第97話 徴収官ボノフVSハーネイト&DG幹部
「さあて、貴様から先に倒してやるか」
「小癪な真似を! 小童なんぞこのわしがねじ伏せてくれるわ」
ボノフの衝撃拳をボガーノードは手にしていた細く長い槍一本で受け止めると、それを力任せに回転させてボノスの巨体を無理やりはじき返した。
「あの巨体をああもたやすくか」
「ぐおおっ、き、貴様を反逆者として処分する、後悔しても知らんぞぉ!」
弾かれたボノフが激高し、ボガーノードの目の前に瞬時に移動し上から強烈な一撃を加えようとする。それを見て、ハーネイトは右手を天に掲げ精神を集中させた。
「天鎖縛!」
イメージを完成させたハーネイトが目をかっと開きそう叫ぶと、廊下の四隅から4本の太い鎖がボノフの四肢に巻き付き動きを止める。
創金術は便利な物で、あらゆる場所から好きな物質を作り出し形作ることができる。
無論、術者の腕で何がどこまでできるか大きな違いがあり、古代人の力を持ち、長年能力を使用して、それでいて物質を構成する元素についての研究を怠ることがなかったハーネイトにとってこの程度は目を瞑った状態でも行使できるという。
中でもこうした鎖はハーネイトが得意とする具現物であり、その拘束力は山のような巨人ですら身動きを封じることができるという。
「震えろ、フルンディンガー。戦技・アズサユミ!」
さらに後方にいたシャックスがフルンディンガーを展開、そこから霊量子矢を散弾のように発射しボノフの胴体に無数の光の矢が刺さる。ダメージは微々たるものだが、動きを数秒止めることはできた。
「消えなさい、旧派の者よ!」
その間にリリエットがハーネイトたちの頭上を飛びながら、手にした剣で桃色の剣軌跡を空中で描きつつボノフの体を数回切りつけた。その一撃が入ったのか、ボノフの巨体がわずかによろめいた。
「お、おまえら! 揃いも揃って反乱とは許さんぞ!」
そう叫ぶボノフは攻撃を再度仕掛け、それをハーネイトが止める。その光景にボガーノードはフリーズしていた。同僚であり友達であるシャックスと、ボスの娘であるリリエットがその場にいたことに彼は驚いていた。
「シャックス! 生きていたのか」
「ええ。心配かけて済みませんね」
「へへ、そう簡単にくたばるたまじゃねえとは思っていたさ、この居眠り野郎がよう!」
「居眠りですか、私はただ糸目なだけなのですが……まあいいです」
ボガーノードは日之国の1件以降、シャックスが行方不明になりすごく不安にしていた。しかしこの場で再会することができ彼は非常に喜んでいた。
「へへ、こういう時ヴァリエットがいるなら心強いぜ。そしてなぜリリエットまで! お前何してんだよ」
「事情はあとで説明するわ。どうもボガーは魔法使いの洗脳は……」
「受けていないようだ。あの邪気を感じない。何か法則がありそうだな。精神力か、それとも対魔力じか」
ボガーノードはリリエットの方を向きなぜその場にいるのかを訪ねた。そんな中ハーネイトは彼が洗脳の影響をほとんど受けていないことを魔力分析で把握し、その原因を考えつつボノフの行動に逐一割り込み相手のペースをがたがたにする。
「おい、そこのあんた。なぜ俺の友、そしてその女の子と共にいるんだ、まさかお前……フューゲルから話を聞いた男か?」
「え、フューゲルのことを知って、ってっ!」
「ぐおおおおああああ!」
拘束されていたボノスが強引に拘束から抜け出そうとし、ボガーノードにのしかかるように襲い掛かってきた。
ボガーノードは廊下内が暗く、ハーネイトのはっきりした顔をまだ見ていないためよく見ようとしていたが、それを邪魔され槍を構え突進を防ごうとしていた。
「ちっ、創金術起動!」
ハーネイトはそれに対してすかさず右腕を金属の腕にし、素早く伸ばしてボガーノードを捕らえ、ボノスの攻撃をよけさせた。
「ぬ、俺を助けるのかよ」
「シャックスの友達、ということだろ? それよりも構えろ。連携しなければ厄介だぞ」
彼の言葉にボガーノードは思わず槍を再度構えた。
「しかしなんという質量だ。パワータイプが苦手なんだ。ユミロ、来て!」
「うおおおお! ようやくか。む、ボガーノード!」
「ちょ、おい! ユミロまでいるのかよ。ったく、行方が分からなくなったかと思いきやこうとはな。まあ、あとで聞こう。今はこいつを倒さねえとなぁ」
「全員、殺す、死刑だ! うおおおお! 組織の裏切り者はここで処分だ。塵と化せ! ヴィセロ・ランセヴァーダ!」
ボノフは怒りに満ちた表情を見せつつ、呼び出したユミロめがけて姿勢を低くしてから一気に、闘気を纏った体当たりをぶちかまそうとする。
ハーネイトが創金術を使い拘束した鎖をほどこうとしながら向かってくるボノフに、ユミロは手にした巨大な剣を振り上げ、突進しながらボノフの柔軟なボディに一撃を加える。
「ぐは、だが斬撃は効かん。があああああ!」
ボノフはユミロを吹き飛ばし、口に光を集めユミロとボガーノードに向け光線を放つ。
「させるか、紫の魔閃」
2人に向けて放たれた攻撃をハーネイトは魔閃で妨害し、そのまま魔閃を展開したままボノフの首元を切りつける。
「薙ぎ払え、魔閃斬!」
「ガフッ! 血が、血がああああ!」
「魔法はよく効くみたいだな。霊量子もシャックスの一撃が通っていたところをみてやはりなと。本来ならじっくり尋問したいが。ボノフ、すべて洗いざらい吐き出せば見逃してもいいぞ、なんてね」
「貴様が一番問題だ、写真の男! ハーネイトっ!」
ボノフのセリフを聞き、ハーネイトは予想していた通りすでに行動がばれていることを把握しながらも余裕の態度を崩さなかった。
「やはり敵に知られていたか。わかりやすくて助かる。しかし交渉決裂みたいだね。だったもう、用はない」
ハーネイトは藍染叢雲を静かに鞘から抜いて、刀身ではなく切っ先を天に掲げる。そこに周囲から光が集まり、それは巨大な光の剣になった。
「これは、霊量子の剣?」
「美しい、まるで月の光のように、はあ」
「こいつはでけえ、俺たちと同類かよ!」
「言え、それ以上のお方ですよボガー。彼こそ、希望を導く存在、いえ、希望そのものなのです」
「断ち切れ、弧月流・断月! 」
ハーネイトはその天井を突き破るほどの巨大な光剣を豪快に振り下ろし、その射線上にいたボノフを全力でぶった斬る。
「ぐおおおおおおお!」
光に体を焼かれ絶叫するボノフ。体には大きな斬撃の跡。それでもまだ力尽きない。ハーネイトはその耐久力を警戒していた。
「勝負あったな」
「ぐおおおお、おおおおおお、こ、これで終わりだと思うなよ! これを使えば、お前らなど木端微塵だぞっ!」
「しまった、デモライズカード! 使用させるかっ」
ハーネイトがペン型投げナイフを数発放ち、ボノスのデモライズカード発動を防ごうとするがそれよりも早くカードが体に張り付き、あっという間に彼自身の体に変化が生じ変身が始まった。
「あれは、研究部で開発していた曰く付きのアイテムか」
「嫌な、気がする」
「ああなっては止めるのは難しいな」
3人はボノスの変身を見て一旦後方に下がる。ハーネイトは以前同じアイテムを使用した連中よりも強く感じる邪悪な気に対するため、刀を手元で数回くるくると回してから突き出し横に構えるプリショットルーティーンにより神経を研ぎ澄まし意識を集中させた。
「解除するにしても、カードが見当たらない」
「もしやすると、あれは融合型か」
「何か知っているのか?」
ハーネイトの質問にボガーノードは手短に答え、ボノフの使用した代物は危険すぎると説明する。
「あれは一度使用すれば解除ができない強化型の変身札だ。しかし醜悪な」
3人は変貌したボノスの姿を見ていた。ユミロを大きく超える背丈に膨れ上がった背中の筋肉と棘、剛腕と化した両腕、厳つい悪魔の風貌。とても人間だったものには見えない恐ろしい姿であった。恐ろしい姿の変身と共に天井の一部が崩れ破片が地面に激しく落ち土煙が周囲を満たそうとしていた。
「ユミロ、お前ならあれをどうする?」
「止める、のは、難しそうだ。倒すしか、ない!」
「そうなるか、機械兵や魔獣はともかく、人はやりづらい」
ユミロに対する問いかけを聞いたボガーノードはハーネイトに少し呆れていた。
「おいおい、あれはもう怪物だ。倒してもどうにもならない可能性がある。それに奴を生かしておくわけにはいかねえ。あいつらが、他の星を食いつぶし多くの命を奪ってきた戦争屋の末裔だ!」
「やるしか、ないのか」
「ハーネイト、時には非常にならなければなりません。もう治療もできないでしょう、むしろここで葬った方が彼にとっても苦しみを和らげるかもしれません」
「シャックス……そう、かもな。っ、いやなことを思い出した」
ハーネイトはどうするか選択に悩んでいた。止めるか倒すか。それ以外の方法を考えている余裕はなかった。
そうして悩んでいたわずかな隙にボノフは理性を無くしこちらに猛突進を仕掛けてきた。
「翻ろ、紅蓮葬送!」
ハーネイトが瞬時に龍翼を広げ紅蓮葬送により防御の構えに入る。それから足の裏から金属のアンカーを形成し、一時的に足を固定しつつ、圧倒的な質量のボノフの巨体を受け止めた。しかし徐々に押され、体が後退されつつあった。
「ぐっ、なんて質量だ」
「マスター!」
ユミロがすかさず突進を抑えているハーネイトの背中に手を添えて支えつつ押し出そうと踏ん張る。
「2人がかりでやっとか、しかし変わった能力だ。首からマントが出て自在に動かせるのか。フューゲルの言ったとおりだ。しかも、あれはあの時見た龍の翼……まさか」
ボガーノードは2人が足止めしている間に再度に回り込み、ボノスの隙だらけの脇腹に強烈な蹴り、そして槍の一撃を叩きこむ。
「堅い、と言うか貫けねえ」
「このままでは、防戦一方だ」
ハーネイトは長期戦はまずいと考えていた。その時誰かの声がした。それはユミロにもボガーノードにも聞こえる程であった。この世のものとは思えない慈悲と殺気を含んだ厳つい声。しかしハーネイトだけは、その声の主を理解していた。