26話 戦果報告
グール達の鹿解体ショーを横目に軽く挨拶を交わして洞窟へ入り自分の部屋へ。
ロータスはまだインしていないようで寝袋の中ですやすやと寝息を立てている。
吸血鬼は睡眠が必要ないので野営用のアイテムは必要ないがパーティーを組むなら持っていた方がいいかもしれない、街に戻ったらその手の店を覗いてみるか。
そして部屋に用意されたベッドロールのアリスもまだ夜明けまでだいぶ時間があるので起きてくる気配はない。
話し相手もいないしやる事もないし暇だ、もう少し街の方で時間を潰していた方が良かったかな?
何か暇つぶしはないかと考えながら洞窟の天井を見上げていてふと思いつく、そういえば新しいスキルはまだどれも確認していない、絶影とか天井を歩けるらしいしここでも試せるかな?
という訳で試してみた。
絶影はパッシブスキルなので自分で発動したりする必要はないが、逆にどうすれば使えるのだろう?こういう感覚的なものってきっかけがないと使いにくいからアクティブスキルであった方がありがたい気もするんだけど。
そんなことを考えながら試しに壁に手をついてみると軽く磁石同士をくっつけたときの様な感覚。
地面から足が離れた瞬間体がふわふわと浮き上がりそのまま壁に手をつけたままバク転の要領で天井に足を付けると蝙蝠のように宙吊りの状態になった。
重力の影響がないようで逆さになった時の頭に血が上るような感覚はない。
なるほど、これは楽しい。
少しの間壁や天井をピョンピョンと移動しながら遊んでいるとふと視線を感じた。
天井から宙吊りの状態で視線を感じた方向を見遣ると
「なにやってるんですか……?」
驚いているような呆れているようなすごく微妙な表情をしたアリスがこっちを見ていた。
「いや、覚えたスキルの練習をだね……」
アリスには言い訳のように聞こえるかもしれないがあながち嘘でもない、天井や壁を飛び回ってある程度絶影の特性も理解できた。
絶影によって重力は無効化されているが体が常に浮くわけではなく一番近い接地面か自分が意識した方向に対してある程度引き寄せられる様だ。
アリスに言い訳をしているとロータスがログインしたようで起き上がって周囲を見渡す、その視界にアリスを捉えるとそのままアリスの視線の先の僕へと目を向ける、どうやら僕を探していたようだ。
「なにやってんの?」
天井に蝙蝠のようにぶら下がる僕を見て微妙な表情で問いかけてくるロータス。
「いや、新しいスキルの練習をですね……」
先ほどアリスとしたやり取りをロータスとしつつ地面に降り、朝の戦果報告で話を逸らす。
二人に夜の間に受けたクエストでレベルアップしたこととクエスト中にあったことを話す。
「どうやらグランドクエスト絡みみたいだね」
そう言いながら僕の取り出した計画指示書を眺めるロータス
「グランドクエストって?」
聞きなれない単語に疑問符を浮かべているとロータスが説明してくれた。
「グランドクエストっていうのは普通に受けるクエストとは違うこのゲーム通してのストーリー要素のクエストの事だよ、グランドクエストが進行するとこのゲーム全体に影響するもので場合によっては街一つが消えたりなんかもするらしいよ」
なるほど、盗賊の振りをしてた軍人は大げさなことを言ってたと思ったのだがそうでもなかったのか
「てことはアリスって実はけっこう重要な立ち位置だったのか?」
「ほえっ!?」
僕がそういうと話に全くついてきていなかったアリスが変な声を出す。
「重要というかアリスはグランドクエストに気付くきっかけみたいなものかな?」
ロータスはそれを無視して話を進める。
「なるほど」
「まぁそれはさておきこれからの行動によっては組織やその傘下のギルドと敵対したりなんてこともあり得るかもしれないね」
「今のうちにどこに所属するかも考えておかないとか……」
「今すぐにってわけではないけどね、先片付けるべき問題はアリスのほうかな?」
「あぁ、早いとこウェルターさんと連絡が取れればいいんだけど」
「じゃあ取り敢えず街に行ってみようか、いなかったらいなかったで情報集めればいいし」
「そうだな」
という訳で街に戻ることになった。




