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プロローグ2

『世界』のどこか 22:22



 幾つかの電灯がぼんやりと光る、なぜか人の気配がしない歩道で二人の男女が笑顔で話をしながら歩いていた。


 片方の男はなぜか日本の江戸時代の侍の格好をし、腰には刀がさげられているといういかにもその時代を生きたと見せ付けるような、否、『見せかけるような』格好をした男だ。


 編み笠を深く被っていたので顔が隣の女以外からはよく見えなかったが、男の楽しげな口調からやはり笑顔なのだろうと想像できた。


 女の方は侍の格好をした男とはまったく違い黒い長髪で黒い軍服のような服に赤い飾りを幾つか付けた赤と黒がよく似合う長身の女だ。


 こちらは特に何かを被っているわけではなかったのでその不敵で楽しそうな笑みもやはり楽しげな口調も露に男と話している。


 侍の格好をした男と不敵な笑みの女は笑って話をして歩きながら、たまに顔を合わせて面白げに笑いあい、たまにお互いの肩を組んでやはり笑いあっていた。


 傍から見ればどうにも「そういう」関係を邪推してしまうほど仲の良さそうな男女の二人組みだったが、彼か彼女か彼らの仲を知る者にそれを言えば苦笑か嘲笑か怒りかのどれかを向けられ訂正させられるだろう。


 そう、二人組は親友だった。そう、この男女は、侍の格好をした『駿我』と不敵な笑みの『ニル』は親友なのだ。


 親友である二人組みはなんでもない雑談をして駿我が時に吹き出すように笑ったり時に仏頂面をニルにだけ向けニルは強力な接着剤で貼りつけてあるようなほぼ変わらない不敵な笑みを駿我に向けていた。



 そんな二人組みがお互いの話で盛り上がっている時、ふとニルが思い出したような顔をして駿我の顔を見て言った。


「なあ、話は変わるんだが……最近よく耳にする『鎧武者の格好をした人斬り』の話は聞いたかな?」


 一見わざとらしいほど気取った、というか格好つけた調子で発せられた言葉だったがそれをニルが言うだけでとても自然な物に感じさせる。


 それを聞いた駿我は少しだけ考え込むと困ったような雰囲気でその問いに答えた。


「いや、寡聞にして存ぜぬよ。その手の噂や事件には疎くっていけないと自分でも思ってるんでござるがな」


 格好に合わせているのか明らかにわざとらしい口調で発せられた言葉だった。だが言いなれているのか駿我の声音に無理は感じられない。


 駿我の答えにニルは予想していたと言いたげに笑みを強くすると駿我の隣から離れて急に歩道の細い脇道の方まで行くと語り始めた。


「夜道を歩いてるとね、稀に……本当に稀にだが……鎧を着けた武者に出会うそうだよ。その鎧武者は言葉を一切発せず殺気だけを撒き散らして近づいて、目にも留まらない早業で斬りかかって来るらしい」


 ニルの語る話は噂で伝播する類の怪談のようだったが、それは間違いなく真実だ。『実際に斬りかかられた者が居るのだから』。


 駿我はそれを直感で理解したのかなんとなくそれまでの楽しげな声音を引っ込めると真剣な表情でニルに尋ねた。


「そいつは……本当にあった話でござるかな? そうだとすれば、また何と無駄な……『この世界の住民はほぼ死ぬどころか生きてすらない』でござろうに」


 なんとなく呆れたような駿我の口から発せられた謎の言葉、それは間違いなく真実だった。



 『世界』。何者かが作り出した古今東西の様々な物がありあらゆる世界の過去とも未来とも今とも呼べない『異界』。


 『魔界』とも称されるその『世界』の住人、特に『怪物』と言われる住人はまさしく生きてすらいないし死んですらいない。


 果ては存在すらあやふやな者までが意思を持ち巨大な力を持ちながらもその『世界』であらゆる存在として生活しているのだ、


 例えば壁や道路の一部に、例えばあらゆる星の動植物に、例えば霊的な存在に、例えば事象に、例えば吸血鬼マニアに。例えば、人間に。そう、 『駿我の目の前に居る女性ニルのように』人間の形を持つ者も居る。


 彼女はそういう生き物であり同時に人間である事を駿我は知っていた。



 駿我の意味ありげな目線に気づいたニルは少し拗ねたような顔を、不敵な笑みはそのままにして駿我に見せる。


「……その意味深な目線は止めてくれよ。私だって一応、一応だが人間なんだ、君にそんな目で見られたら私は泣いてしまうかもしれない」


「その不敵な笑みと口調さえなければまだ演技だという事を隠せそうな物でござるがな、特に拙者には通じぬよ」


 その言葉を聴くとニルは楽しそうに笑うと相変わらずの笑みのままで拗ねた表情を強めて見せた。拗ねた表情の原因は、彼女は自身の言う通り、一応は人間だからだと駿我はあたりを付けていた。


「まったく、ずっと前にも言ったけど私にはちゃんと人間の母親と人型の父親が居るんだ、一応人間なんだよ私は、一応」


 ニルはなぜか一応を念を押すように何度も、かつ強く言っていた。だがふと自分の発言に間違いがあった事に気づいたのか、それとも駿我の言い辛そうな表情に気づいたのか言葉を訂正していた。


「……いや、母親は『居た』んだったな。父親の方はかなりの怪物だが母親は確実に人間だったぞ、物凄い長生きだったから普通とは言いがたいがね」


 彼女の母親は老衰で亡くなっていた。『もう数百年前に』『本人どころか周りも数えるのに飽きるくらいの歳で亡くなっていた』。


 だが駿我はさらに言い辛そうな顔になっていた。


「……ニルの母親の事は特に悲しくもならんでござるよ、ニルもほとんど気にしてないでござろう? 何より、『たまに会う』でござるし。拙者が言いたいのはそういう事ではなくて、父親の方でござるよ」


 その言葉を聴いた時、駿我は見た。ほんの一瞬、いや一瞬にすらならないほどの僅かな間だったが、ニルの不敵な笑顔がほんの少しだけ揺れ動いたのを。


 不敵な笑みがほんの僅かに揺れたニルだったが、次の瞬間にはそれを上回るほどの楽しそうな笑みを浮かべて駿我に話しかけていた。


「まあ、彼は……行方不明のまま一報も遣さないし、気にならないかと聞かれれば嘘だが……正直顔すら覚えてないんだからね」


 ニルの父親は行方不明だった。それも彼女が存在を創める前後に。以後彼女は父親にあった事が一度も無かったのだ。


 なので彼女には父親に対する親愛の類は無かったが、一つだけ彼女の心に突き刺さっている事があったのだ。つまり、彼女の力の事だった。


「私の『コレ』は父親からの遺伝みたいな物らしいからね、気になるんだよ。会ってみたいかみたくないかで言うと、会ってみようかな程度には。こんな力持ってる奴の性格だからね、知りたいだろう?」


 ニルは自分の胸を指差して不敵な笑みを一層強めて語っていた。その言葉に対して駿我はニルらしいと一度笑い、それに釣られたのかニルは声を上げて笑っていた。



 ひとしきり笑うと二人は何かに気づいたのか顔を見合わせた。どうもその姿はお互いに会話の内容に困惑しているように見えた。そう、話題がズレていたのだ。それも互いが自覚する事無く。


「……どこからズレた? いや聞くまでも無いか、鎧武者がこの『世界』の住人を斬っても毒にも薬にもならないだろうにって所からだったな」


「うむ、ズレてしまったでござるな。いやすまぬな、拙者の話の持って行きかたが不味かった」


「気にするなよ、そんな事を言われたら自分の身の話をした私まで気にしなくちゃならないじゃないか」


 お互いに相手を少し気遣うような調子で話し合い、しばらく無言で顔を見合わせるとまた笑い出して、元の話に戻る。


「さて、うむ、それで、鎧武者でござったな。で、それは本当にあった話でござるかな?」


 先に話したのは駿我だった、なんとか先ほどの会話のズレる寸前に自分が言った質問を思い出したのか嬉しそうな表情をしていた。


「あ、ああ。本当にあった話だ、実際に被害を受けた者も居るらしい。正確に誰なのかまで私は知らないが」


 それを返したニルも話を盛大にズラしてしまった事を修正できたためか嬉しそうな表情をしていた。


 駿我はそれを聞いてなんとなく興味を持ったのか頭に手をやると愉快そうに笑って見せた。


「いや時代錯誤ーって感じでござるよな、この『世界』に時代錯誤という事がありえるのかは置いておくでござるが」


 あらゆる過去とも未来とも今とも言えないこの『世界』には沢山の物が有る。勿論江戸時代のような場所もありえるのだ。


 ただそれだけに広大な世界でもあったために「何があって何が無いのか」を知ることは困難だった。


「ふふ、そうだな。まあこの辺りは確か地球の日本の西暦2000年前後だったはずだからね、時代錯誤という言葉であってると思うよ」


 ニルは駿我の言葉に答えるように笑いながら話していた。


 が、ふと何かを思い出したのか急に悪戯っぽい笑顔になって駿我に話しかけた、話したい事を言おうとした。


「話がズレてたから忘れてたけどね、実はこの話には色々と補足を入れなきゃいけない所があるんだ。実は---」


 だが、それが語られる事は無かった。邪魔が入ったのだ。そう、丁度今話題にしていた者が邪魔をしたのだ。


 そう、鬼の面を被った鎧武者が、邪魔をしたのだ。



 ニルがそれ以上話せなかったのは歩道の脇道から吹き飛ぶような勢いで迫る鎧武者が現れていたからだった。


 鎧武者は殺気を撒き散らしながら電光石火の間に刀を抜くとそれをニルに向け斬りかかった。が、それがニルに届くことは無い。


 ニルと鎧武者の間に割って入った者が居たのだ。それを確認したニルはやれやれと肩をすくめていた。


「止めなくても、良かったんだがな。どうせ効かないからね」


 割って入ったのは駿我だった、駿我は鎧武者が凄まじい速度で刀を抜いたのを確認するや否やそれを超える速度で刀を抜き鎧武者の刀を止めてみせていた。


 鎧武者の刀を止めつつもニルの言葉を聞いた駿我は相変わらずの口調のまま若干照れくさそうな表情を浮かべて見せた。


「そういう訳にも、いかんでござるよ。何せほら、拙者らは友でござる。だからまあ、勝手に体が動いてしまった」


 無論、編み笠を深く被っていたために鎧武者にはわかりにくかっただろうが、ニルは声音だけでそれが照れくさそうな表情を浮かべている事を理解する事ができた。


 もちろんその間も鎧武者と駿我は刀を合わせていたのだが、両者の口調にそれを気にしたような雰囲気は無かった。まるで慣れているように。


「ははっ、それは嬉しいな。さて、さっきの話の続きだが、本人に直接聞いた方が早いかな?」


 ニルは駿我の言葉に喜びつつも鎧武者の方を見て笑う。


 そして鎧武者にその言葉が届いた瞬間、駿我は数歩後ろへと弾き飛ばされていた。鎧武者が刀に力を入れて駿我を弾いていたのだ。


 駿我が数歩弾かれるのを確認する事もせず、というより予想していたとでも言うように鎧武者はニルと駿我の二人から距離を取っていた。


 そして数秒ニルが鎧武者の鬼の面の目に視線を合わせたかと思うと、鎧武者は身を翻して逃げていた。


 ニルと駿我は知らなかったが、その逃げる速さは吸血鬼の姿をした怪物を斬った後に女に追われて逃げた時の速さとまったく同じ物だった。


「逃がすものか、追うぞ!」


「……いや待て」


 駿我は鎧武者が逃げる寸前で気づいて叫ぶような声音で追跡する事をニルに言ったが、そう言われたニルはさっと駿我の目の前に腕を伸ばして静止する。


 とっさにニルへと疑問の目を駿我だったがその疑問はすぐに氷解していた。ニルの表情を見て長い付き合いから何を言わんとするかを読み取ったのだ。


 そしてニルは普段より飛び切り強い不敵な笑みを浮かべて駿我の予想した通りの事を言っていた。


「私が追うさ、元々斬りかかられたのは私だ。だから私が追わなきゃならない」


 そう言うと駿我が言葉を返すのを待つ事無く、あまりに速過ぎて、何時の間に動いたのかわからないほどの速さで走って消えていった。



 凄まじい速さで走っていったニルを駿我は止めるでもなく見送るとため息を一つついて刀を納めニルと鎧武者が目にも留まらない速さで走っていった脇道のすぐ近くにあるコンクリートの壁によりかかった。


「行ってしまったか……まあ仕方ない、待っていよう」


 独り言を一つ呟くと駿我は黙り込み、やがて瞑想するように目を瞑ると壁と一体化するほど気配が薄まっていく。


 駿我はわざとらしい口調とわざとらしいほどそれらしい格好をした人物だ、だが剣の腕や気配の消し方から窺えるその力は本物なのだ、いや、理想や空想が入っている分本物よりも遥かに強いかもしれない。


 そして、歩道の形をしているというのに何故か人通りが極端に少ないそこは先ほどまで居た2人の内の女の方がどこかに行ってしまい、男の方が気配を消すように壁によりかかったこともあって完全な沈黙になりかかっていた。


 そう、『なりかかっていた』。猫の鳴き声が、聞こえるまでは。


 駿我は何時の間にか目を開いていた、何かを感じたかのように周囲を見てもそこには何も無い。だが駿我は気づいていた、こちらを観察するような気配と視線に。


「何者か? ニルならともかく、拙者を観察するとは酔狂な者よ。そのようにジロジロとこちらを観察する視線を向けるな。喧嘩なら、買うぞ」


 先ほど納めた刀を素早く抜くと油断無く周囲を見回している駿我、その言葉を聞いてか視線はどんどんと駿我に近づいてきた。


 そして、猫の鳴き声が聞こえた。


 猫の鳴き声が大きく聞こえるたびに駿我の感じる視線は近くなっていった。だが駿我は刀を納めない、「なんだ猫か」で解決できるほどこの『世界』の生き物は甘くないのだから。



 気配が駿我の視界に入る一歩手前まで来た時、駿我の耳に声が入り、その瞬間気配は四散していた。


「どうした駿我? 刀を持って周囲を見回すとは物騒だね。人の事は言えないのは分かった上で言わせて貰うが、それだと君が危険人物みたいだぞ」


 声の主はニルだった。行きとは違いゆっくりと歩く彼女は鎧武者を追う時よりも遥かに楽しげで、面白げで、いつもどおり不敵だった。


 駿我はその声を聞くと安心したように刀に入っていた力を抜き、すぐに刀を鞘に納めて笑みを浮かべると先ほどと同じ調子でニルに向かって話しかけた。


「いや少しな、気配を感じたんでござるよ。ちょっと危険そうな、嫌な気配でござったからちょっと刀を抜いて警戒しておったのでござる。だから拙者は危険人物とかではない、断じて無い」


 それを聞いたニルは悪戯っぽく笑い「冗談だ」と一言告げると周囲を少し見回して、先ほど駿我が感じていた気配の方向を見て何かに気づいたような顔をすると笑みを深くしてその方向に歩いていく。


 すると猫の鳴き声が聞こえ、数秒後にはニルが何かを抱えて駿我の前に現れていた。


 ニルが抱えていたものには尖った耳があった、肉球があった、ひげがあった、黒と紫の中間の色をした体毛があった、にゃあと鳴いていた。つまり猫だった。


「……猫、でござるな」


「ああ、普通に、猫だね」


「……いやいや、うむ、まあ、この『世界』では猫が目からビームを出しても許されるんでござるしうむ」


「特徴の無いわりと普通の猫だがな、怪物の変化とかそういうのでもない、多分だけどな。人相、いや猫相はあまり良くないが」


「……ギャングの親玉っぽい顔でござるよな」


 二人はしばらく顔を見合わせていた。が、やがて痺れを切らしたように猫がニルの腕の中から這い出てきた事で再び動き出した。


「あー、そこな猫殿、すまぬが聞きたい。なぜ拙者を観察しておったのかな?」


 この『世界』のあらゆる住人は例え壁だろうが家だろうが猫だろうが意思さえあればどんな存在であっても意思疎通が可能である、それを知っている駿我は当然のように猫に話しかけた。


 話しかけられた猫も特に戸惑うでもなく駿我に対して言葉を返した。猫相が悪いと言われた事に若干落ち込みながらだったが。


「……夜の歩道で帯刀してる侍を見たら普通はジロジロ見るか目を逸らす。この辺りは地球に住む人類の歴でいうと西暦2000年前後がベースなんだぞ。100年以上遅いだろうが……」


 猫はギャングの親玉とまで言われた顔の印象を裏切らない深くて渋い声だった。人間のように口を開いて人語を話しているわけではなく、ただ声が猫から聞こえてくるのだ。


 それは『世界』の住人ではない者から見れば実に奇妙な光景だったが、ここにはそんな者は居なかったために特に驚かれない。


 そんな猫の言葉を聞いたニルは思わず駿我の方を見ていた。もちろん、同情的な視線をこめて。


「あー……そんな目でみるなよニル。この格好気に入ってるんだからな俺」


「口調が素に戻ってるぞ」


「い、いや拙者は……拙者は……」


 肩を落として自分を洗脳するように拙者拙者と言う駿我にニルは慰めるように肩に手を置いていた。



 一分後、なんとか気を持ち直した駿我の前に猫は居なかった。猫は二人を見て呆れたような表情をして、その場から立ち去っていたのだ。


 猫が「じゃあ帰るぞ」という一言を残していた、とニルに教えられそれに気づかなかった自分にまた肩を落としたが今度は特に気にした様子はない。


 そして気を取り直した駿我はニルの顔を見て怪訝そうな顔をしていた。


「どうしたでござるか? ニル、随分と機嫌が良さそうな顔ではござらぬか」


 ニルの顔は先ほど歩道の脇道から戻ってきた時と同じように、いつもより遥かに楽しげで、面白げで、何より愉快そうでいつも通り不敵だった。


 ニルがこのような表情をする時は決まって何か「面白い事」を聞いた証で、何より駿我にとっては厄介な事態がやってくる事を示すサインでもあった。


 駿我に指摘されたニルは、いきなり堪え切れなくなったように声を上げて笑い出した。腹を抱えて、たまに息を乱すほどに笑っている。


 そして散々笑ってからあ然とする駿我を見つめるといつもより遥かに高いテンションで話し出した。不敵な笑みは、そのままで。


「そうかそう見えるか、そうだろうね! ああ面白い、面白い事になってしまったよ素晴らしい! 幸運だ狂喜だ何より……愉快だ!」


 普段のそれとは様々な部分で違うその口調にしばらくあ然とした状態だった駿我だが、すぐに調子を取り戻してみせた。


 このニルが何か自分の心に突き刺さるような「面白い事」を聞くと狂喜したり笑い出したり口調がおかしくなる事を彼はよく知っていたのだ。


「よほど面白い事があったと見える。何があった? あの鎧武者に何か面白い点でもあったんでござるか?」


 そう聞くとニルはそれを耳に入れるとまた愉快そうに声を上げて笑おうとして、止めた。どうやら非常に高いテンションの中でも彼女は駿我に説明するという事を忘れていなかったらしく、若干調子を普段に戻していた。


 だが変わりに普段よりも遥かに笑みが濃くなり、濃くなりすぎて狂笑と言われても仕方の無いくらいの笑みになっていたがそれを指摘するものは居なかった。


 唯一それを指摘できる立場だった駿我もあまり深くは聞くまいと何も言わなかったのでやはり誰も指摘しない。


「ふ、ふふ、そうだな。教えなきゃわからないよな、その通りだその通りだとも。あの鎧武者に、あハ、面白い点が、ククッ、あったんだよ」


 抑えきれなかったのか、話の最後に若干笑いが出ていたが、駿我はあまり気に留めなかった。


 そして無言で頷き話の続きを促すとニルはポケットから何かを取り出して見せた。紐で繋がれた小さな赤い石だ、その紐の長さは首へかけるのに丁度いい長さだった。


「ペンダントか、で、それが一体なんだったんでござるか?」


「ふふ、これはな、これは……私の父親の持ち物なんだ。鎧武者が落とした、ね」


「何故わかるんでござるか?」


「あはは、それはな、私に同じものを付けていたとこれと同じペンダントを見せてくれた者がいるんだよ」


「なるほど、だがそいつはまた……噂をすれば影がさすとはよく言った物でござるな、まさかその話題をしてからすぐに持ち物が出てくるとは」


「驚き、だろう? だがそれは二の次だよ」


 駿我は首をかしげていた。父親の持ち物を鎧武者が落とした、というくだりで駿我は鎧武者が父親なのではないかとニルが疑っていると思ったのだ。


「ああ、あの鎧武者の正体が父親だろうが見知らぬ他人だろうが怪物だろうが猫だろうが君のような親友だろうがそれは今はどうでもいいんだ。重要なのは、あの鎧武者から『私の父親の手がかりが見つかった』という一点だよ」


「……ああ、なるほど。それを見せれば『彼を探している者が動く』、これが、『面白い事』でござるな?」


 ニルの話で駿我はニルの言う『面白い事』を大体理解していた。彼女の父親を探す者は確かに居る。そしてそれがなぜ面白い事なのかも、駿我は理解できていた。


 理解した顔でニルの方を見て頷くと、ニルは駿我にいつも通りの、だが若干高揚した調子で笑いつつ話した。


「『あいつ』が動くんだ……面白くならないはずが無いじゃないか。いや、あいつが動けば絶対に私にとって面白くなる、駿我にとっては……面倒ごとかな?」


「もう慣れてるでござるよ、そういうの」


 駿我が肩をすくめつつそう言うとニルはにっこり笑って駿我と顔を見合わせ、暫く黙ったかと思うとまた笑い出した。



 そして、笑ってその場を後にした駿我とニルは気が付かなかった。お互いに2つずつ気づかなかった事があるという事に。



 駿我は、感じた視線は確かに猫の物だったが、『気配は別の物』だった、という事と、『一瞬ニルが何か含みを持たせた笑みになった事』に



 ニルは、ペンダントを見せに行く相手が『最初から彼と彼女を観ていた』、という事と、『実は父親がすぐ近くに居たという事』に



 そして、二人はまだ気づかなかった、『あの猫の視線の真意に』。二人は気づいていなかった。この『面白い事』が、彼と彼女の人生の節目になる事に。

疲れた……本当に疲れた……これ鎧武者出るまでを丸1日で書き、猫が出るまで丸1日、最後までで丸1日で合計3日かけました。速筆の人はいいなあ……

なのでミスしまくってると思います。深夜の作業なので書いてる途中で設定が二転三転する事もあると思います。推敲段階で弾いてるんですが、それも深夜の作業なのでやっぱり見逃します。

ついでに言うと、最後の「気が付かなかった事」は別に登場人物自身がどうこうではなくて(一応そういう意味も持たせんたんですが)、私こと書き手のストーリーの動かし方を制限するために入れた物です。でないとストーリーが悪い意味で二転三転してプロット作ったのに最初で死んでたはずの人物が死んだことを忘れて「残念だったな、トリックだよ」とばかりに復活させるというミスをやらかしかねないので……

ちなみに途中でたまに文体がぶれる時があったりするような気がしますが、それは書いてる時のテンションや参考にした作品の影響です。

多分話の本筋には影響は無いと思います。無いといいなぁ……

さらにしつこく補足すると、世界観設定は完全に私の技量の無さで死に設定化する危険大です。

さてそろそろプロローグ3に取り掛からなくては……次は話に出てた『彼』の話です、短めかな?なるといいなあ。

2012/2/27/1:21

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