15話 列車の旅とトラブルと1
屋台の串焼きを頬張りながら歩くロータスに連れられて駅へと向かう。
昨日も同じものを食べていたな……気に入ったのか?こういうのをみると少し自分の種族だと普通の食料アイテムの味を感じないのは少し残念だと思う。
それも獣人の血の瓶を一気に飲み干すと忘れてしまう程度には単純なので問題はないのだが…。
ロータスが串焼きをすべて食べ終えるころに駅に到着して受付で切符を購入、乗車賃は一律銅貨5枚と結構良心的な価格だった。
列車は24分毎に来るらしくなんでそんな中途半端なと思ったがよく考えればこのゲーム内の時間は現実の24倍、つまり現実世界の1分毎ということらしい、1日中走っているらしく午後10時から午前4時までは48分毎にに1本だそうだ、深夜も運行しているとなると現実世界の電車より快適なのでは…?と思ってしまうのだが日本の電車が夜間に運行していないのは整備のためとどこかで聞いたことがあるので安全性を求めるならそういう部分は仕方がないのだろう。
タイミングが良かったのか駅の構内に入ってから5分ほどで列車が来た、先頭車両はゲームの時代設定的にまだエンジンは発展途中なのでディーゼルエンジンやましてや電動ということはなく煙突からしゅぽしゅぽと蒸気を吐き出す蒸気機関車で、木製の客車が8つと後方に2つほど貨物車が付いたそこそこ趣がある。
上機嫌なロータスに急かされつつ列車に乗り込み適当な席に着く
「現実だとこういうのが見れるのは嵯峨野ぐらいか…?」
内装を眺めてさらに上機嫌になるロータスに声をかけると不思議そうな顔でこちらに振り向く
「どこそれ」
「知らないか?京都の嵯峨野ってとこにトロッコが走ってるんだよ、割と観光地としては有名だと思うけど」
「こんな感じ?」
「だいたいはな、こっちの方がちょっと大きいけど」
「嵯峨野かぁ…ちょっと行ってみたいかな」
「いつもの家族旅行?」
「ううん、今年は受験終わるまで旅行は無しかな」
「ふーん、ていうかよく考えたら受験生なのにネトゲなんて始めちまっていいのか僕ら…」
「まぁVR空間で時間加速させれば時間なんていくらでも作れるからねぇ…どこぞの国立大目指す奴なんてほとんどの奴が違法スレスレのラインまで加速できるソフト使って勉強してるとか、もともとあそこ目指せるような奴らは海外の大学目指して同じことやってるってんだからもう笑えないよね」
「大抵の奴はできることはやるだろうさ、僕はもともと行けそうなとこ選んでるから学校の課題ぐらいでしかVR空間で勉強なんてしてないけど」
「私も似たようなもんだしそうじゃなきゃオンラインゲームなんてこの時期に始めたりしないって」
「それもそうか」
「それより、受験が終わった後だよ」
「終わった後?」
「受験終わったら次は卒業だろ?卒業と言ったら卒業旅行だ!!」
「一緒に行く友達いんの?」
「居ねぇよ!!言わせんな!!」
相変わらず悲しい奴だった。
「ボッチで卒業旅行って辛すぎないか……?」
「はぁ……まぁいいや」
そう言うとロータスはさっきまでの上機嫌が嘘だったかのようにフイッと外の景色をつまらなそうに眺めだした。
なにか怒らせるようなことを言ったか……?
と思ったが数分して列車が駅を出て窓の景色が流れだすと再び上機嫌に戻ったので問題はないようだ。
ロータスの機嫌が直ったのはいいのだが隣の街までの2時間ほどやる事がなくて少し退屈ではある。
窓の景色をぼーっと眺めながら時折ロータスと話しつつ30分程たった頃、それは起こった。
「キャー!!」
惚れ惚れするほど典型的な女性の悲鳴、ドラマとかでもよく聞くような完璧なその発声にあ、これNPCの悲鳴だななんて考えていると、後方の車両から数回の発砲音にガラスの割れる音やドタバタと何者かが暴れる音、さらに究め付けに車両の天井を走るような音まで聞こえてきた。
「今の何だろう?」
退屈しきっていた所に事件が起こってどことなく嬉しそうなロータス、流石に不謹慎だと思う。
「さぁ?行ってみればわかるんじゃないか?」
「だよね、これは日頃の行いが良い僕らが暇を持て余してるのを見かねた神様からの贈り物だよね、見に行くしかないよね」
そんな贈り物あってたまるか…。
とは言ったものの実際暇なのは変わりないしゲームのイベントにしろプレイヤーの起こしたことにしろ何があったのか確かめるくらいはいいだろう、プレイヤー同士のいざこざとかに巻き込まれるのは御免だがイベントなら何かの報酬だってあるかもしれない
奇襲に対応するために僕が前に立って後方車両へと向かう、開ける前にロータスにアイコンタクトで一度確認してからゆっくりとドアを開け連結部分に誰も居ない事を確かめてから外に出る。
後ろの車両に飛び移って先ほどと同じように警戒しながらドアを開けると客車は至る所に銃撃によるものと思われる風穴が空き窓ガラスは割れ、僕たち居た客車と同じものとは思えないようなありさまだった。
ぱっと見誰もいないように見えたのだがそうではなかったらしくゆっくりと進んでいくと席の間で頭を抱えてうずくまっている乗客が数人いた。
近くでうずくまっていた女性にロータスが話しかける。
「何があったんですか?」
「後ろの車両から男の人が来て一番後ろの席の人と何か話してたんですけど……いきなり撃ち合いが始まって……そのまま窓を突き破って二人とも外へ……」
「そうですか……ベル君取り敢えず屋根に上ってみよう」
結局何も収穫はなかったのでその二人がまだいるかもしれない屋根に上がる事に、連結部分から上ろうとするのだがここで問題発生、強風で煽られてフードが捲れてしまう。
まだ時間は1時過ぎなので当然太陽が照りつけてきて視界の端にある自分のステータスにバッドステータスがさらに重い物へと変化する。
ロータスに少し待ってもらってアイテムパックから遮光ジェルを取り出して瓶に入った紫色の花の様な匂いのするジェルを露出している顔や手にペタペタと塗っていく、ジェルはすぐに馴染んでベタつきなどもなくなる。
バッドステータスが完全に消え去ったのを確認してロータスに頷くと屋根に上がる。
一瞬誰もいないようにも思えたが前方の車両の方へ目を凝らすと誰かが倒れているのが目に入った。
屋根の端から今にも落ちそうなその人の手が動いたのを確認してロータスと僕はその人の元へ駆け出した。




