第113話 4番塔の戦い レイフォン騎士団VSモルジアナ
「よっしゃああ、俺たちが一番乗りか? いやっほおうううう!」
「こら、フリージア、常に警戒しろとあれだけ」
「ったく兄貴たちはビビってんのか? それでもレイフォン騎士団の戦士長かぁ?」
魔法使いセファスが作り上げた拠点を守る4番塔を制圧する任務に当たったのは、かつてハーネイトが国の危機を救った騎士の国レイフォンが5人の王子たちとその部下50名であった。
彼らは機械と魔法で強化された馬を駆り、自身らも魔法鎧という特殊かつ近代的な装甲に身を包んで勇猛果敢に突撃をしていた。
それから森を抜け視界が開け、塔への侵入を果たそうとした時目の前に魔獣の群れと一人の少女が旗のようなものを持ちその行く手を阻んでいた。彼女の名前はDG執行官予備役・モルジアナ。まだ二十歳にもならないがかなりの実力者であり、変幻自在な槍を用いた近接戦闘が得意という。
事前にヴァンやリリエットたちから残りの幹部の情報に関してはハーネイト及び忍部隊経由で今作戦に参加している人すべてに行き届いているものの、魔法使いに洗脳されている以上まだ何か隠している何かがあるかもしれないため、それに留意するように注意喚起がなされていたのだが、このフリージアという女性はそれを全く顧みずに騎乗突撃をかましていたのであった。
「ここは通しません」
「なんだあ? 女1人かよ。おもしれえ、俺たちレイフォン騎馬騎士団の猛攻止めてみやがれ!」
「はあ、猪突猛進な妹を持つと苦労しますね第一皇子」
「何をいまさら、ハーネイトきっての頼みだ、今までの礼を返すぞお前ら!」
「いいぜ、行くぜ!」
「了解した、では塔の制圧を開始する。他のみんなは魔獣を追い払え!」
第一皇子、アレハンドロスが弟や部下に命令を出し、彼らはそれに応じまるで一陣をかける風の如く転換したのであった。50人の部下たちは先行し、周囲に存在する邪魔となる存在をそれぞれ各個撃破していき、5人が進む道を作ろうとしていた。
「兄貴たちは先に塔へ、俺がこの女と、相手する!」
「な、行かせはしません!」
「どこ見てんだおらぁ!」
「ぐっ!」
フリージアの二振りの剣がモルジアナの手にしている槍とぶつかり激しい金属音を立てる。さらに彼女は荒れ狂う嵐のようにモルジアナを滅多切りにしようと猛攻を仕掛け彼女が押される。
その間に魔獣たちの群れも他の部下たちにより1体、また1体と頭数が減り、あっという間に敵側は彼女1人だけになったのであった。
この騎士団は少数精鋭ながらも、その戦力は強大なものであり、大昔に戦争があった際も、彼らの先祖は勇敢に国を守り戦ってきた。その意思はしっかりと現代の彼らにも受け継がれており、猪突猛進かつ、冷静沈着に彼らは剣を振るい、魔法で攻撃をかわし敵の魔獣を切り伏せた。
ハーネイトがかつてレイフォンにいた際も、彼女ら5人の力は相当なものであり彼は苦戦を強いられたほどであるといい、技術交換という名目で互いに剣技を学びあった中でもある存在である。
特にハーネイトとフリージアはよくケンカしていたが男勝りなフリージアがどこかとっつきやすく、2人で悪戯をしたこともある悪友でもあった。
王様も荒くれ者なフリージアがハーネイトの前ではある程度落ち着いていたため、場合によっては2人をくっつけさせようと思っていたという。
「ぐ、ぐぁああああああ!」
「な、なんだこいつ。いきなり力が、うわあっ! ちっ、やってくれたな手前」
モルジアナは抑えていた力を開放し、その気迫でフリージアを大きく吹き飛ばした。飛ばされながらも剣を地面に突き立て身を固定した彼女は、モルジアナを激しくにらみつける。
「ふっざけんな! おもしれえ、俺様も、魔導鎧の力開放すっぜ、覚悟しろ!」
フリージアは魔導鎧のスイッチを押し、ためていた魔力を放出し馬ごと魔力で覆いながら強烈な猛進でモルジアナを大きく吹き飛ばした。更に彼女の首元を切り付け一撃で倒そうとする。
「なんだ、そんなものか? 所詮操り人形だ。俺に勝つには数百年は早いぜ!」
彼女はレイフォンの国王の娘であり、5人いる兄弟の中で紅1点である。しかしその性格の凶暴さと、苛烈な性格は誰よりも抜きんでており、実力もそれに伴ってかなりの力を持っていた。
以前ハーネイトと戦った際も、彼の一撃をかわしながら怒涛の連撃を浴びせたことがある。それに比べると目の前の少女など彼女にとって戦う相手にしては物足りないとしか言いようがなかった。
フリージアが手にもつ赤く怪しく輝く魔剣、フラヴスレイドの一撃でモルジアナは戦闘不能になり、その場で足が崩れた。
「あ、あうう……。わ、私は」
「おおっと、さっき切ったあれがあの軟弱科学者の言っていた洗脳魔法発信機という奴か」
「は、あなたは!」
フリージアが首を狙ったのは、敵の魔法使い及び脅されていた機士国の研究者が作っていたある装置を壊すためであった。
これもボルナレロたちの情報によるもので、ハーネイトとエレクトリールが遭遇した魔獣を操る装置の強化版ともいえる代物であった。しかしその装置から発せられる魔女の魔力がなくなり、モルジアナは我に返るとフリージアの方をただ見ていた。
「とにかく、敵のようでありますね。でしたらこちらも」
「ふん、ようやくいい目をしてきたじゃねえか」
モルジアナは武器を構え、霊量子を体から吹き出しつつ間合いを詰めフリージアに襲い掛かる。その一撃を彼女は防いだ。しかし次の瞬間彼女の手や鎧の一部が切り裂かれていた。
「っつ、なんて武器だ。鎌にも斧にもなりやがる。くぅ、先ほどとえらい違いだぜ。だが、な!」
モルジアナの武器は霊量子の力で自在に武器の先端を変えて斧や鎌、旗などに形を変えることができ、変幻自在な攻撃を可能にするトリッキーなものであった。しかしそれがフリージアの火をつけることになった。
「俺たちにも誇りがある。騎士として、そしてハーネイト。あの抱え込み野郎が俺たちに支援を求めてきた。だからこそ、あの時の礼はここで返す。俺の一撃、食らいやがれ! 瞬光魔紅破(イザルガミネート・ブランジアー・クリムゾンフォース)」
彼女は精神統一をしてから、腰に身に着けていたもう一振りの魔剣・アルスレイドを左手に持ち、それを右手の剣と共に重ねつつ天に掲げる。そして力をためてからそれを勢いよく振り下ろした。
すると同時に紅蓮の衝撃波が直線状に襲い掛かり、モルジアナはかわす暇もなく直撃を食らってしまったのであった。
「きゃああ! そ、そんな、すごい一撃、ね」
「はん、勝負、あったな。まあこれでいいか。野郎の指示通り、洗脳の解除もできたし。万々歳だぜ、へへへ」
モルジアナは魔力波に飲み込まれ押し流され、塔の壁に激突し気を失ったのであった。それから彼女に近づいたフリージアは、モルジアナを抱きかかえると愛馬の背に乗せて兄たちのもとへ向かったのであった。
「これを壊せばよいのだな?」
「ああ。通信で確認した。では我らも、行くぞ。……はああ! 蒼龍撃」
「黄龍斬破」
「緑翼風斬」
「紫電彷徨撃!」
その間に、妹を囮に棟内へ侵入した4人のレイフォン騎士隊の一撃が合わさり炸裂し、彼らも無事塔の破壊に成功したのであった。
すでに結界はミカエルたちの手で上空から破壊されており、そのおかげで容易に塔の攻略に成功したのであったという。そして後から来たフリージアが王子たちと合流したのであった。
「ふう、ひとまず4番塔の制圧完了。骨のない話だったぜ」
「兄貴たち、無事だったか?」
「そういうお前こそどうなんだ。って、勝ってきたか」
「へへ、ついでにこの子を確保した。さあ、あとは他の連中の様子次第だな兄貴たち」
「そうだな。いざとなれば加勢もせねばならんだろう」
彼ら5人を含む騎士団はボルナレロやハーネイトの連絡を待つため、ひとまず塔の周辺で待機しつつ、他部隊の情報を得ようとしていたのであった。
また対峙した敵幹部はすべて生け捕りにせよとのハーネイトの命令を守り完了させることにも成功した。
かつて国を救ってくれた彼のために。5人は空に剣を掲げ、この戦いに勝利すると誓ったのであった。