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第3話「魔王の前の猿」
「こりゃあ、もうダメだわ!
あの人の目は人間じゃにゃあ、化け物だて!」
信長が待つ広間の手前、万作は柱にしがみつき生まれたての小鹿のように震えていた。
本物の秀吉なら鼻歌まじりに進む道も万作にとっては処刑台への階段にしか見えない。
「いいですか、信長公は直感の塊のような人です。
下手に取り繕うより、いつもの猿のように騒いで懐に飛び込むんです……ほら、行って」
秀長は笑顔で万作の背中を力いっぱい突き飛ばした。
「……お、おおっ! 信長様、お呼びでございますか!」
万作は勢い余って信長の目の前で派手に転倒した。静まり返る広間。
信長の鋭い視線が床に這いつくばる万作を突き刺す。万作は恐怖のあまり無意識にいつものボヤきを漏らした。
「痛てて……何だねこの床、ツルツルして滑るがね。頼むで本当……コレじゃあホントの猿滑りだがね」
信長が、ゆっくりと立ち上がる。万作は死を覚悟し目を強く閉じた。
「……カカカッ! 猿め、相変わらず滑稽な奴よ。
その無様な姿、まさに日の本一の茶坊主よな」
奇跡的に万作の失態は、秀吉らしい愛嬌として受け取られたらしい。
「……死ぬかと思ったがね」
冷や汗で水浸しの万作を秀長は影から満足げに見つめていた。




