44話 蒸気と衝撃と
そんなこんなでロータスと共にヤタガラスの本部へ。
受付へ行き用件を伝えるとすんなり通される。
建物の奥の手動式エレベーターに乗り込みハンドルをせっせか回して最上階へ、前回来た時にアリスが言っていたように思ったよりはハンドルは軽かった。
最上階のしん、と静まり返った廊下の一番奥の扉の前に立つ。
特に緊張する理由はないのだがこういう場所というか雰囲気はどうしても緊張してしまう。
まぁ先ほどの通信のせいで少し悪い予感がするというのもあるにはあるのだが……。
さて、気を取り直して扉をノックする。
すると扉越しにギルドマスターであるシグの返事が……。
返ってくると思った瞬間プシューという薬缶で湯を沸かした時の様なかすかな音が聞こえ、直後に目の前のドアが弾け飛ぶ。
粉砕されたドアがこちらに吹き飛んで来るのと同時に自動迎撃が発動した。
咄嗟にロータスを後方へと突き飛ばし自分も横に避けようと考えるがドアの破片と蒸気の様な煙の向うに何かを振りかぶる人影が見えた。
間に合わないと判断して咄嗟に左腕を翳して防御する。
蒸気を纏いながら飛んで来た何かは想像したよりも早く左腕に衝撃を与えた。
加速された知覚がメキメキと左腕を鋼鉄の様な硬さの人の腕が砕く音を捉える。
そしてその衝撃を抑えることも出来ずに後方へと吹き飛び突き飛ばしたはずのロータスの横を通り過ぎエレベーターの格子状のドアに大きな音を響かせてぶち当たる。
一体何がどうなってるんだ?そんな顔をしているロータスと目が合う。
いや聞きたいのはこっちなんだけど……。
ともかく直ぐに自分の状態を確認する。
左腕の籠手は砕けて使い物にならない状態で左腕も恐らく(じっさいにそんな経験したことないし分からないが)骨まで粉砕されている。
左腕は欠損ペナルティ無効の効果で直ぐに回復するだろうからいいとして籠手を破壊されたのは地味に痛い、金銭的な意味で……。
確認を終えて立ち上がろうとした時大分薄れてきた蒸気の向うから声が響く
「ご主人様、敵を排除しました」
透き通るような、けれどどこか機械的な冷たさを感じさせる声だった。
「うん……まず敵じゃないから、あと排除も出来てないから」
シグの声だった、うんざりした様な呆れたような声。
「そんなまさか、確かに今最大出力の一撃を食らわせたは……ず……あー……」
言いながら完全に晴れた蒸気の向うに立つ人影がこちらを振り向き気まずそうに言葉を濁す。
「ご主人様、敵を排除します」
簡略化されたメイド服の様な服を着た女性がコホンと咳払いをしてから何事もなかったかのように言う。
「だから敵じゃないっての!!」
そんな女性の頭に叫びながら跳び蹴りをかますアンティークドール。
ガンッと以外にも硬質な音を響かせたがあまり効果はなさそうだ。
二人のやり取りを眺めている間に左腕も治っていた。
立ち上がると砕けた籠手が床に落ちガシャリと音を立てる、これは新調するしかなさそうだな……。
未だに床に倒れたまま訳が分からないといった表情をしながら破壊されたドアの奥とこちらを見ているロータスを起こして廊下の奥の部屋へと向かう。
「なにがどうなってんの?」
ロータスが問いかけてくる。
「いや、僕もよくわからない」




