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お題25『桃太郎』 タイトル『サラリーマン桃太郎』




『社会の縮図なんて、昔から何も変わっていないさ』











 むかーしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。


 おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行かずに自宅でアフィリエイトをして稼いでいました。ええ、おじいさんの年金では生活が苦しかったからです。


 ですが、たまたまおばあさんが川でゴージャスにバカンスを楽しんでいると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きなピーチが流れてきました。


「おや、これはいいブログネタになるわ」


 おばあさんは大きなピーチを拾い上げて家に持ち帰りました。おばあさんは全国ジュニア・アマチュアレスリング・準決勝進出した若きホープだったので軽々と持ち上げることに成功しました。そのままソープに流れたのは別のお話です。


 おばあさんは早速、桃を食べるため手刀で切ってみると、なんと中から元気のいい男のベイビィが飛び出してきました。


「これはきっと、キリスト様が下さったに違いない」


 ベイビィのいなかったおじいさんとおばあさんは、大喜びです。ええ、おじいさんに種がなかったからです。ピーチから生まれた男の子を、おじいさんとおばあさんは桃太郎と名付けました。


 桃太郎はスクスク育って、やがて強くてクールでスタイリッシュなデキる男の子になりました。



 そしてある日、桃太郎がいいました。


「ぼく、鬼ヶおにがしまへ行って、悪い鬼を退治します。それから会社をおこします」


「まあ、それは、いいね!」


 おばあさんはツイートするようにいいました。おじいさんも賛成し、彼の荷造りを手伝うことになりました。


 おばあさんは彼のためにビジネススーツと、スマートフォン、そしてきびダンプリングを用意しました。



「きびだんごでいいだろう!」



 おじいさんが突っ込みましたが、どちらにも無視されてしまいました。ええ、収入の差で家庭内権力に差が出てしまっているのです。



「じゃ、行ってきます。アディオス!」



 おばあさんとおじいさんは二人で彼を見送りました。するとおじいさんは背中に張り手を喰らいました。



「あんたも行くんだよっ!」



「え?」


「桃太郎が心配じゃないのかい? あんたは影でこそこそするのが向いているから、ちゃんと隠れて私にメールするんだよ」

 

 張り手を喰らったおじいさんは頷くしかありませんでした。


「りょ、了解です」


 おじいさんは扱ったことがないガラケーを手に入れて桃太郎を追跡することにしました。身を隠すのはお手のものです。ええ、山に芝刈りに行くというのは嘘で、いつも青姦スポットを探していただけなのです。


 こうして桃太郎 no featuringじいじの旅は始まったのです。



  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 鬼が島へ向かう途中、犬に出会いました。


「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」

「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」


 桃太郎は答えましたが、二つのことに違和感を覚えました。


 なぜ犬が話せるのかということと、自分の名前を知っているかということです。


「それでは、お腰に付けたきびだんごを1つ下さいな。お供しますよ」



 ……明らかにおかしい。



 桃太郎は訝りました。何の躊躇もなく黍だんご一つで、鬼と戦うことを証明しようというのです。何が目的なのでしょう。


「いいよ、これで君は僕のパートナーだ」


 桃太郎は黍だんごを一つ掴み、彼に分け与えました。



 ……こいつは鬼のスパイだな。だが逆に利用してやる。



 桃太郎は平然としながらも、彼に安心感を与えるために黍だんごを渡しました。


「ありがとうございます」


 犬は黍だんごを貰い、桃太郎のお供になりました。


 犬を引き連れて進んでいくと、次にきじに出会いました。


「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」


「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」


「それでは……」


 そういう前に桃太郎は黍だんごを一つ取り、雉に分け与えました。


「ありがとうございます」


そういって雉は黍だんごを食べた後、何もいわずについてきました。



 ……やはり、この世界はおかしい。



 桃太郎は二匹のお供に疑いを持ちながらもスーツの中に隠し持ったナイフを思い出し心の隅に留めておきました。



 ……この流れだともう一匹くら来るだろうな。



 桃太郎は残り1つになった黍ダンプリングを見ながら思いました。



 ……次はどいつだ。



 歩いていると、様々な野獣が黍ダンプリング欲しさにこちらを見ています。ライオン、虎、象、ゴリラ、猿、狐、兎……。


 きっと動物を刺激する何かがこの中に練りこまれているのでしょう。おばあさんは一体何者なのか、謎が深まります。


 桃太郎は最後の黍ダンプリングを天に掲げました。


「これが……最後の一つだっ!」


 皆、よだれを垂らして黍ダンプリングを狙っています。その中でお供に連れていけそうな者を探ります。


 この中では猿がよさそうだと目星をつけます。知恵があるため、鬼と戦う時に都合がよさそうだと思ったのです。またナイフで太刀打ちできるのは猿まででしょう。


「猿、お前が来い」

「ありがとうございます」


 猿は嬉しそうにこちらにきました。黍だんごを渡すと、嬉しそうに頭を下げて一口で食べてしまいました。


「よし、じゃあ鬼ヶ島へ向かおう」


 全員に向かっていったつもりでしたが、誰一人返事は返ってきませんでした。



 ……やはりおかしい。



 桃太郎は訝りました。最初の犬から何も言葉を発しなくなっていたのです。もしかすると、この黍だんごは強制的に鬼ヶ島へ連れていく道具なのかもしれません。



 ……家来が多いのはいいが、会話ができないのは困るな。



「……ようやく、じいじの番じゃな」


 桃太郎が考えていると、森の影からおじいさんが現れました。


「よし、もう一匹お供を探そう」


 桃太郎はおじいさんの存在をなかったことにして、先ほどの動物達から一匹、お供を選ぶことにしました。


 そこで目に止まったのが狐でした。



「ルールル、ルールル……」



 桃太郎は得意の歌声で狐を誘惑しました。なんと狐が仲間になりたそうになっています。


 近づいてきた狐は自己紹介を始めました。


「大柴と申します。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 こうして桃太郎は4匹のお供を引き連れることに成功し、鬼ヶ島へ向かうことにしました。



 鬼ヶ島付近の海岸沿いに辿り着き、桃太郎は会議を始めることにしました。


「大柴さん、ここから鬼を懲らしめる方法はないですかね?」


「そうですね、少しシンキングしてみます」


 大柴さんは英語が得意でした。最初は全く使うそぶりを見せなかったのですが、桃太郎が話せることがわかると、彼は躊躇いもなく使うようになりました。


「思いつきました」


 狐は頭を指でなぞりながらいいました。

「まずここから海底ケーブルを作りデーモン側へデリバリーしましょう。電波が届くようにしてテレフォンでネゴシエートするというのはどうでしょうか?」


「グッド!」


 桃太郎は親指をぐっと立てました。直接行かずに成敗するためにはやはり音で勝負するしかないと思ったのです。


「では海底ケーブルは?」


「犬とそこに隠れているじいじにコミットしましょう」


「海底ケーブルを作った後は?」


「雉にトランスポートさせましょう」


「グッドグッド、超エキサイティング!!」


 桃太郎は某ミニサッカーゲームのCM解説者のように興奮しました。これで鬼に電波が届けばそれで試合終了になるのです。


「しかし、デーモンがトークできない時はどうしたらいいのでしょう?」


 桃太郎が不安そうに聞くと、狐は親指を立てました。


「海底ケーブルができるまで、雉と猿はアクティブできません。そこで猿を鬼ヶ島へ向かわせてラングエッジを習得させるのです」


「しかし猿は……」


「大丈夫です」


 狐は動揺せずおじいさんの方を見ました。

「じいじはピンクの兎と共に隠れています。ピンクの兎は英語が得意なので、連れていけばノープログレムです」


 そうなのです。おじいさんは一人で寂しくて兎を連れてきてしまっていたのです。



野葉のばと申します」



 兎はおじいさんから離れこちらにきました。


「是非、協力させて下さい。私も鬼を懲らしめて裕福な生活がしたいのです」


「では、猿は?」

「英語習得後、猿のトークスキルで知恵をゲットして貰いましょう」


「グッド!」桃太郎は即座に了承しました。



 海底ケーブルを作り、おじいさんと雉で鬼ヶ島までケーブルを繋げる作業に入りました。もちろんおじいさんにはそのまま鬼ヶ島に住んで貰う予定です。


 数ヵ月後。


 海底ケーブルの施工が終了し、おじいさんのガラケーに電話をすると、電波が届くようになりました。いよいよ、作戦スタートです。


「あーもしもし、私、桃太郎と申します。突然のお電話、申し訳ありません。今、時間大丈夫でしょうか?」


「はい、お世話になっています。小暮といいます」


 鬼は礼儀正しく名前を名乗ってきました。兎の力が発揮されたようです。


「ええと、端的に申し上げますと、おたくの方から苦情が来ております。何でも私の方の国境線を犯し、領海へ侵入した後、物や人を奪うなどされておりまして、私、非常に困っているのです」


「そうだったのですね。それは本当に申し訳ありません」


「そこで提案なのですが、もしよければおたくと条約を結べないかと思っております」


「といいますと?」


「お互いに会社を興し、労働に従事し、お互いの国の利益を結べないかなと思っております」


「ははあ、なるほど」


 鬼は非常に理解が早く、この電波で話せることに興味を示していました。猿の知恵も効いているようです。


「私、実はこの携帯フォンというものを扱っている者なのです」


桃太郎は鬼に伝わるよう自信を込めていいました。


「どうです? 悪い話ではありません。国が豊かになれば、おたくにいる方達も盗みなどしなくて済みます」


「承知しました。ではその様に取り計らうことにします」


「ありがとうございます。それでは一度、ここで切らせて頂きます」


「あ、すいません。じいじがお話があると」


 桃太郎が電話を切ろうとすると、じいじが取り次ぎました。


「桃太郎、わしは……」

「じいじはそのままバンブーでも切っておけばいいですよ」


 そういって桃太郎は電話を切りました。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ご苦労様です、桃太郎さん」


「ああ、大柴君のおかげだ、ありがとう」


 桃太郎は額の汗を拭くと、ネクタイを緩めました。


「しかしここからが重要だね」

「もちろん、シンキングしています」


 狐は臆することもなくいいました。


「海底ケーブルはヒットしています。なので後はテレコム技術だけあればいいのです。もちろん最初からLTEなどの最高のテクニックを教えるのではなく、ポケベルレベルからリードしていけばいいかと」


「なるほど、それでじいじのガラケーを持たせたわけだ」


「左様です。テレフォンだけできればいいのです」


 狐は頷きながら続けました。


「後は彼ら二人は鬼ヶ島に残し、発展途上国としてキープして貰いましょう」


「しかし彼らにはパワーがあるよ。ちゃんとフォローしてくれるかな?」


「もちろんそれについてもシンキングしております」


 狐は冷静にしたたかな笑みを浮かべて続けます。


「犬を在中させて警備を強めましょう。雉は伝令係として我々の間を行き来して貰います。最悪、彼らがレボリューションを興そうとした時にはブラックシップで脅せばいいのですから」


「グッドグッド、超エキサイティング!」


 桃太郎はにやりと笑いました。


「まさしくガラパゴス諸島のモンキーというわけだ。大柴さん、あなたこそまさにデーモンだといわざるおえない」


「とんでも御座いません。お互いにウィンウィンになればいいのですから」


「ですが、向こうのウィンはとてもリトルにするわけだ」


「左様でございます。是非ピーチ社を設立しましょう」


「イエス、ウィーキャン!」


 彼らはお互いに笑いあいながら腕を組みました。


 まさに鬼畜の所業、桃太郎は狐の高笑いを見て、ここに本物の鬼がいると確信しました。





読んで頂き、ありがとうございます。

また会えることを願って。

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