17話 列車の旅とトラブルと3
二人に盛大に突っ込まれた後ウェルターさんから話を聞いたところこのうさ耳の女性NPC……アリスはウェルターさんの所属する暗殺者ギルドの裏切り者として追われているそうだ。
何故裏切り者として追われているのかと言うとギルドの資金を持ち逃げしたそうなのだがウェルターさんがそれそ口にしたとき
「私はやってない!!騙されたんだ!!」
と声を上げた。
アリスの話を要約すると匿名の依頼人から仕事の依頼があった、相手の素性も分からないし怪しいと思ったもののそこそこ報酬が良かったのでその仕事を受けた、指定された場所で荷物が来るのを待っていたら何者かに襲われて気が付いた時には裏切り者として自分の所属するギルドのメンバーに囚われていた、なんとか隙をついて逃げてきて今に至る。
と言うことらしい、だがこの場合判断材料がないのでこのアリスの話の真偽は分からない、信じるか問答無用で連行するのか…。
ウェルターさんとしてはこのまま連行した方が面倒はないだろう、アリスの話を信じて真犯人を追ったとして捕まえられる保証もないし嘘だったらそれこそ骨折り損なのだから
「どうすっかなぁ…」
頭を掻きながら溜息を吐くウェルターさん
悩むにしてもこのままという訳にもいかないので取り敢えずアリスの太ももに刺さったままの鏃を抜こうとアリスに近寄る。
するとアリスは怯えたような表情で後ずさる。
さらに一歩近づくとアリスも同じ距離だけさらに後ろへ…。
ふと右腕を見て思いつき右腕のアンカーショットから伸びるワイヤーを掴んでから距離を詰める。
「ぎっ…あぁあああ!!死にたくない!!死にたくない!!助けて!!」
アリスは下がろうとするが太ももに刺さったワイヤーを引っ張られているせいで動けずついに叫びだす。
「ベル君何やってんの?」
ロータスの視線はどことなく冷たかった。
こちらから近寄ることはあきらめて少しかわいそうだが、ワイヤーを巻き取ってアリスを引き摺りよせる。
当然泣き叫んだりしていたが気にしていると何もできないので無視してアリスを捕まえるとその太ももに刺さった鏃を引き抜いた。
途中で恐怖のあまり漏らしていたようで、なんか香ばしい匂いがしていたがそれも無視した。
そしてそのまま屋根に居るのも何なので、逃げようと暴れる微妙にアンモニア臭いうさ耳のアリスを抱えて後方の貨物車両へ
貨物車に入って一息ついたところでアリスの太ももからどくどくと流れ続けている血が目に留まる。
このままという訳にもいかないので治療しようと思ったが自分のポーチにはアンデット用のポーションしか無かった。
「ロータス、獣人用のポーションって持ってるか?」
ロータスに一応持っているか聞いてみる。
「いや、僕は人間用のポーションしか持ってないけど」
まぁこの際仕方ないか、人間用でも獣人にある程度効果はあるらしいし
「獣人用ポーションなら持ってるぞ」
と思ったのだがウェルターさんが持っていた、獣人なのだから当然と言えば当然か…。
「じゃあ1つ売ってくれますか?」
「いや、一つくらいならタダでやるよ、そいつの治療に使うんだろ?」
「いえ、傷を負わせたのは僕ですから」
「気にしなくてもいいと思うけど律儀な奴だな…まぁそういうなら」
こういうゲーム内のアイテムの取引と言うのは大切な事だ、ゲームによってはクエストでの報酬の分配でギルドが1つなくなったりするのだから、仲良くしたい相手とは特にこういうことには気を使わなければならない。
ということでウェルターさんから買い取ったポーションをアリスに差し出す。
「え?」
うさ耳のアリスは僕がポーションを差し出した瞬間ビクンと身体を震わせて怯えるようなそぶりを見せたが僕が手に持っている物を見ると不思議そうな声を上げた。
「要らない?」
僕が問いかけるとアリスはおっかなびっくりと言った感じで、ポーションの小瓶を受け取る。
アリスは警戒しているのか蓋を開けるとそのまま飲まず中身の匂いを嗅いで本当にポーションかどうか確認してからポーションを口にした。
アリスの傷口がゆっくりと塞がっていっくのを確認してふとこのゲームに魔法はないのにポーションの回復はどういう原理なのだろうかと思う。
「どうすっかなぁ……」
ひと段落付いたところでウェルターさんが先ほどと同じことを口にする。
「アリスの話を信じたとして、このままウェルターさんがギルドに連れて帰った場合ってどうなるんですか?」
「んー、多分だがその真犯人ってやつを見つけない限り拠点の地下牢行きは間違いないだろうな……その後どうなるかは正直分からん」
流石にそれは話が本当だった場合は可哀想だと思うがアリスの話を信じるにはやはり材料が足りなさすぎる。
「ロータスはこの話どう思う?」
と言うことでロータスに丸投げしてみた。
「どうって?」
「アリスの話が本当かどうか」
「嘘はついてないと思うよ、とっさにあんなにポンポン話が出てくるなんて思えないし」
なるほど、確かにそういわれればそんな気もする、まぁNPCなので何とも言えないが。
アリスの話を信じるとして問題はウェルターさんか、ウェルターさんは依頼を受けてアリスを追ってきたわけだ居るかどうかも分からない真犯人を追ってアリスを見逃せば依頼の報酬は手に入らないのだからウェルターさんとしてはこのままアリスを連れて帰りたいだろう。
「ウェルターさんちなみにこの以来の報酬ってどのくらいですか?」
「金貨5枚だが……」
金貨5枚……決して低い額ではないが僕の所持金的には十分払える。
「では依頼分の報酬を僕が払うのでアリスをここで見逃してギルドに真犯人の存在を伝えてもらえますか?」
「ちょっ……ベル君何考えてるの?」
ここまで割と静かだったロータスが口をはさんでくる。
「このままアリスが冤罪で連れていかれるのはなんか後味悪いだろ」
「だからってベル君がお金払ってまですることでもないだろ?」
「僕がしたいからやるだけだよ」
「はぁ……後悔しても私知らないからね」
ロータスは諦めた様に溜息を吐くとぷいっとそっぽを向いてしまう。
だが今はロータスの機嫌を取るよりもウェルターさんへの確認が先だ。
「それで、ウェルターさんどうでしょう?」
「まぁ、俺はそれでいいけど、本当にいいのか?」
「ええ、お金には多少余裕があるので」
「俺が見逃したところで、ギルドのほかのやつに見つかったら面倒なことになるかもしれないが」
「一応隠れ家に充てはあるのでその辺も大丈夫かと、まぁできればその辺もウェルターさんから上手くギルドの方に言っておいてもらえると助かりますが」
「わかった、だがあまり期待はするなよ?」
「ええ、構いません、では依頼報酬分の金貨5枚」
アイテム欄から所持金を選択して金貨五枚をアイテムパックから取り出してウェルターさんに渡す。
「確かに、じゃあ俺は早速ギルドに戻って真犯人のことを伝えてくる、ベルも早めにそいつを安全な場所に連れてってやれよ」
そう言い残すとウェルターさんは貨物車の扉を開けてそのまま列車っから飛び降りる。
ワーウルフってあんなことも出来るのか……吸血鬼のステータス的には獣人より高いはずなので僕も出来るかな?
アクロバットとパルクールのスキル補正もあるので行けそうな気がする。
そんな事を考えているとロータスが機嫌の悪さを隠すこともなく口を開いた。
「はぁ……それでどうするんだい?この子を連れたままじゃおちおち観光もできないよ?」
忘れかけていたがこの列車に乗ったのはそもそも次の活動拠点になるであろう街を下見しに行くことが目的だった、確かにアリスを連れたままでは難しいかもしれない……。
それでロータスは不機嫌だったのか……?
なんて思考を巡らせていると当事者であるアリスが困惑気味に口を開く
「えっと……これってどういうことになったんでしょう?」
全く話についてこれていなかった!!
割とボケキャラで扱いも可哀想なアリスさん、個人的にお気に入りのキャラなのです




