第115話 2番塔の戦い ブラッドバーンVS神威と一殺・紅月
「さあて、兄貴たちはいつ来るんだろう。それまでに手はずを整えないと」
「ふん、久方ぶりに倅の顔を見に来たと思えば、どこにいる」
「まだ、到着までに時間がかかるらしいわ、大牙」
5つある塔のうち、北西側から攻め入ったのは退魔師であり式神使いにして、異世界である地球から流れ着いた転移者の神威祝斗という少年。さらにジルバッドと死別後1人になったハーネイトを一流の剣士として鍛え上げた人物であり、かつてDG侵略戦争の1つ、「第一次DG戦役」を生き抜いた2人の夫婦剣士こと一殺大牙と紅月茜であった。
この場に集まった3人は、どれもが対多数、対人どちらも非常に戦力としてのレベルが高く重要である今回の作戦に呼ばれてやってきたのであった。
彼らの目の前で対峙していたのは、前にハーネイトと一戦交えたヴァラフィア・ブラッドバーンであった。彼は非常に眠たそうに、結界の弱まった塔によりかかりしっかり寝ていたが、接近に気づくと眼をこすりながら起きて名前を伝えた。
「俺はヴァラフィア・ハイスヴァルヘン・ブラッドバーンだ。お前らは誰だ」
「わしか、わしは一殺と申すものだ。お主が、ここの番人か?」
「ああ。だが後ろのあれ、破壊しない方がいいと思うぜ。俺は洗脳されていねえからわかるが、お前らとっくの前に罠にはめられてやがるぜ」
「あら、なぜ親切に答えるのかしら?ブラッドさん」
茜がその様子を不振に思い彼にそう質問した。それに対しブラッドバーンは微笑しながらこう答えを返した。
「ああ? それは俺があの魔法使いを気に食わねえと思っているからだ。それと話は聞いている」
「へえ、ハーネイト兄貴のことも聞いているんすか」
「ふ、そうだ。俺はあいつと戦いてえ。そうすりゃ気も晴れる。悪いがあんたらの相手をしている暇
はねえ。と言いたいところだがウォーミングアップに少し付き合え。そうすりゃあのハーネイトの下についた連中と同様に軍門に下るさ。いや、最初からそのつもりだがよ」
「なかなか、面白い人ですね。髪型も含めて。いいでしょう、ならば私の式神術を受けてみなさい」
神威は彼と話をしたうえで、その気にさせるため身に着けているバッグから何かを取り出した。そして手早く手から複数の紙人形を召喚し、ブラッドバーンの方に飛ばしながら魔閃の雨を浴びせる。それにブラッドは霊量子で炎を生み出して、体を守りながら力を開放する。
「ほう、だが紙ならば燃やせばいいだけだ。燃え尽きろ、カグツチ!」
「ぐおおおおおおおお!」
彼の放つ熱気で紙人形はすべて燃え尽き、あたり一面はむせ返る熱気で溢れていた。このブラッドバーンという若い男は、リリエットたちと同じく現霊士の力を持つ存在であり、彼の宿す守護霊ともいえる現霊「カグツチ」はある世界での伝承通り、焔を操りすべてを灰塵とする強力な代物である。
燃え盛る武者鎧を纏った焔の魔人、それがブラッドバーンの背後に現れると構えてから拳を突き出し、強烈な焔の奔流を打ち出した。
「くっ、さすがにあの火力じゃあれが限度か。だが燃えづらい紙もあることはわかったかい?」
「ああ。なかなかやるじゃねえかおめえ。そこの2人、かかってきな」
「ならば遠慮なく」
「行くわよ」
神威の出した紙人形は焔の直撃を食らいその場で燃えていた。けれど予想より炎上していない。それに違和感を感じるも次の攻撃に入ろうとしていた。
神威はもともと地球人であり、ハーネイトに命を救われ魔法秘密結社・バイザーカーニアに入った少年である。一応彼の弟子ということではあるが、その身柄はロイたちが預かっていた。彼は紙を作り加工することに関し天才的な力を持ち、紙人形による攻撃が彼の十八番である。
身を低くしながらブラッドバーンは一殺と紅月に対して、2人同時にかかってこいと手を招いて挑発した。2人はニヤリと返し、ブラッドバーンに一撃必殺の瞬撃を繰り出した。大柄な大牙の陰に茜は隠れ、彼の突進斬りと同時に強烈かつ同時に3回同じ場所を突く戦技を繰り出した。
大剣の破壊力を活かした「大牙流」、そして魔法剣術を世間に知らしめた彼女が生み出した魔剣技「花札流」は、一撃で戦況を変えうるほどの破壊力を持つと言われている。
「ブレイジングクラッシュ!」
「三光月突!」
「ぐおおおおお、ごはあ、ぐ、一撃でこれか、よ。へへ、こいつは面白い、おもしれえ」
まさかの一撃で打ちのめされ吹き飛ばされた彼は、地面に激しくたたきつけられた。彼は目の前にいる男女がハーネイトの師匠であることを知らなかった。いや、知る由もなかった。そしてその実力を見せつけられ思わず笑いが止まらなかったのであった。
「参ったか、ブラッドバーンよ」
「ハハハハハ、ちっ、仕方ねえな。今はお前らに従うぜ。その代わり、いろいろ話は聞かせてもらうがな。ってちょい待て。あの火玉、こちらに来ているぞ。塔にぶつかる!」
「ぬうう、なんて火力だ」
「私の月麗で相殺がやっとなんて」
彼が指をさした先には巨大な火球が塔に向かって迫ってきていた。それを茜は剣先からビームを発射しそれを打ち抜き塔の破壊を防いだ。彼女はここに来た時から、薄々と嫌な感覚を感じ取っていた。だからこそ無意識に剣を取ったのである。
「はは、俺は、強い奴らが集う場所が好きでな。ぞくぞくするぜ。おい、ここはあえて魔法使いの陰謀に乗って、調子に乗ったあの魔女をギャフンと言わせてみたくねえか?」
「さっきと言っていること違うんだが、頭でもおかしくなったか? 塔を壊すとまずいんだろ?」
「いや神威、いっそのこと相手を上げてからどん底に落とすのも作戦の1つだ」
「……仕方ないわね。まあいいわ。まだ物足りないもの。行くわよ」
ブラッドバーンは、あることを思いついた。そう、調子に乗っている奴を絶望のどん底に落とす方法を。そしてさっき言ったことと真反対のことを言い彼らを困らせる。けれども一殺がそれに乗ってしまった。そしてやむを得ず全員で、思いっきり2番塔を破壊してしまったのであった。
その光景を走りながら見ていたキースたちはすさまじく不快な顔をしていたのであった。恐らく他の幹部たちも同様のことを話しているのではないか。そう思いつつも次々と制御するための塔が崩れていくのを見て、なんとしてでも敵の計略を止めなければと彼らは足を速めたのであった。