お兄さんたちと私の攻防
コロコロと、ローラースケートを滑らす音が鳴る。
ゴーグルを装着した視界でも何の問題もなく周りを見ることができた。
音に気付いて彼らはこちらを見た。私を見ると、彼らは目を丸くしたが、すぐにほっとした表情になった。
―――今だ
私は重心を前に倒し、地面を思いっきり蹴った。ガツンと小気味良い音が鳴り、次いでゴロゴロとローラーの部分とアスファルトの激しい摩擦により起こる音が勢いよく鳴りだす。
―――ふふふ、子供だからと言って油断してはいけないのだよ。
門の前にいる二人は正面から真っ直ぐに直進する私を見て目を見開いた。
私は彼らが突然の事に唖然としているその隙を見逃さず、さらに地面を蹴って加速し校門に接近する。だが、門の番人だっていつまでも呆けているわけじゃない。
あと五メートルのところで再起動した守衛が私の前に立ちはだかる。たかが五メートル、されど五メートル。幼児で幼女の私には小さい体が、足の幅がもどかしさを生む。
だが、小さい体は大きな相手の盲点を突く事もできる。
「あの子供、こっちに向かって来たぞ!?」
「何だ一体!?おい!止まれっ!!」
手前に真面目そうなお兄さん、奥に軟派そうなお兄さんが位置した。
二人が伸ばした四本の腕が私に伸びる。結構な速度で走る私を体を張って受け止めようとする猛者はいない。どのくらいの速さかっていうと、自転車の平均速度ぐらいか?実際測ったことがないから断言は出来ないが、私だったら突進してくる(例え幼児でも)奴を受け止めたいとは思わない。痛いからな、確実に。ヘルメット(硬い)も装着してるからな、痛みは倍だ。
最初に立ちはだかるは、真面目そうなお兄さん。
私の肩辺りに腕を下げて止めようとしてくるが、伸ばした足の間、股の下ががら空きだ。
「なっ………!?」
あと少しで触れる瞬間、左足をさらに前に出し斜めに身を屈めたスライディングが、迫る手を空振りさせ、驚愕に見開かれた目を横目に見ながら大きな巨人の下をくぐり抜ける。
「俺に任せろっ!」
次の軟派そうなお兄さんは私の行動に咄嗟に反応し、さらに身を屈め腕を下げた。
それを予期していた私はスライディングの体勢のまま、相手の手が足の近くに来た瞬間を見計らって右側に体を倒し、地面に両手の指先を突きそこを支点として体を思い切り捻った。これによって遠心力をもって体は左回転し、お兄さんの手は私を掴むことなく空を切る。
「はあっ!?何、今の………!?」
半回転したところで体を起こして、すぐにお兄さんの手が届く範囲を離れるために地面を蹴る。続けて、瞬時に左足を軸として体ごと右足を移動させる。そして、一分にも満たない一連の出来事に固まった二人の守衛さんを置いて私はもう目前にある校門を目指して地面をさらに力強く蹴る。
―――ああ、あと少しだ。これで、あの桜が見れるっ………!
………これが私の甘さだったのだ。眼前のものに気を取られ、前世の影響を受けた子供の精神が気を緩めてしまっていた。遠足は家に帰るまでが遠足だというのに。
読んでいただき、ありがとうございました。