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心世界のシャーデンフロイデ  作者: トッシー00
第1章 心怪討伐
2/15

逃げるための努力-1

第1話、Aパートです。

 傷ついた。


 また、傷ついた。


 心ない一言で、また誰かが傷ついた。


 僕らはそれを、ただ見ていた。


 見て、心の中で関係ないと自分に言い聞かした。


 うっすらと……笑っていた。


 そして、それが他人の"死"に繋がった時。


 僕らは必死に逃げようと、そう"努力"をするのだろう。


-----------------------


 西暦2012年。

 技術が日々進化し続ける時代。時代は徐々に、皆が理想としていたSF映画のような近未来技術へと移行しつつあった。


 そんな中で、今の人口の8割が所持する次世代多機能携帯型情報機器、通称:ドリームゲート。

 夢の扉とは名ばかりではない、まさにそれは……人類の夢を切り開くものとなった。

 そして、それを突如として発表したのは、表に出てはわずか数年で全世界的大手企業までのし上がった会社、"神園コーポレーション"。


 ――"神園"。

 その名前がどれだけ世界中に轟かせているか、もはや知らぬ者はいないだろう。

 人はそれを選ばれた一族と呼び、神園を性としている人物はそれぞれの分野で多大なる成果と結果を残している。

 日本で一番有名な大学には、神園という教授が3人も存在する。日本の技術の最先端にいる開発者も神園といっただろうか。

 世界的有名なアイドルの名前も神園、スタイリストも評論家も……神園の性を持っている。


 世界のトップの名前も"ゴッドエデン"という、神園に由来する人物が世界を牛耳っている。

 ギルバート・ゴッドエデン、突如世界に姿を現した全世界総合大統領。

 過程の話だが、もし神園がゴッドエデンの一族ならば、今世界を動かしているのは神園なのだろう。

 はたしてそれが何者なのか、一般人たる僕が知る由もない。


 そんな神園コーポレーションが初めてドリームゲートに対応したオンラインゲームを開発した。

 その名は『心世界オンライン』。それは発表されすぐさま世界中のゲーマーを虜とした。

 ドリームゲートとそれに対応する機器の能力を最大限に利用した、圧倒的なリアル、クオリティ。

 それはまさにこう湛えても差支えないだろう。


 人類は今、"仮想空間"を実現したと。


 最初は、"ログアウト不可"なんてありふれた話が実際に起きてしまうのではないか。なんて話も出ていた。

 実際はそんなことなどあるわけがなく、発売して3年経った今でも全世界中に一千万を超えるユーザーが存在する。

 全世界で最も人気のある、新時代のオンラインゲーム。皆が繋がり、協力し合い何かを得る。人は今、夢を超えようとしている。


 そして僕も今、夢の扉を超え――心世界へとダイブしようとしていた。



 僕の学校でも、心世界オンラインをやっている生徒は多い。

 よくある無料での課金制ではなく有料制で、課金はもちろんあるけどそれ以上にプレイヤーの実績が問われるゲームだ。

 このゲームにはレベルが存在せず、クラス制が採用されている。

 最初は6th(シックスス)から始まり、最終的には1st(ファースト)となる。

 ポイントを貯め昇格する。ポイントを貯めるのは単純で、素直にモンスターを倒し続けるだけ。

 強いモンスターを倒せば倒すだけポイントが手に入り、強い装備を作るパーツも手に入る。当然お金もがっぽがぽ。


 このゲームには様々な職業があり、僕は魔法使い。

 剣士の方がやりやすいと思ったけど、僕の周りには魔法使いが少ない。ただそんな理由で魔法使いにした。

 あとはまぁ、自身がないから後方で支援してれば楽かなと、そんな簡単に物事を考えちゃっているわけで。


 そして今日、学校の友達2人と一緒に心世界デビューをする。

 誘ってくれたのは彼女持ちの友達。その彼女と3人で簡単なモンスターを倒そうということらしい。

 でも、僕なんかが入って邪魔じゃないのだろうか。そんなことも思ったけどあまり考えないようにしよう。


「ようやくお前もこのゲーム始めたな、改めてよろしくなハイド」


 よろしく、と。僕の友達の"ヒロナリ"とゲーム内で握手を交わす。

 続いてその彼女の"アイ"、ぶっちゃけ同じ学校の生徒なんだけど。とも握手をする。

 ヒロナリは僕の周りでも特に強く、職業は剣士でクラスは3rd(サード)。今稼働しているver3Xの初期からやっているという。

 アイは魔法剣士で5th(フィフス)。まだ初心者って感じだが、始めたばかりの僕よりは上。


「まぁ5thには3日も頑張ればなれるからさ、気軽に行こうぜ」

「うん、よろしく」


 僕自身あまりゲームはしない、というか今お世話になっている伯父さんと叔母さんに我儘を言えないからそういうのは控えてきた。

 だが、足が不自由であまり人と遊ぶことのない僕を見兼ね、何か気晴らしでやってみろと今回了承を得ることができた。

 伯父さん、叔母さん、ありがとう。僕は心の中でそう思いながら、お言葉に甘えることにした。


 新米の僕を連れた3人組が拠点としたのは、自然の囲まれた国"ナチュリア"。

 町に転送すると、周りには木で出来た建物。そして目を引きつけられるのは協会にズドンと立っている大木。

 雲のはるか上まで伸びきっているそれは、ナチュリアの平和を見守ってくれているような、そんな自然の力を感じた。

 木々や草が生茂る道々を歩いていくと、奥にあるのはクエスト発着所。

 そこから直接フィールドに転送して適当にモンスターを倒すのもいいが、クエストを受ければ報酬がもらえる。

 今回は腕の立つヒロナリがいるため、序盤の中で最近新しく出たばかりのクエスト、"生贄の森"を選択する。

 一気に強いモンスターを倒して昇格、最初は後先考えずそればかりを考えればいい。


「したら俺は切り込む、アイは俺のバックアップ。ハイドはまぁ……魔法でサポートしてくれ」

「OKヒロナリ!」

「了解」


 ヒロナリに役割を与えてもらったところで、魔法陣が俺たちをフィールドに転送する。

 ナチュリア森ステージ、その先の神殿を目指す。

 神殿に向かう途中のモンスターは序盤の中でも結構強く、僕の体力を一撃で3割以上持っていく。

 なにをやっているんだよとヒロナリに軽く愚痴を叩かれながら、魔法使いで接近に弱い僕は慣れない操作で先に進む。

 そういえば操作方法とか全然分かんないな、そんなことを思ったが今は流れに身を任せよう。

 終わったらなんか練習がてら付き合ってもらおう、そんなことを思いながらあっという間に神殿へ。


「今回のボスはサクリバイトは空中を素早く動き回る。あと吸収で"ネガティブスキル"を付与してくるから気をつけろよ」

「OK」


 ヒロナリの言葉にアイがいつもの調子で答える。

 そんな中でぼーっとしている俺を見て、「特にお前は即死するから気をつけろよ」とヒロナリに声をかけられ我に帰る。

 しかし、ネガティブスキルってなんだろう。まずそんなことを思っているぐらいで不安に駆られる。

 スキルって確か装備画面にあったような、でも初心者だから大したもの持ってないし。

 そんなことを確認する暇もなく、先へ先へと進んでいく僕達。なんかこれだと付いて行ってるだけって感じだな。

 薄暗い神殿を進んでいく途中、アイテムを拾ったり、拾おうと思ったらモンスター出てきて怒られたり。ここまで死ぬことなく先へ進み続け。

 一番奥の祭壇へ、中央には赤黄色に光る石が置かれており、それを守るようにボス――"サクリバット"に相まみえる。


「上から来るぞ気をつけろ!」


 なんかのネットのスラングを言いながら場を和ますヒロナリ。

 ヒロナリは上にいるサクリバットに技スキル≪打ち落とし≫を使用。剣の衝撃波でサクリバットを落とす。

 それにダメージはないが、ネガティブスキル≪飛行不可≫がついたため地べたを這いまわるサクリバット。

 続けてアイが魔法で剣を強化して攻撃、僕は二人に魔法スキル≪攻撃上昇(小)≫をかけてサポート。

 途中ヒロナリがサクリバットの吸収をうけて苦戦するものの、僕はなんとか足を引っ張らず冷静に立ち回り、なんとかサクリバットを撃破。

 撃破されると、パフォーマンスポイント(活躍すればするだけたまる)が最も高いヒロナリに特別報酬が配られた。そぅいうのもあるんだな。


「さてと、じゃあ後は帰還してクエスト報酬をもらうだけだな」


 そう言ってヒロナリが俺の方を見る。どういう意味があるかはわからないが。

 でも、最初でこう足を引っ張らないだけ、できた方なのかな。

 最初にしては上出来、あとは戻ってちょっとログアウトして休もう。軽くジュースでも飲んで再会するかな。


 ……。


 ………。


 ――そう、呑気な事を言えたのは実は、この時が最初で最後だった。



 EMERGENCY!EMERGENCY!


 突如、非常事態を思わせる警報音と、エマージェンシーの文字が浮かび上がった。

 いったいなんの演出だ。僕が呑気に思っているところヒロナリは。


「え?このクエスト、乱入とかないはずだけど……」


 ヒロナリはぽかんと口をあけている。隣にいたアイもなにやら様子がおかしい。

 バグなのか、僕自身は何もわかっていない。

 そんな中、空間に謎の亀裂が生じる。いったい何が起こるのか……これが何かのサプライズならと。


 そうだったら、そう思えたらどれだけ……。


 亀裂から現れたのは、巨大な鎌を持った巨大な腕。

 鎌の刃の部分は薄い黄緑色に発行しており、腕もどこか色合いが適当。

 その姿からは何かしらの、禍々しさを感じ取れる。


「ねぇ、これはなんかのレアモンスターなの?」


 なにも知らない僕が、ヒロナリにそう尋ねると。


「……なんだこのモンスター。"データにない"ぞ」


 ……え?

 ヒロナリが戸惑いの表情で、そう呟いた。

 アイも横で、何が起きてるの?と不安を露わにし始めた。

 ようやく僕も察することができた。これ……なんかやばいやつだ……って。


「ヒロナリ、どうすんの?これ、倒すの?」

「ちょっと黙ってろハイド、これって……」


 そう、憶測をたてている……そのわずかな刹那の瞬間であった。


ザシュ!!


「……え?」


 突如、謎のモンスターが視界から消えた。

 そして次の瞬間、アイの胸元をモンスターの鎌が横一線に切り裂いたのだ。

 1秒とも経たない一瞬の出来事に、俺たちは反応すらできなかった。


「―――っ!アイぃぃぃ!!」


 我に戻った瞬間、ヒロナリが叫んだ。

 だがアイはというと、まるで砕け散るようにその場でアバターが消滅。


「な、なにこのモンスター……」


 僕はただ、起こりえることを口に出すことしかできない。

 ヒロナリは慌てた様子で、謎のモンスターを一瞥し……そして。


「に……逃げるぞ!!」


 叫んだ。

 僕はその叫びを聞き、何がなんだかわからず一緒に逃げた。


「ど、どういうことだよヒロナリ!」

「……連絡が……とれねぇ」


 ……いったい何を言っているのあろうか。

 ヒロナリに聞こうとしても、ヒロナリは言葉を返す余裕すらないのだろう。

 焦りがたまり、後ろを見ると謎のモンスターが。


「くそ、てかなんでエスケープアイテムつかえねぇんだよ!!どうなってんだよ!!」

「おい、ヒロナリ!ヒロナリ!!」


 謎の怪現象。逃げ続ける僕達。

 だが、逃げ切れる保証はない。それはまるで空間を移動しているようで、圧倒的な速度で僕達を追ってきている。

 まるで、やられたら本当に命を失ってしまうような、ありえないことなんだろうけどそんなことを思わせられるような。

 そして……。


 ザシュ!!


「……がっ!」


 何が起きたのか、現状を把握するまでわずかな時間を費やした。

 逃げていたと思っていたが、気がついたらヒロナリが鎌で切り裂かれていた。


「……おい、これってまさか……よ」


 なんだ、ただでさえ怖いのに、更に何かとてつもない感覚が内からあふれ出るような。

 僕は何も言えなかった。友達の名前を叫ぶこともできなかった。

 そして、切り裂かれてからヒロナリのアバターが消えるそのわずかな間で。

 急に画面がフリーズ、そして……。


 ………。


 …………。


 ――そういや、生贄の森って初心者連れてけば特殊な報酬もらえるって話だよな。


 ――確か灰土(はいど)が心世界オンラインやるとか言ってたっけ。


 ――こりゃあいいや、灰土うまく言いくるめてパーティに誘っちまうか。あいつ基本的に俺たちの言うこと何でも聞くし。


 ――身体障害者だかなんだか知らないけどさ、足がないのを気持ち悪がれてぼっちになんの怖がってんだろうよ。


 ――もうそういうやつは利用するだけ利用しちゃえばいいんだよ、んで一度でも逆らったらさ……。


 ――どこで潰れるかさ、試してみようや、ぎゃはははは!!


 ………。


 …………。


 ……なんだよ?これ。

 これ、ヒロナリの……。


「ち、ちげぇよ……ちげぇよ!!」


 消えゆく中でヒロナリが必死に弁解している。

 そしてただ、初心者の僕に助けを求めるように、手を出して。


「おい!助けろよ……突っ立ってねぇで助けろよ!!おい!友達見捨てんのかよ!!おい……まてよ!俺は、俺はた」


 そう叫びをあげながら、アバターが飛び散り消え去るヒロナリ。

 僕はそれを、ただ見てることしかできなかった。


「……ねぇ。何が起こってるんだよ」


 先ほど、ヒロナリの奥底に潜む声が僕の脳内に響き渡り。

 まるで、死に際のごとく助けを求めてきた。僕を利用しようとしてきた本人。

 そして、無情にも目の前で僕を見下ろす謎の死神。

 どうすれば、何を信じ、どう行動し、僕は生き延びればいいのか。

 消えゆく友達――ひょっとしたら友達じゃないのかもしれないけど。

 そんなやつが消える中で、なにもできず……僕は。


「僕も、あいつと――あいつらと同じ道を辿るのか。どうして、どうして」


 どうして、僕がこんな目にあわなきゃいけない。

 どうして僕なんだ。僕が選ばれたんだ。

 僕はただ、みんなで仲良くゲームをしたかっただけなんだ。僕はただ、友達と一緒に。


 なのに、どうして。

 どうしてどうしてどうして。

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!


「あ、あぁ……」


 圧倒的な恐怖に立ちすくむしかできない、逃げることすら放棄した僕。

 そんな僕を無情にも切り裂こうと、空間に逃げる死神。

 考える時間すらないのだろう、気がついた時には……。


 僕は……。


「……………っ!!」


 恐る恐る目を開ける。僕はまだ無事だった。

 視線の先には、なにやら凍りついた死神がそこにいた。

 いったい何が起こったんだ。周りを見渡す。するとフィールド一面が激しく凍りついていた。

 そして、僕の横に……そいつはいた。


 透き通った水色の髪の毛をした、浴衣姿の少女。

 手に握られているのは、薄く光る青色のクリスタルでかたどられた二丁拳銃。

 浴衣姿の拳銃使い、目に映ったのは一瞬だけなのに、神秘的な印象を植え付けられる。

 周りの氷景色と相まって、ますますその少女が――『雪女』に見えた。


 僕は出会った。その少女に――絶氷の異名を持つ、最強の少女に。


「……さて、狩らせてもらうわ――狂乱の死神(ハンターヘッド)


-----------------------


 誰かが傷ついた。


 僕の無力が、誰かを傷つけた。


 その相手は、僕に対して裏を持っていた。


 でも、僕のせいでそいつは意識不明となった。


 そいつは僕にとって、救う価値のある人間なのだろうか。


 それは責任なのか、責任ならば放棄することはできないのか。


 他人の不幸に対し、関係ないと…………ざまを見ろと、ただ笑って。



 その時の僕は、逃げるための"努力"をするのだろう。

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