邂逅
ある春の日。私はひっそりと明かりが照らす細道を歩いていた。照らされた桜が、風に揺られて私の足元へ散っていく。
私、笠山千春は夜道を歩いている。塾終わりの帰り道。
どうしようもなく、暗い夜。月は木々に隠れて見えない。
周りに人はいなくて、ただ静けさだけが漂う。恐怖心が心を覆う。
いつもは迎えに来てもらうのだけど、今日は両親の仕事が長引いてしまったらしい。
遅くなるけどに迎えに行こうか、と言われたが、断った。見たいテレビがあったから。マジかよー、とも思ったけど、声には出さず。
さらに強気にひとりで帰れるから、と言って。
でもね、それが間違いだった。
空には星が淡く輝いている。冬はもっと綺麗に見えたのに。
少し視線をそらせて、月を見るとそこには、満月が輝いていた。
そうしているうちに家の近くの公園が見えて、ああ、あともう少しで家に着く。
安心して、そう思った時だった。
「ああっ、、」
風がそよいで、葉の擦れる乾いた音がした。
声がした方を振り向いて見ると、人らしき影が見えた。よく見ると、男の人が、後ろを向けて立つ女の人の首筋に、口元を寄せていた。
闇の中。
薄く街灯に照らされて、重なり合う影が地面に写る。
何をしているのか、よく見えなかった。けれどなんとなく淫靡で、その場を立ち去ろうとした時。
男の人が、ゆっくりと顔を上げた。
歯が、光を 反射する。
目が合う。
……!!
私のよく知る人がそこには、居た。
なぜ、なぜ?
彼・・有馬雪は私を見て静かに微笑んだ。
彼、有馬雪は、私の幼なじみ。
幼稚園が一緒でそれ以来ずっと一緒である。
何故だか、ものすごく悪い事をしたような気がして、私はその後も動けずに、棒立ち状態だった。
しかし、女の人が動いた瞬間、何かに弾かれたかのようにその場を、私は走って立ち去った。
「はぁ・・」
私は、リビングのソファーにどさっと崩れた。
まるで、悪夢だ。
あの公園から全速力で駆けてきたのもまさって、心臓がバクバクと音を鳴らしている。
なんで、見ちゃったんだろう。
気にしないで通り過ぎればよかった。
怖い。
会ってしまうかも知れないのに。
どうしてもじっとしてられない。
あぁー、とため息をついてソファーに顔を突っ伏した。
母が私を心配する声が聞こえたが、疲れてるだけだよー、と言って誤魔化す。