蘇生保険
ヒロとユウもその話は初耳だった。
「アイに蘇生魔法が効かない? どういうことだ?」
「蘇生魔法が効かないってどういうこと?」
声を揃えてアイに訊ねる。アイは冷静に呟いた。
「壊れた魔法人形やアンデッドは蘇生魔法で生き返らせることは不可能だと伺いました。理由は魂が無いからです。私の身にも同じことが言えると思います」
「あっ! そう言われれば・・」
リーファが思わず口を手で抑えた。
「じ、じゃあアイが死んだら生き返らせることはできないの?」
「なんてこった!」
ショックを受ける3人。アイは淡々と言葉を続けた。
「私が致命傷を受けた場合、オンガ・ギエイド社にその情報が送られます。その後オンガ・ギエイド社からリペアパーツやスペアボディなどの対応があると思いますので、それをお待ちください」
ヒロとユウがホッとした顔になる。
「ああ、本社からフォローがあるのか。それなら良かった」
「スペアボディって、体そのものが代わるのか? それもアイなのか? なんか不思議だぜ」
リーファは憮然とした表情だ。
「ちょっと、よく分からないわよ。二人とも、私に分かるよう説明してちょうだい」
しかしアイが伝えなかった事もある。もしプロジェクトを続行する価値がないと判断された場合は本社のフォローはなく、捨て置かれてしまうだろう。
オリジンの休日。ヒロとユウが、続々と新しい店が出来ているガルデアの街をブラつく。
ヒロが新人冒険者が列を成している建物に目をつけた。
「なんだ? あの冒険者安定所ってのは」
「ああ。パーティに入りたい人を、メンバー募集をしてるとこに紹介するんだって。紹介料は募集してるところからもらって登録するのはタダだから、新人はほとんど登録してるらしいよ」
「ふーん。なんか就職活動みたいだな。あれは・・情報屋だって? ちょっと入ってみようぜ」
見た目は小屋というべき小さな建物だ。扉の横の打ち付けられた板に手書きで情報屋と殴り書きされている。
「いらっしゃい」
ヒロとユウが店内に入った。カウンターにはカーテンが引かれ、店員の姿は見えない。
狭い店内の周りの壁に、付箋のような紙がびっしりと張ってある。それぞれに
パーティ編成のコツ、1階の魔物の種類、宝箱の罠の種類、魔術師魔法一覧、1階ボス攻略法!
などの文字と一緒に値段が書かれていた。
「なるほど。金を払えばその情報を教えてくれるって訳か」
「ちょ、ちょっとヒロ。あれ!」
ユウが指さす先には、ガルデア最強パーティ"オリジン"の謎という付箋があった。
ヒロは苦笑しながらその付箋を取り、料金とともにカウンターに差し出す。
カーテンの向こうから手が伸びて料金をひったくった。男の声がする。
「毎度。あんたらオリジンに興味あるのかい? オリジンは一番最初にダンジョンを探索して財宝を持ち帰る仕事、いわゆる冒険者を提唱した連中だ。冒険者ギルドでも一番最初に登録されてるぜ。リーダーは異世界人でダンジョンの事を誰よりも熟知してるんだとよ。ズルいよな。それに領主の娘を手籠めにして、領主や大臣に賄賂を渡してガルデアを影で支配してるらしいぜ。最近は何も知らない新人を奴隷代わりに使ってるなんて話も聞く。あんたらも気を付けなよ。じゃその紙は壁に戻しておいてくれ」
ユウは肩を震わせて笑いをこらえている。ヒロは憤慨してドスドスと足音を立てながら店を出た。
「ったく! とんでもないデマをばらまきやがって!」
「まぁ、嫉妬する人もいるだろうね。言わせておけばいいよ」
「キルシュがある事ない事話してるんじゃないだろうな? お、あれは預かり倉庫か?」
「うん。ダンジョンの入口に宅配もしてくれるらしいよ」
「便利そうだな。宿屋の部屋にはあんまり荷物も置けないしな。そうだ! そろそろ家を買うか借りるかするか? 金は余ってるし、ユウも宿屋暮らしも飽きてきただろ」
「食事の用意をする必要がないのは便利だけど、やっぱりちょっと窮屈だね。女将さんにも怒られちゃったし・・」
ヒロが寺院の仮施設を見てハタと足を止める。
「おっと、そういや寺院に用があったんだ」
「ああ、あの件。早めに話をした方がよさそうだね」
ヒロとユウはすぐに寺院の院長室に通された。
「また何かいいお話を持ってきてくれたんですか? どうぞお掛け下さい」
張り付いたような笑みを浮かべ、ソファを勧めたのは寺院の責任者、大僧正カルカソスだ。商人から転身した変わり者で、商人時代に蓄えた財を惜しみなく使い、現在の地位についたと言われている。
「ああ。寺院で預かり金をしてくれないかと思ってな」
ヒロは相変わらず単刀直入に要件を伝える。カルカソスは首を傾げた。
「寺院で銀行のような事をやれと?」
「いや、銀行じゃなく保険だな。寺院に蘇生を頼むとき、当の本人は蘇生代が払えないだろう。パーティメンバーならまだいいが、ダンジョンで倒れてる奴を救助して蘇生代を肩代わりしてやったのに、それが払えないなんて事もありえる。救助を躊躇する事になりかねない。それに自分が死んだ時、誰も蘇生代を払ってくれないんじゃないかという不安もある」
カルカソスはすぐに意図を理解した。
「なるほど。つまり蘇生代の先払いをしたいという事ですね」
「そういうことだ。蘇生代の預かり証を持ってれば、持ってる方も救助する方も気が楽だ。礼金なんかもあってもいいかもな」
カルカソスは口に手を当てブツブツと呟く。
「しかし、ちょっと面倒ですね。今までにない新しい部門が必要です。それに手数料程度だと寺院の儲けが・・」
ユウが穏やかに口を開いた。
「カルカソスさん。預金は必ず全部引き出される訳じゃないですよ。預金の何割かは遂には誰も取りに来ないって事になると思います。そういった期限切れの預金が寺院の物になるのは自然な事じゃないでしょうか」
カルカソスが目を見開き立ち上がった。
「ぜひやりましょう!」




