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ダンジョンへ

翌朝、3人は穴へ向かう途中で市場に立ち寄った。一通り店を見てヒロが愚痴る。

「なんだ、武器屋や防具屋はないのか。ガッカリだな」

「武器や防具を売ってる店なんてよっぽど大きな街、それも常駐の兵士がいるところくらいよ」

「そういうもんか。チェッ、鍬や鋤じゃ恰好が付かないぜ。どうする?」

ユウが答える。

「最初はひのきの棒とか竹竿なんてのもアリなんじゃない?」

ユウの言葉にヒロがニヤリと笑う。

「それもアリかもな! じゃあ盾は鍋のフタにするか!」

「アハハ」

二人は笑いながら武器の代用品を買い求めていく。

「何がそんなに楽しいの? 全然分からないわ」

リーファは肩をすくめて二人から距離を取った。


3人が準備を済ませ、いよいよ地面の穴の場所に近づくと、入口前で何やらモメているようだ。

「何かしら?」

一人の少女が兵士たちに食って掛かっていたが、兵士たちはその少女を取り囲んで押さえつけ、縄でグルグル巻きにしてしまった。少女は当然抗議の声を上げる。

「女の子一人に何してるの! やめなさい!」

リーファは兵士たちに駆け寄り、杖を兵士たちに向ける。ヒロとユウも武器を構えた。

兵士の一人が両手を上げる。

「待て待て! 確かに絵面は俺らが悪党みたいに見えるかも知れないが、やむを得ない事情があるんだ。話を聞けって」

リーファはしばらく男たちを睨みつけていたが、ふぅと息を吐いて杖を降ろした。

「で、事情というのは?」


「俺はカズン。領主様からこの穴を見張る役目を受けている。俺が隊長で、周りのは俺の部下だ。そこのお嬢さんはガルデアの領主様の娘さんだ。名前は・・何と言ったかな?」

縄で縛られた少女が身をよじらせる。

「フリージアよ! とりあえず縄を解きなさい!」

「おい、解いてやれ。しかしお嬢さん、必要とあらば何度でもやるからな」

男たちはカズンの命令に従ってフリージアの縄を解いた。

「俺は穴を監視と、何も出さないように命令を受けている。そこのお嬢さんが一人で穴に入るなんて無茶を言うから、しょうがなく縛ったんだ」

「入るのはいいんでしょ! 中を調べないとならないの!」

カズンは頭をガシガシと掻く。

「あのなぁ。この穴には魔物が潜んでいるんだぞ。そんなとこに領主の娘が入るのを止めずに、もし戻ってこなかったりしたら、俺は縛り首、妻と子供は奴隷落ちだろうさ。分かってくれよ」

「あっ・・」

フリージアはバツが悪そうに俯く。

話を聞いていたヒロが進み出て声を張りあげた。

「よし、じゃあ俺たちと一緒に行こう。それなら安全だ」

カズンが眉を跳ね上がる。

「あん? 何言ってんだ。話を聞いてなかったのか?」

リーファが間に入る。

「昨日、彼らは魔物を3体倒したわ。私も魔法を使えるし、フリージアさんを守ることはできると思うの」

「ん、それじゃあ街道に転がってた魔物の死体はお前らがやったのか?」

「そうだ! それに装備も新調したしな!」

ヒロが胸を張った。ユウがフォローする。

「今日は入ってすぐのところを見るだけなので、それほど危険はないと思いますよ」

カズンがジロリとヒロとユウを見る。

「なんだか子供の兵士ごっこみたいな恰好だが・・しゃあねえ、じゃあ俺も行こう。中を知らずに警備するのもアホらしいしな。だがほんのちょっと見るだけだぞ」

「よっしゃ、5人パーティだな! フリージアは戦闘はできるのか?」

興奮するヒロにフリージアは飲まれ気味だ。

「え、ええ。私にはこれがあります」

とフリージアは小型のボウガンを見せる。

「弓か! そりゃいい! ほら、早く行くぞ!」

喜び勇んで穴に向かうヒロに引きずられるように、皆が後に続いた。

外からは洞窟のように見えた穴は、少し入ると地下への階段になっていた。

階段の両脇には定期的に灯りが灯されている。カズンが呆然とした。

「階段だと・・? 誰が作ったんだ? それに灯りまである」

「よっしゃ、当たりだぜ!」

「これはやっぱりダンジョンのようだね」

「この場所はダンジョンというのか? お前らはなんでここの事を知っている?」

「彼らは異世界人なの。だから皆が知らないこの場所や魔物に詳しいわ」

カズンが目を丸くする。

「そうなのか! この場所は一体なんなんだ? 誰が作った?」

ユウが説明する。

「ダンジョンが出来た理由は様々です。狂乱した魔術師が作り上げたり、魔界・・魔物が住まう世界からの侵攻だったり、人を誘い込むための罠だったり。中を調べてみないと結論は言えません」

「な、なんてこった・・」

階段を降りた先は平らになり、石作りの通路が続いている。

「思った通りだ。この通路なら3人並んで進めるな。戦闘になったら俺とユウとカズンが壁になって後ろの二人を守る。誰かが敵の攻撃を防いだら、手が空いてる奴が攻撃する。敵が少ないときは俺たちだけでいいが、敵が多い時はリーファとフリージアも攻撃してくれ。動きの練習をしよう。ユウ、ちょっと敵役をやってくれ」

「分かった」

ユウが先に進んで振り返り、武器をヒロに振りかぶる。ヒロはそれを盾で防いだ。

「ここで攻撃だ」

カズンが槍を、リーファが杖を、フリージアがボウガンをユウへ向ける。

「なるほど、考えられてるわね」

「分かったわ!」

カズンが感心する。

「ふーむ、手慣れているな。本当に詳しいのか」

「今日は分かれ道には行かないから背後は気にしなくていい。よし、進もう」

ヒロの言葉に一行は頷き、ダンジョンの先へと歩を進めた。

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