第三話 『今藤 蓮』の場合
竹波 友里恵と「レイカーズ」ライブに行ってからというもの、蓮との交際は順調に進展した。
お互いほぼ初めての本格的彼氏であり彼女である。
先に仕事が終わる友里恵は喫茶『ルノワール』で、蓮が駆け込んでくるのを待つのが日課となった。
でも蓮の仕事はこれから超激務となるのが分かっている。
新しいプロジェクトがもう直ぐ始動するから。
多分、休みの日ですら満足に逢えないかも?流石に土日の出勤はなくても、家に仕事を持ち帰って実質休みが潰れる可能性が高いと聞いているし。
毎日が残業で出張もあるし、お休みの日も逢えない?そんな残酷な事ってある?友里恵は蓮と交際する前と比べて今の方が胸がキュンとするような苦しい想いが頭の中を占めている。
そんな日なんて永遠に来なければいいのに!でも、彼にとって一世一代の出世のチャンスな訳だし、ここは頑張りどころ。私は涙を呑んで応援しなきゃいけないのね?
そんな想いを巡らせる友里恵であった。
一方蓮はというと、あれだけ不気味に思えた友里恵が、今ではかけがえのない彼女となっている。あんなに警戒していたのに。
毎日の仕事がいっそう楽しく感じ、充実感で一杯になる。それも全部友里恵の存在が大きく関係している。
「ルノワール」での待ち合わせに一刻も早く駆けつけるため、仕事を早く終わらせる努力と工夫に精力を傾ける自分に充実感を覚えるのだ。
今では彼女無しの生活なんてあり得ない。でももう直ぐ逢える時間が減るようになるのが唯一の憂鬱材料ではあるが。
でもここは頑張るしかない。
今日もいつもの「ルノワール」で合流。
「やあ、お待たせ!」
「蓮!オッそ〜い!このコーヒー2杯目よ!」
「ゴメン、ゴメン!仕事を切り上げて帰ろうとしたら、佐藤先輩が市場調査の見積もり項目の件で新たな提案をしてきたので遅くなっちゃった。すまない!」
「仕事じゃ仕方ないけど、罰としてここのコーヒーは蓮の奢りよ!」
「へへ〜、お代官様、お許しを!」
初めは友里恵の一方的な片想いから始まった交際なのに、いつの間にか立場が逆転し友里恵の方が上になっていた。
「ところでユーリー(蓮は友里恵の事、こう呼んでいる)、もう直ぐボクの仕事が忙しくなってくるジャン?そうしたらユーリーとなかなか逢えなくなってくると思うんだ。
それでそうなる前に確認なんだけど、ボクたちって付き合っているよね?」
「当たり前でしょ?ふたりはもうこんな深い仲になったというのに今更何言ってんの?」
(外野の声:エ?もう深い仲になっちゃったの?・・・・って何処まで?・・・・余計なコメントでした。お呼びでない?コリャまた失礼しました)
「そ、そうだよね。でもこの先のこと思うとボクたちの関係について色々と不安になってくるんだ。何でユーリーがボクと付き合ってくれるのか?とか、どうしてボクのこと何でも知ってくれているのか?とか、何で先回りしてボクの希望を叶えてくれるのか?とかね。ホントのユーリーって何者?」
「人をオバケみたいに言わないで!私は私、友里恵よ。私ってよく気がつく出来た女でしょ?」
「自分で言う?」
「そうよ、でもこれにはカラクリがあるのも事実。そろそろ白状しなきゃね。
ホントいうと私にはとてつもない強い味方がついているの。」
「強い味方?それって何?神様だなんて言わないよね。高価な壺を買ったの、なんて事はないよね?」
「高価な壺?何言ってんの?」
「怪しい宗教かと・・・。」
「バッカじゃない?私を何だと思っているの?この私がそんな怪しい宗教なんかに引っかかる訳ないじゃん!第一、怪しい宗教がどうして私にそんな特別な力を授けてくれるの?んな訳ありません!絶対に。」
「じゃぁ、そのカラクリって何?」
「それは・・・AIなの。」
「AI?なぁんだ!チャットGTPか。それがカラクリなの?」
「違うわ!そんな使い古しのありふれた代物じゃないの。」
「チャットGTPが使い古し?じゃぁ何?」
「超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君なの。」
「プッ!超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君?何それ?」
「変な名前でしょ?だって彼が自分でそう呼んでいるんだもん。」
「それって怪しい宗教とどう違うの?」
「それ程大きな違いはないと思う」
(オイ!!)= 超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君の心の声
「それじゃ、やっぱり危ない話だろ?」
「そうね・・・・って違う!そうじゃなくて、超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君って実は極秘裏に進められてきた国際的な大プロジェクトなの。
実は私はその被験者のひとりで、蓮に近づけたのも彼の持つ膨大な情報分析のおかげ。」
「やっぱりユーリーはボクが最初に感じた通りの危ない人だったのね。」
「最初に感じた通りって何?私は危ない人なんかじゃなくて見ての通りの普通の女の子よ!そうじゃなくて、危なくとも怪しくともなくってね、ホントの話なの!信じて!」
「そう言われても・・・。エージェントって・・・・スパイ映画じゃあるまいし。そんな荒唐無稽な子供騙しを信じろというのが無理でしょ?」
「じゃぁ、順を追って事の顛末を蓮にお話しするわ。これは国家機密で極秘の話なの。
・・・・[カクカク・シカジカ]・・・・面倒くさいので詳細は第二話参照。
「ね?分かってくれた?」
「いや、全然!そんな話、信じられる訳ないだろ!」
「じゃぁ、これを見て。」そう言って友里恵は自分の後頭部の髪をかき揚げてチップを埋め込んだ傷跡を見せた。
「これがその証拠よ。この奥にチップが入っているの。」
「チップ???」蓮の頭の中にはポテトチップスが連想されている。
「・・・・・ポテチじゃないよ!バカ!集積回路のチップ!」
「なぁんだ!チップか。って、ホントに?」
「ホントよ!私の頭の中には超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君と通信できる極小チップが埋め込まれているの。分かった?」
「よく分かんない」
「・・・・・・(^_^; ・・・・ 」
「いいわ、もう一つ証拠を見せてあげる。蓮君は今朝、電車に乗る前、改札でパスを落として後ろの人とぶつかりつんのめったでしょう。危うく転びそうになり、改札機に頭をぶつけそうになった。でしょ?」
「エ!何で分かったの?」
「これが超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君の能力であり、私の力よ。ね?信じてくれた?」
「・・・・凄い!凄すぎる!でもそんなの怖いよ!そんな能力を使われたらボクのプライバシーもヘッタクレも無いジャン?」
「もちろんそんな個人情報を際限なく使える訳じゃないの。実はこの手の情報開示は厳しく制限されていて、今回のこの件も特別なの。つまり新規エージェントスカウトを目的にする時に限ってって事。だからこれ以降、余程特別な事がない限り、個人情報開示はないわ。」(と思う。)
「本当?」
「ホントよ。」(友里恵が実は超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君の弱みを握っているのは内緒!フッフッフッ・・・)
「でもそんな力なら、ボクも欲しいな。」
「そう言うと思って超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君に相談済みよ。結論から言うと、彼は蓮君のエージェント任命を許可してくれたの。
本来エージェント選定は国家機密であり、専門調査員による綿密な事前調査の上に決定されるんだって。でもこれには特例があり、正式エージェントメンバーの推薦がある人物に限り、超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君の厳密な事前調査を経て認められた人物をエージェントに任命できるんだって。
蓮君が私との付き合いから得た情報を細かく分析した結果、正式に認められたの。」
「エッ?それってボクはいつもその超絶スーパーコンピューターAI『HALO』君に監視され吟味されていたって事?ユーリーと二人っきりでチョメチョメな話をしている時も?」
友里恵は顔を赤らめ「バカ」と言った。
後日蓮は友里恵同様、秘密の場所に連れて行かれ、ホッチキスで『ガシャ!』とされた。
さて、この後の二人の運命は?乞うご期待!
つづく




