ご褒美
地下四階の探索帰り。ダンジョン入口でヒロたちを迎えたのは白い僧衣を着て神官帽を被った、聖職者たちの群れだった。
皆思い思いに警備兵や手近な冒険者に質問をぶつけたり、雑談したりしている。ジェッツを見て口をあんぐりと開けている者もいた。
「うお、何だ?」
「クレリックだらけね」
「なんだか集団で説教されそうで気分が悪いぜ・・」
キルシュレドがボヤく。
「あ、ヒロ様!」
フリージアが目ざとくヒロを見つけて駆け寄ってくる。
「フリージア。何なんだこのクレリックの群れは? あ、もしかして・・」
「はい。ヒロ様が前におっしゃってた見学ツアーです。みんなダンジョンに興味はあるんですが、さすがに中に入れる訳にはいかないので」
「そうか。いや思ったより多くて驚いたよ」
フリージアは首を振る。
「いえ、ここにいるのは半分くらいですよ。冒険者ギルドやガルデアの街中を見学してる人もいます」
「ええ、そんなにいるの!」
リーファが驚きの声を上げる。
「はい。私の想像の3倍くらい集まっちゃって・・あっ、案内に戻らなきゃ! あと報告があるので夜宿に伺いますね。ではヒロ様、失礼します」
フリージアは慌ただしく見学者たちの元へ戻っていった。
ヒロたちのパーティにアイがいるのに気づいたクレリックが何人か集まってきた。
「見て! クレリックの冒険者よ!」
「あんな小さな子がダンジョン探索してるのか」
「ねぇあなた、どこの神殿から来たの? レベルは? ここでの暮らしはどう?」
いきなりの質問攻めにアイは目を白黒させ、頭から湯気を出している。危険だ。ユウが割って入る。
「わーっ! すみません。彼女はダンジョン探索で疲れてるんです」
「あらそうよね、ごめんなさい」
「あっ、あっちにもいるわ。すみません、ちょっとお話聞かせて下さい」
他のクレリックの冒険者を見つけ、見学者はそっちに向かっていった。ユウはほっと胸を撫でおろす。
宿に向かう途中も、武器屋でメイスを握って興奮している者、道具屋でおみやげを買い求める者、屋台で見知らぬ料理にチャレンジしている者など、何人もクレリックを見かけた。
宿につき、ヒロ、ユウ、リーファ、アイの4人で夕食を取る。
「ガルデアの見学ツアーがこんなに大盛況だなんてね」
「冒険者稼業に興味のあるクレリックって、結構いたんだな」
「この中の何割かでも、冒険者になってくれればクレリック不足は解消しそうだね」
ヒロが黙々と食事を続けるアイに目線を向ける。
「アイは何の神を信奉してるとか、何派だとかはあるのか?」
アイは食べ続けながら言葉を発した。
「いえ、特にありません。私が崇拝するのは神ではなく、私の創造主のオンガ・ギエイド社です」
「でも回復魔法って信仰が必要でしょ? どうしてそれで魔法が使えるの?」
「企業秘密のため開示できません」
「あんまり他のクレリックと話させない方がよさそうだね・・」
アイが首を振る。
「ご安心下さい。先ほどは切替が間に合いませんでしたが、私にはこの世界の一般的聖職者のダミーパーソナルもインストールされています」
「なら無難な会話くらいはできるのか」
「あ、そういえばフリージアさんが尋ねて来るって言ってたね」
「おっと、早めに部屋に戻るか」
「どうぞ」
ユウがノックの音に答える。扉を開けて入ってきたのはフリージアと侍女だった。
ソファに座ると同時にフリージアが笑顔で報告する。
「ヒロ様、ついにガルデアに寺院ができますわ!」
「おお、やったな!」
「ありがとうフリージアさん。大変だったでしょう」
「ヒロ様とユウ様が大臣を説得されたという話が広まってからはトントン拍子で。寄付金も予定の半分しかかかりませんでした」
ヒロは首を振る。
「いや、俺たちはちょこっと口利きをしただけだ。一番の功労者は間違いなくフリージアだ」
「本当にね」
「寺院の建築には時間がかかるので、しばらくは仮設備での運営になりますけど」
「ああ。それはしょうがない」
フリージアが両手の人差し指を突き合わせる。
「それであのう・・お約束のご褒美なんですが」
侍女がチラリとユウに視線を向けたのを見て、ユウは悟った。
「ボクは席を外すよ」
そういって廊下に出る。だがすぐに顔を赤くしたフリージアが部屋を飛び出してきて、侍女も後に続いた。
ユウが部屋に戻ると、ヒロはポカンとした表情で立ち尽くしている。
「フリージアさんのお願いは何だったの?」
「明日の夜、虎の尾亭で待ってるって・・」
虎の尾亭はガルデアで一番高級な宿だ。
「それってつまり・・そういうことだよね」
ユウの言葉に戸惑うヒロ。
「俺はそんなつもりじゃ! 参ったな・・」
「覚悟を決めなよヒロ。もう逃げられないよ」
ユウが残されたお茶を飲む。ヒロが訝しんだ。
「なんだか妙に冷静だな、ユウ」
ユウが相好を崩した。
「えへへ、実はこの前、リーファさんが分断された時のお礼だって・・」
「くそっ、勝者の余裕かよ! 詳しく聞かせろ!」
「嫌だよ!」
二人がギャーギャーとわめきながら取っ組み合いになりかけたその時、扉をドンドンと叩く音と、女将の怒鳴り声が聞こえた。
「ちょっとアンタたちうるさいよ! ケンカなら外でやりな!」
「すみません」
「ごめんなさい」
二人はすぐシュンとなってそれぞれのベッドに戻った。ユウが呟く。
「明後日がちょうど休みだし、泊まって朝帰ってくればいいよ、ヒロ。誰か訪ねてきたらボクが誤魔化しておくから」
「はぁ、初めてダンジョンに入る時より緊張するぜ」




