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コロン関係

Leonardo-zero:BC600-BC1200-

作者: RYUITI

この作品はシェアワールド、

コロンシリーズの参加作品です。


いつのモノか曖昧な、記憶に残され記録された。

いつかの黄昏の空に似た景色を観ながら、思う。


この世の中には尽きないモノがたくさんある。空気、植物、大地。ああは言ったが、けれどいつかは尽きるだろうと考えて良い。自然発生的に生まれたとしても、産み出されたとしても、

ソコには必ず尊さがある。何も特別な事はないし、何にでも特別と讃えられる。唯々、時間を進む。


其れがこの黄昏の色に染まった大地の中に息づく生物の生き方なのかもしれない。

この考え方に至るまでにナニかの研鑚を積んだわけでも、ナニかに執着して突き進んだわけでもない。



生物とは生と死を繰り返して記録して記憶して、其れを流々と廻らせていく。

そんなことを考えるようになったのは、私が今よりも少年だった頃、獣の赤ん坊を少し離れた場所からゆっくりと眺めていた時のある出来事がきっかけだった。子供心にその愛らしい姿をもっと眺めていたいと思った事が、知らぬ間に獣の赤ん坊の近くに進んでしまっていた要因となる。愛らしくあくびをする獣の赤ん坊に微笑みを浮かべていたことで、後ろから私に近づいてくる大きな獣の存在に気付くことは無く、あの時の大きな獣が私を視認した瞬間から赤ん坊に害を為そうとしている者として眼に映っていたとしたら、其れはもう攻撃をする理由付けには充分なモノであっただろう。集中が切れるのと同じくして、ガサガサという音を聞いた私はハッとして後ろを向こうとして、身体を動かした瞬間、唐突に私の背に熱い痛みがとても強く襲ってきた。

多く咲き伸びる草と土の上に力を入れることの無いままに倒れ伏せた私の身体は、痛みが襲ってきた時と違い恐ろしく冷たさ、寒さを感じている。私はそもそも大地を駆け廻るやんちゃな子供では無い。だとしても感じたことの無いこの喪失感と侵食する感覚の中で大きく動いたのは、恐怖という子供の身体では背負いきれない程大きなものだった。痛みと寒さに苦しみながら、怯えながら腕に力を込めて立ち上がろうと考える度に、後ろの方で草のざわつく音と獣の足音が耳だけではなく背中に、頭に、身体の芯に響く。その度にもちろん意図している訳ではないのに身体の震えが大きくなる。【怖い】【寒い】【怖い】途切れることの無い感情に溺れる様な感覚のまま、生ぬるい湖に沈んでいるような感触にハッとして眼をギョロギョロと動かすと、赤い液体が服を肌に、土にと染み流れていた事に気が付いた。その瞬間、先ほどまで募っていた寒さと怖さを抜いて、膨大な死の感覚と感触を見せつけられた。その瞬間、

【好き好んで注意を怠ったが故にこの状況を引き起こした自分は自業自得】なのだと。小さな獣の赤ん坊を愛でている感情も、すれ違えば自らよりも下に見ているのかもしれないと、自らよりもちっぽけな存在なのではないかと。そう思って憐れんでいたのではないか。これに近い事を考えていた覚えがある。

生ぬるく赤い液体はどれだけ物事を考えていても、侵食からの進み、歩みを止めることは無く、

腕の方で触れた時、生にいくらすがっても、奇跡など起こる訳がないと思った私は、

眼をつぶり、身体から先ほどよりも不自然に脱力することを決めた。

これが幼い自分への、辺りの人間たちが言っていた「不用意に遠いところに言ってはいけない」という忠告を聞かずにいた罰なのだと。そう思い考えたからだ。傷の程度も分からない子供の自分からしてみたら、痛みの強さと血の感じから直ぐに死を直結させることが出来るくらいなのだから自分はもう【絶対】死ぬものだと思っていた。

だが――。


一瞬、音が無音になった。

最初から最後まで聞こえていた草の揺れる音。

自分の背に痛みを付けた観る事の無かった獣のザワザワとした足音。

血についている肌から自らに響く、自分の心臓の鼓動さえも、聴こえない。


かすかに聴こえたものと言えば――。

先ほどまで温かい気持ちで眺めていた、獣の赤ん坊の寝息だけだった。


何故それだけが聴こえたのか。


人の気も知らないで、安らかに、柔らかに寝息をたてる事で、

当てつけをしているのかとも思ったが、そうじゃない。


安心している、生きているからこその眠り。

何故だかそう感じた。


時が止まった中で何故だか私は獣の方を向いた。

其処には、もやのかかった白い球体のようなモノが獣と自分の間に浮かんでいて。

――――不思議と恐怖も焦りも無かった。だから立ち上がれる。自分の血だまりを気にすることも無く、なんとも言い難い気持ちに動かされるようにして、その球体のようなモノに、足が、手が、

気持ちが伸びていく。

ゆっくりと、ゆっくりと。

すり足でありながら、ぽっかりと穴の開いた感覚の、気持ちのまま歩き続けて。


ついに、得体の知れないモノの前にたどり着いた。


何を感じたのか何を思ったのか、記憶にない。


と、本来なら言うような状況になったのかもしれないが。

結論を言うと、得体の知れないモノに触れた瞬間、

何か言葉を投げかけられたわけでは無かった。

だだ、漠然と、しかし流動的に、

【生も死も儚く、だからこそ美しい。生物同士での記録が己が役目だと。】

そんな事を身体の奥底から脳に至るまで伝達の根を張られたような感覚があった。

時間にしてどれくらいその得体の知れないモノに浸っていたかどうかは判らない。

ただ、その後に観た、黄昏に染まったような金色(こんじき)の空が、

私の記憶にこびりついて離れなかった。

それからというモノ、私は他民族を問わず、会話を、身振りを、表現を。

記憶するように心がけた。


オリーブの木が少しずつ、伸びるように、

きっと私たちも育っていくのだと思いながら。


私は今日も、あの空を思い出しながら、

眼に浮かぶ軍勢の映像を振り払う。


今は懐かしいこの記憶の名は、レオナルド・ディ・ゼーロ・オリーブ。


この記憶は、この思いは。

遠くない時を経て、次の木へと、次の芽へと移る。





柔らかな水音が辺りに染み流れる中で、

分厚い硝子の球体水槽に、入った一つの人型の少女が居た。


いつの間にか、水槽を心配そうに見上げる一つの影が、

「丈夫に育ってくれよ」と呟いた。


その言葉が辺りに反響する前に、

その影は声をかけられる。

「当主、十三機関、CRONは安定しておりますので、

どうぞ、お休みになってください。」



名残惜しそうな表情を向けた後、

部屋には長い静寂が訪れる。


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