第106話 異界空間の運用能力者と魔法協会の異変?
ハーネイトが司会をする尋問会議はまだ終わる気配を見せていなかった。
「先ほども話したが、わしはクロークスと申す。DGや異世界からくる悪魔どもを倒す活動を私財を投資してやっておるものだ。それと、そこにおるエレクトリールの実の父でもある。娘と仲良くしてくれて助かる」
「父は私と似たような能力を持っています。そして、ハーネイトさんも」
クロークスは深々と座ったまま一礼をするも、正座座りに慣れていないのか、足がしびれて苦悶の表情を浮かべていた。そしてエレクトリールの言葉に伯爵が食いつく。
「あ、紫色の空間のことか? それなら俺も分かる。おっさん、あのでかいの出すときに紫色の門が見えたがそれのことだろ?」
伯爵がハーネイトを治療する前から、彼はその異界電脳空間のことを知っており、そこに自身の核となるものと無限炉を置いていたためそれと関係があるのではないかと尋ねたのである。
「伯爵さんまで? えーと、なぜ2人がある星人にしか扱えない能力を持っているかはさておき、父も戦いに加わりたいということです」
エレクトリールは、ハーネイトに続き伯爵もテコリトル星人と同じ能力を持っていることに驚きあきれながらも、自身の父を仲間に加えたいと全員にお願いした。
「マスターと伯爵の能力、気になるでござるな。拙者は構いませんが」
「これまた強烈なキャラクターが参入しましたね」
「国王さんの驚く顔、見てみたいぜ。と言うか師匠も戦艦とか呼べるのですか?そのクロークスのおっさんみたいに?」
南雲も風魔もマスターであるハーネイトが、あの戦艦を呼び出す力と同じようなものを持っていることに興味津々であった。リシェルはそれに合わせ誰もが気になっていたことをハーネイトに質問した。
「さすがにそんなものはない。その代わりに、あらゆる場所から大砲や伸びる大剣、それに今まで集めたアイテムなどを出せる。リシェルはゲルニグをハントした時に見ただろ?」
「ああ、あれですか。便利ですね。うらやましい」
「となると、私らを捕らえたあの鎖も、同じ原理なのですかい、大先生」
「そういう、ことだ。創金術とその次元の門は連携が可能みたいでね」
そのことに、怪盗3人組は改めて博物館で起きた出来事について納得した。
「なんでこのメンバーたち超人ばかりなのかしら、ねえ?」
「姉さん、気持ちは同じです。私たちがかすんでしまいますね」
「それはないよ。ここにいるみんなは、全員私が信頼を置いてともに戦える、それだけの力を持っている。だから、誇りをもって最後まで、完遂してほしい」
「そっか、そうだよね、えへへ。みんな、負けず劣らずの勇士だもんねえ。……ええ、できることを、みんな最後までやり通さないといけないわね」
「そうですね、姉さん」
「そう、だったな、師匠。俺は今、こうして憧れの存在である貴方と共にいる。それが答えだってこと、改めて理解した」
彼らの姿を見てミカエルとルシエルも、先にリシェルがハーネイトに言っていたように戦力として、自身らが力不足なのではと考えていた。しかし自分たちにしかできないことがまだあるとハーネイトが教えてくれたおかげで引き続き精進しようと二人は決意した。
ハーネイト自身、属性魔法は全般的に得意なものの、それ以外が若干不得意な一面もあり、それを自身の固有能力でカバーしていた。だからこそ、自身が苦手とする分野はこれから得意な仲間に任せようと考えていた。
何せ魔女の呪いで強化と回復を自身にかけても無効にされてしまう状態であり、自己修復を除くと他者の回復支援がないと運用が難しいと言う大問題を抱えていたため、味方の同業者がとても頼もしいと言う。
ハーネイトはもともと一人で仕事をしていたが、実際部下を運用する能力は低い方ではなく、むしろかなり高い水準にあった。
これはハーネイトがあまり堅苦しいのを好まないのと、大らかで器の大きい一面から来ているのもあるが、こうして仲間たちの不安を可能な限り取り除いたり、話を真摯に聞く姿勢がここに集う者たちの士気を間接的に上げていた。これも解決屋と言う仕事の中で培われた能力である。
だがハーネイトには過去に人間関係でひどく傷ついており、1人で仕事をしている方が気楽であったため部下もほとんど持たなかったのである。
「では、私たちは研究の方に入りたいがハーネイト、私たちの部屋と機材はあるのか?」
ボルナレロの言葉に、ハーネイトは可愛く笑顔で部屋を案内するとジェスチャーして、二人を連れて行き、残りのリシェルやシャムロックたちに自由行動を翌朝までしていいと指示をだす。そして部屋を出て3人はエレベーターで地下一階に向かうのであった。
「本当に、ハーネイト師匠は格が違うな。あそこまでの行動力、俺も見習わなねえと」
「ああ、しかし、前の上官と言うか上司はひどくてな。ノルマも厳しいし脅し暴力は常にあったし生きた心地しなかったね」
「無能な上司ほど最悪なものはないでござるな。その点マスターは流石だ。だが、少し抜けているところはありますがね」
ハーネイトたちが部屋を出ると、伯爵とリリー、怪盗たちはホテルの外に出て、残りは雑談や食事を楽しんでいた。そしてボガーノードと南雲はハーネイトについて話をしていた。各自がこうして羽を休めている間、ハーネイトはひたすら作戦を脳内で構築していた。
そんな中、リシェルはギリアムをつれて彼の妹、ローレシアのもとまで案内していた。すでに彼女
に連絡を取っており、ホテルの近くにある公園で待ち合わせをすることにした。
そうして日がよく当たる公園につくと、ベンチに座っていたローレシアがギリアムのことに気づき立ち上がり、彼の体をぎゅっと抱きしめたのであった。
「お兄さん、ご無事で何よりです」
「ああ、心配をかけたなローレシア。ほら、リシェルにもお礼を言いなさい」
「はい、リシェルさん。この度は誠にありがとうございました」
ローレシアはそう言いながらリシェルの手を両手で握手し、笑顔でそう答えたのであった。
「へへ、このくらいなんてことねえよ」
「ローレシア、もうしばらくこの戦いは続きそうだ。俺はハーネイトたちについていくつもりだ」
「また、行ってしまわれるのですか?」
ローレシアは、せっかく久しぶりに兄と再会できたのに、また戦いに身を投じる兄の姿を見て悲しんでいた。けれどもそれがいつもの兄らしさを見せ、彼女は心のどこかでホッとしていたのであった。その顔を見たギリアムが、自信ありげに彼女を安心させる言葉を口に出した。
「大丈夫だ、ハーネイトがいるなら負け戦にはならん。それに、もう一人じゃないんだからな」
「そうです、よね。無血のハーネイトという呼び名がありますものね。でも、気を付けてください。お二人とも。それと連絡はきちんとしてくださいね、お兄さん」
そうして彼女は静かにその場で一礼すると、公園から去っていったのであった。
「終わったら、休暇を取りたいね」
「妙なこと言ってくたばらないでくださいよ教官」
「いっぱしに言うようになったじゃねえかリシェル。お前さんこそ、焦って妙なことするんじゃねえぜ」
「了解っすよ、ギリアム教官」
そうして彼らは昼飯を食べるためシティの中央部にある食堂街に足を運び、ひと時の休息をとっていたのであった。
その頃バイザーカーニアではある報告を巡って内部で混乱が起きていた。
「ロイ首領、魔法協会の方と連絡がつかないって本当ですか?」
「ああ。もしやするとだが……」
ダグニスが報告のためにゴッテスシティにあるバイザーカーニアの本拠点に足を運び、ロイと話をしていた。
そこに構成員の一人であり、魔法協会の偵察に出かけていたリナ・マルクニアスという見習の魔法使いが帰ってきたのであった。
「ただいま戻ってきました」
「遅いぞ、それでどうなったのだ」
「やはり首領の予測通り、彼らの拠点は人っ子1人いませんでした」
彼女の報告によると、魔法協会のある街が廃墟と化し、だれもいない無人の街とかしていたというものであった。
「しかも血の匂いが凄くて……協会メンバーかなりやられてます的な?」
「おのれ……。そうなると敵は魔法使いを多く抱えている可能性がゼロではないな。でないとあんな場所、狙う理由がない。それと恐らく例の紅儡使い、あの血の魔人ってのが絡んでいるかもしれん」
「ハーネイトさんたちに伝えてきます。特にあの血の怪物絡みだと対抗できる人が少ないですし」
「ああ。そちらの方はよろしく頼むぞ。本当に、悪い話だ」
ロイは敵の魔法使いが戦力を補充するために、協会のあるマーカジャノの統治領、ハプテスネルグスを襲ったのではないかと考察し、それが事実なら厄介であると考えていた。
その街はこの星において、魔術が一番に栄えたところであり注意はしていたものの、先手を取られたことにロイは歯を食いしばっていた。ハーネイトから、敵がこの星出身の魔導師であることは聞いていた彼女だったが、敵の策により後手に回らざるを得ない状況に相当やきもきしていたのであった。
「面倒なことになってしまったな、ハーネイトちゃんよ。だがわしもただでは転ばんぞ! 元協会の6聖魔が1人として、魔法を悪用する輩に鉄槌を下さんとな! 魔法は、誰が為にある。ジルバッドの教えこそ魔法の果てにある真の理に一番近づくため必要なことなのじゃよ」
報告を聞いたのち、至急ロイ首領は彼女らに指示を出す。再度偵察ののち、協会の関係者の救助と保護。そして被害の実態の調査にあたるように命令を下したのであった。
また戻っていたダグニスにはある重要な任務を言い渡し、すぐさま彼女は部屋を飛び出していったのであった。
「これは一筋縄ではいかなくなってきたな」
「敵の戦力を削っている最中にこれですものね」
「でも戦うしかないぞ。そろそろ我らも動くかね」
部屋を出るダグニスを見送りながら、ロイとリナはため息をついていた。来るべき決戦の日が、近づこうとしていたことを彼女らは肌で感じていた。