34話 始まりの街への帰り道2
とぼとぼとエーアストにむけて歩きながら何か移動手段はない物かと考える。
と言っても僕が持っているスキルで移動に使えるのは絶影だけなのだが……。
先ほど分かったことだが絶影は長距離の移動には向いていない。
というのもどうやら絶影の落下には空気抵抗が作用しないらしく速度が上がり続けるのだ。
なぜそんなことに気付いたのかと言えば経過時間と移動距離からなのだが、自由落下時に空気抵抗があれば速度は人間なら体重にもよるが時速100~200km前後で空気抵抗により加速しなくなるだろう。
それが先ほどの移動では3分足らずの間に100kmを移動しているので時速5000km前後で移動していたということになる。
空気抵抗がそもそもこのゲームの物理演算から除外されているのか絶影だけ空気抵抗が無いのかは不明だが……とにかく長距離の移動に絶影を使うのは能力の制御的な意味であまりよろしくない。
なら短距離の移動ならどうだろうか?
空気抵抗のない自由落下は質量に関係なく落下距離、落下速度は重力の強さと経過時間で決まる。
10秒程度なら移動できる距離は500m程度で速度も時速350km前後、逆向きに絶影を発動して速度を殺せばある程度制御できるのできそうだ。
という訳で試してみた。
軽くジャンプしながら絶影を進行方向に発動させて10秒後に絶影の効果を逆向きに掛ける、速度が落ちたところで絶影を解除して地面に着地してさらに速度を殺す。
上手くいった、傍から見ると相当へんな動きで高速移動しているのだろうけど、かなり上手くいっている。
計算上最高速度は350km程だが平均時速は150kmちょっとといったところだろうか、これなら40分ほどでエーアストに到着するだろう。
早々に移動についても解決して鼻歌交じりに絶影の高速移動を繰り返していると視界にウィンドウがポップしてきた。
内容はというとロータスからのメッセージで
「おきた!!」
という簡潔過ぎる物だった。
それに対して簡単な現状報告を書いて返信すると直ぐに
「じゃあ頑張って帰ってきてねー」
と返ってきた。
まぁいつも通りの反応だ。
そんなこんなで20分程移動していると街が見えてきた。
エーアストまではまだ距離があるので知らない街だろう。
少し寄ってみるのもいいかもしれない、ロータスへの連絡もしてあるし多少帰るのが遅れても問題はない、というか今日約束がある訳でもないので今日中に戻ればいいのだ。
そう考えて絶影の発動時間をさらに短くして速度を落としつつ見知らぬ街へと向かう。
十分に速度を落としたつもりだったのだが感覚がマヒしていたのか街の入口で止まることができず勢いよく転がって街の中へ……突っ込むことはなく門番と思われる兵士二人の交差させた槍に勢いよくはじき返される。
「ぶべっ」
「何者だ!!」
起き上がるのも待たずに誰何の声が響く。
「通りすがりの吸血鬼です……」
何とか起き上がりつつ返したのだが
「吸血鬼?怪しいな、ちょっと一緒に来てもらおうか」
何か間違えたのだろうか?直ぐに取り押さえられてしまった……。
なんだろう、今日はひょっとして厄日なのだろうか?




