第9話『中型個体も朝飯前のようです』
『ガルルル』
『ワオォーン!』
本当に森の中はモンスターと遭遇する機会が多い。
あえて近道だからとその道を選択して進んでいるから、文句を言えた立場ではないが。
今度の敵は中型個体を含む、モンスターの群れ。
2人の力を見極める……必要があるかはさておき、剣を使って戦う姿を見るいい機会だ。
「たーっ!」
「やーっ!」
緊張感のない掛け声と共に振り回される拳と足によって小型モンスターが吹っ飛ばされ、木や地面に激突して消滅していく。
うんうん、その光景はさっきも見た。
『グルルルルル』
狼型の中型モンスターも、そんなデタラメな強さを目の前で披露されても戦闘態勢を維持している。
そんな相手だ、さすがに剣で戦う――。
「いっくよー!」
「とりゃぁー!」
「えぇ……」
淡い期待は瞬く間に打ち砕かれてしまった。
薄々は予感していたけど、彼女たちにとっては中型個体も朝飯前のようです。
「次ー!」
「おりゃー!」
もはや自分たちからモンスターの方向へ進んでいってしまう。
進行方向を知っていないはずだが、無意識に正解を引き当てているから注意して止めることはできない。
あまりにも俺の出る出番がないせいで、ただ足を進める以外の選択肢がなくなってしまう。
無限の体力に人間離れした力を有し、ありえないほどの活力に満ち溢れ行動力も備わっている。
これに加えるなら、俺への忠誠心や庇護欲なんかもありそう。
普通は逆だろうに……女の子に守られる男が聖騎士って、あまりにも情けないな。
「えーい!」
「まだまだ!」
恥を晒し続けないために前へ出ようとしても、移動速度や察知能力の差で全て先を越されてしまう。
もし飛び出しても敵を先に倒されるし、逆に守ろうとして今異常なことが起きてしまうかもしれない。
あまりにも複雑な心境だ。
「あんなかわいいのに、あんな戦い方だもんな。俺は今、夢の中に居るんじゃないか」
2人が【聖剣】と【魔剣】だってことも、あの容姿から曖昧になり始めている。
ただ歩いているだけで安全が確保され、誰かを守る立場の聖騎士なのに、守られ続ける要人になってしまった気分だ。
「今度は別の中型個体!」
「おりゃおりゃおりゃ!」
あーはいはい、声だけしか聞こえない距離だけど先の展開は予想できますよー。
「よわよわねっ!」
「まとめて来なさいよねっ」
ですよねー。
森中のモンスター全てを狩り尽くす勢いは止まらない。
魔力循環の法則では、諸々の通り尽きることはなく、際限なくモンスターが出現する原因となっている。
しかし討伐してすぐモンスターとして形を成すことはなく、実質的にはモンスターを駆逐することは可能。
でも、ここではないどこかで魔力がモンスターになっているから、世界からモンスターを完全に消滅させることはできない。
「だが……この森からモンスターが消滅することはありえそうだけど」
「主様~! もう一度、わたくしを使ってはもらえないでしょうか」
「次は順番的に私じゃない?」
「動き回って満足してないの? どっちにしても、2人を剣として使ったら地形が変わるから拒否するけど」
「えーっ!?」
「そんなー」
メノウは仰け反って残念がって、セリナは溜息を吐いて背中を丸めている。
でも、ダメなものはダメでしょ。
たったの一振りでアレなんだから、もしも2人同時に剣として使ったら――国が亡ぶほどのことが起きるだろう。
力をぶっ放して大丈夫そうな相手だったら、その限りではないだろうが……まず、そんな状況になる方が稀だからな。
「てかさ、思ったんだけど。メノウは儀式があったから契約の意味は理解できるが、セリナは俺と契約していないよな?」
この疑問が思い浮かんだのは、さっきモンスター肉を食べたあと。
メノウが食べたら消滅したというのに、俺は食べることができた。
この中で唯一の人間だから、という可能性も考えたが――通常の人間が食べられるのなら、その話は既に広まっているはず。
であれば、【聖剣】と【魔剣】の両方と契約していることによって得られる相乗効果みたいなもの、だと結論付けた。
「やっぱり憶えていないよね~」
「ん? まさか寝ているときに?」
「違う違う全然違う。私、そんな卑怯な真似はしないし強引なこともしないよ。【魔剣】だけど」
「じゃあいつ?」
「初めて会ったのは森の中。ちーちゃいアレンがたった1人で森の中には入っちゃって、そこで会ったの」
「あんな森の中に、人々が恐れる【魔剣】があるってのは随分と緊張感のない話だな」
「私もそう思う」
だが、セリナはそこまでに至る記憶がないと言っていたから、ここを掘り下げても意味はない。
「気づいたときにはアレンが握っていて、モンスターに襲われそうだったから咄嗟に契約して助けたの」
「なるほど……セリナのおかげで今の命があるんだな。そのときはありがとう」
「いいのいいの。私も急な状況だったから混乱もしていたし」
「と言うか今更なんだけど、契約って言葉に違和感がある」
そもそもの話、俺はメノウとも契約らしいことをした記憶がない。
「それなら簡単ですよ主様。認められないと鞘にすら触ることができず、握っただけで契約完了になります」
「何その簡単すぎる契約。本当に大丈夫なの? ふと瞬間に触れちゃったら契約しちゃうわけでしょ」
「それがですね、主様は不自由なく触ることができますけど、他の人間は肌で触れることは絶対にできないのです。こう、バチッて弾かれるだけならいいですけど、悪意や敵意を抱いている人間が触れたら、腕が吹っ飛びます」
「何それ怖すぎ。でも、体が耐えられないってそういことか」
納得できたけど、認められず、精神や肉体が準備できていなかったら、と考え――たくはないな。
「理解できないのが、なんで【聖剣】と【魔剣】の両方と契約できたのか」
「それでは、実は簡単で。私が契約したのが左手で、メノウが契約したのが右手だからだよ」
「確かにそれは簡単で、なんとなく理解できる。じゃあ同じ手で契約しそうになっていたらどうなっていたんだ?」
「うーん、どうだろう。契約者として試験が不合格になるだけじゃない? 弾かれる光が黒かったら、今も牢屋生活だったかも」
あのときの俺、右手を差し出してくれてありがとう。
「――ん? 今、音がしたよな」
返事の前に、再び低く鳴り響く音が鳴り、木々がへし折れる鈍い音も耳に届いた。
「主様、どうやらモンスターと戦闘しているようです」
「でも劣勢みたい。1人で戦っているね」
「こんな森の奥地で? さすがに危ないだろ」
随分と他人事な言い方をしてしまったけど、心の底から思ってしまうほど感覚がおかしくなったんだな。
「助けに行こう。だが、人を巻き込まないように力加減だけはしてくれよ」
「わかりました!」
「はーいっ」




