2.三組の脇役系主人公(友達)と一般生徒(オレ)
食事を終えたハジメは身支度を整える。その際は簀巻きの状態のまま他のアシさん達に仕事部屋に連行されていく残念なチーフアシさんなど見てはいない。
「母さん、背景は母さんのパソコンの方に送っておいたよ。」
ハジメが母親に伝える。
「ありがとう。ハーくんの背景はとっても上手だからお母さん助かってるわ。でも無理しないでね。私の仕事なんかよりもずっとハーくんの健康の方が大事なんだからね。」
息子を気遣うツバキに
「俺は母さんの一番、いや父さんがいるから二番目のファンなんだから休載なんかして欲しくないんだよ。だから、このくらいはどうってないよ。それに遅くまで起きてたのだって自分の事をやってたからだよ。」
ハジメが返す。
「そう?なら良いのだけれど。もうそろそろコーヘイくんが来る頃ね。ハーくん、気をつけていってらっしゃい。」
「ん、行ってきます。」
ハジメが家から出ると
「オッス、ハジメ。」
声を掛けられてそちらを向くとそこには母がコーヘイくんと言った少年、槙島 公平が立っていた。
「おはよう、コーヘイ君。今日は神谷君達はいいの?」
「あぁ、アレが毎日じゃ持たないからな。息抜きは大事だぜハジメ。」
続くコーヘイの愚痴を聞きながら三日に一度程度の頻度で登校する二人。そこに二組の男女、それぞれ、二ノ宮高校と三王寺高校の制服を着ている。[あっ、しまった]と思った時には既に遅く
「おい、不良野郎。ハジメに近付くなって言ったのにまだ寄ってくるのか?」
「あぁ?俺が誰と仲良くしようが勝手だろうがすっこんでろ!」
ニノ宮高校の不良で有名な剣崎 恭弥と一ノ瀬高校空手部のエースの巻島 公平は相性が悪く出来るだけ登校が被らないようにしていたのだが本日、ついに鉢合わせになってしまったのだ。
「コーヘイ君、キョウヤ君は噂の様なひどい人じゃないよ。」
「キョウちゃん、イライラしてるからって八つ当たりはダメだよ!」
ハジメがコウヘイをキョウヤを隣の女の子、水瀬 凪沙が宥める。
「アキラ君も見てないで手伝ってよ。」
ハジメが声を掛けた三王寺高校の男子生徒、藤村 玲は
「実に好都合だ。バカ共が勝手に潰し合ってくれればハジメの真の親友が俺である事が証明される。」
等と言うものだから三つ巴の戦いに発展しそうになった時、アキラを蹴り飛ばす三王寺の女子生徒。
「バカはお前でしょうが。ハジメ君が困ってるのが分からないの?さっさと行くわよ。」
女子生徒がアキラを引き摺っていく。
「マナさん、ありがとう。」
その後ろ姿に声を掛けるハジメに後ろ手に手を振り去っていくマナさんこと、藤村 真奈はアキラの双子の妹である。力関係は見ての通りマナの一人勝ちである。
コウヘイとキョウヤが未だに睨み合っていたが、ガンッと音が聞こえるような勢いでコウヘイの後頭部が殴られる。
「痛ってぇ〜何すんだよこの野郎!」
コウヘイが後頭部を抑えながら振り向くと長い黒髪をポニーテールに結んでいる少女が立っていた。
「何しているのかはこっちが聞きたい。まさか、喧嘩?だったら許さないけど。」
少女が喧嘩の相手を見る。
「あれ?キョウヤじゃない。もしかしてこのバカに絡まれたの?だったら私が謝っとく。それとおじいちゃんがそろそろ道場に顔くらい出せって。」
「面倒だから行かねぇよ。おい、ナギサ。そろそろ行くぞ。」
キョウヤは足早にその場を離れ、ナギサは少女に頭を下げてからそれに続く。
「おはようございます白峰さん。」
「ふぇっ?」
声を掛けられて漸くその場に居た最後の一人に気付く。振り返りその人物を見た少女、白峰 遥香は
「ハ、ハジッ、ッンン、く、黒ッ、黒木君、おはっ、おはよう!」
凄く動揺していた。左右をキョロキョロしていると、自分がコウヘイの首根っこを掴んで二発目を入れるために振り上げていた右手が目に入った。慌てて、コウヘイを突き飛ばして両手を後ろに隠すハルカ。
「おはようございます白峰さん。相変わらず、コーヘイ君とは仲が良いですね。」
改めて挨拶する今の今まで空気になっていたハジメ。ハジメの後半のセリフを聞いたハルカはと言うと
「そんな事は無いよ!一切、無い!」
赤くなりながら若干涙目で全否定した後、理不尽にコウヘイを睨む。
「白峰さんは、キョウヤ君とお知り合いだったんですね。あぁ、キョウヤ君の言っていた道場って白峰さんの所だったんだ。」
「あれ?黒木君はキョウヤと知り合いなの?」
「はい、キョウヤ君は友達です。」
「ハルカちゃん、おっそいよ〜。」
ハジメと話していたハルカに後ろから抱きつく新たな少女。
「ちょっと、危ないでしょう!」
「えへへ、ごめんなさ〜い。コーヘイくんも見つかったんなら早くガッコーにいこ?」
話を続ける少女に
「ちょっと待って、今、黒木君を話しているところだから。」
断りを入れるハルカだったが
「ん?誰も居ないよハルカちゃん。皆、来たし、いこ?」
「え?」
言われて振り返るとそこには誰も居ない。ハルカがキョロキョロしていると
「ハジメなら先に学校に行くってさ。何でも用事を思い出したんだと。」
頭をさすりながらコウヘイが言う。
「そう。」
コウヘイの言葉に寂しそうに学校の方を見るハルカであった。