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プロローグ3

『世界』のどこか ??:??



 ニルと駿我が笑いながら帰っていった時、彼と彼女が居た歩道より遥か遠くにある家の中で唯一明かりのついていない一室で一人の怪物が彼ら以上に愉快そうな顔をしていた。


 その怪物は人間の姿だったが、どこか人とは隔絶した何かを持っていそうな顔立ちをした男のような女のような、両方でもあるような存在だった。


 髪はなぜか虹色でたまに薄く光っており、目は濁っているがたまに暗闇で光り輝いており、その姿でさえよく見るとたまに『ブレ』てぼんやりと別の人間や怪物の姿が浮かぶ、どうみても人外の怪物だ。


「ニル君、私はもう知っているよ……最初から観ているんだからね。いやいや変態じゃないよ? まあ、確かに付きまといたくなる美人ではあるけどね!」


 怪物は薄笑いを浮かべて陶酔するような口調で呟いたかと思うといきなり慌てだしなぜか誰も聞いていない自己弁護を始めた。その部屋には怪物一人しか居なかったので誰もその姿を見ていなかった為に指摘する者は居なかったが、怪物が『変』である事は明白だった。


「あはははぁ、そうだね、ついに『あいつ』の手がかりが掴めたんだもんね……私頑張っちゃったもんね……『あいつ』は私の監視下に絶対引っかかってくれないし……えへへ、えへへへへ」


 自己弁護を終えると怪物は笑い出して、ついにはニコニコと不気味な笑みを浮かべて陶酔しているような表情になった。いや、実際陶酔しているのだ。


 この怪物こそが、ニルの言っていた『あいつ』だった。彼か彼女かもわからないソレは長年ニルの父親を探していたのだ。ニル本人よりも、ずっと力を入れて。


「あいつが行方くらましたら私にも掴めないんだからね、力は互角なのにあっちは身を隠すのが上手い事この上ない。やっと掴めた大きな手がかりさ……それにしても、あの鎧武者君も必死だねえ」


 怪物の言うそれは鎧武者の正体に繋がる物だったが、あいにく誰も聞いていなかったために気づくものは居なかった。


 そして怪物がひとしきり独り言を呟き終えると、それを待っていたかのように部屋の外から走るような大きな音がしたかと思うと一人の少年が部屋のドアを蹴破るような勢いで開けていた。


 歳は10代前半、黒い髪とあまり高くない背をした普通の少年だったが、怪物と少年をはじめて見た人間は驚いただろう。まったく、同じ顔をしているのだから。


 少年は部屋に入るとすぐに楽しそうな顔をして怪物に話をしようとした、が、


「エィストさん! カイムさんの----」


 少年は、言葉を最後まで言えなかった。エィストと呼ばれた怪物は少年が言葉を発し始めた瞬間に『何故か側に転がっていた』『という事になっていた』鉄の棒を勢いよく少年に向けて投げつけたのだ。


 恐ろしいほどの速さで投げられた鉄棒は少年に避ける隙も事態を把握させる隙も一切与えず容赦なく少年の胸に突き刺さってそのままの勢いで少年ごと進み、部屋の向かい側の壁にめり込んだ。



 本来なら誰がどうみても即死、という状況下である。エィストはそれが命中したことを確認して少し微笑むと途端に悲しそうな表情になって少年に駆け寄った。


「ああっ! ごめんね、恭助。痛かった、よね? うう……やっぱり私は駄目な子だ……」


 妙な事を言いつつも、胸に鉄棒の突き刺さっている恭助と呼ばれた少年を壁から離し鉄棒を抜き、恭助と呼ばれた少年を抱きしめて泣き出していた。


 様々な点でおかしな光景だったが、やはり何かを言う物は居ない。居ないはずだ、言葉を話せるものはその場にエィストしか居ないはずなのだから。


「ううぅ……痛かったよエィストさん、もう、いっつもいっつも言ってるけど死なないのと痛みを感じないのは別なんだからね、胸に鉄棒なんて最低の気分だよ」


 だが、『居た』。


 胸に鉄棒が刺さっている恭助がむくりと起き上がるとエィストの方を見て苦笑しながら話しかけていた。


 明らかな即死の状態から当たり前のように起き上がってみせた恭助だったが、それに対してエィストはまったく驚かなかった。なぜなら、恭助という少年は死んでも死なない事を知っていたのだ。


 知っていたエィストはあからさまに演技臭い感動の涙を流し、恭助を強く抱きしめていた。


「わあ! 私の愛が恭助に通じたんだね! 神様ありがとう!」


「エィストさんほど神様から遠い生き物はいないよね……後、僕は愛が通じたとかじゃないと思うけどな」


「ううぅ……恭助君が虐めます……」


「鉄棒で胸をブッ刺された上に壁に叩きつけられたのは僕だけどね」


 同じ顔だが髪や雰囲気の違う二人のどこか大事なものが抜けているような不気味な会話はどんどん続いていったが、今度こそそれに物を言う人間は居なかった。


 しばらく奇妙な会話を繰り返していた二人だったが、ふいにエィストが演技のような態度を崩し真面目な顔をした事で恭助もまた苦笑を引っ込めた。



「君はもう知ってるかもしれないけど……カイムが、ニルの父親の手がかりが見つかったよ。私が探しても見つからないけど、手がかりは見つかったよ。嬉しいよね、本当に。君も頑張ったからねえ」


「ちょっとくらいは知ってます、というか教えようとしたら鉄棒投げつけられたから喋れなかったんだけど」


 恭助が若干拗ねたような顔をしているのをエィストは見て取ったが、曖昧に笑うとすまなそうな顔をして恭助に謝ろうとした。


 だがそんなエィストの態度と言葉を聞いた恭助はあからさまに嫌そうな顔をしてエィストにそれを止めさせる。


「やめて、そんな反省したような顔は『らしくない』から」


 それを聞いたエィストはなんとなく嬉しそうな雰囲気になってすまなそうな顔を止めると本題だとばかりに『始めから手の中に入っていたように』手の平に乗っていたペンダントを恭助に見せた。


「それは……カイムさんのだね、それがどうしたの?」


 そのペンダントは先ほどニルが持っていた物とまったく同じ色形をした物だった。


 ペンダントを鎧武者が落とした事までは恭助が知らない事を理解したエィストは得意げな、自分だけ情報を掴んでいたという優越感に浸ったような顔をすると説明を始めた。


「そ、これはカイムが持ってた奴と同じ物さ。実はこの世に二つとない物だから、別の人の持ち物という線は無いね。それでね、それでねぇ、これを、落としたらしいよ」


「誰が?」


「今話題の鎧武者君」


 それを聞いた恭助は目を丸くしていた。だが二つと無い物だというのに何故かエィストが同じ物を持っている矛盾に疑問を持つ者は居ない。


「じゃあ、鎧武者さんはカイムさんの関係者?」


 純粋な好奇心の目になった恭助に対しエィストは得意げな顔をすると彼の耳元におもむろに口を近づけると、小さく何かを、鎧武者の正体を呟いて悪戯っぽく笑って見せた。



「意外かな? いや、『恭助君なら知っていてもおかしくないか』」


 恭助からの答えを待つでもなくうんうんと頷いているエィストを見て、恭助は理解していた。理解して、笑っていた。


「つまり、『面白くなる』って事?」


 その言葉を聞いたエィストの反応は、恭助の予想した通りの物だった。そう、笑いだ。抑えながらも少し声を出して、怪物は笑っている。


「クク、そうさ、そうだよ、そうなるんだよ! 恭助君は賢いなあ、そう、なんとかして『私にとっての面白い事』を起こして見せるさ! だから、だからね……」


 エィストが急にもじもじとして顔を赤らめ始めたのを恭助は嫌な予感を持って聞いていた。普段の彼なら、親愛の情でも語り始めそうな態度だったが、それでも恭助の脳にはなんとなく嫌な警告音が鳴っていた


「だからね! 君は君で私を騙してくれればいい! だから私は聞かないよ? 君の隠してることを、ね? だって、その方が……」


 恥ずかしそうに、照れくさそうに告げられた言葉はまさしく恭助の真を突いた物だった。なぜなら恭助はエィストに対して決定的な『ある事』を隠しているのだから。


 そう、決定的な、ある事を。


 そして、言葉を聞いてからずっと固まっている恭助へと散々愉快そうに笑いかけて好き放題頭を撫で回してから壁へ寄りかからせると、エィストは最後に一言だけ発して部屋のドアを閉めた。


「だって、その方が、面白くなりそうじゃない?」と。



 固まっていた恭助だったが、しばらくすると再び動き出していた。目には隠し事を見抜かれた事でほんの少し無念そうな色があったが、それもすぐに消えてなくなり、変わりにエィストと同じ愉快そうな笑みを浮かべていた。


「鉄棒一発分の隠し事のつもりだったんだけどなあ……でも、まあいいや、確かに面白くなりそうだし……頑張らなきゃね」


 そしてそれだけ呟くと、来た時よりもずっとゆっくりと廊下を歩いて、消えていった。


 エィストという怪物の持つ『おかしな』部分を知っている少年は『殺された』事を怒ってはいなかった、慣れているというのもあったが、何より恭助自身が認めているのだ、彼の最低な行いが実は愛情表現の一種だという事を。


 しかしそれでも隠し事をしているのは、重要な話をしようとして止められたからだった。


 決定的なそれを話そうとして、鉄棒を打ち込まれたのだ。だから恭助は悪戯心もあって、隠した。この後に起こる出来事を根本から変える、その情報を。


 そう、『ニルと駿我の居た場所のすぐ近くに、カイムが居た』という、決定的な情報を。



 部屋に戻ったエィストは立って笑っていたが、しばらくすると疑問が生まれたような表情をして椅子に座り込み、首を傾けて呟いた。


「そういえば、あのペンダントはどこから出てきたんだろう? あいつがあれを落とすはず無いんだけどなあ。私に気づかせずに何かやったとかかな。いや、もしかすると私に対するメッセージ?」


 ニルがペンダントを得た所をエィストは観ていなかった、ニルを観ていると急に視界が暗転してそれが終わったかと思うとニルは既にペンダントを持って戻る最中だったのだ。


 少しの間悩んでいたが、やがてその事を分からない物として頭の隅へと追いやると、エィストは恭助の顔を思い出して嬉しそうな表情を見せた。まるでそれは、父親が子供の成長を喜ぶかのような表情だったが、本人は気づいていない。


「あの子も随分成長したねえ……隠し事に気づけた所までは良かったけど、何を隠しているのかにまでは至れ無かったなあ」


 そして、エィストはそれだけ呟くと嬉しそうに鼻歌交じりで何気無しに机を人差し指でとんとんとリズム良く叩き始めた。何度も、何度も。これから来る出来事を、祝福するように。



 猫の鳴き声が、響いていた


1日でここまで書きました。急いで書いたので推敲作業もまだな上に多分ここまでだけでも矛盾を出してしまってると思います。

というわけでプロローグ3でした。作中最悪のイカレ野郎兼変態兼最強にして作者が一番セリフ書くの楽しいエィストです。今回セリフが多いのもその性。

次は0.5話。1話が始まる前の、言わばプロローグ4です。ですがプロローグ4とつけるのは正直プロローグを続けすぎる気がしたのでこうします。

2012/2/27/21:12 ※予約掲載です。

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