初めての初心者指南-1
第2話、Aパートです。
僕は扉を開いた。
それはけして夢の扉などではない、現実の扉だった。
怖かった。正直今でも怖い。
物語の主人公のように、勇敢とまではいかない。
みじめで、逃げ出したくてしかたがない。
けれど、そんな僕が扉を開いた。
大切な一歩を――踏み出した。
-----------------------
悲劇が起きた日から一夜明けた。
そんな今日も学校は休み、明日からはまた学校が始まる。
そんな休みの日に最初にやったことは、ヒロナリの安否の確認。
結果は――ヒロナリ、アイともに意識不明。
アイスが言っていたことは本当であり、心怪――狂乱の死神にやられた二人は意識を失った。
その事実を改めて受け止めた時、僕はまた、色んな感情を抱いた。
それは罪意識であり、それは諦めであり、それは多少なりの快感でもあった。
明日学校に行ったら何かしら話題が持ちあがるだろう。
その場に関わった僕は何を言われるんだろう。できるなら触れてほしくはなかった。
……考えても仕方がない。今日一日は僕の決めたことに専念をしよう。
僕は僕らを地獄に陥れた化け物、狂乱の死神を倒すことに決めた。
見込みはない、力はない。けど……協力してくれる人が一人だけでもいるんだ。不安の中にも一粒の光ありだ。
午後1時、僕は心世界オンラインにログインし、ナチュリアの広場にてアイスと待ち合わせ。
今日はアイスに色々教えてもらう予定、心世界オンラインの様々なこと、そしてできることなら心怪についての情報も。
アイスは上級者だ(勝手な決め付け)。相手は女の子でちょっと性格はちょっと悪そう。というか悪い。
印象としてはクールな雰囲気だが口数が少ないわけじゃなく、むしろズバズバ物を言ってくる。
出会い頭あそこまでボカスカ言われた。僕自身は根に持つ方じゃないけど気まずさは多少ある。
だけど、色々あったけど、上手くこう仲良くして、楽しくできれば……。
「だ~か~ら~!どうしてこうもポコポコ死ぬのよ!!バカじゃないの!!」
「うるさいなぁ!!てかこの辺りのモンスター、僕からしたらちょっと強すぎなんじゃないの!?」
楽しく……できれば……。
-----------------------
午後一時、ナチュリア広場にて。
「こんにちは、アイス……さん?」
「さ・ま」
いきなり呼び方に駄目出し、つか様付けっておい。
会ってまだ間もないけど、掴みどころのない人だな。
「様付けはさすがにどうかと思うんだけど……」
「いや、それで本当に様付けしたら、あなた本気で終わってるなぁと思って」
「試したんですか……」
冷たい態度でいきなりキツイ冗談を。
ネットゲームってこんなやつばかりなの?イメージとしては会ったばかりだと互いに敬語使いで一歩引き下がった感じな気がするんだけど。
ていうかこの人年上……なのかな?でも雰囲気としてはそうっぽいし。
「まあいいわ。それと変に敬語入れるくらいなら別に敬語使わなくていいよ。気持ち悪いから」
なんでこの人会って早々こんなにとげとげしいの?
確かに僕の第一印象は最悪だったよ、へたれ同然の愚かしい人の様全開だったよ。
けどもその……最後にはかっこいいとこ見せたじゃん。見せた……はずだ。
……泣きながら強いモンスターに駄目元アタックって、めっちゃかっこ悪いじゃないですかやだー。
「ご、ごめん……」
とりあえず謝る僕、すぐ謝る男ってやっぱり印象として悪いかな。
「それで、まずは狂乱の死神と相まみえるにあたってあなたのそのちっぽけなクラスを少しでも上げないと話にならないんだけど。今日はどうするの?」
「今日……今日は……」
言い方はともかくとして、アイスは初心者の僕に色々合わせてくれるらしい。
ならばお言葉に甘えよう、アイスお姉さん(とりあえず年上と仮定して)が隣にいれば色々安心だろう。
「それなら、初心者指南をしてもらいたい……かな?」
「……はぁ?」
なんかすっごい低い声でめっちゃ飽きられたのですが……。
いったいどういうことんだろうか、僕はアイスに尋ねてみる。
「ど、どうしたの?」
「あのさ……あなた取説読んだ?」
「そりゃあ、昨日の夜に一通り目を通したよ」
「じゃあ初心者指南とかいらないじゃない?てか初心者指南って今時必要なの?ゲーム始め時のチュートリアルがそれじゃないの?」
なんかこうすっごい勢いで罵倒してくるアイス。
確かに取説やゲーム内のチュートリアルで一通り知識は増えたけど。
でも、そこまでいやがることだろうか。それともまったくオンゲやらない僕自身が間違っているのだろうか。
とにかく、アイスの視線から感じられるのは、僕の考えがそりゃあおかしいということ。あほか……そう言っているような目だ。
「……わかった。したら色々アドバイスもらいながらクエストミッション消化していきたいな」
「アドバイスって何?あなたが勝手に魔法使い選んだんでしょ?銃士の私から何をアドバイスもらうつもりなの?」
「ぐ……。つまりえぇと、アイスは僕に流れで色々覚えろっていうの?」
「それが普通でしょ、私達同じ職場で働いてるとかじゃないのよ?何のための協力プレイよ?弟がゲームやってるのを隣で見てるお姉ちゃんか私は」
あ、あぁ~あぁぁぁぁ~あぁぁ……。
いちいち棘のある言い方、なんか腹立つけど正論すぎて言い返せない自分がまた腹立つ!!
てか、自らお姉ちゃんって言ってしまうあたりやっぱり年上なのかな?一応僕は自分が中学二年生であることはぽろりと漏らしてしまったからアイス側は僕の年齢わかってるはずだし。
「じゃあ、僕がさくっとクラスアップできそうな具合にそっちがクエストプラン考えて」
「……はいはい、わかったよ………ゆとりが」
なんか最後に一言よけいなものが聞こえた気がしたが気にしないことにした。
こうして、アイスと一緒にフィールドに出てとにかくモンスターを倒すことに。
一応目的はまず、6thから5thにクラスアップすること。それだけでもスキル装着数とか上がるし、使用できるスキルも増える。
心世界オンラインの要となるのはスキルだ。
自分のパラメーターに影響を及ぼす≪エフェクトスキル≫。
異常状態や不利な影響を及ぼす≪ネガティブスキル≫。
技もスキルとして扱われ、≪技スキル≫とわかりやすく分類されている。
その中には≪魔法スキル≫、≪補助スキル≫、そして必殺級の≪必殺技スキル≫等が存在する。
その他には≪専用スキル≫とかもあるらしいけど、上級者プレイヤーくらいしか持ってないらしいから今の僕には関係ない。
それともう一つ、この心世界オンラインはレベル制を採用していない。
レベルはなく"クラス制"で、ポイントを貯めそれを消化するとクラスがアップする。
クラスは最初の6thを始め、
5th
4th
3rd
2ndA,2ndS
1stB,1stA,1stS
という風にどんどん上がっていく。
2ndA以降は上級者と呼ばれ、心世界オンラインは2nd以上になってからが始まりとも言われているとか。
ちなみにアイスのクラスは2ndS。やっぱり上級者だったんだ。
てかあの次元でまだ2ndS。いったい1stクラスのプレイヤーはどれだけ強いのだろうか……。
「したら、効率よくポイントを稼ぐため初級Sランク辺りを物色しましょう」
アイスがそう言って、適当にクエストミッションの項にチェックを入れていく。
クエストミッションはチェックを入れると、そのクエストをこなす度に特定の報酬と追加ポイントがもらえる。
当然他のプレイヤーも同じミッションを受注していれば、報酬の取り合いとなる。
「じゃあ、あらためてよろしくアイス」
「よろしく」
昨日はあんな目にあってしまったけど、今だけは忘れよう。
やがていつか来る決戦の時に力をつけるため、恐怖は今は邪魔だ。
ゲームは楽しむ心、それ常識。ゲーム初心者の僕でさえわかることだ。
アイスと共に転送されたのは、ナチュリアの初級S地区のフィールド。
フィールドは番号で選ぶことができ、今回選んだのは初級Sの6番。
たくさん番号があるとはいえ、この心世界オンラインの人口は数千万を遥かに超える。
さすがに全員が全員一斉にログインしていないとはいえ、休日は人が多く、ゲートを超えるとそこにはたくさんのプレイヤーがいた。
その多くがパーティを組んで和気あいあいとやっている。僕もパーティを組んではいるが隣にいるのは友達ではなく赤の他人で怖いお姉さんだ。
「相変わらず壮大なフィールドだ。さてと、じゃあさっそく……」
「したら頑張ってそこらのモンスター倒し続けてね~」
……へ?
まるでそれは、子を送り出す親のような見守り前提の面持ち。
一体全体どういうことだ。
「え?一緒に協力し合って最新部まで行くとかじゃ……」
「いや、ついては行くけどさ。ほら、私は2ndSじゃない?そこらのモンスターなんて数発で倒しちゃう上に対したポイントもらえないし」
アイスは当たり前のように言った。
確かにまぁ、ここは初心者コースの中では上級とはいえアイスからすればまったく意味のない場所だ。
「確かに仲間にもポイントは分散されるけどさ……」
「うん」
「……それじゃあ、あなたのためにならないじゃない」
アイスがモンスターを倒し続けても、僕自身は確かになにも変わらない。
僕自身が頑張って倒していかないと、技術面では向上しない。
それはごもっともだった。だけどそこで問題が発生する。
「でも僕、魔法使いでロッドだよ?ここは5th御用達のフィールドだけどソロなんてできんの?」
「誰もソロでやれなんて言ってないでしょ?私はあくまでサポートするからあなたが前線で張り切れって言ってるんでしょ?」
どうやらバックアップはしてくれるらしい。
つまり僕は死なない程度に頑張ってモンスターを倒し続ければいい。倒せば撃破ボーナスやパフォーマンスポイントやらでポイントはどんどん溜まっていくわけだし。
「ここらで上級者が初心者を子守りしてるパーティなんて、私達くらいだと思うんだけど」
「う…………わかった。頑張るよ」
「わかればよろしい。お母さん、あなたはできる子だって信じてるから」
「誰がお母さんだよ」
お姉さんだかお母さんだかポジションが安定しないアイスだが、これで気楽に楽しむことができるってわけだ。
さてと、したら汚名返上、名誉挽回の面持ちで。一気にクラスと技術を底上げといきますか!
「見ててよぉ、先日ヒヨコと言ったのを前言撤回させてやる!!」
「……御託言ってる暇あるの?後ろ」
「え?」
アイスに指刺され、後ろを見る。
するとそこにいたのは、昨日僕がロッドで必死にポコポコやった宿敵、インパクトボア。
僕の3倍はでかいと思われる巨大なイノシシ。昨日の敵は今日の敵。というわけでちゃっちゃと倒してポイントを――。
「ってちょ……早い早いはっっっや!!」
振り向くと同時にものすごい速さで思いっきり突進してくるインパクトボア。
僕は魔法を唱えるのはおろか、杖で一撃殴る暇もなく吹き飛ばされ、早くも瀕死の重傷に。
あっけなく初撃をくらい、年上の女の子の目の前で情けない姿を見せる年下、性別は男。
「……ヒヨコが」
あ、またヒヨコって言われた。別に悲しくなんか……ないんだからね!!