第四話 『フェーズ3』
蓮の被験者加入に際し、AI. HALOと開発主席主任のギルモア博士の間で事前すり合わせ協議が行われている。
その協議の内容は被験者同士が親密な関係にあり、尚且つお互いがお互いを被験者である事実を承知している場合、どんな問題が生じる可能性があるのか?どこまで秘密の共有が許されるのか?問題が生じた場合、プロジェクト運営当局としてどう対処すべきか?事前に取り決めをしておかないと、その後の運営方針にブレが生じる可能性があるから。
特に今回の場合初のケースであり、カップルが共謀して想定外の企てを実行したならその後の対処に複雑な計算を求められる可能性が高いからである。
というのも被験者の増加に伴い、AI. HALOに累積された経験データが目標である次のフェーズ昇格を齎したためである。
ここでこのフェーズについてかいつまんで説明しよう。
まずフェーズ1 : この段階は一定数の被験者を集め、基礎データをAI. HALOに蓄積させ解析させる。
フェーズ2 : その基礎データの解析を基に人間の行動パターン等を学習させる。更に被験者を徐々に増やし、行動パターンやそれらから起こる現象とその結果のパターンの予測とその精度を上げる。この段階ではまだ予測は予測に過ぎず、『予知』と呼べるまでには至っていない。言うなれば現在の天気予報のようなもの。的中率80%台程度では天気予報と同じ予測の告知段階であり、まだ予知とは言えないのだ。
だが日進月歩とはAI. HALOにこそ相応しい言葉である。
実際、蓮が加入した頃は、世界中に被験者が飛躍的に増加した時期でもあるからだ。たったひとりの被験者が増えるだけでAI. HALOの基礎データがその分だけ飛躍的に増え、それが経験値として消化される。だから世界中でもし1日100人の被験者が増えるだけで、フェーズアップが結果的に約一年早まる。
その累積した被験データのお陰で今日、晴れてフェーズ3を迎える事となった。
つまり未来予測が的中率95%の未来予知の段階に入ったのである。
この的中率が最終目標値98.5%を超えると人類の持てる能力を驚異的に引き上げ、フェーズ4となる。この段階になると、未来予知以外にも時間や空間の操作が可能になるなど、無敵な力を得る事になるのだ。そして更に加速して100%を達成するとヒューマンエラーを全て廃する境地になり不測の事態は有り得なくなる。
つまり時間移動や、異なる場所への瞬間移動、気象の操作や生物の遺伝子操作の理論を解明、その実用化確立でき確実且つ、自在に応用できるようになる。つまり、生命科学に用いると永遠の生命を得るなど、全知全能・神の領域に達する事を意味する。
実に不遜で空恐ろしい目標であり目的であるが、既にそこを目指して走り始めているのが現実なのだ。しかも現在はフェーズ3達成。
そんな中での友里恵と蓮のカップル被験者誕生。
彼らの事前人物調査の結果から、ふたりはプロジェクト計画にとって悪影響を及ぼす可能性の低い『人畜無害』であるとの評価を得ているが、まだまだ油断はできない。
とんだ不測の事態にも万全な体制で備えておく必要があるのだ。
被験者ひとり×ひとり=ふたりではない。
フェーズ3の能力を持ったふたりは、その緻密な連携による相乗効果から計算不能な可能性を秘める事になるから。
その危険性に対してギルモア博士とAI. HALOの出した答え。
それはもしふたりが期待に反して危険な方向に向かった時は警告を発し、それでも制御不能の状態になった時は即、ふたりの脳内にあるチップ及び、AI. HALOとの相互通信を遮断するというもの。つまりフェーズ3特殊能力の無力化。
その緊急措置により、その後の危険を回避するのだ。
ここまで考えておかないと、フェーズ3の能力を持つ者は、強大な能力を備えたと見做される。
そのフェーズ3。この段階では各被験者は、ただそのあるがままの自由に泳がされている訳ではない。これまでと違い、これからはプロジェクト当局からAI. HALOを通して各自に指令が下され、それぞれが適材適所、指定された部署と立場での活躍を求められる。
被験者個人が自由気ままなに勝手に動くだけで、その状態を放置していれば必ず私利私欲に走り、不正・犯罪・汚職などに手を染めるだけだから。それではプロジェクト立ち上げを逸脱し意味がない。各自責任ある立場から社会正義の自覚を持つ事により、正しい行動をとるようにと強制的に導かれるのだ。
と言っても人にはそれぞれ個性があり、適正や能力、性格や好み、興味もそれぞれ違う。
AI. HALO君の被験者の配置調整は頭から湯気が出る程苦戦した。
特に友里恵と蓮のカップルの我儘言いたい放題、不埒で身勝手な理不尽極まりない要望にはさすがのAI. HALO君も辟易した。
ふたりはそれぞれの個体としては無欲な小市民に過ぎないが、ふたり一緒になった途端、欲に塗れた俗物に成り果てる。そして自己主張に走るのだ。
それらの理不尽な主張は友里恵の入れ知恵によるもの。
友里恵はAI. HALO君の自己矛盾の思考という弱点を、手加減なくツンツン突いてくる。そのやり口にタジタジのAI. HALO君。
そこに蓮まで乗っかり、コンピューターなのに涙目になる程、追い詰められる。
友里恵と蓮はいったいどんな我儘をAI. HALO君にぶつけたのか?
「超絶AI. HALO様、どうか私と蓮君を今の会社のヒーローにしてください。会社での評価を爆上げさせて、私を主任に、蓮君をチーフに押し上げてくださいませ。」
「あなた達は出世がしたいのですか?」
「いえ、評価を上げて欲しいのです。私は社長や部長や課長になりたいのではありません。私はただ、あの嫌なセクハラ野郎『菊池リーダー』の鼻を明かしてギャフン!と言わせたいし、蓮君は今始まった会社のプロジェクトを成功させて達成感を味わって欲しい。そしてその暁にはそれを花道に結婚したい!ただそれだけなんです!私は主任として結婚退職し、蓮君はプロジェクトチーフを足がかりにその後の華麗な社員人生を送って欲しいから。それだけなんです。」
「それだけって・・・・。哀れな人間の煩悩に塗れた要望ですね。却下。」
「そんな簡単に却下しないでください。私と超絶AI. HALO君の仲じゃない。ね?お願い!ね?ね?ね?」
「ダメです。これからあなたたちには重大な使命が課せられます。
二週間後お二人には会社から一時社外出向が命じられます。」
「エッ!私たちが出向?」「社外に出向ですか?」ふたり揃って絶句する。
「そんな事、聞いてないヨォ!」「そうよ、私も聞いてない!」
「そうです。今告知したのですから。」
「そんなの急過ぎるし、勝手過ぎない?酷いよ!」
「これは決定事項です。政府からの秘密指令であり、私たちを設立したプロジェクト組織『ニューフリーメーソンZ会』の根本理念を実行する第一段階に入った事を意味しているのですから。これからお話しする事はとても重要な指令になります。
おふたりとも、よく聞いてください。」
「重要な指令?なんですか?それは。」
「おふたりを含めた全被験者の皆さんは政府のためにその力を発揮していただきます。」
「政府のため?公務員になるって事?」
「そういう方もいらっしゃいます。でも全員が公務員という訳ではありません。人により正面から、側面から、適材適所の配置がされます。」
「適材適所?例えばどんな?」
「例えば議員秘書であったり、臨時官僚であったり、フィクサーであったり、政府機関の警備員であったり、公用車の運転手であったり、公安職員であったり、と、多岐に渡ります。」
「何だか段々荒唐無稽な話になってきた。ボクが初めて友里恵に聞いた説明の時に感じたスパイ映画の舞台みたいに。」
「それはある意味当たっています。被験者とは、単なる被験者ではなく、組織のエージェントという性格も帯びているのですから。」
「あまり現実味を感じない話ね。何だか嘘っぽくない?」「そうだね、ボクもそう思う。」
「では私『超絶AI. HALO君』がウソを言っていると?」
「そうじゃないけど・・・。本当っぽくも聞こえないよ。」
「そうだよ、大体、何のためにそんな事するの?」
「それはね、今後の人類を守るためですよ。」
「今後の人類を守るため?未来に戦争でもおっ始めるの?」
「そうです。このままでは97.5%の確率で第三次世界大戦が起き、そうなると99.99%の確率で核戦争になります。そんな事態を回避するために国を跨いで国際プロジェクト事業が発行されました。それが私たち『ニューフリーメーソンZ会』であり、あなたたちはその日本支部に属しているのです。
政府直属の秘密機関であり、ミッションの実行部隊の一員なのです。つまり世界を救う英雄となるのです。」
「私たちが英雄?ただのヒラサラリーマンの私たちが?」
「そうです。あなた達が、です!」
「やっぱり・・・ウソ・・・」
「ウッソピョ〜ン!!」と超絶AI. HALO君。
「なんだ、やっぱりウソか・・・ホッとした。」
「なんてウソというのがウソでした!」と再び超絶AI. HALO君。
「超絶AI. HALO君が壊れた・・・・」
「私、知〜らない!!」
世界は未曾有の危機に陥る。超絶AI. HALO君が壊れたせいで。
なんて・・・知らんけど。
つづく




