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1-2 異世界の言葉がわからない

 次に目を覚ました時、私は仰向けだった。天井は高く、床が冷たい、そして硬い。そして、何やらよくわからない声が聞こえた。言語の違いからか、日本語の文字にしにくい声である。

 私は体を起こそうと試みた。しかし、体が動かない。じゃらじゃらと音がする。

 「セナペ」

と私に向けられた声が聞こえた。何を言っているか、わからない。だから、私は問い返す。

 「セナペ?」

 「ウオセ、セナペ」

 その声が私にもう一度言った。しかし、意味がわからないという状況は変わらない。ただ、再度声を聞いたことにより、その声が女性のものだということがわかった。

 「セナペ?」

また私は問い返す。

 「クョンヨエセプイイイケリンゲエズ?」

 何を言われているのか、理解できない。だから、私は黙っていることにした。しばしの沈黙。先ほどまでの声とは違う声が、また私に問いかけてきた。

 「イピキインヂベレビヒシビヒシシユ?」

 まったく理解できない。答えようがないので、私は答えない。首を回して、声の方を向いた。白いのか、銀色なのか、よくわからない貫頭衣を着た人物たちが女性を中心として集まっていた。しばらくの後、扉から男が一人出ていき、若い女性を一人連れてきた。

 「Do you speak English?」

 あ、わかる。私は答える。

 「A little.」

 大学の准教授たる私は、それなりの教育を受けている。ゆえに、わずかばかりの英語を話すことができる。

 私の返答に、その若い女性が言葉を続けた。

 「What language do you speak?」

 「I speak Japanese the best. Do you speak it?」

 私の回答と質問に対して、その女性は頭を抱えた。

 「そうですね、ワタシは元日本人ですから、日本語を話すことはできますよ。ところで、いつの時代の日本ですか? 英語を話すことができるということは一九世紀以降だと思うのだけど、西暦で何年の生まれですか?」

 「一九八0年です」

 「良い時代ですね。あなたの時代は、ワタシよりも八十年ほど前の時代です。ワタシの頃の日本は第三次世界大戦の国家総動員の最中で、ワタシも銃剣の類くらいなら扱えるけれど、あなたの時代だと、それは無いわよね? 何か得意な武器はあるかしら?」

 会話の主導権は最初から彼女にある。それはかまわない。しかし、私は何もわかっていないのだ。おそらく、今の状況について、彼女は知っているのだろうから教えてほしい。だから、私は会話を切った。

 「アーチェリーは扱えます。ところで、今、私に何が起きているのか、説明できますか?」

 その質問に対して、彼女は答えなかった。そして、最初によくわからない言語を話していた貫頭衣の女性に対して言葉を発した。

 「エッイアオケセペロウンナエフメ?」

 貫頭衣の女性がそれに答える。

「ハア。ウナウゼミウヲイケ」

「カアコオ。ビツナフウクユハツナインヂイセチンバウッナ」

「ウオセ」

そこまで話して、貫頭衣の女性が私の方を向いた。それに対して、手で少しだけ制した。

 「今から、ワタシの姉があなたにあなたの今の状況を説明します。ただし、姉は日本語はできないので、ここの言語であるゴンザ語であなたに話します。おそらく理解できないでしょうけど、姉の説明は長く続きますが、理解不能を楽しんでください」

 「理解できない言葉をひたすら聞き続けるのですか?」

 「そうです」

 早く事実と状況を知りたいにも関わらず、それができない時間が続く、私は嘆いた。その心が和歌となって口から出る。


 ことさへく 唐人のこと いざ知らず

          心得ましかば 耳安からまし


 貫頭衣の女性が前に進み出た。彼女は私に対して微笑む。私は彼女を眺めた。おおよそ、姉妹とは思えない彼女たちの風貌を比較する。貫頭衣の女性は金髪の長い髪をアップに束ねている。肌の色はやや白。日本語の彼女は、黒髪にショートカットである。姉妹には見えない。

 貫頭衣の女性が話を始めた。

 「こんにちは、私の名前はマリロナーデロ・ヘントールです。あなたにはこの言葉は通じていないと思うけれど、ここで私があなたに説明するのもこの儀式の一環です。あとで妹から説明させますから、今は我慢してください」

 私は驚愕する。驚嘆と言っていい。確かに先ほどまで全くわからなかった彼女の発する言葉がわかるようになっていたのである。

「今、急にあなたが言っていることがわかります!」

 思わず、私はそう叫んでいた。

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