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0.5話(プロローグ4)

『世界』のどこか 1:30



 薄暗い、今にも狼男やゾンビが沸いて出そうな嫌な空気の森の奥に、その城はあった。


 見るからに廃城と言えるそれは外見に反して内部は美しい、はずもなく、内部にも蜘蛛の巣や蝙蝠がそこかしこに点在しているまさしく廃城と呼ぶに相応しい建物だ。


 だが、その城から吹き出る圧倒的な空気はその廃城がただ朽ち果てただけの城ではない事を表していた。


 そう、その城は吸血鬼の城なのだ。だがそれでもまだ言葉は足りない。厳密に言えば、吸血鬼の格好をした怪物の城なのだ。


 吸血鬼の格好をした怪物はこの城を住居としていた。だが蜘蛛や蝙蝠の住み家となっているそこには住んでいなかった。


 城の内部、どこの扉とも繋がっていない部屋、その物理的な壁に阻まれて通常の人間であれば入ることすら叶わない部屋。


 その部屋を一言で表すなら、混沌だった。左を見ても右を見ても前を見ても後ろを見ても扉が存在せず、


 無意味なほど大きい部屋にはその代わりとばかりに本があった、中に映画が記録された多種多様な記録媒体があった、ゲーム機とソフトがあった、それ以外の物も沢山あった、だがそれらも全て何らかの創作物だった。


 それらのタイトルを見れば、それらの持ち主がどんな分類の物が好きか誰であってもすぐにわかってしまうだろう。


 つまり、部屋に所狭しと置いてある創作物は全て吸血鬼物だった。


 そんな混沌と呼ぶべき『吸血鬼物の部屋』の真ん中に置いてある椅子に怪物が座っていた。


 あの鎧武者に斬られた時と同じ、燕尾服にマントを羽織り、鋭い犬歯を口から覗かせていたがシルクハットは被っていない。


 怪物は回りにおいてある記録媒体を手に取ると立ち上がり、その記録媒体にあった再生機を混沌とした『吸血鬼物の部屋』から探し出すと記録媒体を差込口に入れてもとの椅子に戻った。


 すると映写機がどこかから現れたかと思うとスクリーンが怪物から少し離れた場所に現れ、映像を流し始める。


 怪物はそれを見惚れるような顔でじっと見つめていたが、不意に不機嫌そうな顔になると言葉を呟いた。


「なあ、私の部屋になんのようだ? 君が現れた瞬間から部屋の空気が悪くなった。どうしてくれるんだ折角の吸血鬼映画だぞ、君も見に来たのか?」


 その言葉が部屋の中で響いた時、怪物の背後には何時の間にか黒い影がたっていた。辺りには霧のような物が充満していて、黒い影の正体をまったく不明の物としている。


 黒い影は邪険にされた事などまったく気にしていない様子で肩をすくめるような動作をすると、怪物に近づいて行き真後ろまで来た所で声を発した。


「いや、その映画もう何回目だ? 俺の記憶によれば、お前さんはそれを数万回以上見てるよな? まだ見るのか?」


 声の言う通りだった。怪物が見ていた映画は吸血鬼映画の中でもかなり高い評価を受けた傑作だった、が、それにしても怪物は繰り返し見すぎていた。


 だが、何度も見たというのに記録媒体には何の傷も無い。もはや丁寧に保存しているという次元ではなかったが、それを気にする者は居なかった。


 怪物は声に若干の意識を向けつつも映画を優先したのか、不機嫌そうな顔ではあったが相変わらず顔は映画に向かっている。


「傑作は何時何度見ても傑作なんだよ、『夢』。君にはわからないだろうさ、私はこれが好きなんだから見てるんだ、文句が有るのかね?」


 『夢』と呼ばれた声の主はそう言われると首を振って文句が無い事を見せると嫌な笑いを浮かべて見せた。


「まあ、それはいいんだ、それはな。そんな事より、素晴らしい事を2つもってきてやった。まず一つ目だが、お前の部屋に置いてない吸血鬼映画を見つけてきたぞ? 感謝しろ」


 それが『夢』の口から発せられた瞬間の怪物の反応こそ神速と呼ぶにふさわしい速さだった。怪物は映画を一旦停止にして振り向いたのだ。


 あまりにも素早すぎていつ一旦停止にしていつ振り向いたのかわからないほど早かった為に第三者から見れば「映画が止まるより早く吸血鬼の格好をした怪物が背後を見ている」状態になっていた。


 そして怪物は目を輝かせて『夢』に詰め寄ると先ほどの不機嫌さなど地平線の彼方へと飛んでいったかのような笑顔と機嫌の良さを見せた。


「ジャンルは? どんな作品だ? 吸血鬼はどれくらい出る? 主演は? さあ答えてくれ、この部屋に無い吸血鬼物があるとは素晴らしい、私の情報網に引っかから無かった事にショックを受けつつまだ見ぬ作品の存在に喜ぼうじゃないか!」


 異様なほど高いテンションで発せられた言葉を聞いた『夢』はなんとなく気後れしたように怪物から一歩引くとどこからか一本のディスクが入ったケースを取り出した。


「こいつがソレだ、ジャンルはアクションで中身はドB級、おはようからおやすみまでアクションシーン盛りだくさんだ。吸血鬼は最初から最後まで、何せ主人公も敵もヒロインですら吸血鬼だからな。主演は……忘れたぞ」


 それを聞くと怪物は一度頷いて『夢』の手からそれを受け取るとまた先ほどと同じような神速の動きで再生機を探し、いつのまにか今まで見ていた映画の再生機と入れ替えていた。


 そして素早くディスクを再生機に挿入すると何時の間にか映写機がスクリーンに映像を映し出す。


 怪物はそれを確認するより早く椅子に座ると『夢』の事を忘れたかのようにスクリーンにかじりつくように映画を見始めている。


 スクリーンに製作企業のロゴが表示されているその時、『夢』は自分のことなど放って映画に夢中な怪物を眺めていた。どうやら映画が終わるまで待っているつもりらしく、怪物の背後から数歩下がると暇そうに欠伸をするような動作をして映画の終わりを待っていた。



 スクリーンの中で主人公とヒロインがキスをしているラストシーンに入った時、『夢』は痺れを切らしたように怪物に話しかけた。


「な、超B級だったろ? 特に終盤のマッシブな吸血鬼と主人公の格闘戦とかもう、吸血鬼っていうかただの普通のB級アクションだったよな」


 同意を求めて怪物の横に行って顔を見た『夢』はぎょっとしていた。何故か泣いていたのだ、怪物が。


「か、感動的だったじゃないか! お前にはこの良さがわからないのか? この中盤の廃城から敵を追って何故か未来都市へ行くシーンの良さがわからないのか? このよくわからん未来描写についていけないのか?」


「悪いが1億年後でも理解できる気がしないぜ。ちょっと普通とは言い難いB級映画だろうが、展開が飛躍しすぎて何が起きてるのかさっぱりわからん」


「何を言うか! このあ然としてる内に進むストーリーが快感なんだろう!」


「ああ、お前もさっぱりわからないのは一緒か。だが、あれは快感にはならないだろ……」


 互いに今までスクリーンに映っていた作品を面白い、面白くないと評価しあう二人だったが、話を続けていくにつれて『夢』の口調からは疲れたような雰囲気が滲み出し、逆に怪物の口調からは機嫌よく元気そうな雰囲気が湧き始めていた。


 やがて『夢』が付き合っていられないとばかりに黙り込むと怪物はニヤリと笑って指をパチリと鳴らすとスクリーンと映写機が勝手に消えていき、やがて完全にどこにあったのかもわからなくなった。


「ふふん、私の勝ちだな。この映画は良作のコーナーに入れておくよ」


 得意げな顔をして再生機からディスクを取り出すとケースに入れてどこかへ仕舞い始める。どうやら面白い作品を入れておく場所らしく、そこには『夢』から見ても納得できる傑作やそれとは全く異なる凄まじい駄作映画が入っていた。


 そしてそれを見た『夢』は肩を落とし、影のような形で霧をまとって姿を隠しているというのにその上からさらにげんなりとした暗い雰囲気を纏っていた。



「ああもう、お前の趣味趣向をどうこう言うのはもう止めだ、頭痛の種になる」


 それだけ言うと影が徐々に薄くなっていき、やがて消えそうになっていたがそれを予測していたのか怪物は影が消える寸前に話しかける事でそれを止めた。


「そうだ、お前の持って来てくれた二つ目の素晴らしい事とはなんだ? やはり吸血鬼映画か? それとも君も遂に吸血鬼マニアの道に進む気になったのかね?」


 それを聞いた消える寸前の『夢』はげんなりとした雰囲気をあたかも初めから発していなかったかのように笑うと影が濃くなっていき、やがてもとの状態に戻った。


「聞きたいか? 聞きたいか? 間違いなくこれを聞けばお前は大笑いするか、大喜びする事間違い無しだぜ?」


 怪物はその言葉に対して勿論と頷き、『夢』に対して続きを促した。


 『夢』は得意げな顔をして部屋の中を何度も歩き回り、散々言葉を溜めて怪物が聞きたそうにしているのを見て楽しみ、それを終えるとおもむろに言った。


「お前を斬った鎧武者を追ってった女をな、俺は知ってるんだ」


 それを聞いた怪物は、『夢』の言葉通り笑い出していた。時に胸に手を当ててむせ返りつつ、それでも笑い続けていた。


 やがて笑い終えた怪物は目を輝かせて『夢』に詰め寄った。怪物が『夢』の目の前に立っても彼は『夢』の正体を掴めていなかったが、そんな事はどうでもいいとばかりに『夢』の手を掴んで無理やり握手した。


「そうか! 知り合いか! それは素晴らしいまさしく運命じゃないか……それで、彼女の名前は何と言うのかな? それにあの鎧武者から助けられた礼を言わねばならないから住んでいる場所を教えるんださあ早く!」


 今度は怪物が異様なテンションになる事を完全に予想していたのか今度は気後れする事無くまたどこからか写真を取り出した。


「こいつ、だよな? 名前は教えてやらんし、住んでる場所も教えてやらんがな。下心丸出しのクソ変態野郎に教えたら次の日には家に忍び込みかねないからな」


 怪物は写真を受け取るとあからさまに失礼な、という顔をした。


「誰が下心丸出しの変態だ。私はただ彼女にお礼を言ってから浚ったり殺されたりしたいだけだよ」


「それが変態だろ」


「……そう言われれば確かにそうだな、うむ、分かった。私とて女性からゴミを見るような目で見られるのは嫌だ。止めておこう」



 そこまで話し合うと怪物は何かに気づいたような顔をして首を傾げた。そう、『名前すら教えられない相手の写真を何故渡したのか』という疑問を持ったのだ。


 その視線に気づいた『夢』は霧を纏っていてもわかる楽しげな雰囲気で何かを企むようにニヤリと笑って見せる。


「ははは、実はな、彼女が近々起こる事件に巻き込まれる……いや、より正確には『自分から巻き込まれに行く』らしくてな。お前にも教えておこうと、まあ、そういう訳だ」


 怪物はそれを聞いてまた首を傾げた。


「事件? 鎧武者の、か? 確かにあの鎧武者は彼女に追われていたようだし、自分から巻き込まれに行くんだろうが……それくらいなら私でもわかる。わからないのは、何故、お前がそれを教えに来たか、だ」


「カイム」


 ただの名前を聞いた怪物の反応は凄まじかった、目を見開いて腕を握り締め、思わず圧倒的な威圧感を放ったのだ。そして怪物はゆっくり、ゆっくりとまるでかみ締めるように『夢』に対して口を開く。


「あいつが、ニルの父親が、なぜ絡む?」


「落としたらしいぞ? 鎧武者がカイムのペンダントを」


 怪物はゆっくりと握り締めていた腕を放し、目を元の状態に戻した。だが、無理やり戻したのか気配までは治まらず、その巨大すぎる威圧感はもはや殺気の域にまで到達していた。


「だからか……私を斬れる奴は限られてくるからな……カイムのペンダントを落としたと考えるとあれはカイム……ああ、私を叩き斬れるのも道理だ。あいつの方が私より遥かに強いんだからな」


 怪物は『夢』が言った事を踏まえて自身を斬った鎧武者の正体がカイムである事に半ば確信染みた物を抱いていた。なぜなら、怪物には見えていたからだ。鎧武者が自分を斬ろうとする動きが、だが動けなかった。動く気になれなかったのだ。


 そしてこの吸血鬼の格好をした怪物は『世界』の中でもかなりの力を持つ者だった。それが例え、わざと吸血鬼という遥かに揮う力を限定される怪物として振舞っていたとしても。


「私の意志を限定的にとはいえ左右するなどただ凄まじい腕を持つだけの武者には不可能……あれが相当な実力を持つ怪物だというのは気づいていたが、そうかカイムか……」


 怪物の独り言のような言葉を目の前で聞いていた『夢』はこの後の吸血鬼の姿をした怪物の行動を予測してニヤリと笑うと話しかけた。


「で、どうする? 関わるか? 関わらないのか?」


 そう言われて独り言のような言葉を止めて『夢』を直視した怪物の答えは、『夢』と呼ばれる影の予想した通りの物だ。


 そう、「当然だ」という。その一言。


 そしてその言葉を聞くと満足げに影は薄くなってやがて消えた。最初からそこに居なかったかのように。


「ところでお前は誰なんだ?」という、別れ際に言われた言葉を無視して。



「さて、関わると決めた以上準備をしなくてはならないが……結局『夢』の正体は分からずじまいか……」


 怪物は『夢』について思いをはせていた。強力な力を持つ怪物をしてなお正体を読ませないその存在は決まって幻覚のような霧を纏い、いつ如何なる時も正体を隠していた。


 稀に姿を現しては吸血鬼映画の話をしたり、『面白い事』と称して厄介ごとを持ってくるその存在に対して怪物はいつも正体を尋ねていたが、それを聞くといつも影は姿を消すのだ。


 なんとか正体を見破ろうとしていたのだが、何故か見通せない霧を纏った『夢』は怪物をして正体に繋がる事を何も掴ませなかった。


 そして怪物は『夢』に関する思索を頭の隅に追いやり、自らが関わると『夢』に宣言した事件がどのようにして起こるのかを考え始め、独り言を呟いた。


「どの道、私こと吸血鬼---ジェラルドが関わるんだ。『夢』が何を考えていようが私は私で、動くまでだ」


 吸血鬼マニアの怪物、略して吸血鬼ジェラルドはそう言って起きる予定の事件に関わることを改めて宣言した。



「ふん、仕込みはこれくらいでいいか」


 怪物の住居である廃城から出た『夢』は独り言を呟いていた。魔界と呼ばれても文句の言えないほど嫌な空気を放つ森だったが、『夢』はまったくそれを気にしていなかった。


 むしろその森に住む動植物達は『夢』から離れるように、怯えるように息を潜めていたのだ。


「ジェラルドが彼女に惚れる所は予想外だったが、これはいい、面白いスパイスになりそうじゃないか」


 また一つ独り言を呟くと、『夢』は吹き出る霧に隠されたまま頭に何かを浮かべて笑った。


「ニル……か、ハッ、お前のお望み通り、『面白い事』になりそうだなぁ」


 『夢』は頭に浮かべていた。長髪長身で、常に不敵な笑みを浮かべた女の顔を。


「楽しみにしてるぞ? お前達が、どんな風に動くのかを、な」



 かくして、何人もの人間を巻き込んだ事件は最初の1ページを終え、次の2ページ目に進むのであった。

というわけで0.5話です。次からが本編ですよ……プロット作るのすげえ難しいです。

ちなみに、ジェラルドが見ていた映画と後から『夢』に渡された映画は特にコレと言った作品名はつけていません。前者は様々な映画を意識して描写しましたが……

後、そういう趣味的な遊びの描写の方がなぜか本筋のストーリーを進める描写より多くなってしまうんですよね……テンポ悪くなるし……

そもそもこの作品は面白いんだろうか、どうにも1シーンごとの文章が短すぎる気がします。

ここまで書くのでもう音を上げていますが、完結はする気です。群像劇の一番重要な部分はラストだと思っていますので、絶対にそこまでは行きたい。 2012/2/29/0:07

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