第104話 ホテルへの帰還と宇宙快賊・クロークス
「いやあ、師匠。さり気に魔獣の素材を回収しているとは抜かりがないですね」
「そうかい? そういうところも大切なんだよ。取れるときに素材を取っておく。しかし乱獲もよくないが」
「そうっすね。しかしみんな寝ていますけど、みんなの戦いっぷりを見てますと自身のレベルがみんなに追いついていない感じがしますよ。失礼な物言いかと思いますが、全員人外ですよね。はあ……」
リシェルはトレーラーの上から魔閃で射撃しつつ、全員の戦いぶりを見ていた。それを思い出し、自身に出来ることの少なさがもどかしいと遠回しに言った。自身はただ遠くから脅威を打ち抜くことしかできない。魔法もまだまともに扱えないし、他に支援できることがないかと彼はもどかしんでいたのであった。
「それならリシェルも十分怖いがな。あれだけの魔閃を高濃度で発射できるのは流石、魔銃士だなと思う。あの魔閃の薙ぎ払い、見事だった。これからも支援砲撃はリシェルに任せる」
「えぇ、どういうことですか師匠」
「私は近接戦闘に持ち込んで切り込んだり、中距離から大魔法を使う戦い方が向いていると自覚している。それ以外のレンジをカバーできる存在はリシェルだけだ。シャックスは間合いが違うし、はるか遠くをぶち抜けるお前は貴重な戦力だと認識している」
「あ、ありがとうございます師匠。しかしスタメン落ちしそうならば、その時は」
リシェルは師匠の言葉を聞いても、それでも足手まといなら足切りをしてもかまわないと言おうとしていた。それを察したハーネイトはさらに彼を励ました。
「人には適材適所がある。誰にだって活躍の機会はある。大切なのはそれを掴み取る気概と強き意志だ。リシェルにしかできないことをただ、やればいい。支援狙撃、頼もしく思うぞ。日之国の時だってうまくやって見せたし助かった。誇りに思うがいいさ」
「そう、ですね。ありがたきお言葉ですね、師匠」
リシェルの不安に対し、ハーネイトはためになる助言を言う。それを聞いて、リシェルは改めて師匠であるハーネイトの底知れない器の広さに感謝と、わずかな恐怖を覚えていた。
「常に上を目指す志があれば、この先も強くなれる。己の力に満足し、完璧と思った時点で限界と言う壁に当たるんだ。それを忘れないでくれよ」
「はい、常に高みを目指し精進します」
「いい顔だ。ああ、シャムロック、眠いなら一旦トレーラー止めても構わないよ。運転、変わろうか?」
「いえ、問題ありません。あと3時間ほどでミスティルトに戻ります。問題はトレーラーの上にいる男ですね。カメラを起動して様子を見ていますが、ついてきそうです」
リシェルに上を更に目指すようにと諭しつつ、ハーネイトは運転で疲れているのではないかとシャムロックを気遣う。一応彼から車類の動かし方は習っていたため、スピードをあまり出さなければギリギリ酔わずに運転はできる。しかし彼は大丈夫だといいつつ、それよりも例の男についてが気がかりであった。
「まあ、あとでホテルに着いたら結束万布でも使って捕らえるか。聞きたいことがあるし、こちらも気を張り巡らせている」
「それがどうも、エレクトリールのお父さんとあの男は言っておりまして、あとで何か一騒動ありそうです」
「な……そうか、伝えてくれてありがとう。しかし彼女の父親、どういうこと?」
ハーネイトは車の上にいる謎の人物について考えつつ、シャムロックとリシェルと話ながら外の景色を見ていた。すでに夜は明け、透き通るような青空が一面に見えていた。
「いい天気だ。青空、ずっと見ていたい。何故だろう、青いものにいつも惹かれる。服だってそうだ」
空をずっと見ながら、少し表情が硬い彼は今後のことについて考えていた。攻略に必要なピースはそろった。後は動くだけと。もう隠れる必要もない。しかも宣戦布告が来た以上、早急に敵のペースを乱し戦いに終止符を打つことに専念する。そう彼は考えていた。
そうして一行は昼過ぎにミスティルトに到着し、すぐに事務所のあるホテルウルシュトラに向かった。
「お疲れ様です、着きましたぞ皆さん」
シャムロックの元気な言葉に寝ていた人たちが全員起きた。床やソファーで寝ていた人たちが背伸びをしたり頭をかいてから起き上がり車内から出ようとする。
「ふああ、着いたのですね?」
「うーん、よく寝たわ。ばっちしね」
「ではホテルの中に入ろうか」
そうして車外にぞろぞろと出てきたリシェルたちは、トレーラーの上に寝ていた男を見ていた。
「この男が、あの一撃を?」
「ん、んあああ、ふあああああ、よく寝た。誰だ?」
「それはこちらの言葉だ。幹部も含め、今からあなたを捕らえて尋問します。そもそのなんでトレーラーの上にいるのにセンサーに引っかからない?」
ハーネイトは強い口調で、トレーラーの上で寝ていた男をたたき起こした。そうすると、ゆっくり男は立ち上がり、髪を手櫛で整えながら少し寝ぼけた様子で彼らのほうを見ていた。
「やれやれ、わしの名はクロークス。クロークス・ヴァイレンファウレン・シュヴァルツ・フラッガだ」
「フラッガ? というか名前長っ、まさかそこにいるエレクトリールと何か関係が。リシェルの言ったとおりか」
「ご名答だ、わしはエレクトリールの父親だ」
「え、えええええええ!」
ハーネイトはトレーラーの上で非常に、驚きを隠せない表情で全員を見ていた。話には先ほど聞いていたが、これがエレクトリールの親と知り、驚愕を隠せなかった。
「何も驚くことはない」
「いえ、私も驚いてます。と言いますかなんでまだトレーラーの上にいたんですか? 父さん……あの日黙って私たちの前から姿を消したと思えば、どういう風の吹き回しですか」
エレクトリールの質問に、付け髭を優しくなでながらクロークスが答える。
「ああ、それは命からがらここに偶然来て、そこで娘たちの話をそこのソファーで聞いていたからだ。DGをどうするかどうのこうのとな。それで何をする気なのかが気になってな」
「はあ、本当にいつもいつも。皆さん、父がご迷惑をおかけして本当にすみませんでした」
「謝らなくていいさ。気づかなった俺らのミスだし、少なくともあの一撃は強烈だ。戦艦だったか、あんなん呼び出せるなんて半端ねえ過ぎるぜ。できることならもっと早くいってくれ、なんてな」
「とんでもない力を見たな。戦力として加わるならすごいっすけど」
彼女は父の言葉に続き謝り、隣にいたリシェルがやや悪ふざけをしながらクロークスのすごさを口に出した。
そう話していると、クロークスは飛び降りて、エレクトリールの前に来ると、強烈なパンチを彼女の顔にぶち当て吹き飛ばした。そしてホテルの植え込みに彼女の体が盛大に飛び込み、少ししてから殴られた頬を手でさすりながら現れた。
「おい、俺の仲間に何するんだ」
「ふん、家族の事情に割り込むな。俺は、娘がDGに入ったと言って失望したぞ。まあ、大王様まで入っていたのもあれだがな。なぜ入っていた、答えろエレクトリール」
「ぐっ、それは、それは……。1人が嫌だったから! 父さんだって私と母さんの事見捨ててどこかへ消えていったじゃないですか! 言える口じゃないです!」
「それは、ああ。DGがよからぬ計画を立てているのをわしはかなり前から知っておったのだ。30年前からな。それで、それを止めようとな」
クロークスというこの男は生粋の軍人であり、長らく防衛軍の中で働いていたがその中でDGの存在とその陰謀に気づき、仲間を集めこっそり対抗するための戦力を集めていたという。その影響で最愛の一人娘と別れることになったのだが、すべては彼女と星を守るための苦渋の選択だったという。
その中で、DGが変質していること。それがある人物の参入により引き起こされていると彼らは証拠を見つけたのであった。
「魔法使いはその時からいたのか。あれ、なんかおかしくないか。20年前の侵攻の時にてっきり宣戦布告した奴が合流したのかと思ったが」
「とにかく、父さんのことは嫌いです。私はハーネイトさん以外の指示は受け付けませんからね!」
「はあ、エレクトリール。確かにこのクロークスさんは君にひどいことをした。しかし彼も彼なりに恐るべき計画を阻止しようとしてくれたのだ。少しづつ仲直りしてみては? 思うところは、いろいろあるだろうけどね」
ハーネイトは両成敗ということで代替案というか仲裁案を二人に提示した。これ以上ここで騒ぎを起こされても面倒だと考えたからである。
「はい……ハーネイトさん」
「ふ、あんたの言うことならば一発か。娘はろくすっぽ話を聞かないことで頭を悩ませていたがな。しかし相当好かれているようだな。そこの色男」
しかし今度はハーネイトがそれにいら立ちを見せた。
「はあ? 私が色男? それなら伯爵とかボガーノードに言ってくれよ。絶対遊んでいるし。それと、ホテル着いたからみんな出て、ほらっ」
そういい、胸に刺したペンを手に取り振りかざし、5人を召喚した。
「ふああ、よく寝たぜ」
「ここは本当にどこなのだ……」
「開放、最高!」
「せめて布団くらい置いてよ……もう。体が硬くて痛いわ」
「そうですね。ハーネイト、もっと道具を置いてください」
呆然とするヴァン、眠たそうにしていたボガーノード。元気なユミロ。そしてあの異界空間の中に寝具がないと不満を漏らしていたリリエットとシャックスであった。
最初はあの空間が何か分からず結構動揺していたシャックスたちであったが、慣れると速いものですでにその状況に適応しているようであった。
「後でまとめて聞くから少し待ってね。はあ、1人でやらなきゃいけないこと多すぎるよ。3人の尋問、いやリリエットたちも含めそれと、手紙を送ることと、ボルナレロと打ち合わせ、次の準備、霊量子の訓練。頭吹きそう流石に」
「相棒、少しぐらい仕事回せよな。本当にワンマンでやってた悪い癖出てるぜ」
「ふん、こっちはこっちでみんなを率いようと工夫しているのに……、1人の犠牲も出したくない」
「だから、そう気負うなって。何のために俺らがいるんだよ」
まだ1人で背負いこむ癖が治っていないなと伯爵はそう思いつつ、ハーネイトにして気をするも珍しく拗ねている感じを見せていた。
「さっき言ったのはとても大切なことだからほかに任せたくてもだめなの。しいて言うと手紙の方はアリスに頼むとしても……」
「師匠、ひとまず優先順位を考えましょうよ。俺たちにできる仕事回してくださいって、終わったらきちんと報告します」
「そうなんだけどさ、うう……」
ハーネイトが少し駄々をこねながらもどうにかしようと考えていたが、リシェルの言うこともそうだと思い彼は少し黙ってしまった。
「主殿、少しくらい休息してもどうにかなります。それとクロークスか、お主は私たちの敵ですかな?」
そしてミロクが主を気遣いながらクロークスに質問した。ただモノではない。長年の経験からミロクは彼を特に警戒していた。まだ何か隠している。彼はそう直感でそう感じたのであった。
「いいや、味方さ。それと、ハーネイト。聞きたいことがある」
「何か御用ですか?」
「ああ、おまえさんがこのホテルのオーナーか?」
「正確には出資者だが」
「まあそれはよい、実はここのホテルの従業員に助けられてな。一度礼を言いたかったのだよ」
クロークスは、自身がDGを倒すため、かつて故郷の星に来た侵略魔たちを探すために仲間たちとともに宇宙快賊団を結成し長年戦っていたという。
しかし此度の戦いで白い男とDGの戦闘に巻き込まれ、3隻ある戦艦のどれもが大損害を受け、自身が次元力で戦艦を別空間に避難させながら、たまたま近くにいたアクシミデロ星に降り立ったという。
「あいつらか。私のお人よしが移ったのかな」
「とにかく、一飯の恩は忘れねえ。それとエレクトリール、先ほどから気になっていたがなぜここにいるのだ?」
「そ、それは」
父の言葉に、エレクトリールは今までの経緯を簡潔に話した。それを聞いたクロークスはハーネイトを見て握手をしようと手を出し、そっと彼もそれに応じた。
「なんと! ハーネイトが、瀕死の娘を助けてくれたのか。これはますます頭が上がらんな。感謝するぞ」
クロークスは礼儀正しく、勢いよくハーネイトに一礼してからハグしたのであった。よほどエレクトリールのことが心配だったのか彼は泣いていた。そして思ったより力が強く彼はやや苦しそうにしていた。
「まあ、成り行きと言いますか。あなたの娘さんは実に優秀で私も助かっております」
ハーネイトは笑顔でそう言い、みんなをホテルの15階にある事務所に連れて行った。彼らの疲れを早くとらねば、しかし今回の情報整理もしたいと考えた彼は脳内をフル回転させて思考を巡らせていた。