ゲームの達人
ダンジョン一階層のボス、ミノタウロスを倒して宝石を手に入れた一行。
「この宝石は領主へ献上しようと思う」
ヒロの言葉にキルシュレドが食ってかかる。
「何を言ってやがる! それは俺たちが手に入れたもんだ。なんで何もしてない領主にくれてやる必要がある?」
ヒロが頷く。
「本来ならキルシュの言う通り、全員で分配するところだ。だが先に領主にこのダンジョンを探索する価値があること、探索を続けることを認めてもらう必要がある」
「だからって命がけでアイツを倒して、報酬なしなんて納得できるかよ!」
キルシュレドは態度を崩さない。ヒロが仲間たちを見回す。
「皆はどう思う?」
「俺はどっちでもいいぜ」
「私もどっちでも」
カズンとリーファは意見なし。
「わ、私はヒロ様の意見に賛成しますわ!」
フリージアがヒロに賛成し、ユウが一つ提案する。
「ボクもヒロの意見に賛成だけど、キルシュレドさんに宝石を売った金額を分配してあげてもいいんじゃないかな」
ヒロがキルシュレドに宝石を向ける。
「キルシュ、これはいくらになる?」
「正確なとこは分からねぇが・・金貨100枚はくだらないだろう」
「じゃあ120枚としても、6人で分配したら金貨20枚。だが俺たちにそんな金はないから渡せないな。悪いなキルシュ」
「ふざけるな! 賛成が多いからって持っていく気かよ! 俺は許さねぇぞ」
キルシュレドが酒場のテーブルをバンバンと叩く。怯えるフリージア。
ヒロは全く気にしていない。
「よし、じゃあアンタの得意なゲームで決めよう」
「最初に手札を8枚ずつ配って、山札から1枚引き、1枚捨てる。これを交互に繰り返して先に役ができた方が上がりだ。役に応じた点数を相手からもらう。点数が無くなれば負けだ」
カズンはすぐ察した。
「エイトキャッスルか。兵士の間でも一番人気のゲームだ」
「役はどんなのがある?」
キルシュレドが役一覧が書かれた古ぼけた紙をテーブルに広げる。ヒロはそれを覗き込んだ。
「まぁ当たり前だが簡単な役が安くて、難しい手が高いと」
「そうだ。先にカードを引くのが親。親が上がれば続けて親になり、子が上がれば親を交代する。どちらも上がらずに山札が無くなっても親が交代だ」
「親と子は倍率が違ったりするのか?」
「いやそれはない。単に先行後攻ってだけだ」
「ふーん。でもそれじゃただのめくり合いじゃないか?」
キルシュレドがニヤリと笑う。
「相手が捨てたカードで上がれば点数が倍になる。これがこのゲームの肝だ。ただし相手が自分に続けて同じカードを捨てた時は上がれないから注意しろよ」
「なるほど。自分の上がりを放棄して相手からの直撃を狙うのはリスクがあると」
キルシュレドはギクリとした。なぜやったことがないのにそれが分かるのか。
「ま、まぁやってみりゃすぐ分かる。何度か練習させてやるよ」
キルシュレドは慣れた手つきでカードを配り始めた。
ヒロは手札と役一覧を比べ、首を傾げながらカードを捨てる。その様子を見てキルシュレドはほくそ笑んだ。リーファとフリージアが抗議の声を上げる。
「ちょ、ちょっと! ヒロは素人であなたは上級者でしょ! こんなの不公平だわ!」
「そうです!」
が、キルシュレドは聞く耳を持たない。
「おいおい、言い出したのは向こうだぜ」
リーファは腕を組んで見ているユウを振り返った。
「ユウ、ヒロは大丈夫なの?」
ユウが静かに口を開いた。
「このゲームは異世界で広く遊ばれている、マージャンというゲームに似てます。カードじゃなく牌だったり、2人じゃなく4人だったり、役も違いますけど」
「マージャン?」
「ええ。ヒロはそれの・・いえ、こういったゲーム全般の達人なんです。リーファさん、あなたの言うところの真理、ゲームの神髄をヒロは極めています。きっと勝てると思いますよ」
「ゲームの神髄・・」
テーブルではヒロの捨てたカードでキルシュレドが上がったところだった。
「それだぜ。4点が倍で8点だ」
「持ち点が25点だから、3回も相手に振り込んだら終わりだな」
キルシュレドはまたも驚いた。3回振ったら負けというのはこのゲームでよく言われている事だ。
「そういうこった。飲み込みが早えじゃねぇか」
「よし、大体分かった。ゲームを始めるか」
ゲームは親番で始まったキルシュレドが立て続けに3回上がった。しかしヒロからの直撃ではない。
その後ヒロが上がり、親を交代する。そして親となったヒロがあっという間に高い手を上がり、ゲームは振りだしに戻った。キルシュレドが舌打ちする。
「チッ、運のいい奴だ」
ここでキルシュレドが罠を仕掛けた。序盤にいらないと見せかけて捨てたカードで、ヒロから直撃で上がったのだ。歓喜の声を上げる。
「よっしゃ! 8点の倍の16点だぜ!」
ヒロが愕然とする。
「何? 過去に自分が捨てたカードで相手から上がってもいいのか?」
「ああ。連続は駄目だと言ったが過去は駄目とは言ってないぜ」
「しまった。それは無理だと思い込んでたな」
「どういうこと?」
リーファの問いにユウが答える。
「マージャンでは自分が過去に捨てた札は相手から上がれないんです。これはヒロのミスですね。でもヒロはコツを掴んだようですから、負けはないでしょう」
「え、もう?」
大幅にリードされたヒロだが、その後は安い手を早い巡目で上がり続け、いつの間にかリードは逆転していた。あせって高い手を狙うキルシュレドだが、ヒロの安くて早い手に流されてしまう。
「チッ、せこい戦い方しやがって」
ヒロは突如罠を仕掛けた。序盤に3枚連続で捨てていらないと見せかけたカード、その最後の1枚を切ったキルシュレドから直撃で上がったのだ。
「8点の倍で16点。俺の勝ちだな」
「こ、こんなバカな・・」
愕然とするキルシュレド。
「強いのね!」
リーファが目を丸くする。
「やりましたわ! ヒロ様の勝ちですわ!」
フリージアがヒロの手を握って祝福する。ユウがキルシュレドに優しく声を掛けた。
「キルシュレドさん。異世界には急がば回れという言葉があります。今回は報酬をお支払いできませんけど、探索を続ければ必ずまた財宝が手に入りますから、しばらく辛抱してください」
キルシュレドの後ろでゲームを見守っていたカズンが口を開く。
「キルシュ、最後のは見え見えの引っ掛けだろ」
「何だテメェ! 結果見てから間違ってたって言う奴が一番ムカつくんだよ!」
キルシュレドがカズンに掴みかかり、カズンがそれに応戦する。
「やめなさい!」
酒場にリーファの一喝が響いた。




