1-3 召還の目的
「私の言葉がわかるのですか?」
驚愕した私の顔をマリロナーデロがじっと見ている。思案顔。
「はい、わかります」
私は、おそらく興奮気味に返した。
「では、妹の説明は必要ありませんね、今からあなたの状況を説明します」
そう言ってマリロナーデロは笑顔で妹を見た。妹は嫌そうな顔をしている。その対比が少し興味深かった。
「あなたが元々どこにいたのかは知りません。しかし、これだけは確実に言えます。ここは、あなたの元いたところはかなり遠い場所です。簡単に言えば、いわゆる異世界。そう思ってもらえればいいのだと思います」
「どういう……ことですか?」
私は困惑して呟いた。異世界って何? マリロナーデロが一言で答える。
「異世界です」
と。異世界、とはなんだ? 異世界と言えば、幼少期に読んだ『ナルニア国物語』の衣装ダンスの中、『トムは真夜中の庭で』の庭である。そんな世界にいるというのか。
私が困惑していてもマリロナーデロは説明を続けた。
「あなたを私たちが呼びました。我が王家の秘術である召喚魔法を使って。あなたに是非やってほしいことがあります」
「それは何でしょう?」
「はい、我が王国、いえ、私たちの世界を救っていただきたいのです。もちろん、私たちにできることなら精一杯のことをします。呼びつけておいて勝手だとは思いますが、報酬は前金と結果に対するもの、年金の形式のものをお支払いいたします。また、金銭面以外の部分においても厚遇いたします。どうか、我が世界をお救いください」
「…………」
「勇者さま、どうかお願いいたします」
そう言って、この場にいる彼以外の皆が頭を下げた。それを見て、私は
人は皆 助くる人と 聞こゆれど
弦引く我が身 剛の者かは
と歌って嘆いた。マリナーデロは妹を見る。
「今のは何でしょうか。勇者さまは何と言ったのですか」
妹は答える。
「そうですね、今のは和歌という元の世界における詩の一種ですわ。『人々は皆、救い主だと言うけれど、弓を引く私は武勇に優れている者なのだろうか、いや、そうではない』という意味ね」
マリナーデロは小さく微笑んで言う。
「勇者さまが武勇に優れていないわけがないのです。弓ができるのでしょう。勇者さまは謙虚なのですね」
「アーチェリーはできるようね。でも、きっとその辺の兵士並みよ。当時の日本って、本気で人を殺す訓練をしている人はごく希だから。ただし、それはこの世界に移動しなかった場合の話よね」
妹の発言にマリナーデロは同意していう。
「大抵、召喚の影響で何かしらの能力やチカラがつくわ。勇者さまはどんな能力を手に入れたのかしら。気になるわね」
ここでマリナーデロは言葉を切り、
「私たちの世界を救うために、大魔王を倒してください!」
と私に言った。
……そういうお願いをするなら、とりあえず、私に巻き付いている鎖を外してください。私は混乱の中、とりあえず、そう思った。