑空していくのであった。
「ったく、敵まで治療して治すとは本当にお人よしにもほどがあるぜ」
「ボガーやボノフと戦った時に、目覚めた力ならいけると、信じた。だから……。治せるなら、戦いたくないよ」
「相変わらずね、ハーネイトは。でも、その優しさが多くの命を救って来たんだよね」
全員倒さなければならなかった状況を覆すことに成功したハーネイトは、あくまで倒すべきは師匠ジルバッドの命を奪い、血徒に取り付かれている可能性の高い魔法使い。目標を既に見定めているとハーネイトは冷たくそう言う。
「甘ちゃんやな相棒は。だが、そういうところが好きやけどな」
「なっ、そ、そんなこと」
「うまく使えよ、その新しい力ってやつ。俺も、使いこなせるように努力しねえといけんな」
伯爵はハーネイトが当初、城の内部に入って無慈悲に制圧するのではないかと思っていたが、予想を裏切り空中要塞ごと破壊するハーネイトをみて驚いていた。しかしハーネイトにも考えがあったが故の選択であった。
「まあ、これからの戦いがボスとの戦いだから。それとDGも被害者であることが分かった以上、あの元凶の魔女をどうにかしないといけない」
「それにしても、月陽天体光砲。久しぶりに見たわね」
リリーはハーネイトの放った星属性の大魔法についてそう感想を述べた。星属性は特に威力が桁違いな半面、破壊力と消費の多さから用途が限定されるという欠点が存在する。
だからそれを扱えるリリーでも、そういう技を使わないようにしているのはそれが理由である。いわば、禁術の類であった。
「強すぎて使いどころ選ぶからなあれは。さあ、遺跡に向かうぞ! イタカにそこに向かわせるよう命令してある。合流するぞ! 」
そうして全員を収容したハーネイトは周囲を警戒しながら魔力を精いっぱい噴射してラー遺跡に向かっていた。先に遺跡で待ち構えている仲間と合流するために、彼は先を急いでいた。
その矢先、彼はやや右斜め前方に、何かが飛翔しているのを確認しよく目で見た。先ほどからある反応を感じ、彼は気を引き締めていた。
「さあ、このまま遺跡へ……あれは! 」
「おい、あれ例の魔法使いみたいだな」
「あの魔法使い、城を放棄して逃げたな!しかも遺跡のある方角に猛スピードとはな」
ハーネイトが見たものは、あの金属を張り付けた黒い魔法使いが魔力を桁違いに放出しながら、こちらに気づかず飛翔している姿であった。
その魔法使いもラー遺跡を目指しているようで、ハーネイトがウルグサスから聞いたいやな予感が現実になりつつあることに、先に遺跡に他の部隊を配置しておいてよかったと思っていた。
そう考えながら、ハーネイトはボルナレロに通信を行った。
「ボルナレロ聞こえるか!」
「ああ」
「例の魔法使いが遺跡の方に向かっているみたいだ。モニターの方しっかり頼む」
「分かった。確かに強大な魔力反応の塊がラー遺跡に向かっている。いや、そのほかにも何かがいる。気をつけろ」
「それはどういうことだ?」
ボルナレロの地理情報システム及びBKの魔導通信ネットワークを利用した広域レーダー支援により、魔法使いの魔力にまぎれ別の何かがいることに気づいたハーネイト。
すると突然上空から銀色の剣が飛んできて、魔法使いの行く手を奪うのであった。
「あれは。白銀剣! 創金術士が他にいるのか」
「間に合ったね、危なかった」
「よもやこいつに助けられるとな。だが利子は付けて返させてもらおう。セファスオスキュラス!」
飛んでいるハーネイトの上空から2人の男の声がした。その方向を見たハーネイトは唖然とした表情を見せていた。
「だ、誰だ?」
「その無限炉と、旧世界の支配者の力。やはりと思ったが。あの計画で生み出された、最後にして究極の存在、よくここまで育ったものだ」
「来たな、世界殺戮兵器さんがよ。だが、面白い。やはり下界で修業を積ませたのはよかったと見た。龍の力を大分制御できている、あのお方の話は本当だったのだろうな」
「え、あ、どういうことだ一体」
いきなり現れた男2人がそれぞれ、いきなり意味が分からないことを言い動揺しているハーネイト。そんな彼を見たセファスオスキュラスは黒い光弾を手から無数に発射しハーネイトを打ち抜こうとする。
「こんなところで、止まる、わけには。大魔法の26・鎖天牢座!!! 」
「なんだと、これはっ」
「ぐ、なんのこれしき!」
「遅い! 魔法頼りじゃ肉体がさびるぜ」
ハーネイトはセファスの魔法を自慢の高速移動でかわし、彼女の背後から魔法で作られた鎖を発射し体を拘束してから、薙ぎ払うように藍染叢雲で切りつけようとする。しかし手にしていた杖でそれを防がれながらつばぜり合い、叫ぶようにハーネイトはセファスに迫った。
「さあ、魔法使いさんよ。何の目的でこうしたか教えてもらおうじゃないか」
「ハ、ハハハハ! そんなもの、決まっているじゃない。世界を壊すため。そのために遺跡を壊しに行く」
とてつもない邪気を放ち、本能的に一瞬下がったハーネイト。そうすると魔法使い、セファスオスキュラスは突然強烈な光を放ち、彼らの視界を一時的に奪うとその間に遺跡に向かったのであった。