領主の娘 フリージア
フリージアはガルデアの領主を務める男爵家の長女として生まれた。
とは言え上に二人の兄がおり、長男が跡を継ぐのは決定事項だ。フリージアは両親と兄たちにかわいがられ、箱入り娘として育った。
しかし貴族の子弟が教育を受ける学校に入学し、経済を学んでフリージアの意識は変わった。
ガルデアは余りに呑気すぎた。昔は鉱山業で栄えたが、その採掘が終われば特産品はなく、主な収入の麦の生産は天候に大きく左右されている。
フリージアの家でも凶作の年は節約をせねばならず、夜更かしして本を読んでいるといつまで灯りをつけていると怒られるほどだ。
学校を卒業し、家に戻ったフリージアは新しい収入源を求めてガルデア領内を詳しく調べ始めた。
閉鎖された鉱山を調査し、捨てられている農作物や漁獲物を検討し直し、新しい農作物を試させ、新商品の開発を勧める。しかしどれも思わしくなかった。
そんな折に突如地面に開いた穴と、領内に現れ始めた魔物の話を耳にする。
当初はやっかい事が増えただけだと悩んだが、考え方を改めた。もしかしたらチャンスかも知れない。
ひとまず現地へ向かい、穴を調査せねばならない。
ダンジョンから戻ったフリージアは興奮冷めやらず、侍女に体験した事を聞かせ続ける。
「・・でね! ヒロ様は本当に恰好よくて頼れるの! 英雄ってああいう人の事を言うのね! それでダンジョンには資源や財宝が眠ってるんだって! 探索する人が集まってきたら店も増えるって! これはガルデアの復興のチャンスだわ! ダンジョンの規模が分かったらお父様とお兄様を説得しようと思うの!」
「それはようございました」
「でも・・」
フリージアが爪を噛むのを見て侍女が尋ねる。
「どうなさいました?」
「ええ・・ヒロ様は本当に素敵な方で、できればお近づきになりたいんだけど。でもヒロ様とユウ様は本当に仲がよくって。二人だけしか分からない会話をして笑ったり、肩を叩きあったり。それを見ていると私・・」
「?」
侍女はフリージアが何を言わんとしているのか分からなかった。嫉妬しているのだろうか。
「二人が仲良くしているのを見ると、なんだか嬉しいというか、心がときめくような感じがするの。私のせいで二人の仲を悪くなるのは絶対に避けなきゃと思って。こんな事は初めてだわ」
侍女は頷いた。
「お嬢様、それは尊いという感情です。大事になさってください」




