第118話 1番塔の戦い 遊撃隊VSエヴィラ侯爵&零 後編
1番塔の攻略に挑む伯爵たち。南雲と風魔は、探し求めていた里の裏切り者、零と対峙する。
「零……。里の裏切り者! なんで、あんなことをしたのよ」
「兄貴、どうしたんだよ一体」
南雲と風魔は、1番塔の頂点に立ちそびえる零とにらみ合い、そして声をかけた。人の姿をしているものの、その身からあふれ出す禍々しい気は魔獣に類するものでありそれを感じた2人は武器を構える。
やはり首元を見るとあの紋章がある。しかも口からは血を少し流しており、すぐに南雲は彼が紅儡になっていることを把握したのであった。
零は南雲の質問に答えず、怪しく光る眼光で睨みつけるな否や、彼らに向かって飛び降りるように突撃を仕掛けてきたのであった。彼の蹴りを風魔は菱形のイジェネートシールドで防ぐも、あまりの勢いで大きく体ごと吹き飛ばされた。
「ぐっ、なんて力なのっ!」
「風魔!」
南雲は零に対し両手を鎖鎌に変えて零の足元を刈り取ろうとして彼にかわされ、上空から無数の槍が南雲に向かって襲い掛かる。
それを南雲は左手を手裏剣に変更し、ドリルのように突き入れて回転させながら防ぎ、すぐさまそれを零に飛ばしながら、素早く手裏剣と反対方向に回り込み殴り合いに持ち込む。
零も負けじと冷静に南雲の腹や顔を蹴り、南雲もひるまず零のあごにアッパーカットを入れてから胴体を蹴り飛ばし追撃、そして両足で零の首を挟み込んで百舌鳥堕としを食らわせた。
「やってくれるじゃないの、だけど私もあれから!」
風魔も起き上がり南雲は距離を取った。そして風魔が白銀剣を突き出し零の肩やわき腹を切り裂く。その一撃でよろけるも零は何も言わず、それどころか腕を突き出してきた。
「気をつけろ風魔、あれを使ってくるぞ」
「え、ええ。ってきゃあああ!」
零は左手に装備していた回転する展開型の8枚刃ドリルを起動し、猛烈な勢いで回転させ、瞬時に風魔の懐に入り込むとそれで彼女の体をえぐるように引き裂いた。
「がふ、く、南雲……っ」
風魔はイジェネートにより金属の膜を胴体まで瞬時に引き伸ばしたものの、強烈な一撃を喰らい手負いの状態であり、その場から動くことができなかった。
幸い血徒の血は浴びていないが、下手に仕掛けると自身らも血の怪物になる可能性があると慎重にならざるを得ない。
「よくも風魔を、こうなったら何が何でも、止めてやる」
風魔を傷つけた先輩である彼に対し怒りを燃やした南雲は、今まで培った全能力を持って零を止めることに決めた。
南雲は零の影を瞬時に縫い拘束する闇の魔法で動きを止め、同時に右手を変形させ創金術で巨大な腕を作り出し零を押しつぶそうとした。
しかし零はそれを読んで、左腕の武器を更に回転させ竜巻を作り上げ南雲を嵐の渦に飲み込もうとしていた。だがそれを見切っていたその時南雲は零の背後に降り、静かに左手で零の胴体を貫いた。
「そう来るのは読めていたさ、兄貴! あんたの得意技だからな。だが隙がありすぎるぜ」
「が、が…ぐ……」
そして零はその場で崩れ去り倒れこんだ。それを見ていたリリーが素早く駆け寄り風魔の治療に当たり、彼女の傷を回復させることに成功した。
「はあ、っ……。ありがとう、リリーちゃん」
「どういたしましてよ風魔さん。……勝負、着いたようね。しかしあれが零。何かに憑りつかれているように、っ! 血徒の気よ!」
「終わったか。あっけないな。だが、どこで零は血徒に」
そしてリリーの後に伯爵たちも彼女らのもとに来て、南雲が倒した零の姿を見て驚いていた。
彼はDGたちにかけられた魔法よりも強い力、そう、血徒の呪いの力に支配されておりそれにより正常な判断ができなくなっていた。またデモライズカードの影響も受けており、完全に変異するのを精神力で踏みとどまっているような状態であった。
「南雲……っ、ぐっ、はあ、強く、なったなあ」
「兄貴、何で、こんなことに……っ!」
零は虫の息で地面にあおむけに倒れていたが、気力を振り絞り南雲に話しかける。それに気づきかけよる南雲は、何があったのか静かに、全て聞き出した。
零はある任務で不審な組織の潜入捜査を部下数名と行った。そして情報をつかみ里に戻ろうとした矢先、魔獣の群れに包囲され組織につかまったという。その時に血徒に感染し、その後実験体としてハイディーンやその仲間が開発した新型のアイテムにより正気を失い殺戮兵器と化していたらしい。
その際に、仲間と戦わされ、自分だけが生き残ったと説明した。その後もある女の声に支配され抗えずに、各地で活動していたと説明すると、血をがはっと吐いて力なく首を横に倒す。
「それじゃ、他にもあの悪魔のカードや人体実験で怪人になったひとがいるってのかよ」
「その、とおりだ。DGの力に、目を付けた研究者たちの一部が、やった悪行、だ。それと、再び血の怪物が、猛威を振るうかもしれ、ない」
「てことはよ、それらも倒さねえといけねえのかよ兄貴」
「ああ。そうだ、もう、俺のような存在を生み出させないように、頼む……っ! この星の未来は、お前ら、に……託、っ……っ」
南雲は、零の最後の言葉を聞いた後、その場でじっと座っていた。先輩である彼との思い出の日々、それが頭の中で蘇ると、南雲は泣かずにはいられなかった。そしてこんなことをした奴らを許さないと、全力でDGを倒す決意を抱く。
「兄貴は、魔物に、血徒に取りつかれていた。あの任務の時に……。そして、同じような目にあっている人たちが他にも……っ。風魔、俺たちの手であいつらを倒す」
「ええ。そうね。零様、安らかに眠ってください。仇は、私たちがとりますゆえ」
「済まない、兄貴。俺は兄貴を止められなかった。せめてここで眠ってくれ」
そうして二人は、力尽きた零に向かって手を合わせた。先輩として多くを教えてくれた偉大な忍の死。二人にとってそれは途轍もなく悲しいことであった。
「DGの犠牲者がまた一人……っ」
「悲しい、です」
「だが泣き暮れている場合じゃない。魔物と完全融合した怪人ってのもいる。何よりも、血徒か。もし再び活動の兆しを見せているなら危険だ」
「この先、私たちはどうなるの……。だけど、これ以上悲劇を起こさせないわ」
南雲と風魔は天を見上げながら、この先の行く末を不安に思いながらマスターであるハーネイトの到着を待っていた。
「何で、仲間たちはあの日誓ったことを忘れて、行方をくらましあれを奪ったのだろう。私たちのやることはU=ONEの力を継ぐ後継者探し、世界を混乱と血の呪いで満たすことでは決してないのに」
そんな中エヴィラは心の中で、絶命した零に手を合わせながら自分の不甲斐なさが龍に洗脳された仲間たちを止められず、多くの存在を苦しめていることに胸を痛めながら後継者を探し、彼の力を使い呪いを解くことこそあの破滅の未来を防ぐ鍵だと信じ、DG内にいるかもしれない洗脳された同胞を早く探し出し倒さないといけないと決意を固めていたのであった。
その時、3番塔制圧担当の3人が伯爵たちのもとに駆け付けた。そして状況を彼らに説明する。
「はあ、そちらはどうよハーネイトの仲間たち?」
「あ、ああ。いま敵幹部の制圧を完了した。塔を壊すなってあれか?」
「あ、あら。そちらは知っていたのね」
キースは塔の破壊が罠であることを伯爵に伝えるも、彼もエヴィラから話を聞いて理解していたことを伝えた。
「だが、あの結界はどうやって突破するのだ?罠であろうと時に挑まなければならない時もある」
「拙者も、そう思うでござる。ここは相手の手に乗って、調子乗ったところを叩き落す。それでいい」
そう南雲が言ったその時、ある男の声が周囲に響き渡った。やかましいほどに響くその声が南雲たちの耳に入る。
「なんてバカでかい声だ」
「フハハハは、いいこと言うじゃねえか金髪天パ緑が」
「お、お前はあの時の!」
南雲の言葉に共感したブラッドバーンが彼らの目の前に現れ、そしてその後からついてきた一殺と紅月、神威が彼を追ってきて伯爵たちと合流した。
「俺は魔法使いの洗脳なんか受けてねえ。それよりもあの腐れ野郎の計画が問題だ」
「どういうことだ貴様」
「本当はあの男に伝えたかったが、まあいい。魔法使いはこの星の猛者をここに集め、塔の破壊をトリガーに塔に封印されていた魔結晶とやらを開放、一帯を空中に持ち上げて空中要塞をつくるらしいとな!」
ブラッドバーンは魔法使いの部下を捕まえては強引に情報を吐き出させ、何をしようとしているのかを探ろうとしていた。それにより集めた情報をありのまま彼らに伝えたのであった。
「それはまことか。そうなると逃げた方がいいか」
「だが、これは魔法使いを倒す好機だ。人はうまくいっているほど浮かれやすく、ミスを起こす。だがあんたんところの大将はどうかな?きっと手を打っているはずだぜ」
「確かに用心深い、な」
ブラッドバーンはハーネイトが何か策を講じているはずだからこのまま行こうといい、引くべきだといった八紋堀とハーネイトの用心深さを知っていたリヴァイルはどうするか考えていたのであった。
何故ここまでこの熱い男、ブラッドバーンがハーネイトを信頼しているのか、それは拳を交えあった時に感じた彼の思考を読みとったからであった。この男なら、あれを倒せると。言葉にするには不確実だが、それでも勝つ。武闘家としての彼の直感が突き動かしていた。
「だったら、早くすべての塔を壊し、結界の破壊後中に入り込むぞ。どちらにせよ、今の状態では敵の拠点内部にはどうやっても入れねえ。無理やりに破っても、発動するってさ」
「しかしハーネイトがもう少しで到着するらしい。って来たぞ!」
「済まない、到着が遅れた。だがもう安心しろ」
空から声が聞こえ、全員が空を見る。すると上空から巨大な龍が突然現れた。そこからハーネイトはニャルゴ、そして霊界人、いや、霊量士の5人と共にウルグサスから勢いよく飛び降りたのでだった。