愉快な (熊井視点)
連続投稿二話目
案の定、トイレの中はもぬけの殻だった。
あのガキ、やっぱり諦めてなかったな。最初から門を強行突破するつもりだったみてぇだし、本当に油断ならねぇ奴だ。
それに、律儀に置き手紙までしていきやがった。
「えーと、『あなたといることに(時間の浪費的に)疲れました。(後で)実家に帰らせてもらいます。(私の目的達成のために)探さないでください。』だって」
「さり気なく、()でアレンジしてるな」
「言ってる場合か。探しに行くぞ!」
えー、でも昼休憩がーとか言ってる宇佐美には、とりあえず拳骨をかましとく。パワハラ?知らねぇな、んなこと。
木佐は素早くしっかり後片付けをして準備をする。そうそう、こういうところをもっと宇佐美は見習えって言ってんだが………?
「………何やってるんだ?木佐?」
「?お菓子を持って行ってます」
「………なんで、飴やらチョコが必要なんだ?」
心底木佐は、俺が何を疑問に思って尋ねているのかが、分からないみたいだ。真面目そうな面で困惑した目を向けられると、こっちが間違ってるんじゃないかと思わせられる。
っていうか、宇佐美の野郎が面白そうに、ニヤニヤとこっちのやり取りを傍観しているのに、一番腹が立つな。………もう一発逝っとくか。
「餌付けですが………?」
まさかの答えだった。視界の端で宇佐美が腹を抱えて笑い転げる姿が映ったが、敢えて無視する。
餌付けという発想はどこから来たのか。だが確かに言えることは、俺は何も間違っちゃいなかったということだ。
木佐は仕事に関しては真面目でいい奴だが、たまに天然さを発揮して突飛押しもねぇことをしでかす。今回も木佐持ち前の天然が裏目に出たらしい。
「あー………ちなみに聞いとくが、その菓子でどうするつもりなんだ?」
「はい。誘き寄せます」
そう言って、至極真面目に菓子を持ち上げる木佐。
違う。そうじゃない。もっとそこに至った経緯をだな………。
「ねえーねえー木佐ー?why?how?」
妙に発音が良くて逆にうざったく感じるが、まさに俺が聞きたいことなので宇佐美のことは無視する。
木佐だって何らかの考えがあって、餌付けという、普通じゃ考えつかないことを言い出した筈だ。宇佐美のように、面白そうだからという愉快犯ではない。
「ああ。あの子供はきっとお腹が空いてると思ったんだ。朝から気配が動いてなかったし、子供の体力からして、もう昼も過ぎたから食べないときついだろうからな。それに、俺たちが弁当を食べている時、途轍もなく物欲しそうな視線を寄こしていたからな」
「………ああ!確かにめっちゃ視線感じてたけど、あれ、くまさんじゃなかったんだねぇ!」
「おい、何で俺がお前の弁当なんかに物欲しそうな目をせにゃならんのだ」
「いやー、もう子供に『おじちゃん』なんて呼ばれるような年になっちゃったけど、未だに独身だからー、俺の真心込めた市販の弁当を…――――すんませんでしたっ!拳骨はマジで勘弁してくださいッッ!!」
クロスさせた両手で頭をガードしている宇佐美のガラ空きの腹にお見舞いする。
がはっ………とか言って大げさに倒れる宇佐美のことは放っておく。今、重要なのはお前じゃなく木佐だ、木佐。
たく、あのガキだってこの時間だけでどこまで行くのか………はあ。
「………あのな木佐、まずはその菓子と、手に持っている竹かごは置いて行け、な?あのガキだって鳥じゃないんだから、お前の考えてる罠じゃ捕まえられんぞ?それに、それで捕まったらガキが傷つくだろ?菓子はな、学園の生徒が拾っちまうかもしれんし、虫が来るかもしれないからやめておけ、な?」
「………はい、分かりました」
………ああ、うん、話の通じない奴じゃないんだよな、木佐は。だが、ちょっと名残惜しそうに竹かごを見るのはやめような?
床でぷるぷる震えてる宇佐美は踏みつけても問題はない。むしろ、俺が木佐を諭すために優しく話しかけるごとに抑えきれない笑い声が漏れ出てるから、蹴り倒してもいい。
はあ………とりあえず、あのガキの行きそうな場所に当てはあるからな。そこら辺を重点的に探すとするか。
「木佐………ぬいぐるみもいらねぇし、毛布もいらねぇ。手ぶらでいいから。余計なもん持っていくな、な?」
「あっはははははは――――ッ、いてっ……!!」
ありがとうございました。