第3話『聖騎士は、牢屋へ入れられる』
俺は今、聞き間違えたか?
だってそうだろ。
目の前に居るのは、幼少期の面影を残しながらも成長したセリナだと断言できる。
それに【魔剣】って……あの?
「ずっと言おうと思ってたけど、アレンが夢を叶えるまで待とうと思ってたの」
「聞き間違えだとしても、剣が人間と同じ姿になれるはずが――」
「そうだよね、信じられないよね。ねえ手を握ってもいい?」
「あ、ああ」
柔らかくも美しい手を握り、セリナの目を真っすぐ見る。
「――え」
「これだと信じてもらえるよね?」
「ど、どうなって……」
まさかの、セリナが髪色や瞳の色を同様に漆黒の色をした剣に変わってしまった。
あまりにも唐突すぎる話の流れに、俺が聖騎士に成れたことが薄く感じられてしまうほど。
「と、いう感じに剣と人間の姿を行き来できるの」
「な……なるほど……」
再び人間の姿に様変わりする瞬間を目の当たりにしてしまっては、話を信じる以外の選択肢がない。
「でも、ご両親は? このことを知っているの?」
「やっぱり気が付いていなかったんだね。でもしょうがないよ、まだ小さかったから」
「どういうことだ?」
「思い出して。アレンは、私のお父さんとお母さんと出会ったことってあった?」
「当たり前じゃないか。よく食べ物を作ってくれたりしたじゃないか」
「間違いなく、その姿は見たことがあった?」
「そんなの、当たり前――」
俺は迷いなく記憶を遡り、思い浮かんだ事実を言葉に発するつもりだった。
でも、おかしい。
毎回じゃなくても、籠に食べ物や飲み物を差し入れとしてセリナが持ってきて確かに飲み食いした。
何かの祝い事や家に入れてもらっとき……いろいろ考えても、そのどれもセリナのご両親は居なかった。
「じゃあ、今の今までたった1人で生活し続けていたということなの……?」
「そう、だよ」
「う、嘘……気づいてあげられなくてごめん」
「違うの、そうじゃない。謝るのは私の方だよ、ずっと騙していたんだもん」
なぜ俺が騙されていたのか、という質問をする前にセリナは話しを続ける。
「私は【魔剣】だから、そもそも親は居ないの。人間に変身できるのは見ての通りわかってもらえたと思うけど」
「まあたしかに……? 剣の家族は想像できないけど」
「そうそう、そういうこと。それで、お願いがあるの」
「な、何?」
「――私も一緒に連れていってほしいの!」
と、驚愕の事実を知った俺は、断る理由もなかったからセリナの要望を聞き入れて王都へと戻った。
驚きの連続で、剣に姿を変えられるだけではなく【聖剣】と一緒で【魔剣】も鞘も同じ状態になれるらしい。
そして今、俺は牢屋の中に居る。
「ちょっとアレンさん、初日から何やってるんですか」
「本当ですよ。何がどうなったらそうなるんですか」
「正直、俺の方が気になってる。王都に帰ってきたら、この有様だから」
見張りをしている兵たちが疑問に思っているように、俺にも状況を正確に理解できていない。
事実としてあるのは、拘束されて牢屋に入れられていることと、2本の剣を取り上げられているということ。
既に【聖剣】と契約状況にあるから、拘束具と牢屋を破壊して外に出ることはできる。
でも、そんなことをしたらどうなってしまうのか想像もつかない。
「強すぎる罪とかだったら面白いですね」
「ああ、それだったらありえるかもな」
「冗談はやめてくれ。こっちは何も笑えない」
「本当に何が原因なんでしょうね」
「アレンさんに限っては、いい話しか回ってこないですからね」
「そうそう。王国騎士団の中でも『人助けをした』『小競り合いを解決した』とかばかりだからな」
「今日だって、いろんな人を助けましたよね? ちゃんと報告きてますよ」
善行を積み続けることで聖騎士に成ることができた、とまでは言わないけど、別に自分の夢を叶えるために誰かを利用したわけではない。
自分をいい人と思わせようと続けたことでもないし、尊敬のまなざしを向けてほしいから、という理由でもない。
であれば、子悪党や非行少年などが集団で抗議に来て、「暴行された」「一方的な暴力を振るわれた」などの意見が通ってこうなったのか?
小さな声も人数が増えれば大きくなる、という感じに――いや、もしもそうだったら救われたと思っている人たちが証人になってくれるはず。
子の想いこそが驕りであり自意識過剰だった、ということであれば現状を受け入れるしかないが。
「――入るぞ」
「お疲れ様です騎士団長様!」
ダラダラと気が抜けていた見張りの兵たちは、ビシッと姿勢を正して敬礼。
部屋の扉を開けて入ってきたのは、全身武装状態の王国騎士団長のガレルさん。
茶色い髪に徹底された清涼感を持ち合わせており、青色を基調とした装備は物凄く似合っている。
実力も当然備わっており、死にかけだった俺を拾ってくれた張本人でもあり師匠的な存在。
ここに来たということは、牢屋に入れられていることを叱責するためというわけではなく、上からの命令で来たのだろう。
「本当に、何をやってるんだか」
「せめて理由だけでも教えてください」
「――まあいいだろう、お前たちにも遅かれ早かれ情報が届くだろうしな」
席を外した方がいいのか気まずそうにしていた、いつまでも敬礼をし続けている2人に気が付いていたのだろう。
優しさなのか妥協なのか、当人たちはより一層に緊張感が増している様子だけど。
「状況が状況だったということだな。お前から没収した2本の剣。内1本は、誰もが知る【聖剣】。そしてもう1本は、別の意味で誰もが知る【魔剣】だった。これが事実」
「はい」
別の意味で緊張から解放された2人は、抱き着き合って口を開けガクガクと震え始めた。
「で、だ。俺が来たということは、そういうことだ」
「わかりました」
「随分と潔いんだな。今の力だったら、ここから逃げ出すなんて容易だと思うが」
「俺がやってきた全てが、俺の人生です。それを我身かわいさに壊して他人に迷惑を掛けたいとは思いません」
「心底笑える善人だよ、お前は」
「どこかの師匠が魅せてくれた優しさを体現しているだけです」
受けた恩を仇で返すつもりはない。
ガレルさんが言う通り、壁と壊して跳んでも怪我はしないだろうし、誰にも捕まらずに王都を脱出できるだろう。
でもそんなことをしたら、ガレルさんが『俺の親代わりでもあり弟子である』、という周知の事実を元に迷惑がかかるのは明白。
だったら、これから待ち受ける罪を受け入れ、周りの人間の善行に期待するしかない。
『あいつが罪を償っているのだから、余計なことは言わないようにしよう』と、思ってくれることに。
「ほら、出ろ」
「はい」
開錠された牢屋から出た俺は、拘束具に縄を回されて歩き出した。




