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第10話『剣だけど盾にもなれるみたい』

「――大丈夫ですか!」


 到着するまでの最中も激しい戦闘音が鳴り響いていた。


「ここは危険よ! 離れて!」


 彼女は目の前に居る大型モンスターから目を逸らさず、俺への避難命令だけが返ってくる。

 俺たちは距離があるにしても、彼女と大型モンスターの間に位置しているから、ほんの一瞬でも視線を向けてくれたらわかるだろうに。

 3人で居ることすら認識していないようで、でも大型モンスターを前にしたら、余裕ではいられないのだから仕方がない。


「獲物だったらごめんなさい。加勢します」

「何を言ってるの! 逃げて!」


 正義感から、逆に逃げられない状況を作ってしまったようだ。

 そりゃあ民間人っぽい存在が戦闘中に現れたら、俺だって同じことをする。

 だが……装備を身にまとって剣と盾を持っているとはいえ、既に盾は破損、唯一の武器である剣を杖代わりにしなくちゃいけないほど負傷している人間を見捨てるわけにはいかない。


 さてどうしたものか。

 このまま2人を狼型の大型モンスターへ突進させたら、すぐに倒せそうだが……。


「――2人共、剣になってくれ」


 俺の意図を汲み取ってくれたのか、ただ無言で頷いて指示に従ってくれた。


 両腰に携える白と黒の剣を抜剣し、地面を蹴り、彼女の前へ滑り込む。


「加勢します」

「なっ!? ど、どうして」

「困っている人を助けるのが、俺の使命なんで」

「……」


 そう、それが聖騎士を目指した根源であり、堂々と公言できないけど役職を与えてもらった恩義に報いること。


 しかし木々と代替同じぐらいの大きさな、向かい合ったアイツをどうしたものか。

 先ほどから一方的な攻撃を仕掛けていたのだろう、たった1人が増えたところで余裕の表情をしている。

「いつでもかかってこい」と言っているような、獲物を弄んでいる強者側のソレだ。


 そんな相手だが残念ながら、勢いよく2人の力を解放すれば、1撃で終わる。

 せっかく試せそうな相手なのだから、それはそれでいいのかもしれないけど……。


「くっ……」


 ドサッと音がしたから視線を向けると、彼女は倒れてしまっていた。

 介抱して避難させてあげたいけど、逆にこの機会を利用させてもらおう。


『主様、空へぶっ飛ばしてはいかがでしょうか!』

『そして、それを追って跳んで私たちの力を使ってみたらいいかもね』


 そういえば剣の状態で話すことができるんだな、と思い出した。

 互いに意思疎通できるのは初耳だが。


「――よし」

『ガァッ!?!?』


 地面を蹴ってコイツの足元へ潜り込み、腹を蹴り上げて空高くぶっ飛ばす。

 理解が追い付いていないに加え、目で追えていないようだったから無抵抗だった。


「着地って大丈夫なんだろうな」

『お任せください主様!』

『問題ないわよ』

「信じるぞ――!」


 あまりにも飛ばしすぎたアイツをチラッと見て、思い切り膝を曲げ――跳ぶ。

 自分でも想像以上に飛んでしまったが、ちょうど真下ぐらいまで来ることができた。

 辺りの景色は人生初めてのもので、城より高いところまで行けるなんて誰が想像できたか、目線が鳥――いや、それ以上の高さだ。


「じゃあ2人共、滅多に出せない全力出してみるか」


 2本の剣を同時に扱ったことがないから勝手がわからないけど、左から右、下から上、という感じに十字を描けば大丈夫だろう。


「いくぞ」

『聖刃斬り!』

『魔刃斬り!』


 思い通りに剣を振るだけ振ってみたが、これは……。


 既に気を失っているアイツに向かって飛んでいく、2つの白い光と黒い光が――冗談抜きに大きすぎる。

 しかもありえない速さで飛んでいくし、光が放たれた瞬間にアイツの存在が目視できなくなってしまった。

 というか、一瞬で消滅したことすら確認できずに全てが終わり、辺りの雲までもが吹き飛んでいく。


 その光景を脳裏に焼き付ける暇を与えさせてくれず、懸念していた落下が始まる。


「こ、これ本当に大丈夫なんだろうな」

『お任せください主様! わたくしが盾になれます!』

『奇遇だね、私もそうだんだ』


 理解する前に、握っている剣が盾へ変わった。


 質問したいが時間がない、このまま下に向けたらいいってことだよな。


『聖神盾!』

『魔神盾!』


 俺の体が白い光に覆われ、温かい感覚に包まれていく。

 対して黒い光は盾を含む空間を包み、結界のようなもので覆っている。


 今まで感じていた肌を撫で続ける風を一切感じなくなり、水の中に居るような不思議な感覚だ。


「たしかに、これなら余裕そうだな。できたら、この落下する感覚も遮断してくれたら嬉しかったんだが」


 と愚痴を零している間に地面へと着地。

 辺りへの衝撃波を発生させることなく、地面に丸い穴が開いた程度に収まった。


 全てが解除され、2人は剣の姿に戻り鞘へ納める。


「おい、大丈夫かフローラ」

「……や、やっぱりアレンだったのね」

『主様、その人誰ですか!?』

『なんで名前を知っているのかな?』

『とりあえず、今は静かにしていてくれ。知り合いなんだ』


 剣が人間の姿になったら、怪我をしているフローラの傷に響く可能性がある。


「まさかかと思ったけど、後ろ姿でもあなたを見間違えるはずがないわ」

「まだ喋るだけの元気があるなら――ほら」

「あ、ありがとう」


 横たわっていたフローラの腕を首に回し、開いている左腕を反対側に回して立ち上がらせる。


「ボロボロじゃないか。歩けそう?」


 盾はもう使い物にならないぐらい破損してしまっていて、剣はまだ大丈夫そう。

 だけど、盾と同様とは言わなくても身にまとっている鎧は、所々は変形していて正常な役割は果たせない状況だ。

 できるなら今すぐに捨ててしまった方がいいだろうが、そんなに動けそうな状態とも思えない。


「なんとか……と言いたいけど、このまま肩を貸してもらえると助かる」

「わかった。とりあえず木の近くまで移動しよう」

「さ、さっきのモンスターはどうなったの」

「アイツは俺が倒した。だから今は安心して、呼吸を整えながら歩くことに集中してくれ」

「――そうか、わかった。アレンが言うのなら本当なのだろう」


 とりあえず目標は、目の前にある木まで。

 背負った方がよかった、と後悔しつつ足を進めた。

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