冬に奏でるその音を感じて
学生の、吹奏楽の小さなコンサートを横目に見ました。
たった30分されど30分。寒空の下。
それでもいつも帰りを急ぐ私の足は止まったのです。
この穏やかな気持ちは何なんでしょうね。
この温もりは何なんでしょうね。
忘れてはいないはずなんです。
機関車の音を思い出す。
それは「ド」と「ラ」だけを繰り返す、そんな軽快な汽笛の音。
音楽は単純でよいのだ。
どんな技巧を凝らした音も、
どんな難しいコードを引くことも、
本質ではないと思うのだ。
その音を聞いた時、
その曲を聞いた時、
その歌詞を聞いた時、
『あなたは何を感じどう心が動かされるか』
これに私は尽きると思う。
結果が全てではないこの世界で
心が動けばそれは全てだとも思えるのが演奏かもしれない。
流行り廃りの渦の中、
目まぐるしくも激しい電子の波で
泳ぐことすら諦めたくなる私たちだ。
音なんてものはありふれて、
耳を澄ますこともしやしない。
むしろ音を聞くために耳を防ぐ。
聞くのではなく聞き流す。
それだっていい。悪いとは思っちゃいない。
それでもたまに、玉石混交の海の中で
心臓の高鳴りを耳にするのだ。
あの幼きリコーダーの音色のように
胸を打つ蒲公英が一面に咲き誇るように
沈んだ情動を奈落へ誘う耽美歌のように
それを忘れなければいい。
忘れた時に思い出せばいい。
冬空に灯る若き熱に心温まりながら
私はそう、思うのだ。
好きなバンドは無いけど好きな曲はある
そんな経験ない?俺はある。
推しは居ない。だからこそ何もかもをも楽しめる。そんなのだっていいはずだ。
音楽の楽しみ方なんて千差万別。好きも嫌いもあっていい。俺はライヴのフェスが特に好きで、ワンマンライブは滅多に行かないってだけ。
でも、音楽を楽しまないのはあっちゃあいけないと思うわけでさ。
楽しまなくてもいいけど救いであってほしいわけでさ。
昔っから音楽に救われてきた俺にとっちゃ、辛い時も寂しい時も悲しい時も、支えてくれたのは音楽だったから。
沈黙だって音楽だ。瞑想だって音楽だ。
違うって言うなら騙されたと思って3分44秒くらい黙って耳を澄まして欲しい。
⋯⋯騙されたな?ホントは4分33秒なんだ。やり直してくれ。
冗談のようで冗談じゃねえさ。
きっと聞き逃してた何かに気づける。傍にあって当たり前の何かに。
目立てばいいってもんじゃない。
音が大きけりゃいいってもんでもない。
地味で静かでそれでもなお、ライヴフェスにだって負けねぇすげえもんは生み出せる。
すげえもんを俺等は感じ取れる。
だからよ、俺は音楽が大好きだ。
クリスマスにゃまだちょっと早いが聞いていくか?あぁ、会場はすぐそこでさ。
宵闇前の、可愛らしい小さなコンサートをよ。
寒空には誰も目を向けない。空を見上げるなんて行為、誰も思いつきやしないから。皆表情筋を忘れたかのようにブルーなライトを放つモニタに俯く。
足早に道をゆく人。イヤホンで断絶。
きっと落ち葉も枯れ木も気づかない。
秋は終わったんだよ。でも、その名残もちゃんとあるんだよ。
みんな気づかないだけ。気づこうとしないだけ。気づく余裕すら、ないだけ。
鈴虫の音色。風が澄んだ空気を裂く響き。雑踏のダンス。私はそれすら心地よい。
でもきっと、私はきっと。
聞くだけじゃなくて歌いたい。
全身でその情動を表現したい。
音の素晴らしさは奏でる私が一番知ってる。
あなたに届くよりも早く、ずっと深く、誰よりも私こそが分かってる。
だからこそ叫ぶのだ。のどを通って張り裂けんばかりに。響くのだ。思いが、感情が、魂が。
たとえそれが、か細き声でも
たとえそれが、静寂に似合うバラードでも
認められなくたっていい。だって私が一番私を認めているから。
だからこそ届くといいなと思うのだ。私以外にも、伝わるといいなと願うのだ。
きっとあなたもそうなのよね。
そんなに楽しそうに体を揺らして。
手足も寒いのに屋外で。
でもだからこそ、みんなに伝わっている。
道行く人が立ち止まる。
イヤホンから断絶世界から引き戻される。
彼女は奏でる。冬空に灯る若き熱をその身に宿しながら。ゆったりと。
彼女は揺れる。演奏が楽しいと言わんばかりに、宵闇前のそのコンサートで。音に心を込めながら。
彼女は届ける。そのフルートの音色を。楽しそうに。立ち止まってくれる人々に伝わると願うように。
これはとある冬夜のとある広場の
小さな優しい演奏会。
きっとあなたにも聞こえるはず。
立ち止まって見てほしい。空をたまには見上げてほしい。
忙しくても。無意味だと思っても。時間がもったいないと思っても。
そうして生まれた心の隙間に、きっと温もりが届くから。




