35話 始まりの街への帰り道3
最近文章が短い話が多いので少しづつでも元の長さに戻さなければ……
見知らぬ町の自警団の詰所にて何故か強面の自警団員達に囲まれて質問をされている。
目の前の団員は疲れた様子でため息を吐きながら質問を重ねる。
細かな部分は違うが代替聞かれている内容が同じ事でループしているのだから精神的に疲れるのも分かるのだが、こちらも本当のことを言っているだけなのでこれ以上どう答えていいのかわからない。
「それで?なんで街に突っ込もうとした?」
「突っ込もうとしたわけじゃないんですけど少し加減を間違えて……」
「お前は少し加減を間違えただけであんなスピードで走れるのか?いくら吸血鬼って言っても俺が知ってるやつにそんな馬鹿げた身体能力を持った奴はいないぞ?」
「他の人と比べたこともないので分からないですけど……」
「はぁ……この街へ来た目的は?」
通算62回目のため息を吐く団員、ため息を吐くと幸せが逃げていくというけれどその話が本当ならこの団員は向こう数年分の幸せを取り逃がしているのではないだろうか?NPCに幸せなんてものがあるのかはわからないが……。
なんて暇すぎて団員の吐いたため息の回数を数えながら既に定型文と化した答えを言う。
「たまたまこの街を見かけたので立ち寄ってみようと思っただけです」
数度目の同じ答えに団員が盛大に溜息を吐き頭を抱えたところで部屋のドアがノックされる。
「誰だ、今取り調べ……失礼いたしましたディサロ少尉」
ドアの近くにいた団員がうんざりした様な態度でドアを開け、ドアをノックした人物を確認するや否や直ぐに態度を改める。
だが最初の態度が気に入らなかったのかディサロと呼ばれたその男は不機嫌さを隠すことなく要件を告げる。
「誰だじゃねぇよ、何時まで取り調べに時間かけてんだタコが、そいつにちょっと用がある」
そう言って僕の前までくると
「ついてこい」
とだけ言って先に部屋を出てしまう。
慌てて後を追い無言で先を歩くディサロの後ろを黙ってついていく。
大した時間はかからずに別の部屋へと通された。
殺風景と言うほどではないが物が少ない部屋だ、応接用の物と思われるソファーと執務用であろう机がぽつんと置かれている。
中に入ってドアを閉めるとディサロは直ぐに口を開く
「単刀直入に聞く、お前はコルヴォ・ホーカーという名前に心当たりは?」
ここでコルヴォさんが出てくるのか、というかフルネームは知らなかった。
「コルヴォさんを知ってるんですか?」
「こっちの質問が先だ」
ディサロは手でソファーに座るのを勧めながらも厳しい口調で言葉を重ねる。
「心当たりも何も何度もあってます」
「コルヴォの事はどこで知った?」
「エーアストでコルヴォさんから訓練を受けていたので」
「なるほど……この街へ来た目的は?」
ふむふむと頷きながら質問を重ねてくるディサロ
「エーアストに帰る途中に見つけたので寄っていこうと思っただけです」
「お前、この辺のことは知らないのか?」
「知らないも何も始めて着た場所ですから」
「なるほどな、なら出してやるからそのままエーアストに帰れ、用がないならこの街には残らない方がいい」
よくわからないが僕を騙そうとしている訳でも無さそうなので素直に忠告を受け取っておこう。
「分かりました」
「何かコルヴォに伝言はあるか?」
コルヴォさんに伝言……つまりディサロはコルヴォさんと連絡を取る手段があるということか、ひょっとするとコルヴォさんもこの近くにいるのかもしれない。
だが今は用事がある訳でもない伝言は特にない。
多少言いたいことはあるがそれは次に会った時に直接言えばいいだろう。
「いいえ、特には」
「そうか、なら直ぐに出るか」
「はい」
ディサロさんに連れられて自警団の詰め所を出る。
そのまま街の中を突っ切って僕が突っ込んだのとは逆側の入口まで案内される。
来たときは自警団員に連れられていたのでよく見ていなかったがこの街はエーアストと比べて余所余所しいというか排他的な雰囲気を感じる。
それが、この街の設定なのかゲームの進行度的な意味で此処にいるのが相応しくないという暗示なのかは分からないが、次にここを訪れるのは当分先の事になるだろう。
「じゃあな……とまだ名前を聞いていなかったな同胞」
同胞?どういう意味だろうか、と疑問に思っていると彼の口元にちらりとだが吸血鬼特有の牙の様な犬歯を見て取れた。
「ベルです」
「俺はディサロだ、次合うときはもうちょっとましな状況で会えることを期待してるぜ」
「同感です」
「じゃあな」
「ええ、それでは」
ディサロさんに見送られて街を出る。
この出会いが後にこの仮想世界でどんな結果を齎すのかは分からないが、ディサロさんとは近いうちにまた会う様な気がする。




