46話 夜空
数分後シグとミスティの話し合いは全て正論で返すミスティにシグが拗ねて自室に戻ったことで決着がついた。
自室に走りながら「呪ってやる!!」と捨て台詞を叫んでいたのはドールの特性を考えるとシャレにならない気がした。
個人的にはドールの戦闘に興味がないわけでもなかったがいずれ見る機会もあるだろう。
シグの駆けていく背中を見送ったままの僕とロータスにミスティは気を取り直す様に咳払いをして声をかける。
「こほん、それでは行きましょうか」
「あ、はい」
先ほどのやり取りのせいで未だに微妙な雰囲気の中ミスティは飛行型マシナリーを自身の背中に接続する。
蒸気のシューという音とともに次第に周囲の温度が上がっていく。
「起動します」
そうミスティが告げた直後飛行型マシナリーの両翼に1機ずつ取り付けられたプロペラが風切り音を立てながら高速で回転する。
そうして無事起動したのを確認するとミスティは僕とロータスを両脇に抱え込む。
え、こういうのってなんか命綱てきなやつで固定したりしないんですか?
そう僕とロータスが口に出す前にミスティは「発進します」とだけ告げてプロペラの回転数を上げながら外へと飛び出す。
ないんですね、わかります。
無言で僕とロータスは諦めた。
そして飛び出した僕たちはまっすぐプロシャンへ向かって飛び立つ……ことはなく真下に落下していく。
助走をつけていなかったしこうなることは当然なのだが、ゲームだしその辺何とかなるだろうと油断していた。
ていうかこれやばくないですか?
一人冷静に今の状況について考えているとロータスが叫び出す。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!これ絶対死ぬ!!」
「うるさいです」
それに対してミスティは鬱陶しそうに言い放つとロータスを抱えている左腕をギチギチと音を立てながら締め上げる。
「グェ…」
ロータスは苦しそうな悲鳴をあげるとそのまま静かになった、ロータスのステータスを確認すると気絶のバッドステータス……。
ミスティ怖ぇえ。
そんなやり取りをしている間にもプロペラの回転数を緩めることなく更に落下していく。
そして地面に激突するまであと数mというところでミスティは勢いよく進行方向を上方へと反転させる。
先ほどまで落下が嘘だったかのように一気に高度が上がっていく。
ある程度高度が上がったところでミスティは飛行型マシナリーが水平になるように姿勢を調整する。
「すごい……」
いつの間にか起きていたロータスが流れていく夜の風景を見て感嘆の声を漏らす。
確かに絶景だ、小さく見えるエーアストにはいくつもの灯りが見て取れ空に目を移せば降ってきそうなほどの星々。
「何がすごいのですか?」
周りを見渡す僕とロータスにミスティは不思議そうに尋ねる。
「この景色が」
ロータスは一言そう返すとミスティも納得したようにうなずく。
「そうですね、私もこの景色は好きです、ただ高い場所にいるというだけのはずなのに地上とは全く違う世界に居るような、そんな気分になります」
こうして僕らはしばらく作戦の事も忘れて流れていく風景を楽しんだ。




