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一日二日一話

13/12/17 書斎

作者: 熊と塩

挿絵(By みてみん)

 これは父の話なのですが──

 あまり話したいものではありません。いえ、身内の恥という訳ではないのです。ただあまりにも不可思議で、未だにどう考えるべき出来事か……。


 実家は持ち家でした。私が生まれる少し前に建てたそうなので、築三十年くらいでしょうか。父は大学卒業からずっと某大手出版社に勤めていたので、二階建てでそれなりの家でした。

 私の部屋は二階にあり、隣は父の書斎でした。


 父の書斎には一度も入った事がなくて、覗いた事すらありませんでした。

 父は書斎に鍵を掛けていて、その鍵を肌身離さず持っていました。寝る時も手首に括り付けるくらい、念入りです。合い鍵もありません。しかも、ちょうど書斎に入ろうという時に私や母が通り掛かると、中が覗き見られないところへ行くのを待ってから、サッと体を滑り込ませる様に入ってすぐ鍵を掛けてしまうのです。

 かなり、怪しいですよね。


 本当に、父が書斎で何をしているのか全く解りませんでした。訊いても答えてくれませんし、隣の部屋で耳をそばだてたりしていたんですが、物音一つしない。外から見ても、一つきりの窓はいつも雨戸が閉じていて。

 書斎については母でさえ知らない様でした。母はよく「一人になりたい時だってあるのよ」と私に言いました。今になるとその意味は理解出来ます。女二人に男一人ですから、居たたまれない時だってあるのでしょう。その為の書斎なのでしょうし。


 ただ思春期の頃の私は、きっといかがわしいビデオや本を隠しているに違い無いと思う様になりました。

 父の──故人の名誉の為に言いますと、その想像は間違いでした。もっと言うと、父は基本的にいい人で、煙草は吸わないしお酒は嗜む程度、ギャンブルもしませんでした。私と母の買い物にも文句一つ言わないで付き合ってくれるくらい、温厚な人だったのです。母との仲も良かったです。寝室は一つきりでダブルベッド。それに喧嘩をしているのを見た事がありませんから。


 それだけに、書斎で何をしているのかずっと気掛かりで、謎に思っていました。

 私が就職して仕事に慣れてきた頃、父は亡くなりました。職場で脳卒中を起こして、一時は持ち直したんですが、暫く入院してそのまま夭逝しました。人間、いつ死ぬか解らないものですね。

 それでやっと、鍵を手に入れて、父の書斎に入れる様になりました。

 突然父を亡くした事はショックでしたし、悲しかったですよ。でも正直に言いますが、子供の頃からの不思議にやっと答えが出る、そういう興奮が強かったのは確かです。

 でも、でも……すみません。あまりに不可解で。


 父の書斎には、何も無かったのです。


 本当に、何一つ、ものがありませんでした。

 机も椅子も、本棚も、何もかもが無いのです。

 片付けてしまったのでもないはずです。だって、鍵はずっと父が持っていたのですから。それに、壁紙もフリーリングも傷一つ無いのですよ。代わりに、床一面に砂埃が積もっていて。

 私も母も唖然としていました。

 最初から、父の書斎には何も無かったのです。

 二十年以上、何度も父が出入りしていた部屋なのに。一度入ると一時間や二時間、休みの日には半日近く出て来なかったのに。

 何も無い……。

 天井にも床にも、隠し扉なんかありません。もしやと思って、私の部屋側の壁をくまなく調べたりもしましたけど、覗き穴みたいなものも無いんです。

 本当に、何も無かった。

 父は一体、あの書斎で何をしていたんでしょうか。

 いえ、そもそもから、父はあの部屋に入っていたのでしょうか。

 それ以来、実家に居るのも気味が悪くて、一人暮らしを始めました。たまに実家に帰るのですが、母も一切あの書斎には近付かないそうです。


 近頃、私にも娘が生まれて、結婚しました。夫も稼ぎがいいので、家を建てようという話になっています。

 ただ夫はしきりに書斎が欲しいと言います。もちろん私は反対です。

 そこでの秘密は一生、理解できないでしょうから。

一日二日一話・第七話。

まーた書き上がらないからやっつけちゃった。テヘ。


ぜんぜん怖くない怪談シリーズ第一弾。第二弾があるかどうかは知らない。

「男は秘密を持ちたがり、女は自然と秘密を持つ」と誰かが言った。たぶん私だ。


2014/09/03 改訂

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