第13話『お姫様もドン引きな、食事時』
「そ、それで……これは……」
「慣れてくれ」
フローラは、目の前に並べられた『熊』『狼』『猪』という新鮮で豊富な品の数々を前に顔が引きつっている。
いいや、あれならそこまでならないか。
隣に並んでいるいろんなモンスターが、そうさせているに違いない。
「もしかして、セリナちゃんがアレを食べるの?」
「と、俺も」
「え。え?」
「案外、甘みがあって美味いんだ」
「本気で言ってるの?」
「【魔剣】であるセリナと契約しているからだと思うけど、ちゃんと食べられるんだ」
モンスター肉へ向ける目線と同じものを俺に向けてくるフローラ。
心なしか距離を――いや、あからさまに数歩以上遠くなっている。
「ちょっと待って。【聖剣】と契約しただけでも人間を辞める強さを手に入れられるのに……神様になったの?」
「そんなわけあるか。少なくとも俺は、まだ人間のつもりだぞ」
さすがによだれが垂れるほど欲することはないけど、焼かれている状態に抵抗感がなくなっているのは事実だ。
俺も自分に対して驚いているけど、案外適応力というか順応力が備わっていたんだな。
「それにしても、夜になるまでに設営するならもっとこじんまりしたものしかできないと思っていたけど――数日で家を建てることもできちゃうんじゃない?」
「それは俺もそう思う」
さすがに大型モンスターが出現した地点から移動したから、気づいたときには夕日に照らされて薄暗くなり始めていた。
そこから準備を始めるのだから、食料と火の確保で終わりかと思っていたが……。
フローラを除く3人で作業をしたら、小拠点ができてしまった。
屋根はないから家ではないけど、周りの木を数本抜いてきて、あれやこれやと斬り揃えて地面に刺したらいい感じに壁が完成。
余った木材を乗せるだけで屋根はできるが、火が潰えないようバラバラにして薪として活用することにした。
それでも出来上がったのは、1軒家の1部屋ぐらいの大きさで、4人が横になっても余裕があるほど。
「それにしても随分と久しぶりに観る景色だ」
「わたしも王都を出てすぐ、同じことを想ったわ」
視界に入りそうな木々がなくなったから、というのもあるけど、見上げると広がっている満天の星空は絶景だ。
王都に居たときも何度か見上げたことはあったけど、どうしても建物とかが視界に入って、ここまで堪能することはできなかった。
「わたくしは生のままでも食べられるのですが」
「私もー」
「とりあえず今は、全員が一緒の食べ方をしよう」
「え? 生のまま??」
「フローラ、聞かなかったことにしてくれ」
こんな状況でフローラが、あの光景を目の当たりにしたら絶対に食欲をなくすって。
ただでさえ、禍々しい肉を焼いているだけでフローラの顔が引きつっているんだから、予想は的中するに決まってる。
「わたしが今まで見てきた世界は、まだまだ一部分だけなんだなって最近思うようになったの」
「フローラほどじゃないが、俺も今日そう思っていた」
「奇遇ね、と言いたいところだけど。そっちもいろいろあったのは察するわ」
目の前に居る【聖剣】と【魔剣】は、誰が見ても俺と同じ反応を示すだろうし、驚愕の連続だったことを誰でも理解してくれるだろう。
「でも羨ましいわね。こんなかわいい子たちと旅ができるなんて」
「それに関しては役得ってやつだな」
「あああ主様!?」
「そ、そういうのは他の人が居ないときにしてよ!」
「ほら、かわいいだろ」
「羨ましいわ」
メノウとセリナは頬を赤く染め、つい先ほどまでモンスターや獣を蹂躙し続けていたとは想像できないほど体を小さくしている。
「でもなんだか、悩んでいるのもしょうがなくなってきたわ」
「お悩み相談?」
「ええ、今まであなたにも黙っていたことよ」
「何それ気になる」
「実はね、わたしってお姫様なのよ」
「――に憧れているって話? それとも、嫁いで姫様になったって話?」
女の子だったら、一度ぐらいは抱く願望かもしれないから否定するのは良くないよな。
俺だって聖騎士を目指すって打ち明けたとき、誰にも認められなくて馬鹿にされて悔しくて悲しかったから。
それに、2つ目の問いに頷かれても納得できる。
合わなくなった間に、こんな美人さんになっているわけだし、そもそも王国騎士団副団長って地位なら引く手数多だろうし。
「あなたが今朝追放された、国のお姫様なのよ。わたし」
「え? いやいや、警備巡回のときとかこっち側だったじゃん。警護するときだって。それに、危ないモンスター討伐だって一緒に戦ったじゃん?」
「言いたいことはわかるし、ここで嘘じゃないことを証明する手段はないけど。でも、本当なのよ」
「隠し子みたいな……? え? てか、家出したってこと?」
ただ王国騎士団を脱退して王都から去ったのなら、まだ理解できる。
でも本当にフローラがお姫様だったとしたら、壮大な家出劇の始まりだ。
さすがの陛下も――あの2人にかわいく懇願されたときみたいに、顔が引きつったり血の気が引いていたことだろう。
「冷静で厳格な立ち振る舞いをしているから、お父様は印象そのままに見られがちだけど。でもね、なんでも挑戦させてくれるのよ」
「いいお父様、じゃない、陛下なんだな。ややこしいけど」
「だからこその王国騎士団副団長という地位に辿り着けたわけ。でもお父様は『それはお前の努力が成した結果だ』と褒めてくれたし、権力を使っていないことを示唆してくれたの。そして、王都を出て行くことも理由を聞かずに首を縦に振ってくれたわ」
「さすが陛下。相手を尊重する姿勢は、自分の子供も例外ではなかったんだ」
本当に今更だけど、どことなく陛下の面影を感じるような気がしなくもない。
てか、王妃様と見比べたら似てるじゃん! 似すぎじゃん!
緑色の髪色は王妃様と同じだし、横顔とかもう!
「国王陛下に絶対なる忠誠を誓いすぎじゃない? あなた、お父様に追放宣言されたのでしょ?」
「それはそれ、これはこれ。今まで受けた施しや恵みを仇で返すようなことはしない。たとえ気持ちが届かなくても、忠誠は示し続けるさ」
「本当、アレンってどこまでもアレンね」
「王妃様に似て、綺麗になったんだな。本当に美しくなったよ」
「なっななななななななな何を急に!?」
「お世辞じゃないぞ。本当にそう思ったから言ったんだ」
「なーっ!」
変な大声を出しながら、反対に座っているメノウとセリナの元へ高速移動していった。
「主様は、女性の敵ですね」
「私もそう思う。大勢の前で言われたら、恥ずかしくて逃げ去っているところ」
「わたくしはそれでも絶対に主様の傍から離れませんが!」
「私もそうよ」
「なんか俺、酷いこと言われてない?」
「それは当然です」
「当然ね」
「当然よ!」
「えぇ……」
だって、みんなから女性は素直に褒めるものだって教わったぞ?
お世辞で言っているわけでも、機嫌取りのために言っているわけじゃない。
心の底から、かわいいと思っているし綺麗だと思っている。
「まあまあとりあえず。肉もいい感じに焼けたし、食べよう」
「はい!」
「賛成」
「う、うん」




