第112話 5番塔の戦い ナマステイ&バイザーVS霊量剣士
「さあ、わしも暴れるか、ダハハハハ!」
「師匠、早く行きましょうよ」
すさまじい勢いで森の中をダッシュする男の集団がいた。先頭を緑や金色の唐草模様に類似した装飾が入った中華系の服を着た男が走り、その後ろに数人の禿げた男や額に鉢巻をした厳つい男たちが走り、草木をなぎ倒しながら魔法使いが管理する防衛施設こと5番塔に向かっていた。
先頭を走る男の名前はナマステイ・オールラジアーと呼ぶ老齢の男。彼はかつて少年期のハーネイトとサインに格闘術の稽古をつけたことがある老齢の男性であり、回転、遠心力を最大限に活かした破壊力に特化した拳法「ナマステ拳法」の使い手であり元祖である。
またその弟子たちも同じ技を身に着け、ハーネイトとは顔なじみである人たちばかりであった。
彼らはハーネイトから手紙をもらい、それを見て古代人の都市に集結後、連絡に従ってここまで来ていたという。彼らの活動は独自のルートで知っており、何時呼ばれるかうずうずしていたらしい。
「それ以上行かせるものか!」
「誰だ、お前ら」
ナマステイ師匠とその弟子たちが5番塔に向かう中、突然洗脳された敵執行官、ヨハンとシノブレードが塔の目の前で行く手を阻むかのように突然現れた。ヨハンという少年は黒字のズボンに紺色のジャケットを着ており、手には一振りの日本刀を握り構える。
「面白い、わしに挑戦者とは血沸き肉踊る盛る! だがどけい、壊嵐脚!」
「うわわわ! こちらを巻き込まないでください!」
「ぐっ、おおおおお……っ!」
「だが、俺は、引かない!」
そんな彼らを、ナマステイ師匠は涼しい顔で数々の戦技を繰り出し2人に襲い掛かり、その周辺にいた機械兵たちに彼の弟子が勇猛果敢に挑み、巧みな連携で一機ずつ壊していくのであった。
しかし魔法使いに洗脳され、本来の力が出せていない状況でも、足を踏みしめてナマステイの攻撃に耐える2人。そして無意識に、彼らは持っている霊を体に憑依させると、ナマステイに向かって強力な一撃をぶちかました。
「うなれ、不動明王!」
「紅蒼双剣!」
ヨハンの持ち霊、不動明王と、シノブレードの双剣によるコンビネーションアタックが炸裂するも、ナマステイは華麗に無駄なくすべての攻撃をよけた。
「ほう、これが霊的なものの具現化か、おもろいわい。噂に聞いたあれか、しかし儂にも見える、ということは。フフフ、ハハハ!」
「師匠、あれまずくないっすかね」
「ふん、わしがあの相手をする。その間にお前らは例の魔女、ロイという女と協力し拠点の制圧に当たれ。遠慮なくぶち壊せ」
二人の力を見てややおびえる弟子たちに、師匠は勇ましくそういい、空を指さした後シノとヨハンに突撃を仕掛けていき、弟子たちもその指示に従うのであった。
「全くわしにこういうことを頼むとは、えらくなったのうハーネイトちゃんは。まあええよ、その代わり報酬はしっかり頂くからのう」
「私もハーネイト様とデートしたいのに……何だかイライラしてきたわ」
「さあアーデニア、キリヒナ、殺れ!」
「はい、首領!氷の都 極寒の氷柱 空に舞え、地を赤く染めろ!無数の氷槍よ無慈悲に降りしきれ!大魔法43の号・雹帝氷雨」
「では私は左側の敵を掃討します!蒼天の霹靂 清き炎 自在なる猛き力は龍となり 喰らいて燃やす激情となる!大魔法38の号・蒼炎獄龍波」
ナマステイたちが戦っているさなか、上空から3人の人影が飛行魔法を巧みに行使しながら下降し迫ってくるのが見えた。すると目標を確認した3人はそれぞれ手早く魔法を詠唱する。それからすぐに、青く燃え盛る龍弾や無数のつららが地上に向けて無慈悲に降り注ぎ、周辺にいた魔獣及び機械兵たちの命を無慈悲に容赦なく奪い去った。
そう、ハーネイトを支援する秘密魔法結社「バイザーカーニア」のメンバーであるロイ首領、アーデニア、キリヒナがこの地に舞い降りてきたのであった。
「おお、きよったか。ハーネイトの教え子たちよ。魔導機械の使い手か」
「遅れまして申し訳ありません。これよりバイザーカーニア、支援活動に入ります」
「わしらが来たからには大丈夫じゃ!」
ナマステイは事前に打ち合わせした通り、弟子たちに指示を回し、塔の破壊を彼女らと協力して行うように仕向けた。
常に全力で、さくっと終わらせてほしいとのハーネイトの要望を受けたうえで、彼は最大出力のナマステトルネードを発生させながらシノブレードとヨハンに迫ると、彼らを巻き込み打ち上げ、そのまま戦闘不能に追い込む。
どうも件の魔法使いに操られている人物は、その力を十分に出せていない状態であり、実力者であればたやすく倒すことができる状態であった。
それでも今の2人は大分強い状態であったが、ナマステイ師匠の一撃に耐えられ続ける存在は数えるほどしかいないため、運が悪かったと言える。
そのため、シノもヨハンも、奥の手を使う前にナマステイを相手にほぼ一方的に攻撃されたのであった。
しかしこれも、魔法使いの罠であることに彼らはまだ気づいておらず、警戒を緩めた彼らはある脅威が迫っていることを把握していなかった。
「ふう、ぬるいのう、拍子抜けじゃわい」
「しかし、こんなに弱いものでしょうか」
ナマステイ師匠はあくびをしながら周囲を見渡す。聞いていた話とは違うではないかと言わんばかりに、退屈そうに屍と化した魔獣たちを見ていた。その一方で、ロイ首領は言い知れぬ不安感を抱いていた。それに気づき彼が声をかける。
「嬢ちゃん、何か言いたげじゃのう」
「え、ええ。もしかすると敵の罠にはめられた可能性もあります。魔法協会の一件もありますし」
「ど、どうしましょうロイ首領」
「まあ、その時はその時よ。ハーネイトに全部擦り付ければいいだけじゃな!」
「あー、ひっどいなあ首領は」
想定よりも戦力が薄いことにロイ首領とお付きの魔法使いたちは違和感を感じていた。そしてナマステイたちはその場で座り、気を集めてから次に何をするべきか彼女らに伝えた。
「あまり無茶を言うなよ嬢ちゃんたち。とりあえず破壊したのじゃから、他の部隊への救援が先じゃわい。こうなってはどう転ぼうが仕方のないことじゃ。なあに、あの馬鹿弟子がうまくやるだろうよ」
「そうですね、では皆さん行きましょう。しかし敵幹部がこうも弱いとか、事前に聞いた洗脳のせいねきっと」
言い合う人たちにそうしてナマステイ師匠は声をかけ、他の塔攻略隊の支援に向かうといい、彼らより先に4番塔に向かい、弟子たちやロイもその後を追いかけていったのであった。そしてロイの嫌な予感は見事に的中することになるのであった。